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キタダヒロヒコ詩歌集 132 夜行列車十首 その➁



3 友とゐる二十歳の夏の道行きは互ひの距離を短縮せしめ


 今回乗り合わせた全員が2年生で同級である。過去に面識のあったK、Yの両君と、この靖国での奉仕への参加が縁となったN、Hの両君と。幸運なことに、彼ら4人とも僕にとって精神的距離を感じさせる相手ではなかった。様々な話をした。H君とは(島崎)藤村のうたを語った。名古屋からの距離が遠ざかるほどに彼らとの関係が徐々に狭まっていく。親密さの度合いが増してくる。
 ところで、夜行列車の風情の、「道行き」のイメージになんと相応しいことか――。


4 メモ帖に無暗になにか書きつくるすべては今この時の証にと


 自分の言葉で何か語っておきたかった。いや、語らずとも、片言の記録でもよかった。僕を含めて2、3人の友が小さなメモ帖を開いた。残しておきたい時間だった。
 ――僕のペン先にはいつしか五・七・五が沸き立っている。――


5 三十分の停車時間もあと僅か起き来し友等また横たはり


 0時55分静岡到着。13分間停車する。ホームでパン・ジュース・駅弁等が販売される。案の定乗客が殺到。僕も殺到に加わる。13分というのはこういうとき極めて僅かな時間に思えてしまうものだ。1時08分発車。そろそろ眠りに就き始める者が多くなる。ここから先は快速列車……1時19分清水発、37分富士着、39分発、56分沼津着。そして2時26分まで30分間の停車時間となる――。
 
 ホームに出てたたずみ夜風に当たるいくつかの影の一つとなった。Y君とともに。時間がとてつもなくゆっくりと過ぎる実感。眠りかけた乗客の中で起き上がってきている者もあり、それぞれがそれぞれの30分間の静謐を抱きしめて――やがて再び発車のベル。

                         (その➂へ続く)






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