展望企画~ファジアーノ岡山の2021シーズンを考える~

 早いもので2021年の明治安田生命Jリーグの開幕もあと一週間となりました。我らがファジアーノ岡山の13年目の戦うステージとなるJ2リーグは、J1参入PO(またの名をJ2チームに対する罰ゲーム)が今季もなく、J1リーグへの昇格枠は1位と2位に与えられる2枠の自動昇格のみとなっております。そして昨季のイレギュラーなシーズンの代償として、昨季は免除されていたJ3リーグへの降格枠が19位から22位までの4枠となっております。こうやって今季のレギュレーションを書いているだけで、おいおいちょっとJ2さんに厳しすぎないか、と不平不満の愚痴がこぼれてくるところですが、与えられた条件で勝負するしかないのです。

 J2というそもそも戦力差があまり無いリーグで、J1からの降格チームがなかったことは、さらにリーグの混迷模様を産み出すことが予想され、加えて「上がりにくく、落ちやすい」レギュレーションによって、「鬼(J1からの降格チーム)の居ぬ間にこれ幸い」と狭き門をくぐろうと背伸びしたチームの足を、降格枠が増えたことでどうにか残留のために勝ち点を稼いでいきたいチームがあの手この手で引っ張っていく展開は容易に予想できます。去年のこの時期にも書いた気がしますが、おそらく昨季以上に魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)するであろう2021シーズンのJ2リーグを、有馬賢二監督体制3シーズン目となるファジアーノ岡山はどう戦っていくのか。今回の記事ではそこを書いていきたいと思います。

 今季の編成については、下の記事を読んでもらえると幸いです。

チーム全体の展望(あくまでも個人的な見解です)

 あくまでも個人的な見解であることを承知していただきたいのだが、今季のファジアーノ岡山は「昇格を第一目標にするチームではない」と思っている。本来ならば、2シーズン続けて(資金規模的に)絶対的な本命がいない今こそ、一度J1昇格という経験を積んでおきたいところだったのだが、昨年から世界的に猛威を振るっている疫病がもたらした経済的なダメージはなかなか大きく(⇒特に経済面ではこれから遅れてさらに打撃を与えることも予想される)、資金規模的に中位クラスのチームが勝負をかけるのは難しくなってしまったと言える。「昇格を目指すために乗り込まないといけないバスは一度目の前から走り去ってしまった」というべきか。

 だからこそ、次にやってくるであろうバス、言い換えれば「昇格を目指すチャンス」に乗り遅れないようにするためにも立ち止まっているわけにはいかず、クラブとしてもチームとしても地力を蓄える必要がある。

 上に挙げた北川真也社長、原靖強化部長のコメントも踏まえた上で、そこで個人的に考えてみた今季のポイントがこちら。

「今改めて、岡山らしさとは何かを定義する」
「岡山らしいサッカーのブランディング」

 有馬監督は今季のテーマとして「融合」を挙げていたのだが、その言葉の意味はもちろん「既存の選手と今季の新加入選手との組み合わせを上手く機能させる」ということなのだと思う。ただ、昨季のオフシーズンから今季のプレシーズンにかけてことさらに「岡山らしさ」という言葉が出てくるようになったことから深読みしてみると、この「融合」というのは「球際・ハードワーク・最後まで諦めずにプレーする」という手塚氏、影山氏、長澤氏が代々継ぎ足してきた「心構え、メンタリティとしての岡山らしさ」に、ここ2シーズンで有馬監督がやろうとしている、今までの岡山があまり重要視してこなかった「高い位置からのプレッシングによる守備」「ボールを保持して前進させていく」プレーを「融合」させることで、「岡山らしいサッカーとはこれだ!というのを内外にブランディングしたい」という意味も含まれているのではないかと推測してみたのである。

