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きのことココダトレイル「何故日本人はココダトレイルを歩かないのか」

私はその日メルボルンの郊外の国立公園にいました。大自然を舞台に、道なき道を歩くことに憧れがある私は、ある場所を目標にしていました。ウィルソンズプロム国立公園、愛称はザ・プロム。藪漕ぎ、岩跳び、一晩6人しか泊まれないキャンプ地、夏には鳴き砂やビーチの美しさで人が押し寄せるザ・プロムの中でも訪れる人も少ない、国立公園の北東に位置する未開のトレイル。

コロナ禍、鬱のような症状に悩まされた私。そんな私を家から引きずり出してくれた一回り以上若いサッカーのチームメイトが選んだのがこのトレイル。2021年12月に訪れた時には、トレイル踏破はその難易度から二人で諦めて、難易度の低い部分だけを歩いてきました。

友人と少し季節外れ(*)で寒い海に飛び込んだり、ゆっくり歩いて到着したキャンプ地には既に5人程、先客がいました。そこにいる全員がきちんと国立公園事務所に宿泊の申請をしていれば定員オーバーが告げられていたはずです。夕暮れ前の一番最後に到着した我々は、テントを張るスペースが無いことに気付きました。

誰が予約していて、していないかなんて粗探しするようなちっぽけな心は都会に置いてきました。詮索はせずに、狭いキャンプ地に、我々のテントが張れるように小さなスペースを作ってもらいました。まぁ後々、予約なし犯人が誰かわかっちゃいましたけどね〜。

翌日は海の潮の満ち引きを読み、橋の無い川を渡り、軽装でトレイルを一部トレース。反時計回りに歩く。帰りには気をつけていたのに道を見失い藪漕ぎの事態発生。やはり、簡単なトレイルではありませんでした。また帰りも川を渡るので潮の満ち引きに合わせなくてはいけません。

見渡す限りの大自然。人が地上から消えたかのような風景。その時に歩かなかった残りのトレイルに憧れの気持ちが募り、いつか歩きたいという想いが溢れ出ていました。

そして日常の忙しさにトレイルの存在も忘れかけてた頃、ふと目にした広告。ザ・プロムの北を歩くツアー。開催は2023年4月のイースター休暇。

「ツアーがあるの??」

直ぐに主催者に連絡し、準備し、三泊四日のトレッキングツアーに参加したのです。

当日待ち合わせの指定された場所にいたのは、年配の男性。70歳目前というその彼(軍曹)は、ツアーの主催者。70歳…って凄い……車に乗り込み、彼の相棒(永遠の少年)を迎えにゆき、3人で現地に向かいました。

トレッキングの四日間のお天気はそれほど良く無いという予報。トレイルのスタート地点についた時には小雨。他のツアー客を待ちながら、昼食を食べました。

その時軍曹が深い静かな声で私に問いかけたのです。

「日本人はなぜココダトレイルを歩かないのか」

マクドナルドのバーガー達を頬張り、まだ歩いていない道を夢見て、三泊四日を乗り切ろうとする私の時間が、コトリと止まった瞬間でした。

「ココダって何……」


ザ・プロム
スカルロック骸骨岩
海と川が出会う場所
虹が出ました

(*) 季節外れと書きましたが、12月ならば夏なので恐らく天候が悪い日。風が強かったのは覚えているので、思いの外寒い日だったはずです。

(おしまい)
読んでくださりありがとうございます。

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