見出し画像

4-3-3のレッスン〜J2第2節 ファジアーノ岡山 VS 徳島ヴォルティス〜

スタメン

両チームのスタメンはこちら。

画像1

4-3-3で守る意義を見せた先制点

 試合開始早々の3分にスコアを動かしたのはホームチーム。徳島のビルドアップのミスを突いたショートカウンターからチアゴアウベスが決めたこの得点は、木山監督がコメントしていた「できるだけ4-3-3の形を崩さないで守る」これの意義、メリットが出た得点であったと言える。

 右サイドでのボール保持に詰まった徳島は、一度最終ラインにボールを戻す。左CBの安部は自らボールを持ち運んで縦パスをうかがいながら左大外の西谷に展開したのだが、このパスが出された時点で岡山は徳島のボール出しを制限することができていた。岡山は西谷に対して河野がすぐにプレッシャーに向かうことができたので、西谷は前を向くことができずにSBの新井にバックパス、この新井へのバックパスに対しても宮崎がプレッシャーをかけることで、新井は安部に戻さざるを得なくなる。そして新井からボールを受けた安部のパスコースをデュークが限定しながら寄せたことで、安部の出せるエリア、言い換えればチアゴアウベスがカットに向かうことができるエリアは非常に狭く限定されていた。

 IHとアンカー中盤3枚で中央へのコースを消し、徳島のボール出しの範囲をサイドに限定させたところでボールサイドのSB、WGが縦にプレッシャーをかけてボールを戻させて、逆サイドのWGが高い位置を取ることができていたために安部-内田間でのパスミスをカットしてショートカウンターを完結させることができた。上手くハマれば4-4-2以上にボールサイドへのプレッシャーを強めることができて、サイドの高い位置に選手を押し出しやすくなる4-3-3のメリットが出た得点であった。

機能しない岡山のプレスと徳島の巧みなボール保持

 幸先良く先制に成功した岡山であったが、それ以降は第一ラインからのプレッシャーを連動させる形を作ることが難しくなっていった。4-3-3(一度ブロックを敷いた時は4-5-1)で守ろうとする岡山はまず頂点のデュークが徳島の2CBの安部と内田に対して、アンカーの櫻井へのコースを消しながら寄せに行こうとしていた。ここで上手く徳島のCBからのボール出しのコースを限定できれば、先制点のようにボールサイドのWGがプレッシャーに行って連動させることができるのだが、徳島はSBの新井と川上が絶妙に低い位置(⇒CBと同じ高さではない位置)を取ることでCBからのボールの逃がし所となっていた。こうなると岡山としてはWGが行くかCFが行くか、難しい判断を迫られることになっていった。

 徳島のSBに対して岡山の選手が遅れて寄せに行けば、ズレてできたスペースに徳島の選手が入ることでパスを通されることになってしまっていた。岡山のWGの選手がが行けば、岡山のSB-WG間に徳島の大外の選手(⇒主にWG)にパスを通すことができ、CFの選手が行けば消されていたアンカーへのパスコースが開き、IHの選手が行けば内側のコース(岡山の中盤がカバーしきれないコース)に徳島のIHがパスを受けて前を向けるということである。岡山は徳島のビルドアップに対する初動のプレッシャーで遅れているので、それに連動しようとすればするほどどんどん徳島の使いたいスペースが大きくなってしまっていた。

 岡山は一度高い位置からのプレッシャーを止めて、WGを上げないで4-5-1のブロックを敷いて守る選択を取ることになるのだが、そうなると今度は徳島の2CBが自らボールを持ち運ぶことでCFのデュークの脇に生まれるスペースを利用する形を取るようになっていった。この動きの狙いとしては岡山のIHなりWGなりを引き付けること。そうすることで大外に展開した時に主にWGが前を向いてプレーする形を作ることができるようになっていた。

 前からプレッシャーをかける形にしても、一度ブロックを作る形にしても、どちらにしても4-3-3(4-5-1)の形のままで守ることが難しいと判断した岡山は、20分あたりから河井を一列上げて、第一ラインをデュークと河井の2枚にした4-4-2で守る形に変更。徳島の2CBに対して第一ラインを2枚にすることで、もう一度前から徳島のビルドアップを阻害するやり方を模索しようとしていた。ここでボールを持たない時のチアゴアウベスと宮崎のポジションは一度SHのポジションを取って、中央の田中と本山との4枚で内側〜中央のパスコースを消すことを優先。ボールサイドでプレッシャーがかかれば高い位置に飛び出すようにしていた。

