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デジタル化に関する法制度の全体像

 デジタル化に関する法制度の全体像を把握するため、主な法律の整理と2000年以降の法制度の展開を見ておきたいと思います。

デジタル化に関する法律の整理

 デジタル化に関する法制度と一口に言っても、行政手続のオンライン化や電子契約等への対応、サイバーセキュリティの確保など、幅広く膨大なものがあります。
 このような法制度の全体像を把握するため、少し整理を試みるとすると、
①デジタル化を政策的に推進するための理念や基本施策を定める法律
(デジタル化に関する基本法)
②デジタル化を阻害する規制を緩和する法律
(行政手続、民間手続のデジタル化に関する法律)、
③デジタル化に対応した新たなルール等を定める法律
(電子契約、データの保護・活用等に関する法律)
といった分類ができるのではないかなと思いますので、今回は、それぞれについて、どのような法律があるのか、ごく簡単に見ていきたいと思います。

デジタル化に関する基本法

 まず、デジタル化に関する基本法としては、デジタル社会形成基本法、サイバーセキュリティ基本法、官民データ活用推進基本法が制定されています。
 デジタル社会形成基本法は、社会全般のデジタル化を推進するための基本法で、2000年に制定されていたIT基本法を廃止して、新たに策定されたものです。
 サイバーセキュリティ基本法と官民データ活用推進基本法は、IT基本法制定後に、デジタル化の進展により⽣じた社会経済構造の変化に政策的に対応するために定められたものです。
 まとめると、デジタル化に関する基本法は以下のようになります。
 ◯IT基本法(2000年)
 ◯サイバーセキュリティ基本法(2014年)

 ◯官民データ活用推進基本法(2016年)
 ◯デジタル社会形成基本法(2021年)

行政手続、民間手続のデジタル化に関する法律

 行政手続については、行政機関への申請や届出などの手続のデジタル化を可能とする「デジタル手続法」や、手続をオンラインで行う際の本人確認のための仕組みを整備する「公的個人認証法」が制定されています。
 また、国からの給付金等を受け取る預貯金口座をマイナポータル等から登録できる公金受取口座登録法や、国への納付金のキャッシュレス化を可能とする行政キャッシュレス化法などが制定されています。
 まとめると、以下のような法律が主なものとなります。
 ◯デジタル手続法(2019年)
 ◯公的個人認証法(2002年)
 ◯公金受取口座登録法(2021年)
 ◯行政キャッシュレス化法(2022年)

 一方、民間手続に関しては、民間の事業者等に義務付けられている文書の作成や保存をデジタル化できるようにするe-文書法、国税関係の保存文書のデジタル化に関する電子帳簿保存法などの法律が定められています。e-文書法では、民民間での文書の交付等の手続のデジタル化についても定められていて、民間手続のデジタル化の通則法的なものとなっています。(民間間での手続に関するのアナログ規制を通則法的に緩和するものともいえます。)
 ◯e-文書法(通則法)(2004年)
 ◯電子帳簿保存法(1998年)

 なお、e-文書法の対象とならない民民間の手続のデジタル化については、個別の法令を改正する必要がありますが、IT基本法、e-文書法、デジタル社会形成基本法が制定された際には、こうした個別の法律の一括改正が併せて行われています。
 ◯IT書面一括法(2000年) ※49本の法律の一括改正
 ◯e-文書法整備法(2004年) ※73本の法律の一括改正
 ◯デジタル社会形成整備法(2021年) ※22本の法律の一括改正

電子契約、データの保護・活用等に関する法律

 電子契約に関しては、電子契約の基盤を整えるものとして、電子署名法や電子記録債権法、電子委任状法が制定されています。また、消費者保護に関しては、特定商品取引法が2000年に改正されているほか、電子消費者契約法が制定されています。
 このほか、電子マネー等に関しては、資金決済法で規制が設けられています。
 ◯電子署名法(2000年)
 ◯電子債権記録法(2007年)
 ◯電子委任状法(2017年)
 ◯特定商取引法(2000年改正)
 ◯電子消費者契約法(2001年)
 ◯資金決済法(2009年)

 データの保護に関しては、個人情報保護法、著作権法、不正競争防止法などによって、個人情報、著作物、営業秘密等に関するデータの保護が図られています。また、これらの法律については、近年、データの利活用の観点からの改正なども行われています。
 データの利活用については、基本法のところでご紹介した「官民データ活用推進基本法」で政策目標などが掲げられています。
 主な改正内容なども含めてまとめると、以下のようになります。
 ◯著作権法(1970年)
 ◯著作権法改正(プログラムの著作権の保護)(1985年)

 ◯不正競争防止法(1993年)
 ◯著作権法改正(インターネット等での送信可能化権の保護)(1997年)
 ◯個人情報保護法(2003年)
 ◯マイナンバー法(2013年)
 ◯個人情報保護法改正(匿名加工情報制度の創設)(2015年)

 ◯個人情報保護法改正(三本の法律の一元化)(2021年)
 ◯不正競争防止法改正(限定提供データ制度の創設)(2018年)
 ◯著作権法改正(日本版フェアユース規定の創設)(2018年)

 また、特にサイバーセキュリティに関しては、コンピューターやシステムに不正に侵入する行為を処罰する「不正アクセス禁止法」や、迷惑メールやチェーンメールを規制する「特定電子メール法」などが制定されているほか、2011年には、コンピュータ・ウイルスの作成、提供、供用、取得、保管行為を対象とする「不正指令電磁的記録に関する罪」等を定める刑法の改正が行われています。
 サイバーセキュリティについては、「サイバーセキュリティ基本法」で政策目標などが掲げられています。
 ◯不正アクセス禁止法(1999年)
 ◯特定電子メール法(2002年)
 ◯刑法改正(不正指令電磁的記録に関する罪等の創設)(2011年)

デジタル化に関する法制度の展開

 ここまで、法律を羅列してきてしまいましたが、少し時系列で主な法律を並べてみると以下のようになります。

デジタル化に関する法制度の展開

 こうしてみると、2000年のIT革命と言われた2000年頃に、IT基本法の制定をはじめ、デジタル化に関する法制度が大きく整備された様子がわかります(青い帯の部分)。
 また、2020年前後(オレンジの帯の部分)においても、DXの進展やコロナ禍の中で、2000年頃に整備された法制度が再整備され、デジタル化の推進が加速化されていることが見て取れるのではないかと思います。
 2021年には、デジタル社会形成の司令塔として、新たにデジタル庁も設置されており、法制度のデジタル化の動きは更に進んでいくものと思われます。

 以上、思いのほか長くなってしまいましたので、今回は、ここまでにします。
 今後、もう少し細分化した類型ごとに、主な法律の内容やポイントを見ていけたらと思います。少しでも有用な情報を発信できればと思いますので、引き続き、よろしくお願いいたします。