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第16話 明智の才能

二人は明智の家に寄り、パトカーでは目立つ為、
明智の家の車庫から車を出してからパトカーを止めて、
カバーを掛けて隠してから、明智の車に乗り込んだ。

そして捜査圏外まで移動して、彼女に古文書を手渡した。
自分は車の外で、車を机替わりにして地図を出して、何かを書き始めた。

真田は手渡された古い書き物を捲った。原寸大ほどの般若の面が最初に
描かれていた。

じっと見ていたら、何か不気味に笑っているようにも見えた。

彼女は車酔いしたのかと思うような気持ちに襲われ、本は中に置いて
外へと出た。そして明智が地図に何を書いているのかを見た。

明智は事件のあった場所と日付、時間、目撃情報を地図を二枚用意して、
何も書かれていない地図と、書き記した地図を交互に見ながら、何かを
模索している様子だった。

「何か分かったの?」明智は無言のまま地図を見つめながら一言だけ言った。

「犯人は二人いる」

「共犯者がいるってこと?」明智は神妙な面持ちのまま地図を見つめていた。

「いや、そうじゃない。犯人は二人いるが、一人は確実に人間の仕業だ」
明智は集中していて、まるで独り言のように話していた。

「一人は人間って……」真田は言いかけて、月島の言葉を思い出した。

明智は先の先も読む事も得意で、心理的に犯人の気持ちに同化して、
まるで犯人になったような発言をする事がある。

その範疇《はんちゅう》は人間に留まる事は無いが、
話をゆっくり聞くことだ。そうすれば彼の理論的な意見が聞ける。

まだ私も明智も新米警官の頃、ある殺人事件が起きた。
鑑識の結果、犯人は20代の男性だと特定されたが、私と明智は
休日を利用して現場を観察しにいった。

私は鑑識の言う通り、20代の男性が犯人だと決めつけて証拠を探したが、
明智は違った。あいつは犯人は30代の女性だと判断した。

新米警官が鑑識よりも正確に、犯人を道具も何も使わずに、犯行の手口は
男に見せかけている事を見抜き、犯人を特定した。

私と明智は表彰されたが、明智はその気になればすぐに昇進できるのに、
我々のような野心は無い。純粋に市民を守りたいと思っている。
彼を通して、真田も色々学ぶ事になるだろう。

参事官はいい気はしないだろうが、彼と組んで犯人を逮捕するといい。

「一人は人間ってどういうこと?」

「ああ。まだ読んでないんですね。あの古文書をまずは読んでください」

「わかったわ。明智刑事も何か分かったら教えて」

明智は頷いて、地図を再度見直し出した。

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