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第16話 来世では幸せにと願いを込めて

「輝帥《きすい》か? お前が電話をしてくるなんて初めてだ。
何があったんだ? 話してみろ」

息子である輝帥は事の詳細を話して、人生で初めてコネというものを使った。

それは同時に無茶な頼みであり、見返りとして今まで頑なに本部への移動を
拒否していたことを、了承するという意味だった。

北見は明智にしか頼めないと何度も謝っていた理由は、
彼の信念を妨げるからであった。

「話は分かった。本部の者を行かせる。確か真田警視は知っているな。
彼女を向かわせるから、お前の命令に従うように伝えておく」

「ありがとう。じゃあまた詳しい話は家で」
「ああ。わかった」

真田警視は到着するなり、彼女の遺体を救急車で運ばせて怪我を装った。
「明智さん。あとはどうすればいいの?」
「遺灰をこの部屋にある遺灰の入った壺に、一緒に入れてください。
遺灰も位牌も持って帰ります」

「あと、家に戻る前に、二人の遺灰が入った壺を持って
町はずれの教会にいってください」

「わかったわ。手配するから任せて。少し休んだらどう?」
「いえ。全てが終わるまでは休めません」

「必要なものがあったら何でも言ってね」
「やけに優しいですね。以前はそっけない感じでしたのに」

「当たり前よ! 警察庁長官から直々に命じられたのよ。
わかる? 失敗なんて一切できないの!」

「大丈夫ですよ。失敗しても私がかばいますから」

「真田警視。全ての準備は整いました」
「もう一度確認しなさい。ミスれば本部から出されるわよ」

「わかりました!」
総出で再確認をし、報告してきた。
「次は葬儀屋にいって、遺灰をこの壺に入れるのね」
「そうです。お願いします」
「それじゃあ、皆、ミスの無いよう丁寧に運ぶのよ」

丁寧かつ、安全に本部から来た人たちは、運び出した。
「次は教会に行けばいいのね?」
「はい。お願いします」

「随分、異例なことだし、本部に行く事になるのを承知で
するなんて余程の事があったのね」
「……ええ」明智は車から外を見ながら、気落ちしながら言った。

「着いたわ。私たちに何かできる事はある?」
「これで最後です。色々助かりました」

「司祭の所まで、骨壺と遺灰の壺を運んでください」
「わかったわ。あなた達、重いからしっかりと二人で持って行って」

「わかりました」

「あなたほど優しい人は本部にはいないわ」
「今回はたまたま他の事件から辿り着いただけであって、
本来は見過ごしていた可能性の高い事件でした」

明智は封筒から一枚の紙を出して見せた。
「明智さんが立会人だったのね。私はその二人を知らないけど
あなたが立会人に選ばれる理由は分かるわ」

「私は特別、信心深い訳ではありませんが、二人が望んでいた事を
最後に叶えてあげれるのなら、異例な事でもしてあげたいだけです」

「時間は気にしなくていいから、ゆっくり想い出に浸ってきてね」

二つの壺の前で司教が誓いの言葉を述べた。

二人の声は聞こえずとも、二人の確かな愛は感じた。

永遠に誓いを立てた事を報告に来た時の、
あの一瞬の顏を思い出していた。

明智は一言も発しなかったが、心の中では運命の出会いを祝福していた。

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