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デジタル化に関する法制度(行政手続編)(2)

 市役所などの行政機関への申請や届出の手続が、スマホなどからオンラインでできる機会が増えてきています。これは、2000年以降、徐々に進められてきた行政手続などのオンライン化の動きが、コロナ禍で一気に加速化されたものですが、こうしたデジタル化の背景にある法制度について、簡単にまとめておきたいと思います。
 前回、手続のデジタル化等を通則的に定める主な法律について見てきましたが、今回は、行政機関のシステム性bに関する主な法律を見てみたいと思います。

行政機関のシステム整備に関する主な法律

デジタル庁設置法(2021年)

 デジタル庁設置法は、デジタル庁を設置する法律で、2021年に制定されています。デジタル庁の所掌事務として、国、地方公共団体、準公共部門等の情報システムの整備・管理の基本方針をデジタル庁が策定し、推進することや、必要な予算を一括して要求することなどが定められています。
 具体的には、以下のような条文が置かれています。第2項第18号の規定など、行政機関のシステム整備に関して、かなり詳細に規定されていることが見て取れると思います。

◯デジタル庁設置法(令和三年法律第三十六号)
 (所掌事務)
第四条
2 デジタル庁は、前条第二号の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。
十五 国の行政機関、地方公共団体その他の公共機関及び公共分野の民間事業者の情報システムの整備及び管理の基本的な方針の作成及び推進に関すること。
十六 情報システム整備計画(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律第四条第一項に規定する情報システム整備計画をいう。第十八号イ及びハにおいて同じ。)の作成及び推進に関すること。
十七 国の行政機関が行う情報システムの整備及び管理に関する行政各部の事業を統括し及び監理すること。
十八 国の行政機関が行う情報システム(国の安全等に関するものその他の政令で定めるものを除く。以下この号において同じ。)の整備及び管理に関する事業を、次に定めるところにより、実施すること。
イ 国の行政機関が行う情報システムの整備及び管理に関する事業に必要な予算を、第十五号の方針及び情報システム整備計画に基づき、一括して要求し、確保すること。
ロ 国の行政機関が行う情報システムの整備及び管理に関する事業の実施に関する計画を定めること。
ハ 国の行政機関が行う情報システムの整備及び管理に関する事業について、第十五号の方針及び情報システム整備計画に基づき当該事業の全部若しくは一部を自ら執行し、又は関係行政機関に、予算を配分するとともに、同号の方針及び情報システム整備計画並びにロの計画その他必要な事項を通知することにより、当該通知の内容に基づき当該事業の全部若しくは一部を当該事業に係る支出負担行為の実施計画に関する書類の作製を含め執行させること。
十九 国の行政機関が共用する情報システムの整備及び管理に関すること。

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デジタル手続法(2019年)

 デジタル手続法では、行政手続のデジタル化に関して、第2条でデジタル完結等の原則を掲げていることは、前回ご紹介したところですが、これらの原則を実効性あるものとするために、システム整備に関する規定が置かれており、重要な役割を果たしています。
 具体的には、第4条において、オンライン化する申請等及び申請等に基づく処分通知等の範囲やシステム整備の期間などを記載する「情報システム整備計画」を国が策定しなければならないとした上で、第5条において、「情報システム整備計画」に従って情報システムを整備しなければならないと規定されています。
 デジタル手続法では、行政手続等のデジタル化が「できる規定」で定められていますが、第2条でデジタル完結等の原則を掲げた上で、第4条・第5条で申請と処分通知のシステム整備の義務を課すことで、デジタル化を推進するスキームとなっているわけです。

◯デジタル手続法(平成十四年法律第百五十一号)
 (情報システム整備計画)
第四条 政府は、情報通信技術を利用して行われる手続等に係る国の行政機関等の情報システム(次条第四項を除き、以下単に「情報システム」という。)の整備を総合的かつ計画的に実施するため、情報システムの整備に関する計画(以下「情報システム整備計画」という。)を作成しなければならない。
2 情報システム整備計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
三 申請等及び申請等に基づく処分通知等を電子情報処理組織を使用する方法により行うために必要な情報システムの整備に関する次に掲げる事項
イ 申請等及び申請等に基づく処分通知等のうち、情報システムの整備により電子情報処理組織を使用する方法により行うことができるようにするものの範囲
ロ イの情報システムの整備の内容及び実施期間