 なぜそういうことをしようとしているのではないかと考えたのかというと、大きな理由としては「岡山のサッカーを定義することで選手獲得で優位に立ちたい」「岡山のサッカーを定義することで選手獲得を効率的に、効果的に進められる」というところがあるのではないだろうか。それができるようになれば「獲得→移籍による流出→獲得」というサイクルを止めずに行えるようになる。資金面で勝てなければ魅力で勝負だ、的な。

 しかしながら、「岡山らしいサッカーの定義」と言っても、その実現に向けてのハードルはかなり高い。なぜなら、前述した有馬監督の2シーズンでやろうとしていることである「高い位置からのプレッシングによる守備」「ボールを保持して前進させていく」プレーというのは、それをやろうとしている意図は明確に伝わるのだが、ハッキリとそれができているとは言い難いからである。それができている時間は確かにあるが、まだまだ時間的に短すぎる、とも言える。その時間を長くするための今季の補強戦略であったと思うので、新加入選手には一刻も早く、そして多くの選手が戦力化してもらいたいところである。

数字的なノルマ:勝ち点50を確保しての残留(18位以内)
数字的な目標:10位以内

 そのためにはできるだけ早い段階で勝ち点50を確保して安全圏を確保しておきたいところ。残留に汲々とするような展開になると、どうしても勝ち点を稼ぐことがメインになる戦い方になってしまうので避けたいところである。ここまで個人的なチーム全体の展望を書いたので、ここからは今季のプレー面におけるチェックポイントをいくつか見ていきたいと思う。

Check 1:年間60得点のエビデンスの構築

 有馬監督は今季の目標として「年間で60得点を目指す」と言っている。この数字は1試合平均およそ1.5得点。岡山の歴代の数字から見ても、最多得点は昇格PO決勝にまで進んだ2016シーズンの58得点が最多である。昨季37得点、総得点数リーグワースト2位のチームにとっては途方もなく高いハードルであるが、この数字は「内外に岡山らしいサッカーの定義付けをさせること」において実に理に適った数字だなと思ったものである。

 ではどうやってこの目標を達成させていくのか。岡山の選手を見ると、前線に預けて一人で何とかしてくれるオルンガのような選手がいるわけではないので、守って少ないチャンスを少人数のカウンターで確実にモノにする戦い方、攻撃方法をメインにしていては目標達成はほぼ不可能である。そうなれば、分母を増やす、つまりは決定機の数そのものを増やすこと。そのためにはある程度攻撃に人数をかける(⇒ラスト1/3のエリアに侵入する人数をかける)必要が出てくると思うが、ただ闇雲に攻撃に人数をかけるだけだと、自分たちの使いたいスペースを自分たちで食い潰して全く効果的な攻めにならず、またボールを失った後に広大なスペースを相手に明け渡すことにも繋がる。そうなると60得点を達成する前に60失点を喫することにもなりかねない。そうなると、敵陣への人数のかけ方、ゴール前への侵入のさせ方の根拠、明確な仕組み作りが必須になってくると思われる。

 昨季と大きくメカニズムが変わらないとすれば、SBが大外のポジションを取ることが予想されるので、内側に絞ったポジショニングをするSHとFWの4枚の選手の動きをどう整理して、そこにSBとかCHとかがどのようにその動きに絡んでいくかを整理するのかが、ボールを敵陣まで運んだ後の動きとして重要になってくる。有馬監督は「前の選手たちの流動性」と呼んでいるが、具体的には下記のような形が代表的。

①サイドの奥にFWが1枚流れて相手最終ラインを引っ張り出し、サイド奥で一度起点になろうとする動きをすれば、その時にはSH(もしくは高い位置を取ったSB)がペナ内に入り込む動きを付ける

②FWが1枚ポジションを下ろして後方からのボールを受けようとすれば、ボールサイドのSHはそのFWのポストプレーに前向きにボールを受ける動きを起こし、もう1枚のFWが相手最終ラインの背後を取りに行く動きを付ける

③逆にSHがサイド奥に流れる動きを付けた時には、SBとの動きで大外を攻略し、クロスにまで持って行く形を作る。その時にFWは2枚、逆サイドのSHもペナ内でクロスをもらえる動きを付けておく

