見出し画像

グレードダウンオークション【世にも奇妙な物語風】

「掲示板」
この単語を見てあなたは何を想像しましたか?
この単語の意味にはあなたが生きていた年代や生活環境によって、それぞれ別の捉え方をする人が存在します。

1つ目は駅前にある待ち合わせ場所を記録して使うと考えた者。
2つ目は重要なお知らせや地域の催し物を掲示するためだと考えた者。
3つ目はインターネットを使って意見を募るために使うと考える者。

他にも様々な掲示板があると考えられるが、主にこの3種類が思いつくだろう。
今回の物語の題材となった掲示板は、3つ目の実に現代的な掲示板である。

またしてもこの世界のどこかで、不思議な掲示板から発展した奇妙な世界に迷い込んでしまった一人の主人公の結末はいったいどうなるでしょうか。
さあ、どうぞお楽しみください。


「こんちゃーっす!散髪屋に行く雲丹物語、訳して雲丹サンへようこそ! 今日の企画は~」

ある夏の日。
自分の新しい笑いのツボを探すために颯太は複数の動画配信サイトを開き、目に留まった底辺配信者を垂れ流しながらインターネットの海を優雅に泳いでいた。

「なんかこいつ売れるために必死で尖ってるけど、いまいちそんな面白くないな…」そういって颯太は開いていた配信を閉じた。

親の脛をかじって仕送りをしてもらっては、働かずにインターネットばかりいじっていた颯太はまさに人間として最底辺の生活をしていた。見ていてハマらないと思ったらすぐに配信を閉じ、また同じようなことをして生活をしているという現実に飽き飽きしていたが、今さら働くというのも億劫だったがために、このような生活を約3年程続けていた。

「なんかつまんねぇな~ また適当にインターネット漁って面白いやつでも見つけるかぁ~」

颯太がSNSを徘徊していると電子掲示板に書かれていた一つの大喜利スレッドを見つけた。そこに書かれていたのは「この仮面ライダーなんか不安だな… どうして?」というお題だった。
「どうせ面白くない答えばっかやろ。暇だし覗いてやるか。」
実際にリンクに飛び、たくさんの回答を見ていると颯太はある一つの回答に思わずクスッと笑ってしまった。

「仮免ライダーだった。」

その後颯太はツボってしまい、数秒間笑ってしまった。
大笑いした後、颯太は息を切らしながら「そうだよ!こういうのが欲しかったんだよ! マジで面白すぎるw」と一人しかいない空間の中で興奮気味に話していた。

その出来事がきっかけで颯太も何かしらの電子掲示板にコメントを残して誰かの人生に影響を与えたいと思い、面白そうな掲示板を探していた。
自分でも参加できそうな掲示板を探していると、とある一つの面白そうな掲示板に出会った。
その掲示板にはこのようなスレッドが立っていた。

「今日の俺の食費210円なんだけど、俺より下の人間とかおるん???」

颯太はこの掲示板を見て自分も参加しようと思い、コメントを残そうとしたその瞬間、誰かが掲示板内で「みんな食費で競い合ってるのを見てるとなんかグレードダウンオークションみたいで面白いな。」と書き込んだ。

「グレードダウンオークションってなんだ? 似たような掲示板があるならそっちの方に参加してみたいから誰かに質問してみようかな!」そう言って颯太は掲示板に「そのオークション参加してみたいから、誰かリンク張ってくれよ」と書き込んだ。

その数分後、掲示板に携帯アプリのリンクが張られ、すぐさま颯太は自分の携帯にダウンロードし、早く始めたい一心で利用規約や様々な個人情報を入力し、音速の勢いでアプリを起動した。

その中には常人が出来そうなものから人間を辞めた人にしかできないようなスレッドがたくさん存在していた。

「俺の体重今110㎏だけど俺より太れるやつおるん???」
「エナドリで実際に頭部損傷するのかみたいから誰か1ヶ月エナドリ縛り生活してくれ。」
「1年間文字消失生活とか面白そうだから適当にスレッド立てとくわ。」

「似たようなやつでいっぱいあるじゃん! これなら毎日の生活楽しくなりそうだし、折角だからなんか参加してみようかな! あっ!これとかさっきと似たやつだし参加してみよう!」

