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【読書日記】 「美術作品の修復保存入門」を読む

美術館で絵画を見ている時に、絵の具のひび割れに興味を持ちました。なぜひび割れするのか、どうやって直すのかを知りたく、この本を手に取りました。


初版:2022年5月30日
発行所:株式会社青幻舎
著者:宮津大輔
内容:美術作品や文化財の「修復保存」について、絵画作品、紙作品、立体作品、そしてタイムベースド・メディア(≒映像)作品に分け、技法や材料並びに保存・保管といった基礎を、豊富な事例や興味深いエピソードと共にわかりやすく紹介。修復技術は横浜美術大学修復保存コース教員が監修。楽しみながら学べるコラムも多数収録した、専門家に限らず、誰もが手元に置いて参考にできる入門書。(Amazonより)


この本は、絵画を専門的に学んだことのない私のような人が読むと「へ〜、そういうことだったのか」とわかり、新たな知識が得られることがありました。
一方で、かなり専門的で、用語が難しく、理解しにくいところもありました。

私にとって必要な、興味のある事柄を取捨選択しながら読んだので、楽しかったです。
その中でもやはり美術作品の損傷や修復の基礎的な事柄について知ることができ、よかったです。


美術作品にはどのような劣化や損傷が生じるか?

美術作品の劣化や損傷の原因・・・いろいろあるそうです。
・展示や保存 気温、湿度、寒暖差、紫外線
・生物 カビや虫
・自然災害
・人

私が美術作品を目にするのは、美術館の展示室の中だけです。
美術作品を守るためにされていることで、まず思い出すのは、なんといっても気温です。夏は寒いくらいにクーラーが効いています。
次に思い出すのは、照明の工夫です。やや薄暗い展示室があったり、自然光を緩やかに入れていたり・・・私は、東京のアーティゾン美術館の照明が好きです。額縁のガラスに照明が反射しないような工夫がされているのは素晴らしいと思いました。それは、見る側に親切なだけでなく、絵画の保存のことも考えてのことだと思います。

アーティゾン美術館の照明はすてき


しかし、絵画にダメージを与えないよう、非常に気を使うのは、私たちの知らない、展示室までの行程らしいです。
他館から借り受けた作品をトラックからバックヤードにうつす、バックヤードから展示室にうつす、といった、気温や湿度などが異なる場所への移動に慎重だということです。
「絵画って繊細な生き物だな」と思いました。
また、カビや虫、洪水などの自然災害による劣化や損傷の例も挙げられていました。私たちの住まいと同じようなものだとも思いました。


絵画作品の修復

以下の絵画の技法や修復について、材料や道具などを紹介し、わかりやすく説明がされていました。
・洋画の歴史
・フレスコ、テンペラ
・油彩
・日本画

かなり昔になるのですが、バチカンのシスティーナ礼拝堂の「最後の審判」の修復の作業をテレビで見ました。和紙で少しずつ煤を取り除き、鮮やかな色が蘇った様子は圧巻でした。
絵画に使われている材料によって、修復で使われる溶剤や筆などの道具も様々。100年単位の前の絵画を現代人が手を入れて、できるだけ元の姿に戻そうという修復の仕事はなんともいえない尊いものですね。

大塚国際美術館の陶板の「最後の審判」もすてき


コラムがおもしろい

章ごとにある、コラムが非常に面白かったです。
・「印象派」の作品の下地の色の違いによって印象が大きく変わる
 へ〜、下地の色をいろいろ変えているんだ〜、と発見。
・修復したことで変な顔になり、「この猿を見よ」と騒がれた作品。SNSによって、修復した方は、笑い者からヒロインになった話。

だれも教えてくれない、ちょっとしたエピソードが散りばめられていました。


この本を読み終わり、次に美術館へ行く時、これまでとは異なるところにも目がいきそうな気がします。楽しみです。




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