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【教育】理系女子のリアル ~高校生編~

いうからだろうか、「理系女子」という言葉が社会に浸透してきたのは。
今は、「理系女子」という言葉を使うべきではないという風潮さえ漂い始めた。
その背景には、誰もが容易に考えつく文化が存在する。

理系には、女子が少ない。

その事実は、どうやっても翻ることがない。
この言葉を使うことが、逆にその事実を際立たせることにつながるから、かえって使うことを控えるべき、というわけだ。

果たしてそうだろうか?と私は考える。

高校教員という立場である特性上、「文系」、「理系」という言葉を必然的に使用する。
そして「男子」、「女子」という言葉も同様に使う。
これはあくまで、属性を区分するための「記号」だ。

だからその延長線上に「理系女子」という言葉は存在するわけで、同じように「文系男子」という言葉だって存在したって良い。

少なくとも私は、それらの言葉の使用に関して先に挙げたような文化的背景を含まない。
クラス分けやコース選択時の際はどうしても男女比が関係するので、特に理系の女子率には注視する。
また、大学入試の志望校検討で生徒が女子大を挙げれば「女子」という言葉を使うことになる。
あくまで、「記号」としてである。

ただし、教師側が日常的に(仕事において)使用する「文理」・「男女」の言葉に特別なニュアンスや隠喩を含まないとて、社会的に理系に女子が少ないという事実を鑑みれば、それを踏まえての進路指導は避けて通れない。

例えば大学側が「女子枠」を設ければ、女子生徒の志望分野、その他もろもろの諸条件にその大学が見合えば、チャレンジを薦める。
女子の受験生は、その措置を受ける権利があるのだ。
もちろん無理に薦めることは絶対にしないが、その選択肢を示して本人が望むなら、その道は開ける。

ここで、「なんで女子だけ?」というのは愚問だというポジション。

さて、そういったスタンスで進路指導を進めているところではあるが、ある生徒との話で大きな希望を感じ、その希望をさらに具現化したいという気持ちが私自身に芽生えたので、生徒とのやり取りをここに記しておく。




彼女は高3理系。
理系の某分野に関心が高い。
4年生大学への進学を志望している。

理系って、女子が少ないじゃないですか。
自分が進むことで、そういう偏見を無くしたいんですよね。

「そういう偏見」という漠然とした言葉の中に、大きな社会全体に対する反骨精神のような感覚を覚えた。
わずか17や18の子が、世の中の不条理をちゃんと見ている。

もちろん、純粋に「〇〇学を勉強したいんだ!」という熱い思いを持って受験勉強に励むことが素晴らしい。
でも、社会を変えるための一助に自分がなりたいという気持ちってとてもつもなくパワーがあるし、希望に満ちたエネルギーを感じる。

これって、「理系男子」には持ち得ない感受性だと思う。
さらに言えば、そのメッセージを受け取ったのが「女性」である私であるってことも、受け取り側自身の感受性を助長している、とも。

文系女子の私には、キラキラして眩しく思えた。
私はそういう視点、高校生の頃に持ててなかったなって。

社会が成熟し、歴史的に女子が置かれてきた立場に対する理解が進み、性的役割分業の是正がだいぶ進んできた。
世の中に少しずつ変容が起きたことで、若い学生たちにもそういう見方ができるだけの土壌が教育に生まれてきたことをありがたく感じる。

そこで私は訊いてみる。
理系の大学に進んで、そういう偏見を無くして、その後はどうする?

彼女は考える。
うーんと唸る。

「そこまで考えてはいませんでした、なんか未熟ですね。」って。

教師の役割は、生徒たちに「問い」を持たせることだと私は考えている。
学校は、学び方を学ぶ場所であり、知識や技能を得るためだけにあるのではない。
それであれば、オンライン授業で勝手にやってもらえればいいわけだし、わざわざ学校へ来てみんなで顔を合わせながら時間を共有することの意義はないのだから。
だから、教師は「問い」を立て、生徒の探究を促進させるために存在するのだと思う。
学びをさらに深めさせる役割。

社会はずっと進んでいく。
「そういう偏見」を無くすために、彼女はどんな学生生活を送るのだろう。
「そういう偏見」を無くして、彼女はどんな社会を創りたいのだろう。

変化を起こすためには、ビジョンが必要。
私は「問い」を彼女に投げた。
彼女なりの納得解を持って、大学という大きな学問のドアを開けて欲しい。
そしてそれはいずれ最適解となって、社会のどこかで誰かの役に立つことになるはず。

そんな風に考える文系女子の私は、今でも理系に進まなかったことを心の片隅で悔やんでいるっていうちょっとした憂い。
その気持ちに気づいたのは、もっとちっぽけなことがきっかけだけど。

では、また!

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