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05.ザ・メニュー #映画解釈

1.今日の余談(考察ってなんだっけ)

芸術作品は値段が付いた時点で、作品の内容ではなく商品として人目にさらされる。
多様性が求められている昨今、全シーンや全作品に理解はできない。
あくまで作品として、あくまで自分の中の考えを深めるもの。
情報共有は素敵だが、強要はナンセンスだろう。

苦手だった国語のセンター試験
「作者の気持ちをこたえよ」

自身が作品に触れるうえでは、作者の気持ちを理解することが正解ではないだろうと考えている。

2.あらすじ

太平洋岸の孤島を訪れたカップルのマーゴとタイラー。お目当ては、なかなか予約の取れない有名シェフ、ジュリアン・スローヴィクが振る舞う、極上のメニューの数々。「ちょっと感動しちゃって」と、目にも舌にも麗しい、料理の数々に涙するタイラーに対し、マーゴが感じたふとした違和感をきっかけにレストランは徐々に不穏な雰囲気に。なんと一つ一つのメニューには想定外の“サプライズ”が添えられていた…。果たして、レストランには、そして極上のコースメニューにはどんな秘密が隠されているのか?そしてミステリアスな超有名シェフの正体とは…?

3.こんな日に観て

・他人の制作物に何かを感じた日
・仕事へのクオリティを追求し続けた日
・情熱が責任へと変わった日

4.評価・感想

★★★★☆3.6 映画好きにはおすすめ。
視聴方法:映画館
芸術とは料理だけでなく、絵画や映画にも同様に言える。
今回は芸術に関わる全ての方向に対して、皮肉った描写がある。
それでも各登場人物や、各メニューの役割を考察したくてたまらない。
それを理解することで、またこの映画の味が深まるだろう。
考察者も含めて皮肉りつつも、考察しがいのある映画に作り上げていることに、皮肉が効いている。
つまりホラーの皮をかぶった、ブラックジョーク、コメディ作品だと捉えた。

以下、ネタばれあり

・登場人物

各登場人物を映画に当てはめながら考えてみる。
主な登場人物をピックアップするが、それ以外の人も、その人達のおこぼれや、甘い汁を吸っている人達もどうしようもなくしょうもないよねと皮肉っていると考えた。

①美食家(趣味が映画鑑賞の人)
 彼は多くの作品、もちろん監督の過去作品などと比較し、最新作を見て、自慢げに持論を語る。
 彼に突き付けられるのは、視聴者はあくまで視聴者であって、製作側ではない。自分では、製作における一連の肯定も、物語の発想も浮かばないのだろうという事実だ。
「そんなに語れるなら、創ってみてください。」

②リッチな熟年夫婦(映画を鑑賞すること自体を娯楽としている人)
 1年で何本も映画を観ている。しかし夫は、過去の作品のタイトルや何を観たかも覚えておらず、その時間だけを過ごしている。
その作品の良かったところは?自分に合わなかったところは?製作側の思いは?
「ただ見ないでください。観てください。」

③映画スター(監督や俳優の名前を利用して利益を得ようとする人)
 監督とつながりがあると吹聴し、女性との関係を継続しようとする。製作側へ直接的な不利益はないが、せこい人間だ。
「やる気をなくした芸術家は見てられない。」

④料理評論家(大御所映画コメンテーター)
 製作側でもなく、支援をしているわけでもないのに、監督や俳優を見出したと大口をたたく。そしてそれが自分の力だと錯覚し、監督や俳優も感謝していると勘違いしている。
「あなたがコントロールしているわけではない」

⑤オーナー(制作会社)
 金銭の出資をしているのだから、監督に指示ができると考えている。世の中のお金を出した人が偉いという、芸術とお金の構造全体を示しているともいえる。
「私の作品に口を出した」

⑥若きIT長者(制作会社家族)
 たちが悪いのは、⑤についていく、自分も偉いと錯覚している人間だ。
「身の程をわかっていらっしゃらないようだ」

⑦シェフと給仕係(監督を迎合するスタッフ)
 憧れや崇拝をもった時点で、それは自分の感情を殺したとも言える。主人公とは真逆で、盲目的に監督に付き従う。
「地位や名誉だけでなく、私生活まで私のようになりたいか?」

⑧シェフ(監督)
 もとは純粋な作品の面白さを追求していたが、いつの間にか周りからの押上や、重圧によって、完璧さを追求するようになった。結果変にこねくり回したうえで、それをありのまま伝えたい押し付けもある。
「あなたの料理が嫌いだわ」

・主人公

仕事、趣味、あなたは自分を持って生活していますか?とみている者にたたきつけてくる彼女。
権威や周囲の意見に惑わされず、彼女は一貫した意見を持っている。
「普通に食べたい」「馬鹿にされている」「私は降りるわ」。

・腹が減っていると宣言。
∟そもそも客がレストランを利用する目的の根底は、空腹を満たすことだと言い放つのだ。

・ハンバーガーを注文。
∟監督が料理に楽しさを感じていたころの写真を見かけた彼女は、そのころにシェフが調理していたハンバーガーを注文する。それもハンバーガーの中でも、できるだけ庶民が、この世界にもまれていない人が好むものをだ。
これにより、シェフは料理の楽しさに立ち返ることができる。

・お土産をもらい、店を出る。
∟彼女は純粋に料理を楽しみ、唯一シェフに抗うのだ。
何故、他の客は同様の行動に出なかったのだろうか。
それは作中でシェフの言った「本気で抗えば出られたのに、あなた達はそれをしていない」に表れている。
自分が称賛し続けたものの否定、初心者と思われた彼女についていくこと、どうしようもないプライドで、がんじがらめになっているのだ。

・全てを表すラストシーン

・船の上で、ハンバーガーを頬張り、メニュー表で口を拭く。
∟船     :方向は自分で決めるもの。
∟ハンバーガー:私は庶民の料理が好き。
∟頬張る   :やっぱり料理は腹を満たすもの。
∟メニュー表 :こねくり回されたもの。
∟口を拭く仕草:それ自体と、それに群がるものを含めた否定。

5.まとめ

これからの世の中はこうだと、あの人が言ったから、仕事はこれを選んだ?
自分よりも経験が豊富な人が言うから、その作品は素晴らしい?
得られるものがあるから付いてきた?
権威のある人と同じ意見なら、自分を誇れる?

そうではない。
周りの環境を取り除いたとして、
この仕事を、その趣味を、あなたは好きですか?

片側を皮肉るのではなく、
製作側も、消費する側も、取り囲むすべてを皮肉った面白い作品だ。
迎合するな、盲目的になるな、驕るな!
自分の好きなことを、好きだと言って選ぼう。

あなたはそれの何が好きですか?

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