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🐙タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源

タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源
ピーター・ゴドフリー=スミス (著)、夏目 大 (訳)
みすず書房、2018年、320ページ
ISBN 978-4-622-08757-1
科学・生物学

レビュー 🐙🐙🐙🐙4つ

タコはどう感じる?地球上で最も異なる知性との出会い 🐙

本書は、哲学者でありダイバーでもある著者が、タコやイカなどの頭足類と人間との間にある「心」の共通点と相違点を探る一冊である。著者は、進化の歴史や生物学的な事実に基づいて、頭足類がどのようにして知性や意識を獲得したのか、そしてそれが人間のそれとどう違うのかを分析する。その過程で、心とは何か、それは物理的な身体とどう関係するのか、そして人間以外の生命体とどうコミュニケーションすることができるのかという哲学的な問いにも挑戦する。

本書の主なテーマは、心の進化と多様性である。著者は、心とは「主体的に感じる能力」や「主観的経験」をもつことだと定義し、それがどのようにして生命の中に現れたのかを考察する。そのために、神経系の発達や感覚と行動のループの起源をたどり、進化は「まったく違う経路で心を少なくとも二度、つくった」という事実にたどり着く。一つはヒトや鳥類を含む脊索動物、もう一つはタコやイカを含む頭足類である。これらの動物は、約6億年前に共通の祖先から分岐した後、それぞれに独自の心を形成したというのだ。著者は、頭足類と出会うことは「地球外の知的生命体に出会うのに最も近い体験」だと言い、彼らの心や知性が人間のそれとどう異なるのかを詳細に説明する。

著者の視点と方法論は、哲学と科学の両方を用いるというものである。著者は、哲学的な問題に対して、科学的なデータや理論を適切に引用しながら、論理的に答えを探ろうとする。また、自らのダイビングの経験や海中で撮影したビデオなどをもとに、頭足類の生態や行動を観察し、その意味や背景を解釈しようとする。さらに、著者は、自分の考えや仮説を提示する際には、常に慎重で謙虚である。自分の知らないことや確信できないことを率直に認め、他の可能性や見方を排除しない。そのため、本書は、堅苦しくなく、読者にも思考の余地を与える。

本書の評価と感想は、高くて興味深いというものである。本書は、頭足類という不思議で魅力的な生き物を通して、心や意識という人間にとって最も重要で難解なテーマに迫る。その内容は、科学的にも哲学的にも正確で深遠であるが、著者の分かりやすい語り口と豊富な事例によって、読者は楽しみながら学ぶことができる。本書は、生命の奥深さや多様さを再認識させてくれるだけでなく、人間と他の動物との関係や共感を考えさせてくれる一冊である。


本書の評価として、本書の強みは、生物学的な知識と哲学的な洞察をバランスよく組み合わせて、心の起源と本性に迫ろうとする点である。著者は、頭足類という異なる道筋で進化した心を持つ生き物と出会うことが、私たちにとって地球外の知的生命体に出会うのに最も近い体験だと言う。そのような出会いは、私たちの心の理解を深めるだけでなく、私たちの心の多様性や可能性を広げることにもつながる。本書は、そんな出会いを通して、私たちの心の本質について考える機会を提供してくれる。

本書の弱みは、一部の章で著者の主張が明確にならないことや、論理的な飛躍があることである。たとえば、第6章では、ヒトの心と他の動物の心の違いについて、言語の役割や社会的な相互作用の重要性などを指摘するが、それらがどのように心に影響するのか、また、それらが心の本質を決定するのか、といった点については十分に説明されない。また、第7章では、タコやイカの短い寿命と急速な老化について、それが心の発達や経験にどのような影響を与えるのか、という問題を提起するが、それに対する答えは明確に示されない。

著者の目的は、頭足類という異なる道筋で進化した心を持つ生き物との出会いを通して、私たちの心の起源と本性について考えることである。著者の視点は、哲学者でありダイバーでもあるという自身の立場から、生物学的な事実と哲学的な思考を交えて、心の問題にアプローチするというものである。

私の感想としては、本書は、タコやイカという不思議で魅力的な生き物の生態や進化を知ることができるだけでなく、心とは何か、それはどのようにして生じたのか、という根源的な問いに挑戦することができる本であると感じた。私は、タコやイカの知性や感性について知ることで、自分の心についても新たな視点を得ることができた。本書は、心の問題に興味のある人や、頭足類の不思議な魅力に惹かれる人におすすめしたい。


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