2020シーズンを迎えるファジアーノ岡山の編成について考えてみる

 荒れましたねえストーブリーグ。特に目に付いたのが、J1のチームがJ2・J3のチームから選手を引き抜くという現象が多かったことですね。資金規模的にそういう補強をしていかないと上手く立ち回れない大分トリニータはまだ分かるが、昨季のJ1リーグ王者である横浜FMまでそういう補強をするようになっていました。Jリーグでの選手たちのステップアップのテンポがここ数年で急速に上がっていることを強く証明する事案だったのではないでしょうか。

 まあJ2のチームのサポーターとしては、「J1はもっとJ1同士で引き抜き合ってくれよ」「そんな節操ないことしないでさあ」「いや狙いとしては分かるんだけどね」という気持ちであります…やっぱり早く昇格しないとな…

 閑話休題。岡山も契約未更新だった選手たちの更新が明らかになり、加えて背番号も発表されたので、あらかたの編成作業が終わったものだと思います。ここで各ポジションごとに今季の編成についていろいろ考えてみようというのが今回の記事の趣旨です。システムは今季も昨季同様に442、戦い方もそう変わらないだろうとして考えていきます。

 上の2つの記事は昨季の岡山の戦い方として、参考資料になればと思います。
 既存の選手、新加入選手を今のシステムにあてはめてみると、下図のようになりました。総評は最後にするとして、ここから各ポジションごとに考察してみようと思います。

画像1

GK

IN
ポープ・ウィリアム(←川崎よりローン)

OUT
一森純(→G大阪)

 昨季はセービングだけでなく、最後尾からのキックでも貢献度の非常に高かった一森がG大阪に移籍。そんな一森に代わって加入したのは、昨季は大分でプレーしていたポープ・ウィリアム(以下ポープ)。これまでの出場試合数だけで比較すると、一森の穴をポープで埋めることはできていないので、現状ではGKセクションの戦力は前年に比べてダウンしていると言わざるを得ないところ。

 しかしポープ加入のポジティブな面として、「昨季キャリアハイの出場時間を記録した(公式戦6試合出場)」点、「GKに足元のスキルを要求する大分でプレーした」点がある。有馬監督のサッカーは、GKからの展開をある程度大切にしている節があるので、GKとして基本的に求められる「セービング」、「ハイボール対応」などがしっかりしていれば、25歳という年齢、190cm超の体格からも、一森以上の存在感を出せるGKになれるかもしれない。

 1stGKは現時点では実績を考えても金山だろう。元々一森と同等かそれ以上のセービングやハイボール対応の技術を持った選手でもある。そこにポープがどこまで1stGK争いに絡んでくることができるか。椎名が3rdGKとして声を張り上げ政田でケツを叩きつつ、肩の負傷を癒したイキョンテが夏場以降その競争に飛び込んできて、昨季以上に活気のあるGKチームにできるかどうか。

CB

IN
なし

OUT
なし

 退団も無ければ加入もなし。今オフここまでで、一切の無風セクションとなっているCBセクション。戦力的には横ばいだが、今オフの補強ポイントとして、「足の速いCB」というのがあったので、補強しなかったというよりは目当てのタイプを補強できていないというのが現時点での評価としては正しい気がする。

 昨季のパフォーマンスを見る限り、CBの1stチョイスは田中濱田の2枚で決まりだろう。この2人には最終ラインだけでなくチーム全体を統率していく役割も求められそう。2人が健康体のまま固定できるならば全く問題ないが、田中は今季34歳、濱田もケガがちな選手と、どちらもシーズンフル稼働を見込むのは難しい選手である。2人に続く選手が出てこないと昨季終盤の失速の二の舞を演じる恐れは大いにある。

 後を追うのは、膝の大怪我のリハビリから昨季終盤ようやく復帰してきた後藤と、昨季前半戦は田中と主にCBのコンビを組んでいたチェジョンウォン(以下ジョンウォン)か。どちらもスピード不足、細かいスキル不足はあるが「ラインを高く保ち、前線との距離をコンパクトにする」「ボール保持におけるビルドアップの起点をGKとともに担う」スタイルへの適合自体はそれなりにできている印象。
 逆にスタイルの適合に年間通して苦しんでいた感があるのが増田。現状では終盤の対パワープレー要員か。そろそろ出てきてもらわないと困るのが高卒3年目になる阿部。負傷もあったとはいえ、加入当初の鮮烈なパフォーマンスからすると、以降全く公式戦に絡めていないのはチームとしても正直誤算なのではないだろうか。