 今季のメンバーを考えると、攻撃のメインは上門だったり宮崎だったりのSH(2列目のアタッカー的な選手)になると予想される。確かに上門や宮崎、木村といったSHの選手が2ケタ得点だったり2ケタアシストだったりができるようでないと年間60得点というのは難しい目標になる。そうなるとサイド奥に流れて高い位置で起点を作ったり、列を下ろしてポストプレーを行ったり、ダミーの背後への抜け出しでライン間にスペースを作ったりするような、「SHがより相手にとって危険なスペースで仕事ができるようにするスペースメイク」「SBやCHの攻撃参加を促せる起点作り」が前線の選手にはより強く求められるのではないだろうか。そうして全体で敵陣に押し込む形を作って、そこから動き直してペナ内に入り、クロスだったりこぼれ球だったりに合わせるというようなアクションを起こしていくことが求められそうである。

 昨季の得点は数少なかったが、それでも理想的な形はいくつか見られていた。「前線の流動性」という意味では、ホーム大宮戦の白井の2点目が結果的に一番理想的な形だったと思う。上門が左でボールを受けると、齊藤が下りてきてポストプレーでワンツー、山本の奥に流れる動きに合わせて逆サイドの右SHだった白井がペナ内に侵入することでフリーの形を作って得点した形。上門としては山本に当てる意図だったパスがズレたのが上手い形で白井に合った、偶発的な形だったかもしれないが、こういう形を意識的に増やすことができれば決定機を増やすことは難しくないと思う。

Check2:ボール保持→敵陣にボールを運ぶ形の再現性

 敵陣に入る前には、「どうやって敵陣にボールを運んでいくか」という部分が当然成立しなければならない。岡山が得点数を増やすために敵陣に流動性を持って、ある程度人数をかけて攻撃していきたいということを前提として話を進めていくと、低い位置からボールを蹴り込んで走り出し、そこで前線の選手が何秒間もキープして敵陣に選手が到達する時間を稼ぐというやり方は(ないわけではないが)、岡山の前線の選手たちのキャラクター、能力から見ても現実的ではない。そうなると最終ライン、もしくはGKが起点となってボールを運んでいく形を整理していく必要があると言える。

 これは(2019シーズンも取り組んでいなかったわけではないが)昨季になって本腰を入れて取り組み出したプレーであるのだが、昨季上手くやれていたかと言われれば残念ながらそうではなかったというのが正直なところである。後方でただボールを動かすことが目的と化してしまうようなシーンが散見され、「相手の守備を引き付けて背後にスペースを作り出し、味方が前を向ける状態で前方にボールを届ける」という本来の目的を達成できたシーンは試行回数に比べて非常に少なかったと言わざるを得ない。

 GK-CB-CHの5枚でボールを動かして、できるだけ1/3のラインは5枚だけでクリアできるようにしたい。それでもボールサイドのSBが下りてくるのは仕方ないが、SHが下り過ぎるのは結果として前線を孤立させることになってしまうので避けたいところである。最初のボール保持で誰かが前を向けた状態を作り、ビルドアップの出口として、大外のSBだったり内側にいるSHだったりにボールを付けて展開、そこからは前述したような前線の動きを増やして敵陣に侵入していく形を作っていけるかどうかがポイントになってくると思われる。こういう形を作っていければ、前線を背後に走らせるようなダイレクトな形も効いてくるようになる。

 ここでのポイントは、個々の問題になってくる部分でもあるのだが、イージーなボールロストをどれだけ避けられるか。奪ったボール、マイボールに確保したボールを、前の選手が見えたからといって孤立した状態の選手に慌てて前方に付けたり、シンプルなタッチミスをしたりしてすぐにボールを失ってしまうのはできる限り減らしていきたいところである。これまでの話と矛盾するようだが、繋いでいくのが難しい場面では大きく蹴り出してクリアする、まさに盤面を一度クリアにするような判断も求められる気がする。