そういって颯太が参加したのは「この7日間で食費が一番低かった奴優勝www」というどこにでもありそうな簡単なスレッドだった。

颯太は新参者で使い方は分からなかったが、「簡単そうなスレッドを使ってたくさんの人に注目されたい」という邪な感情で盛り上がっていたスレッドに颯太はこう書きこんだ。

「俺氏ちな0円w お前ら勝てるやついないでしょw」

「勝ったな。」 

そう思った。

これでたくさんの人に注目されて色んな人にチヤホヤされると思っていた。だが、参加している人達の反応は真逆だった。

「出たよこういう奴w」「レベルも低いしこいつ初心者だな。」「こいつ終わったわ。」「バカ待ってました!」「今日の肴はこいつで決まりだわw」
「後でどうなっても知らないぞ。」

たくさんの批判コメントが自分に相次いだ。
「えっ!なんでなんで!面白いじゃん! 俺優勝なんじゃないの!」
颯太は戸惑い、一人で騒ぎながら急いでグレードダウンオークションの説明を読んだ。

颯太の画面に映っているアプリの説明文にはこのように表示されていた。
「いらっしゃいませお客様! このアプリは日々の日常に飽きた人や配信者のネタを提供してより盛り上げていただく挑戦的なコミュニケーションツールとなっています! 楽しみ方は簡単! 気になった表題に参加し、自分が挑戦できそうな数を宣言し、オークション形式で勝ち上がった人が実際に挑戦し、実際に達成することができれば難易度によってポイントと経験値を獲得できるというシステムです! ですが注意点として決して目立ちたいがために不可能な数を宣言しないようにしましょう! それではお客様のよきグレードダウンオークションライフを!」

颯太はその真実を知った瞬間戦慄した。

「えっ! で、でも!オークション形式なら自分より低い人出てくればその人が代わりにやるはず!」そう思った颯太だったが、思い出した時にはもう遅かった。

0円。

そう。颯太はもう0円でオークションに出してしまっていた。
つまり、これ以上低い値はもう出現しないということを表していた。
たとえこれから先、たくさんの時間制限があっても自分が一番下であり、絶対に自分が選ばれてこれから「1週間食費0円生活」をしなければならないという現実は変わらないままだった。

「えっ… それじゃあ… 俺は…」
颯太が絶望した瞬間、アプリの画面には「オークションの時間終了です。 おめでとうございます!見事落札者が決定しました!」という表示が出ていた。

掲示板のコメントには「おめでとう!」「良かったな。これでよりたくさんの人から注目を浴びれるな。」「さて、審判の時を見守るか。」「自分の発言には責任持てよ。」「行ってこい。」などのコメントが書き込まれ、最後に「じゃあな。」というコメントと共に颯太の空間だけが真っ白く覆われた。

「な、なんだ!?」
これから始まる謎の時間に戸惑いを隠せない颯太は慌てふためきながら、ただ真っ白い空間を眺めていた。

颯太が目を覚ますとそこは、自分が住んでた部屋とほぼ同じような大きさの白い空間にいた。
他にはテーブルや椅子、トイレやベッドなどの人間として最低限度の生活ができる程の家具と、壁に掛けられた大きなモニター、卓上に置かれた小さなモニター、そして部屋の角には監視カメラが置かれていた。誰が見てもその様子はまさにこれから自分が主役の配信が始まるかのようなものばかりだった。

そしてそれに追い打ちをかけるようにモニター以外の家具は全て白に統一されており、部屋の壁や床、そしていつの間にか自分の衣服までも全て白に統一されていた。

「おい!ここから出せ! 俺はそんなつもりでコメントを書いたわけじゃないんだ! もうわかったから!反省してるから! 謝るから見逃してくれ!」
颯太は今から始まる生活から逃れるために必死で叫ぶが、その声は誰かに届いているという感触は無かった。

そしてその叫びを生存確認と捉えた瞬間、壁に掛けられた大きなモニターの画面が付き、「今からあなたは、1週間食費0円で過ごしていただきます。」という表示が終わった後、1週間のカウントダウンがスタートした。

