【超短編小説】 おやすみ、アマリリス
「おやすみ、アマリリス」
それが彼女の口癖だった。
変わった挨拶だったが、何度も聞いているうちに慣れてしまった。
僕は「おやすみ、マーライオン」と違うことを言ってみたけど、
彼女は少し間を置いて「おやすみ、アマリリス」と返すだけだった。
それが彼女の言葉のほとんどだった。
彼女の口からアマリリス以外に花の名前を聞いたことがなかった。
おそらく、彼女にとって、アマリリスは特別な花なんだろうと思った。
僕はアマリリスを探した。
でも、見つからなかった。
正確には僕が住んでいる地域には生息しない植物だった。
僕はそのことを彼女に伝えると、
「さよなら、アマリリス」と悲しそうに言った。
彼女が言うアマリリスはどこにあるのだろうか。
僕は、それをまだ見つけられずにいた。(完)