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第5話 二人目の犠牲者

藤田警部たちは寝ずの番をして、冷たいコーヒーを飲んでいた。
「誰かから何か連絡は来たか?」
「いえ。誰からも連絡は来ていません。もう朝ですが、昨日は
犠牲者は出なかったようですね」

「連続殺人でなくて安心した」藤田は緊迫していた状況下に朝まで
いた為か、目頭を押さえた。
「後は我々が引き継ぎますので、ゆっくりお休みください」
殺人課の刑事は、年配の藤田を気遣った。

「明智から連絡はきたか?」
「いえ。警部補からの連絡はまだ来ていません」

藤田は不安が過った。何かあれば連絡は直ぐ来る。仮に無くても
連絡を怠るような男でもない。

そんな明智が長時間、連絡が途絶えているのには、何か意味がある
はずだと藤田は見ていた。

藤田は正直、怖くなった。一体何が? そう思うと自然と明智に電話に手が伸びた。

「明智。一体どうした?」
「……警部。この犯人は+相当厄介です」

「何故そう思う?」
「手口が残酷すぎます。警察に恨みのある者の犯行でしょうが、
それ以上に残酷すぎます。小林は性器を切り取られ、更にそれを
胃まで流し込まれていました。出血を止める用意もしてあった、
非情に残酷な計画的な殺人事件です」

藤田は聞いているだけで、十分恐ろしさは伝わってきた。

「そちらは大丈夫でしたか?」
そう聞かれて藤田は殺人課の刑事を呼びつけた。

「どうかしましたか?」
「すぐにこの警察署の宿舎にいる全員の安全を確認しろ!」
「わかりました!」

殺人課の刑事はすぐに警官を呼びつけて走って行った。
藤田の言葉があまりにも、危険を知らせるような口調だったからだった。

宿舎の周りを警備はしていたが、出入りはそれほど難しいものでは無かった。
何よりも警官がこれだけいれば、来たとしても計画を変更するとしか思えなかった。

「警部?」
「今、警官に宿舎にいる警官たちの安全を確認に行かせた。それで他に分かった事は何かあったか?」藤田は濃いめのブラックコーヒーを飲みながら問いかけた。

「僅かですが、玄関口で小林が抵抗したと思われる血痕が見つかりました。ですが、見逃す程度しか出血していない事から、麻酔針の跡を探しましたが、どこにも見当たりませんでした。その事からスタンガンのようなもので、失神させたものだと判断しました」

「なるほどな……犯人は男だと思うか?」藤田は暫く考えた末に、最も難解な事を明智に尋ねた。

明智は藤田に感心した。僅かな情報から一番の問題点を聞いてきたからだった。

「正直わかりません。ただ吊り上げるような物は、ホームセンター等で入手は簡単にできます。その点を考慮すると、女でも犯行は可能です。そしてあくまでも個人的意見ですが、犯行の間隔は分かりませんが、連続殺人になると思われます」

「何故そう思う?」
「もし、小林に恨みを持つ者の犯行なら、男性器を切り取って窒息死させる前に、
拷問したはずです。ですが、他に何かをした痕は何ひとつありませんでした」

藤田は眠気を取る為に、ペットボトルの水で顏を洗った。そして聞き返した。

「つまりはこのような狂行に及びながらも、犯人は冷静で計画通り事を進め、尚且つ
警官、おそらくは男の警官に恨みか何かあると言う事か?」

「そうです。ですがまだ不明な点も多い為、個人的な意見でしかありません」

藤田はため息のような息を吐きながら、んーっと唸りをあげた。

「警部!」電話口の向こうにいる明智にも聞こえるほど、鋭い声が聞こえた。

その奇声のような叫びに、明智も藤田も同じ事を思った。やられた!と。

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