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黙ってられなかった「沈黙の艦隊」の感想 (連載当時から読んできたオタクの長文です)

上映もそろそろ終わろうとしている映画「沈黙の艦隊」の感想について、ようやく頭がまとまってきました。

この記事を書いているうp主は原作読了済(リアルタイムで追っていました。)の人間なので、映画と原作を比較して感想を書いてしまっています。ご了承ください。なお日本の国防やアメリカ追認の防衛力に対する云々シーレーン、現在展開している第7艦隊の装備、潜水艦の実際の運用などについてのことは触れません。…あくまでも漫画、映画の話でございますゆえご容赦ください。

一応この映画は令和時代に合わせてアップデートされた作品。昭和の原作とは別物というわけですよ。と、言い聞かせてレビュー参ります。

まずはキャラクターの雑感から



■シーバット艦長 戦闘国家やまと元首「海江田四郎」

原作・映画ともに、「やまなみ」乗組員以外の登場人物からは基本的に「狂気」と形容されることの多いキャラ。感情移入しにくい主人公として当時から色々物議を醸すキャラでした。
しかしよく読めば原作の彼はよく話し、よく笑い、食事もし、自分のトンデモ理論を振りかざし、それを実行してみせ、世界を(主にアメリカ・深町)を混乱の渦に叩き込むある意味「陽性の狂気」を持ったキャラと申せましょう。

旧版「沈黙の艦隊」30巻

対して映画の海江田ですが、恒星間飛行氏(小泉悠氏)のコメントでもあるようにガンギマったキャラではありましたが今回全く彼は動きません。見ているのか見ていないのか前を向いたまま淡々指揮し、ガンガン米潜水艦を沈め、再起不能に、空母を釘付けにしていきます。その表情のよめなさに恐怖を感じる方もいらっしゃったようです。
「Good Morning U.S.A!」もなかったし(ノД`)シクシク

演技と演出があいまって「不気味な狂気」という印象が全面出ていました。決意と自信に満ちた背中に次に何をするんだと、釘付きになった方も多いと思います。私も大沢海江田の背中にかわぐち海江田を何回も感じました。実際の3次元の身体の持つ説得力ってすごいですね。




■たつなみ艦長「深町洋」

キャラクターや立ち位置が大きく変わってしまい、私は困ってしまいました。原作では対等かつ「最高のライバル」とか「宿命の二人」とかキャプションついてカバーを飾っていた二人です。当然映画でも襟首掴むは怒鳴り込むわの大暴れを期待していたのですが、令和のコンプライアンスに接触すると判断されたのでしょうか。ばっさりカットされています。

モーニング11周年記念テレカ(私物)
1994年8月4日号表紙(私物)

後に触れますが事故の対応によって大きく袂を分かつことになってしまっただけでなく先輩後輩、という大きな隔たりが元々あった二人なのでどう気持ちに落とし前をつけていいのか大変困っています。また、過去深町は海江田の元部下ともなっており、海江田と対面する際はさん付けで呼んでいるのも悩ましいところです。
今のところなぜ海江田が深町をあそこまで信頼しているのかもわかりにくいですし。

生真面目で自分の信念を持っているけれど、繊細なところもあるキャラとして21世紀に合わせて一番リファインされたキャラでしょうね。個人的には後述の事故の後PTSDを患っているようなので、然るべき治療を受けてもらったほうがいいのではないかと心配になりました。

出だしの洋上航行している「たつなみ」の太鼓のようなドラムとそこから登場するアイスかじり深町は100点満点でした。




■たつなみ副長「速水(WAVE)貴子」

「沈黙の艦隊」第一巻より

連載当時からついこの間まで(本当)女性士官と長く信じられていた速水副長が本当の女性士官として登場したとき、もっとびっくりするかと思いましたが、創立記念行事や基地祭ですでにお見かけするようになって久しくなった現在、すんなりと受け入れられました。
原作通りで行くとコレまた色々物議を別のところで醸し出すであろうことは予想がつくので仕方ないかなと。
原作の速水健次三等海佐はイケメン過ぎて出られなかったということでFA。

水川あさみちゃんの「ん?」のシーンはめっちゃ可愛かったです。




■たつなみ先任伍長・水測長「南波栄一」

先任伍長(曹長)ってこんなに態度大きかったっけか?原作ではおどけてはいたけどちゃんと敬礼はしていたぞ。…コレもユースケ・サンタマリアのなせる技か。1巻の音紋テープetcのシーンは現在のデジタル技術を持ってすれば艦内でも余裕デスネ。ほとんど心理戦、密室状態の映画の中では確かに癒やし枠でした。「南さん」呼びは現場としてはOKなの?