 (国の行政機関等による情報システムの整備等)
第五条 国の行政機関等は、情報システム整備計画に従って情報システムを整備しなければならない。

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 このように、システム整備の面から行政手続のデジタル化を推進することを規定している点が、デジタル手続法の一つの特徴となっています。なお、これらのシステム整備に関する規定は、2019年に行政手続オンライン化法からデジタル手続法に改正された際に、新設されたものです。

官民データ活用推進基本法(2016年)

 2016年に制定された官民データ活用推進基本法では、横断的なデータ利用の観点から、国・自治体等の情報システム相互の連携等について規定が置かれています。
 ここでは、条文の引用にとどめますが、後でご紹介する「自治体システム標準化法」の制定につながるような内容となっています。

◯官民データ活用推進基本法(平成二十八年法律第百三号)
 (情報システムに係る規格の整備及び互換性の確保等)
第十五条 国及び地方公共団体は、官民データ活用に資するため、相互に連携して、自らの情報システムに係る規格の整備及び互換性の確保、業務の見直しその他の必要な措置を講ずるものとする。
2 国は、多様な分野における横断的な官民データ活用による新たなサービスの開発等に資するため、国、地方公共団体及び事業者の情報システムの相互の連携を確保するための基盤の整備その他の必要な措置を講ずるものとする。

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デジタル社会形成基本法(2021年)

 デジタル社会形成基本法にも、国と自治体のシステムの共同化についての規定が置かれています。条文中に、官民データ活用基本法が引用されているように、国民の利便性向上や行政運営の向上といった理念に加え、データの活用の重要性が意識された規定になっています。

◯デジタル社会形成基本法(令和三年法律第三十五号)
 (国及び地方公共団体の情報システムの共同化等)
第二十九条 デジタル社会の形成に関する施策の策定に当たっては、公共サービスにおける国民の利便性の向上を図るとともに、行政運営の簡素化、効率化及び透明性の向上に資するため、行政の内外の知見を集約し、及び活用しつつ、国及び地方公共団体の情報システムの共同化又は集約の推進(全ての地方公共団体が官民データ活用推進基本法第二条第四項に規定するクラウド・コンピューティング・サービス関連技術に係るサービスを利用することができるようにするための国による環境の整備を含む。)、個人番号の利用の範囲の拡大その他の国及び地方公共団体における高度情報通信ネットワークの利用及び情報通信技術を用いた情報の活用を積極的に推進するために必要な措置が講じられなければならない。

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自治体システム標準化法(2021年)

 自治体システム標準化法は、地方自治体の情報システムについて、必要な機能などの基準を策定し、自治体のシステムの標準化を推進するという内容の法律で、正式名称は、「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」です。デジタル庁設置法、デジタル社会形成基本法などとともに、2021年に制定されています。

 これまで、地方自治体のシステムについては、各自治体が独自に構築してきたため、バラバラの仕様となっていて、システム間での情報連携などが難しいといった課題がありましたが、この法律の下で、各自治体で実施されているような事務については、そのシステムの標準化が図られることとなりました。
 標準化の対象となるシステムについては、第2条で規定されており、各自治体で共通するような事務を政令で定めることとされています。

◯地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(令和三年法律第四十号)
 (定義)
第二条 この法律において「地方公共団体情報システム」とは、地方公共団体が利用する情報システムであって、情報システムによる処理の内容が各地方公共団体において共通し、かつ、統一的な基準に適合する情報システムを利用して処理することが住民の利便性の向上及び地方公共団体の行政運営の効率化に寄与する事務として政令で定める事務(以下「標準化対象事務」という。)の処理に係るものをいう。

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 この規定を受けて、「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律第二条第一項に規定する標準化対象事務を定める政令」で、児童手当の支給など18の事務が標準化対象事務として定められています。

 以上になります。今回取り上げた法律のうち、デジタル社会形成基本法、デジタル庁設置法、自治体システム標準化法は、いずれも2021年に一括的に審議・成立したものです。システムに関する法律の整備は、この際に大きく進んだと言えると思います。います。。

 行政手続に関する法制度については、以上としたいと思います。
 次回からは、民間手続や電子契約などに関する法制度を見ていけたらと思います。