 というわけで頭数はいるものの、個人的に不安要素が大きいと感じるのがこのCBセクション。ジョンウォンと阿部という若手が田中と濱田を追い抜くことができれば、逆に一気にここが強みになるのだが。

左SB

IN
徳元悠平(←琉球)

OUT
なし

 琉球から徳元が加入。昨季J1を飛び越してロシア1部のチームからのオファーがあったという報道もあった左利きの攻撃的なSBの補強に成功。昨季主に務めていた廣木の更新に加え、純粋に戦力の上積みに成功したポジションの一つである。

 昨季左SBを務めていた廣木は、運動量と1対1の粘り強さ、そしてビルドアップでのポジショニングの勘所の良さは見せたものの、ボールタッチのミスだったり、高い位置でボールを受けてもスムーズにクロスに持っていけなかったり、攻撃面で不満の残るパフォーマンスだったのも事実。

 新加入の徳元には左利きということもあって、高い位置でボールを受けて、そのままクロスに持って行く形が多く作れるようにしたい。また後方からのボール保持型の琉球でプレーしていたところから、サイドでのビルドアップの出口となってそこからのパス供給にも期待したいところ。もちろんSBなので、守備をしっかりやってこそである。コメントを見る限りそこをおろそかにしているわけではなさそうなので一安心。まずは1stチョイスは徳元ということになりそうか。

 高卒3年目になるデューク・カルロスも、J2ではなかなか熾烈なポジション争いになりそうなポジションで難しいところはあるが、そろそろ公式戦に絡む機会を見つけたいところである。同じ攻撃型の徳元から盗めるモノはどんどん盗んでいきたい。

右SB

IN
増谷幸祐(←琉球より完全移籍移行)
下口椎葉(←長野よりローン満了による復帰)

OUT
なし

 夏に琉球からローン移籍してきた増谷の買取に成功。また長野にローンで修行していた下口が戻ってきたことで、契約更新の椋原と合わせてここも純粋に戦力の上積みに成功したポジションと言っていいだろう。

 1stチョイスになるのは、昨季の夏場以降ポジションを確立した増谷か。琉球時代はCBが本職だったが、岡山ではSBとしてサイドでの1対1の守備だけでなく、後方でのボール保持におけるサイドの逃げ場、ビルドアップの出口としても機能。ホーム長崎戦のような機を見たオーバーラップからのクロスという形を今季はもっと増やしたい。

 増谷の後を追いかけるのが椋原というのもチームにとっては何と心強いことか。増谷以上に1対1の守備に堅実性があり、攻守ともに計算の立つ守備型SB。攻撃型と守備型がそれぞれ1枚づついる、左SB同様もしくはそれ以上にレベルの高いポジション争いに下口がどこまで絡んでいけるか。もしかしたら守備のマルチロールとしてCBに加わるのかもしれない。

CH

IN
白井永地(←水戸)
パウリーニョ(←松本)

OUT
武田将平(→甲府へローン)
西村恭史(→清水よりローン満了)

 水戸から白井、松本からパウリーニョが加入。どちらも昨季は所属チームで主力として機能していた選手の引き抜きに成功した形。その代わりに武田将が甲府にローン移籍、西村が清水からのローン満了(そのまま清水に復帰)という形で退団している。契約更新した上田喜山と合わせて戦力としては大幅にアップしたと言っていいポジションだろう。

 この記事を書いている最中に加入が決まったパウリーニョは、J2では言わずと知れた中盤のタックル職人。白井は運動量とポジショニングの良さで、攻守両面でいてほしい時にいてほしいところにいてくれる黒子のような選手。昨季の中盤戦以降、岡山のCHは上田と喜山で固定されており、この2枚に割って入れるクオリティを持ったCHの補強は今オフの補強ポイントの一つであった。白井とパウリーニョの加入はまさにこのポイントに合致すると言える。

