拝啓、木山隆之新監督〜ファジアーノ岡山2022シーズンプレビューに代えて〜

 早いもので、2022シーズン明治安田生命J2リーグの開幕までもう1週間を切りました。ここまでは大きな怪我人やアクシデントによる離脱を最小限に抑えることができており、非常に良いプレシーズンを送ることができているのではないでしょうか。さて、2022シーズンのファジアーノ岡山は3年にわたる有馬賢二前監督の体制に終わりを告げて、木山隆之氏を新たな監督として迎えることとなりました。木山監督はこれまでに千葉、愛媛、山形と3つのJ2チームをJ1昇格プレーオフ圏内に入れた確かな実績のある監督です。これまでの岡山の監督とは明らかに一線を画す、既に十分なJ2での経験を積んだ監督を選んだこと、そして外国籍選手の獲得を中心とした選手補強における動きからも、「J1リーグへの昇格」をクラブ全体で意識した準備はこれまでのプレシーズンに無かったことと思います。

 そんなわけで今回の記事は、2022シーズンに向かうファジアーノ岡山のプレビューというか個人的展望というか妄想というか、ダラダラと書いていきたいと思います。


木山新監督が新システムに着手する意図を考える

 木山監督は今シーズンが始まるにあたって、1-4-3-3というフォーメーション(以下4-3-3)でまずは戦っていくということを公言した。この4-3-3というフォーメーションはもちろん有馬前監督体制での4-4-2というフォーメーションからの変化となるわけだが、ファジアーノ岡山のクラブの歴史(J2参入後)から見ても影山雅永元監督の初年度(2010シーズン)に少し導入した程度であり、岡山にとってほとんど初めてのフォーメーションと言って良い。では、なぜ今季は4-3-3で戦っていこうとしているのか、いくつか考察というか妄想をしていきたい。

➀相手陣内でのチームプレーを増やしたい

 4-3-3というフォーメーションは基本的にCFが1枚とWGが2枚の、横幅を取ってワイドに前線に3枚置くことができる形である(⇒なおWGが中央に絞る形がないわけではない。いわゆるクリスマスツリーというやつである)。自分たちの攻撃時、ボールを持っている時にピッチを広く使っていくことで相手の守備のブロックを広げていき、ボールを持たない時の基本的な考えである「コンパクトに守る形」を出させないようにする。コンパクトに守れないと前からのプレッシャーをかけにくくなることに繋がるので、そうなることでより効果的にボールを前進させることができるようになる。ここにボールを失った直後の近いエリアの選手(できれば複数)でのカウンタープレス、いわゆる即時奪回の守備を複合させることで自分たちが相手陣内でプレーする回数、時間を増やす展開に繋げていきたいというのが大戦略として考えられているのではないかと予想する。

 実際に木山監督、そして選手からも「相手陣内でプレーする回数を増やしたい」「攻守でよりアクティブに」という趣旨のコメントがいくつも出ており、4-3-3でチーム全体で敵陣に入っていく形、押し込んでいく形は今季の岡山のグランドデザインとして既にある程度共有されてはいるのだろう。

②木山監督の意思表示、ある種の野望

 もう一つの意図として考えられる、というか勝手に予想するのは木山監督自身の意思表示、監督としての一つの大きな挑戦なのではないかということである。木山監督のこれまでのキャリアの中である程度事実に基づいて言われていることとして特に挙げられているのが、「相手の特徴を消すのが上手い」「リアクション型」「自分たち主導でプレーさせるのが上手くない」という旨のコメントである。個人的にはこれらは言い換えればチームの置かれた現実を見据えてプレーさせることができるということで、それ自体は良いことだと思っているのだが、事実として木山監督のチームは昇格POに進めることはできてもそこから先、つまりJ1に昇格させたことは一度も無い。

 そこで木山監督の頭の中を勝手に妄想させてもらうと、「相手ありきのサッカーだけでは限界がある」「自分たちが敵陣で主体的にプレーするシステムを作ることができないと難しい」ということから、まず外側の縛りとして4-3-3という相手ありきのリアクションで対応させることが難しいフォーメーションを導入したという一つの妄想ストーリーを組み立ててみた。

 もう一つは4-3-3という形が単純に木山監督が挑戦してみたいシステムであるということ。その根拠としては仙台の監督時、J2への降格が無いシーズン、つまり自分のやりたいことをある程度結果度外視でやれるということでもあるシーズンに最初に着手したのが4-3-3であったこと、山形の監督時に一度4-3-3に着手してそこで大きな手応えがあったらしいこと、そしてクロップのリヴァプールを例に挙げていることが多いということである。本当に好きなのはベンゲル時代のアーセナルらしいが。そこに憧れを持ちつつも今のトレンドを外そうとしていないのは、木山監督のバランス感覚が良いと思わせる一つのエピソードではある。閑話休題。

新システムが上手く行くかどうかの個人的ポイント

 そんなわけで2022シーズンのファジアーノ岡山はまず4-3-3でスタートしていくということであるが、果たして岡山はこのフォーメーション、システムを上手く運用させることができるのか。個人的に考えるポイントを挙げていきたいと思う。