意味不明なカウントダウンが始まったと同時に、卓上に置かれていたモニターの電源が勝手に付き、「お、おい! なんなんだよこれ…」と颯太が呟きながら覗き込むとそのモニターには自分の部屋の様子が映っており、左半分には「始まったぞ。」「みんなでどうなるか観戦しようぜw」「がんばれー。」などの複数のコメントが下から順番に上に向かって表示され、右上にはRECという文字と同時視聴者数10万人という文字が表示されていた。

「もしかしてこれ… 本当に俺は今から…」と颯太が呟いた瞬間、卓上のモニターには「レッツ!グレードダウンオークション!」というコメントが一斉に表示された。

この時、颯太は知らなかった。

これは現代社会が産んだ、無責任な言葉を簡単に発言してしまう人間達を裁く、1つの「エンターテインメントショー」であるということを。

「グレードダウンオークション」


颯太が自身の虚言によって世間の見せ物になってしまうはるか前の話。日本のテレビ業界は同じバラエティ番組で溢れ、何かと刺激を感じれる物は何もなかった。

同じ演者や同じ内容。
そんな毎日変わらない番組を見続けるなら、違う内容ばかり配信している人を見た方が面白いと世間は感じ、どの世代もテレビという1つのメディアから離れてしまっていた。

いつの日かテレビ業界は「何か刺激を感じられるような内容で日替わりで演者が変わり、テレビと配信が同時にできるような番組」を考えなければならない状態となっていた。

そして東京某所に位置する国民的に有名なテレビ局もまた同じような悩みを抱えていた。

某テレビ局は緊急で会議を開くが「そんなもの提案できるわけ無い。」と会議に参加していた複数人の頭の中に浮かんでいた。

なぜなら、何か刺激を感じるといっても何が跳ねるかも分からず、日替わりで演者を変えるといってもいずれ限界が来るからだった。

もし革命的な番組が提案できたとして放送が決定した場合、その番組が継続して放送することが許されるにはそれなりの視聴率を継続して出す必要があるが、そのような保証はどこのテレビ局にも存在していなかった。

「まずは先に番組のコンセプトを考えよう。」
司会の提案と共に無理難題なテーマを掲げながら企画会議が始まった。

参加している全員が唸りながら時間だけが過ぎていき、このまま誰も言葉を発さずに終わってしまうかと思われた会議だったが、「あの、ちょっとすいません…。」と1人の社員が手を挙げて発言した。

「では、最近問題視されている虚言や嘘を簡単に発した人を裁くエンターテインメントショーというのはどうでしょうか? 最近のホットな話題として嘘や虚言に関する単語が流行語大賞でノミネートされてましたし、実際に番組内で痛い目を見ればそのような事態も減っていくかもしれませんから面白いと思いますよ。それに虚言や嘘なら誰にでも選ばれる可能性もあるので悪くないと思うのですが…。」と社員の田中は独創的で革新的なアイデアを提案した。

演者を「タレント」から「一般人」にするという発想は思いつかなかった。確かに一般人にすればそれぞれ違った反応を見ることができ、対象人数が大幅に広がり、「次は自分かもしれない」という刺激を与えることができるなどメリットはたくさんあった。

そしてエンターテインメントショーなら番組としての継続的な放送も可能になり、ホットな話題も抑えればより注目されやすいではと考え、会議内は田中が提案したアイデアで盛り上がっていた。

会議が盛り上がる中、1人の社員が口を開いた。
「確かに最近のホットな話題にもアクセスできるし、誰にでも選ばれる可能性があって面白い。そして国民に対する注意喚起にもなるから番組としては跳ねそうだが、演者を決めるにはどうするんだ?」

余計な事を言ったかのように見えたが、社員が発言したようにそれがいくら面白そうなコンセプトであっても、出演する演者が決まらなければ意味が無く、それ以外にもたくさんの課題が芋のようにたくさん掘り起こされていった。

「一旦必要なものをまとめよう。」
そういって司会はホワイトボードに課題を書き始めた。

~番組制作をする上での課題点~
・演者の決定方法
・演者の身元確認
・嘘や虚言が起こりそうな誰でも使える共有の場所の作成
・演者の発言をもとにした検証実験場所の空間作成
・演者の移動方法
・演者が達成できなかった場合の処置