 このように4-4-2でスタートして自陣深くでは河井が下がって4-5-1で守るやり方にしたことで、岡山は徳島のボールの動きを外→外の循環にさせる狙いがあったのだと思う。内側を使われる回数が減れば、大外の選手に前を向かれる形を作られてもこちらのSBならば十分に勝算があるという目論見もあったのだろう。この守り方にしてからの岡山は実際に徳島の攻撃を大外からのクロス攻撃にかなり制限することができるようになってはいたので、そういう意味では目論見自体は成功していたと言えるかもしれない。

 4-4-2に変更した岡山にとって問題だったのは、まず1つ目は徳島を大外への展開に限定したのは良かったがそこからのWG-IH-SBによる旋回攻撃(⇒主にWGとIHの選手の大外↔内側のポジションチェンジ)をなかなか食い止めることができていなかったこと。特に徳島の左の西谷と渡井に関しては、頻繁にWGの西谷が大外から内側に、IHの渡井が内側から大外に移動することで岡山のマーク、誰が見るべきなのかを曖昧にされていた。そして2つ目の問題は、2枚になったことで前から徳島のビルドアップ隊を捕まえようとする第一ラインとまずは内側〜中央のパスコースを捕まえようとする中盤の第二ラインとの間にスペースが生まれて、そこをアンカーの櫻井に使われるようになってしまっていたことであった。

 岡山の失点はまさにこの2つ目の問題を突かれての形であった。岡山が第一ラインの2枚(+サイドの選手)が前から徳島のビルドアップを捕まえようとしたところを安部のロングボールで外され、第一ラインと中盤の間にできた中央のスペースで前を向かれて右サイドの浜下に展開、浜下にプレッシャーをかけられないままズルズルと運ばれてそのままクロス、柳の前に入った藤尾が頭で決めて徳島がタイスコアに追い付いた。

 ここまで延々と、ボールを持たない時の岡山の前半の振る舞いについて触れてきたが、少しだけボールを持った時の動きについて書いてみようと思う。そうは言っても、回収したボールを早めにデュークかチアゴアウベスに預けて、そこで何とか打開してもらう、という形がほとんどであったので特に何かを書くということもないが。

 それでも前半の岡山は、梅田から2CBの柳やバイスに預けてそこからボールを運ぼうとする意図が無いわけではなかったのだが、徳島の4-3-3での前線からの守備は、岡山のアンカーの本山を消すことができるようにIHの渡井を上げて第一ライン3枚(藤尾-西谷-浜下)と渡井のひし形のようにプレッシャーをかけてきていた。またIHの河井と田中に対しても余った中盤の白井と櫻井がボールサイドにスライドすることでパスコースを潰そうとしていた。

 そうなると岡山はSBの徳元や河野がCBと同じ高さまで下げられてしまい、最終ラインからボールを出せる形は自然と縦一本、孤立したデュークやチアゴアウベスへのロングボールに限られてしまう。徳島の最終ラインの背後に走ることができるようなロングボールならば効果は大いにあるが、相手CBの準備ができた状態でしかも自分は相手を背負った状態、かつ味方の距離が離れている状態の選手をターゲットにロングボールを蹴っても、それで攻撃の形が成り立つような甘い話はない。それでも何度か無理矢理にでも打開してしまえるシーンがあったのは流石のクオリティではあったが。

 前半は1-1のイーブンで折り返すこととなった。

前向きな空回り

 後半になってからも岡山はデュークと河井を第一ラインにした4-4-2気味で守備をスタートすることに変わりはなかった。しかし前半は横並びになることが多かった第一ラインが縦関係になることが多くなり、どちらかが前に行けばどちらかがアンカーの櫻井を消すために後ろに残るようにしていた。

 このままだと前半のように、最前線の選手が1枚で2CBを加えた徳島のビルドアップに関わる選手たちを見ないといけないが、そうならないようにチアゴアウベスや宮崎といったサイドの選手を含めた第二ラインの選手たちが第一ラインからの前へのプレッシャーに連動するように、できるだけ高い位置を取るようになっていた。リードしていた時間の長かった前半はまだボールを前進されても最後を守れていればそれでいい、というような守備になっていたが、リードが無くなった後半は再び高い位置でプレッシャーをかけに行く守備に戻したということなのだろう。

 岡山のこの守り方の変化が試合展開を変えたかと言われれば、決してそんなことはなかった。むしろ徳島にロングボールでプレッシャーを飛ばされて、中盤の第二ラインが上がったことで2CBとの間にできたスペースを最前線から下りてきた藤尾なり大外から内側に入ってきた西谷なりに受けて使われてしまって運ばれてしまう場面も散見された。裏返されてのカウンターのような形を受けるが多くなっていたが、それでも2CBの柳とバイスがなるべくサイドに引き出されないようにすること、そのスペースを中盤の本山や田中あたりが戻ってきてカバーすることで何とか事なきを得る後半の岡山であった。