使っているヘッドホンはSONYのZ1000かなぁ(ガン見したけどはっきりとは分からず)。5万円台。わるくない。




■シーバット副長「山中栄治」

原作の角刈り下まつげの山中栄治も愛しているのですが、映画の山中も若くていいな!海江田の意図を全部理解できていない戸惑いのようなものもありつつ、それでもついていこうとするガッツも感じるぞ。最後の最後、本当に重要な役割を担いやまとを操艦するのは君だ。応援しているぞ。

中の人も海江田艦長を理解するのが大変そうだったけど、大丈夫。山中栄治は信じていい。それだけ。リアル海江田の黄金の右腕になるんだ。






ここからは主観混じりの考察、ストーリーとオリキャラ、オリジナル展開についてのメモ書き。散文だらけになります。ボチボチお付き合いください。

■「やまなみ」とソビエト原潜もといアメリカ原潜

ソビエトの原潜が日本の近海で活動、そこに日本の潜水艦が衝突沈没、というセンセーショナルな始まりの「沈黙の艦隊」
映画では出だしから大きく変更されています。「シーバット計画」に直接絡まない第三国を混ぜての展開では先々ややこしくなると判断されたのか、ここはスッキリアメリカさんに沈めてもらいました。そして事故調査・船体引き揚げ・遺体の処理はすべて米軍持ちに、という流れも自然です。


■モーツァルト

①レクイエム
②交響曲35番ハフナー第1楽章
②交響曲40番第1楽章
③交響曲41番ジュピター1〜4楽章
ちゃんと41番使ってあって満足でした。

寝ているお客様が多数だったのが解せぬ。クラシック聞いたら寝てしまうスイッチでも内蔵されているのかね。いびきまでかいてたし。


■入江兄弟について

原作では「シーバット」「たつなみ」のクルーともにプライベートなシーンは殆どありませんでした。映画では「たつなみ」の水雷員が靴下のなげあいっこしていたりと微笑ましくもどこか悲しい感じシーン良かったですね。過酷な任務本当にお疲れ様です。

で、重大なオリジナル要素の一つ。
海江田が3年前に艦長を務めていた潜水艦「ゆうなみ」で浸水事故が発生、区画閉鎖で入江兄が死亡。その際の判断に疑問と怒りをもった深町副長というエピソードが挟まりました。
このエピソードで田所司令の「お前の海江田への気持ちはわかるが」のセリフがわかりやすくなったわけですが、事故後入江母が大切なドルフィンマークを深町に託したり、入江弟が「シーバット計画」のクルーに選抜されていたりとかなりストーリーの根管を揺るがす部分に。

海江田艦長に心酔しているわけでもなさそうな意味深な表情からも伺える不穏な空気感。続編がないと納得できませんぞ、AmazonStudioさん💢


■表示の切り替わり

細かいところですがシーバットの艦長に任命される際のテロップで、一瞬「やまなみ」艦長海江田四郎から「シーバット」艦長海江田四郎に切り替わるところがすっごい好きです。わかりやすいし。

■寒色系の「シーバット」暖色系の「たつなみ」とフード理論

この画面の対比はとてもわかりやすかったです。パイプ、配線、スイッチ、モニタ、タッチパネルが分かりやすくアナログちっくで、水筒はあるは付箋紙はあるは、食堂もちらっと写ったりと人が住んでいる感満載。ライティングも暖色系でまとめられているところから人間らしさ、温かみを感じる「たつなみ」
一方のモニタはフラット、スイッチもタッチパネル対応、艦長室以外居住区は一切映らない。食事していない。ライティングは青白く体温を感じにくい人知を超えた不気味な存在らしさを全面に出した「シーバット」

フード理論も分かりやすく展開されていましたね。

フード三原則
1 善人は、フードをおいしそうに食べる
2 正体不明者は、フードを食べない
3 悪人は、フードを粗末に扱う

原作でも深町は常に食べてます。いや、ほんとにどんなとこでも謹慎中だろうが係留中だろうが、東京湾で寒中水泳やろうが。つまり見ている視聴者側が安心して感情を仮託できるキャラであり善人側のキャラとして安心して読んでいることができました。
映画でもそのように見ていていいと思いますが、アイス一本というのが絵的に若干弱いんですよね。続きでは機内食2人前行けるくらいの健啖家ぶりを発揮していただきたいと思います。









----------ここからは原作も映画も一通り目を通された方のみどうぞ-----------





▶「続編」はあるか?

映画を見に行かれた原作からのファンの方だけでなく、全く予備知識なく見に行った方もほぼ「続きは!?」という感想でした(ぺけったー内)
映画は原作でいうところの序盤も序盤で終わりで、原作の話数に換算すると2巻とちょっとくらいですよ。江口洋介と上戸彩の無駄遣いもいいとこですよ。戦闘シーンはできる限り拾っていただいて、そこはとても感謝しています。(モーツァルトを使った深度のブラフとかフローティング・アンテナを使ったチキンレースとか)

しかし現在の社会状況を鑑みて中国とロシアの潜水艦を全く無視してストーリーを進めるのは無理筋だと思っているのでここで宙ぶらりんのままのほうがいいのではと、とても弱気になる気持ちと、そこを突き進んできたのが30年前の「沈黙の艦隊」やったやないかい!という気持ちがせめぎ合っております。
AmazonStudioさん、どうか続きをうまいこと作ってください(切実)

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