「よし。この6つか。にしても多いな~。」
司会がまとめるが、やはり問題点は少なくはなかった。これからどの問題点を解決するかと全員が話し合おうとした時、田中がまた口を開いた。

「共有の場所と演者の身元確認についてですが、SNSを利用したたくさんの意見やコメントが閲覧できる掲示板アプリを作れば、利用者のアカウントを連携させることによって自然にほぼ全ての国民の詳細を知ることができますし、そのアプリの初めに利用規約と題してテレビ局側が放送に必要な個人情報を入力させるように提示させておけば、ほぼ全ての国民が長文の利用規約を飛ばしてすぐにアプリを利用すると思います。」と田中は提案したが、その提案はあまりにも危険すぎる提案だった。

だがそれよりも前にいち早く新しい番組を制作し、何としても国民の興味を惹く最高のバラエティー番組を作る必要があるため、「最高のクオリティを提供するなら危険なことに手を出さなければいけない」という信念に従い、参加者全員はこの危険な提案を通してしまった。

「それにしてもなんで掲示板なんだ? もっと他にあるだろう。」とまた社員がツッコむと、その解答として田中が補足した。

「インターネット掲示板を使えば匿名でコメントを残せますし、何より嘘や虚言がしやすいと思います。人間の心理的に匿名だとやりやすいとか、ばれなければ大丈夫だとかが少なからずあると思いますよ。分からないですけど。」

その発言に納得しない人も複数人いたが、もう危険な提案を受け入れてしまった以上、とりあえず意見だけ出してもらってから整理していくという方向に変えて議論を進めた。

そうして何時間か議論を重ねた結果、演者の決定方法は「掲示板にあらかじめ意見を募るような疑問文や誰でも挑戦できるような企画を提示させておき、その中で一番初めに嘘や虚言を言った者」を演者とし、移動方法は「アプリから出る特殊な電波を使って別次元に移動する」という方向性に決まった。

別次元にワープする電波の作成に至っては、実際に国民が利用している施設を参考にして作れば後は容易だった。別次元空間の制作も同じようなもので、進化したVR空間を使うことで不可能だと思われていた提案も可能になった。

そうして企画会議は順調に進み、残りはアプリの名前を決めるだけとなっていた。
会議の参加者は番組の要素に沿って様々なアプリ名の案をだすが、なぜか田中だけは何も意見を言わずにずっと考え込んでいた。

「おい、田中。お前からもなんか意見を出したらどうだ。」

司会にそう言われて田中は口を開いたが、その意見はアプリ関連の案ではなく、番組内容に関する提案だった。

「なんかそうじゃないんですよね。掲示板らしく意見を募るのはわかるのですが、問題は挑戦企画ですよ。そこのコメントで一番初めに虚言を言った人を演者にするというのが何かひっかかるんです。」

田中が話し始め、悩んでいる時に社員の携帯からフリマサイト関連の通知音が鳴った。

「やべっ…!す、すいません…。 ちょっと1回外出てもいいですか…?」

気まずそうにしている社員に対して司会は「いいけど要件は?」と尋ねると社員は「あと数分でオークションで落札した商品の支払いが過ぎちゃうんで、近くの銀行に行って振り込みに行ってきます。」と答え、そのまま会議室を後にした。

「オークション…? それですよ!オークションみたいに自分で出来そうな値を宣言して一番値が低い人が演者になって、選ばれた演者が成功したら実際にアプリ内やいろんな店で使えるポイントが貰えるとかにすればいいんですよ!それをテレビや配信で放送して、実際に検証実験を行えばそこで虚言か本当かがそこで判明しますし、失敗すれば晒しものになって視聴者に対する注意喚起にもなるからいい案だと思うのですが!」

そう言って田中は興奮気味に番組内容に関するさらなる提案をし、アプリ名を高らかに宣言した。

「そしてこの会議で出たアイデアをもとにこのアプリの名前をを名付けるとするならズバリ! グレードダウンオークションというのはどうでしょう!」

半分暴走したかのような田中だったが、企画会議に参加していた社員たちは満場一致で頷いた。そして「よくやった! 次はこのグレードダウンオークションという番組を作ろう!」と司会が言い、企画会議は幕を閉じた。