 一躍ハイレベルな競争となりそうなCHセクション。現段階での1stチョイスは上田とパウリーニョになるのではないか。パウリーニョが中盤でボールを刈り取り、上田が精度の高い左足で展開していくことで、攻守両局面でミドルゾーンを制圧する形を作ることができれば、有馬監督の考える「アグレッシブ」をピッチで体現できる時間を昨季より増やすことができそうである。

 その後を追う形で、喜山と白井ということになりそう。CHとして新境地を開いた喜山は中盤の底を締めつつボール保持を安定させる役割を担える。またCHだけでなくSB、さらに前線のポジションもこなせるのでチームとしての戦術的な幅を広げることができる存在でもある。水戸時代、有事にはSBをやったことがあるらしい白井も喜山同様の価値を持った選手。もしかしたら有馬監督は白井をSH(バランサー)ポジションとして構想に入れているのかもしれない。

右SH(バランサー)

IN
なし

OUT
久保田和音(→鹿島よりローン満了)

 昨季の前半戦は1stチョイスとして長く試合に出ていた久保田が育成型ローンの満了を迎え退団(未だ去就未定状態)。夏場以降久保田からポジションを奪った関戸と、最終節に右SHとしてスタメン出場したユヨンヒョン(以下ヨンヒョン)が契約更新し、新加入は特になし。

 ここでバランサーと書いたのは、昨季の有馬監督のサッカーでは(主にボール保持時)、右SHは左と比較しても高いポジションを取るというよりは、第3のCHのような役割を担っており、攻撃的な左とのバランスを取っていたように見受けられたためである。

 そんなバランサーセクションの1stチョイスであるが、パウリーニョ加入前は白井がCHに入る形を予想し、関戸がそのまま1stチョイスになると思っていたのだが、CHセクションでも前述したように白井がここのポジションに入る可能性が出てきた。どちらも運動量があり、ボール保持の潤滑油となりつつ、ゴール前に飛び込む形を作ることのできる選手である。

 ヨンヒョンはスキル、フィジカル面はそれなりだが、まだまだインテンシティの高い状態で行方不明になる傾向がある。日々のTRの中で何とかチャンスを見つけたいところ。

左SH(アタッカー)

IN
上門知樹(←琉球)
野口竜彦(←中央大)
山田恭也(←岡山U18)

OUT
仲間隼斗(→柏)
松本健太郎(→いわき)

 ケガに悩まされ続けた松本がいわきへ移籍。そして昨季15ゴールと大ブレイクした仲間が古巣の柏に帰還したことで、大幅な戦力ダウンが懸念された左SH(アタッカー)セクション。しかし仲間移籍の公式リリースが出される2週間以上前に、琉球から上門が加入することを公式にリリース。さらに中央大から野口、岡山U18からの昇格選手として山田が加入。早い段階から仲間のJ1チームへの移籍が取りざたされていたのもあって、強化部が素早く動くことができて戦力の大幅ダウンを避けることに成功したセクションとなった。

 このポジションの1stチョイスはやはり上門ということになりそう。J2初挑戦となった昨季、いきなり14ゴールを挙げた実績は期待大。昨季の琉球はシーズン途中で得点源となっていた鈴木がC大阪に個人昇格、そこから新しい得点源としての期待を一身に背負い、そこから得点を量産したそのメンタルの強さは、昨季の仲間に重なる部分もある。ただ、タイプとしては自らドリブルで打開するというよりは、オフボール時のポジショニングとキック技術の高さで勝負するタイプなので、個人で何とかすることができた仲間とは異なる。左サイドからの攻撃が機能するには、昨季以上にSBやCHの連携を必要とすることになるだろう。

 上門を追うのが、契約更新組となる三村武田拓あたりになるだろうか。昨季の仲間不在時の左SHでのパフォーマンスは両者ともになかなか厳しいものがあった。仲間と比較するとどうしたって厳しいものにならざるを得ないのであるが。2人とも今季は結構なキャリアの正念場になりそうな予感がする。膝のリハビリから完全復活の松木は今季は何とかケガを防いで公式戦に絡みたい。個人的には、FW登録のレオミネイロがこのポジションをやれれば面白い気がするのだが。左からカットインしてシュートというのは得意パターンのはず。