 後半の岡山は第一ラインから前に行く守備をやろうとしていたがなかなか上手く行かず、結果的に自陣深くでボールを回収することになっていたのは前半同様の光景ではあった。ただ後半の岡山の展開で前半と少し違っていたのは、最終ラインの選手が低い位置で回収したボールを中盤の選手(河井、本山、田中)を経由させて前に運ぼうとする試みを増やしていたことであった。最終ラインから丁寧に相手の守備を外せているわけではなかったので、中盤の3枚はボールを失った直後の徳島の即時奪回のプレッシャーを受ける形となったが、それでも何とかキープして味方(特にボールサイドのSB)の押し上がる時間を作ったり、ターンしてそこから自らでボールを持ち運ぶ形を作ったりすることで、チームでボールを持つ時間を増やしてそこから前線の選手を走らせる展開(⇒徳島の最終ラインの背後を狙う展開)を増やそうとしていた。

 疲労もあってか、時間の経過とともに徐々にお互いにオープンな展開が増えてくると、岡山はデュークに代わって入った川本や宮崎がシンプルに背後を狙いに行く形、チアゴアウベスに代わって入った木村は左サイドから自ら仕掛けていく形で徳島のゴール前に迫る展開を何度か作り出した。ただ如何せん単発な攻撃であったことは否めず、徳島のゴール、GKの長谷川を脅かすシーン自体は少なかった。徳島も徳島で、ラスト1/3のエリアまでは比較的容易にボールを運べる回数は多かったがフィニッシュの部分で岡山のブロックに跳ね返されることが多く、ペナ内でシュートを打てる回数は多くなかった。

 オープンな展開が増えて両ゴール前でのプレー回数は前半よりも多くなった後半であったが、前半以上にスコアが動くことはなく、試合は1-1の引き分けで終了した。

雑感

・4-3-3のポジション(⇒特にアンカーと低い位置でのSB)を上手く利用した巧みなボール保持、そこからの大外への展開を主体にしたチーム全体での前進は見事だった徳島。4-3-3のフォーメーション、ボールを保持するシステムを崩すことなくチーム全体で前進できているので、ボールを失った後もバランスを崩すことなくボールサイドに強度のあるプレッシャーをかけることができる。まさに木山監督が言うところの「できるだけ長く相手コートでサッカーをする」ための循環を、この試合で非常に上手く回すことができていたのが徳島であったと言える。そういう意味ではポヤトス監督の4-3-3は、4-3-3初心者の岡山にとって非常に得難いレッスンだったのではないだろうか。

・岡山の数少ないボールを持っての攻撃は、ほとんどが河井・本山・田中の中盤の3枚を経由しての形であった。中盤を徳島に掌握されている時間が長く、ボールを受けた時に徳島の第一ラインと中盤の選手からのプレッシャーを受ける回数が非常に多かった中でもボールを失うことなく後方と前線を繋げる時間を作ることができており、そこから前線の選手を走らせるようなパスだったり自らゴール前に飛び出す形だったりを作ることができていた。柳やバイスが前線の選手やSBの選手を走らせる対角のフィードを狙っているのは良いが、それがメインになるよりは、中盤を経由させてボールを前進させる形をメインにしていきたいところではある。ロングボールがメインになってしまって結果としてボールが行ったり来たりになって前と後ろが間延びする展開、そうして中盤の頭上をボールが行き交って中盤が試合の流れに埋没してしまうような展開は岡山の本来の戦い方の理想からは外れていくような気がする。

・また4-3-3で中盤を経由した攻撃の構築以上に早いところで見出しておきたいのが、前からの守備を外されてそこからブロックを形成するとなった時に、ズルズルとブロックが下がってしまうのをどこかで止めて、もう一度プレッシャーをかけに行く体制の構築、前で奪い切るか自陣ゴール前で跳ね返すかだけではなく、その中間のミドルゾーンで守る形の構築だろう。ミドルゾーンでなかなかプレッシャーをかけられずに下がりすぎてしまった結果、ゴール前で自分たちよりも先にボールに触られてしまうというシーンが昨季よりもはるかに多く見られているのは、まだ2試合ではあるが気がかりではある。「相手コートでサッカーをする」ためにも、ボールを持つ時持たない時に関わらずミドルゾーンでの安定感の向上は必須課題だろう。

試合情報・ハイライト


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?