Check3:プレスのメリハリをどうつけるか

 有馬監督体制になってからの1丁目1番地と言えるのが、「高い位置からのプレッシャー」である。昨季は2019シーズン以上に、後方からボールを動かしていこうとする相手に対してもSHやCHといった中盤の選手の列を上げてボールを動かそうとする相手の配置と噛み合わせるような形でプレッシャーを高い位置から仕掛けていくシーンが多く見られるようになったのだが、上手くハマるシーンもそれなりにあったが、その形にこだわりすぎるあまりに相手のボールホルダーへの規制がハマらない状態(⇒前から行ってもパスコースを限定できない状態)でもプレッシャーに行ってしまうことで、後方の選手たちの縦横のスライドが間に合わずに相手に前進されるスペースを与えてしまうような場面も見られていた。

 そこでポイントになるのが、後方の選手、特にCBやCHからのコーチングの連動。今はポジションを前に動かしても前から行くべきなのか、逆に4-4-2で一度セットするべきなのか、プレッシャーに向かうタイミングをチーム内で上手く共有させることで、第一ラインから最終ラインまでの3ラインを縦横にコンパクトにして相手ボールホルダーに効果的な、強度の高いプレッシャーをかける回数を増やせるようにしたいところである。特に濱田や白井、パウリーニョあたりの選手はこのコーチングが強く求められるところである。

 もうひとつ重要になってくるのが、4-4-2のブロックを組んだときのミドルゾーン(特に自陣)でのプレッシャーの強度である。昨季は高い位置で捕まえられるときは良いのだが、自陣でボールを保持されたときにどうしてもボールホルダーへのプレッシャーに行ききれないで下がってしまうシーンが見られていた。ボールサイドへのプレッシャーに行くための、ボールを横に展開されたときの横スライドだったり、ライン間でボールを受けようとする動きに対しての前へのプレス・プレスバックだったりを円滑に進めるためには、ここでも前からのプレッシャーのときと同様に、一度4-4-2でセットしたときに第一ラインの2枚がどうやって相手ボールの頭を押さえてパスコースを限定させるかが重要になってくる。ボールを取りきれる組み合わせになるであろう2枚のCHが、ボールを持たない展開でも上手くミドルゾーンを支配できるかは大きなポイントになるだろう。

 ここまで書いてきたが、4-4-2の守備においてとても重要になってくるのがSHの機能性である。行く・行かないのタイミングやプレスバックの強度など、守備の個人戦術が飛躍的に向上した上門、柳下監督や長谷川監督といった、毛色は違うが強度の高い守備を求める監督のもとでプレーしてきた宮崎、甲南大でソリッドな4-4-2を仕込まれた木村など、守備面でもそれなりに計算できるSHは十分に揃っている気はするが・・・。

現状のメンバー序列を考える

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 カッコ内の選手は負傷によって恐らく開幕に間に合わないと思われる選手。今季も1-4-4-2がベースになるだろうが、宮崎が中央に入る形、1-4-2-3-1も試されている模様である。そうなると、やはり前線はスペースメイクだったり起点になる動きだったりでSHの動き出しをサポートできるタスクを一番こなせる齊藤が現時点では最有力になるのかなと予想。ザッケローニの日本代表初期から中期までの前田遼一みたいな。ただもしもイヨンジェがこれらのタスクをこなせるとなった場合は、最も火力のある攻撃ができるようになるのではないかと期待。

    これを見れば分かるように、チームとしてもより両サイドの攻撃性(⇒左サイドの沖縄ラインは不動として、特に右サイドでその傾向が顕著)を高めていきたい組み合わせを試行しているのがうかがえるが、この試行の成否はやはりCB-CHのセンターラインが、ボール保持・非保持に関わらずどちらの局面でもどう安定させるかがポイントになるだろう。

    一番読めないのがGK。ボールを持つことを考えて一応梅田を上に配置しているが、正直金山が1stになっても全くおかしくないと思っている。

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