➀WGプレーヤーが機能するか否か

 個人的に4-3-3というフォーメーションは、大外でプレーする選手、主にWGの選手が機能しないと導入する意味がないと思っている。ここで言う「機能」というのは、一つは大外にポジショニングすることで相手に意識させられる存在であるかどうか(⇒相手のブロックを横に広げることができるかどうか)ということ。大外にポジショニングした選手がそこでボールを受けることが相手にとって危険であると思わせることができないと、結局「中央だけ固めていれば良い」ということになってしまい、敵陣でプレーすることができても効果的なプレーに繋がらず、逆に危険なボールの失い方をしてカウンターを受けることに繋がりかねない。大外でボールを持ってそこからカットインなり縦突破なり、できれば単独で仕掛けることができる形を作りつつ、大外でトライアングル(SB-IH-WG)を作りやすい4-3-3のフォーメーションの利点を生かした攻撃のシステムを構築することができれば良い。

 そしてもう一つは、横幅を取りつつそこから相手の最終ラインの背後に抜け出すオフボールでのアクションを起こすことができるかどうかということである。相手がボールを持たない時にコンパクトにプレーさせないためにも、横に広げてかつそこから背後を伺う動きを起こすことができれば、相手の最終ラインを押し下げて結果として相手の全体のブロックを縦に広げる展開を作ることができるようにもなるということである。

②最終ラインからのビルドアップ、ボール出し

 4-3-3自体がピッチ全体をワイドに使っていきやすいフォーメーションであったとしても、どうやってボールを前進させていくかが決まっていなければその利点を生かすことはできない。岡山がボールを前進させていく手段として、中盤の3枚で起用されるであろう選手たちのサイズやタイプを考えても、CFの選手にまずはボールを放り込んでキープしてもらうシステムがメインになってしまうと厳しいのは否めないので、CBとGKを始点に後方から地上戦でビルドアップしてボールを運んでいくシステムを導入していくことがある程度予想される。

 そうなると重要になってくるのが、まずはGK-2CB-1アンカーの後方の4枚による初動のボール保持を安定させることができるか、そこから大外のSBを経由させつつ一段前にポジショニングするであろう内側のIHに通していくボール出しの回数を増やすことができるかということになる。CBやアンカーからCFやWGにダイレクトに展開させる形が全く無いとそれはそれで困ることになるが、それ一辺倒になってしまうと全体が必要以上に縦に間延びしてしまって、全体で敵陣に入っていく形とは矛盾することになってしまう。

 まずは後方の4枚でボールを動かしていきSBやIHをビルドアップの出口にして、そこから大外のWGへの展開、CFに当てたり背後に走らせたりする展開を増やすビルドアップ、ボール出しのシステムを作ることができるかどうか。それが上手く行けば危険なボールの失い方をする回数が減り、結果として相手を押し込んだ時に相手ゴール前に侵入する選手の枚数を増やすことにも繋がり、より良質な得点のチャンスを作ることにも繋がる。

③前プレありきにならない守備システムの構築

 岡山のプレシーズンでの取り組みを見ると、どうやら4-3-3の形のまま守ること、そのためにも前線の3枚が前にかかることでプレス守備のスイッチになることを強調させて守備に取り組んでいるようである。インスパイアしているようであろうクロップのリヴァプールも確かに前線からのプレッシャーが特徴のチームではあるが、個人的には前線からガンガン行くことありきで守備システムを構築するのは懐疑的、というかシーズンを持たせることを考えると危険だと思っている。

 4-3-3というフォーメーションは過去3シーズンに渡ってやってきた4-4-2とは違ってボールを持たない時に全体のブロックのバランスを崩してしまいやすいフォーメーションである。前線の3枚がガンガンプレッシャーに行って相手からボールを取りきることができれば良いが、それが上手く行かなかった場合に中盤と最終ラインにかかるであろう空いたスペースの負荷をどうカバーさせるのか。

 しっかりとしたバランス感覚を持っている木山監督だけに、前線からのハイプレスありきにならない守備システムを考えているとは思うが、第一ラインの3枚がどうやって相手のビルドアップのパスコースを消してそこから中盤-最終ラインに連動させてボールを回収するシステム、できれば敵陣に近いエリアでボールを回収するシステムを作ることができるかどうか。有馬前監督の4-4-2以上に第一ライン~最終ラインの縦横のコンパクト感だったりプレス&カバーの連動だったりが問われることになるだろう。

 それでもフォーメーションの都合上最終ラインやアンカーが晒されてしまうことはどうしても増えてしまうことが予想されるので、そこで相手に競り負けないだけの個々の強さも求められることとなるだろう。

ポジション予想

 ここまでを踏まえての各選手のポジション予想はこちら。

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 目玉はやはり2CBとアンカー起用の本山だろう。特に本山がんばれ、超がんばれ。

最後に

 ここまで色々と書いてきたが、最初に書いたようにクラブ、監督、そして選手の「今季への決意、本気度」は十分に伝わるようなプレシーズンになっているというのは間違いないです。特に木山隆之新監督、ファジアーノ岡山のファン、サポーター、見守っている人たちはよっぽどのことがない限り今季の挑戦を肯定的に見届け、サポートしていくと思うので、存分にやりたいことをやってください。クラブもチームも、これまでを超えていきましょう。

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