FW

IN
山本大貴(←松本より完全移籍移行)
清水慎太郎(←大宮)

OUT
中野誠也(→磐田よりローン満了)

 東京五輪世代のエース格である小川とともに磐田の期待の星的存在な中野は、やはり磐田にローンバック。しかしそれ以外は、流出の恐れがあったイヨンジェ(以下ヨンジェ)の引き留めに成功し、山本も松本から完全移籍で買い取り。さらに昨季は水戸で8得点を挙げた清水も岡山に出戻るような形で加入。赤嶺ら他のFW陣も軒並み契約更新したことで、戦力アップは間違いないのだが、どちらかと言えば人員整理が必要なレベルで選手がだぶつき気味なポジションとなっている。

 1stチョイスとしてヨンジェは外せない。ペナ内での動き方が向上した昨季は、終盤の失速がありながら18ゴールと自己最多ゴールを大きく更新。有馬体制の軸となる高い位置からのプレッシャーのスイッチ役としても機能し、サイドに流れてのチャンスメイクも精力的にこなせるコリアンエースを軸に今季も前線の組み合わせを考えることになるだろう。

 ヨンジェの相棒としては山本と清水の2人が現時点での最有力候補か。どちらも相手最終ラインの背後を取ってゴール前に飛び込むだけでなく、ヨンジェの負担を軽減する献身的な部分、サイドに流れたり、相手の第二・三ライン間に下りて後方からの縦パスを受けたりしてのチャンスメイクの能力も兼ね備えている選手である。

 今年37歳となる赤嶺はまだまだクロスに対するペナ内での嗅覚は衰えていない。前線の落ち着け役としても機能するので、スポット的起用で上手く生かしたいところ。斎藤はまずはリハビリで負傷を癒すところからになるが、サイドに流れてゴリゴリ運べるタイプというのは実は少ないので、復帰してからはジョーカーとして期待したい。これはレオミネイロも同様である。

 高卒3年目でリーグ戦初ゴールを狙いたい福元と、ハディ・ファイヤッド(以下ハディ)だが、前述した選手たちが多く負傷離脱することがない限り、今季の出場機会は相当限られることになりそう。状況次第によっては他チームへの武者修行もあるかもしれない。

総評

 主軸として活躍していた選手の流出を仲間と一森に留め、多くの主力メンバーを残しつつ、ピンポイントで実績のある選手を補強することができたと言える今オフの岡山。荒れに荒れた今オフのストーブリーグの中で、資金規模を考えてもかなり上手く立ち回ることができたチームの一つと言っていいと思う。特に左SB候補として左利きの徳元を獲得できた点、中盤の潰し役としてパウリーニョを獲得できた点、仲間の流出に備えて上門を獲得できた点については、昨季の試合内容から改善するべきポイントを押さえた補強となっているので、かなり好印象である。

 多くの選手が残留した結果、現状で選手が36名とかなりの大所帯となっているのは、有馬監督の中で「チーム内競争を激化させたい」狙いがあるのだろう。昨季特に前半戦はチャンスを与えられたがそれを掴み切れなかった選手たちにも、今季は簡単にチャンスは与えないよ、という厳しさが伝わる編成になっているように思う。ただ、大所帯のチームマネジメントは一般的に難しいとされている。チャンスを与えられないと不満を訴えるようなタイプの選手を取ってくるようなチームではないが、表には出なくても中に溜まった不満がチーム内の雰囲気を悪くする可能性はあるので、そこをどうコントロールするのかは注目だろう。

 有馬監督の言う「継続と進化」を体現する編成でスタートを切る2020シーズンの岡山。大目標はやはり「J1昇格」ということになるだろう。良補強をしているチーム、そもそも戦力が整っているチーム、イヤらしい戦術を取ってくるチームなど、今季のJ2も魑魅魍魎の跋扈するリーグとなるだろうが、幸いなことに昨季の柏のような「圧倒的」昇格候補はいない。チームとしてやるべきことをきちんとできれば、岡山は十分に昇格を狙える陣容になっていると思う。期待したい。





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