「嘘や虚言をテーマとした番組内容」
「日替わりで変化する演者の新鮮なリアクション」
「継続が必ず保証されたバラエティ番組とゴールデンタイムの放送」
「SNSを利用した参加者の身元確認とアカウント連携必須の携帯アプリ」
「次は自分かもしれないという刺激的な思考を視聴者に与えてしまう程の影響力」
「他人の不幸という甘い蜜と執行官が行う審判の時間」
「身近に存在するインターネット掲示板を使った表題や課題の提示」
「オークション形式を採用した演者の選定」
「都合が良すぎる程の特殊な電波を活用した対象者の移動方法」
「発達したVR空間を利用して製作した検証実験用の別次元空間の存在」

という10個の様々な要素が融合し、これからの未来を支えるかもしれないという希望を持ちながら某テレビ局は番組制作に取り掛かった。

企画会議が終わった時、時間はもう定時を過ぎていた。
「すいません! 自分先に上がります! 皆さんお疲れさまでした!」と田中は上司に告げ、小走りで自宅まで帰宅した。


「あぁ~ マジで疲れた… 適当に動画垂れ流しながら何か作るか…」
そう言って田中は自宅に着いた瞬間、衣服を脱ぎ捨てながら携帯を開き、動画配信サイトを開くとそこには言葉を失う程の衝撃的な配信が開かれていた。
そのライブ配信のタイトルにはこう書かれていた。

【地獄の3日間】グレードダウンオークション#6 今夜裁かれるのは…!?

「えっ… これって…」

思わず田中は言葉を失った。

それもそのはず、この「グレードダウンオークション」はさっきまで自分が会議していた番組であり、これから番組制作が始まると決定したはずだった。
だから当日にすぐ放送できるなど不可能なはずだった。

あまりの衝撃的な現実に田中は「これは夢だ」と自分を錯覚させ、すぐさまベッドに駆け込み、忘れるために眠りについた。


「ビィーーーーーーー!!!!」
突然部屋中に爆音のアラーム音が鳴る。そしてそれと同時に田中は目を覚まし、寝ぼけながらも辺りを見渡すが、今置かれている自分の状況をすぐに理解し、一瞬で眠気が吹き飛んでしまった。

真っ白い空間。
謎の2台のモニター。
そして白に統一された衣服。

そして同時に田中は全てを思い出した。

「お、俺は… 本当は知らなかったんじゃない… つらい現実から逃れようとして忘れていただけだったんだ…」

田中颯太。
それが彼の本名であり、今回のグレードダウンオークションの挑戦者兼罪人だった。

彼は元々とあるテレビ局で働いていたが、対人関係のトラブルや度重なる残業によって精神が壊れ、いつの間にか退職を申し出ていた。そして退職をする前、颯太は緊急で開かれた企画会議で「新たなバラエティ番組の提案を1つは出せ。」と上司から高圧的に脅され、突発的にこの番組を提案してしまったのだった。
働くのをやめたのもストレスの発生源と断つためで、暇つぶしにインターネットに逃げてはストレス発散のために様々なことをやらかしていた。

「うっ… 腹が…」
颯太はもう限界だった。

大きなモニターには「残り2日」と表示されており、もう5日も経過していた。

空腹感で限界の中、今更全てを思い出してももう遅かった。
そして颯太は自分の提案した番組と自分が考えずに発言した虚言によって、世間の見世物になってしまい、裁かれてしまった。
そのまま番組が終了し、自分の今いる部屋が真っ暗になる。

颯太は薄れる意識と記憶の中、自分がこの先どうなるかを覚えていた。
それは、過去にテレビ関係者として働いていたから分かる、関係者にしか知らない終幕だった。


「いやー。今回も面白かったなー。」
「マジそれ!明日もあるから楽しみ!」
「ってか、課題を達成出来なかった人って結局どうなるんだろうな。」
「しらね。白の反対だから真っ暗な奈落に落ちるとかじゃね?」
「ワンチャンそれかもな!」

グレードダウンオークションの放送が終わり、翌日の昼下がりの公園で若者達がハハハと笑い合う中、その公園の近くで「カタッ」と携帯の落とした音が鳴る。

そしてその落とされた携帯の画面には「オークションの時間終了です。 おめでとうございます!見事落札者が決定しました!」という表示がされていた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?