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キタダヒロヒコ詩歌集 17
深海をしらべるひとが大勢ゐるやうに、深夜といふものの調査もかなり進んで来た。
アコーディオンそつくりの姿かたちをした、敏感で獰猛な生き物のことは、既に多くのひとが識つてゐると思ふ。それはいつも(深夜になると)両手をひろげてさみしい獲物をとらへる。そしてますますかなしみの深度を深めてゐる。
時たま青白いざらざらしたひかりの粒子が、忘れ果てられた砂時計の砂にまじつて積もつてゐる場所があつたり、 むかし時間を分け合つた恋びと達が、それぞれの部屋で思ひおもひに過ごしながら出番を待つてゐたりする。これらのことも今ではずゐぶん有名な事柄に属するやうになつて来たと思ふ。
とりわけ忘れてならないのは、最も早い時期に判明した次のやうな事実であらう。これはまつたくこの探索における記念碑的な成果である。
地上で多くを成し遂げた力はここでは鎖となるといふこと。一寸先さへ見とほせない盲(めしひ)こそ、ここでは絶対の自由を誰にも妨げられることなく享受出来るといふこと。
これらのことはこんにちわれわれの新しい常識として数へられるものだ。
諸手あげズボン墜落す春の夜の底
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