水曜日の好ゲーム~J2第26節 ファジアーノ岡山 VS 徳島ヴォルティス~

スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

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徳島からボールを取り上げたい~非保持時~

 第4クール目の5連戦の2戦目。中2日の岡山も中3日の徳島も好内容で勝利した流れを大切にするためか、お互いに前節からの選手の入れ替えは最小限に留めたスタメン。アウェーだろうと関係なく、いつも通り後方からボールを持ってゲームをコントロールしようとする徳島に対して、岡山も第一ラインの赤嶺と山本からプレッシャーをかけに行く、ボール保持を行う相手へのいつも通りの振る舞いでスタートした立ち上がりとなった。

 前半の立ち上がりから飲水タイムあたりまでは、ボールを持とうとする徳島の最終ライン(石井と内田)と上福元に、岡山の赤嶺と山本が積極的に詰めに行くことが多かった。前半の飲水タイムまでの徳島のボール保持は、積極的に高い位置から仕掛けてくる岡山のプレッシャーに対してサイドラインに追い込まれて蹴り出してしまうというシーンも何度か見られていた。この時間帯での徳島のボール保持は様子見のポジションを取っているようで、CH(岩尾や鈴木)はどちらか1枚が最終ラインに入ることもあれば2枚とも前に残っていることもあったり、またトップ下というよりはフリーマンの渡井も最終ライン近くまで下りてきたりしていた。

 この試合での岡山の第一ラインからの守備は、相手からできるだけボールを取り上げるために積極的ながらも、かなり細心の注意を払っていたように思う。特に意識していたと思われるのが以下の3点。まずは、徳島に思い通りにボールを運ばれないようにするために、4-4-2のブロックを敷く場合でもできるだけ高い位置で最終ラインを設定する。次に、4-4-2の3ラインの各ライン間で徳島の選手(特に渡井とかハーフレーンに絞り気味になっていた西谷や杉森あたり)にボールを受けられる→前を向いてプレーされないように、各ライン間の距離を縦横ともにコンパクトにする。最後に、高い位置でプレッシャーをかけに行く場合はサイドチェンジなどでピッチを広く使った展開を避けるために、相手のボールの動きを同一サイドに制限するようにする(外→外で運ばれた場合は横スライドで密度を高めて対抗する)。

 そして岡山が最も強調していたと思われるのが、徳島のコンダクターである岩尾をできるだけ試合から締め出すこと。岩尾に前を向かせないように、自由な展開を許すようなスペースを与えないように、岡山が高い位置からプレッシャーに行く場合でも、第一ラインの赤嶺と山本が岩尾へのケアをかなり意識しながらプレッシャーに向かっており、第一ラインが2枚とも高い位置にプレッシャーに行った場合には中盤の選手がチェックに行くようにしていた。岩尾も自分への警戒意識が高いことを十分認識しているので、わざと低い位置まで意識的に下りたり、逆に高いポジションを取ったりして岡山の警戒意識を逆用しようとしていたのが駆け引きとして面白かった。

 前半の徳島のボール保持は、飲水タイム明けから少し形を変えてきたように見えた。立ち上がりからいろいろとCHのポジショニングを試しているようだったが、基本的に鈴木が下りての3バック化で固定、そしてフリーマンの渡井が岩尾と同じ高さにポジショニング。また後方から内田や石井が運ぶドリブルを増やすようにしたことで、岡山の高い位置からのプレッシャーを牽制することに成功した。

 一度高い位置でのプレッシャーを諦めたときの岡山は、4-4-2のブロックを設定し、前述のように中央のスペースを3ラインで閉じて守るようにしていた。徳島はなかなか中央を経由してのサイドチェンジが行えなかったので、岡山の最終ラインを押し下げ切れてはいなかったが、それならばサイドから渡井やSH(西谷や杉森)、高い位置を取ったSB(ジエゴや岸本)のドリブルでボールを運び、そこから大外~ハーフレーンを使っての崩しを見せていた。

 徳島の崩しはシャドー化したSHとSBがレーンチェンジを使いつつサイドの高い位置を取り、そこに渡井が絡んできてペナ角から崩していく形がメイン。ニアゾーンを取ってからの折り返しには必ず逆サイドの大外の選手が飛び込むようにしており、ペナルティエリア周辺を広く、大きく使った崩しを見せていく徳島だった。自陣に運ばれたときの岡山は簡単に飛び込んでドリブルで剥がされないように、我慢強く複数で対応してできるだけ自陣深くから遠ざけるようにしていた。徳島がサイドチェンジをあまり使ってこなかったのは、その点(複数で対応できる)では大きかった気がする。15分に一度右サイドを西谷と渡井で切り崩されて、逆サイドの大外の岸本に飛び込まれる形を作られたが、ここはポープのファインセーブで何とか凌いだ。

徳島からボールを取り上げたい~保持時~

 ここまで徳島のボール保持に対する岡山を書いてきたが、前半から岡山は全くボールを持つことができなかったわけではない。むしろ戦前の想定からすると、長い時間ボールを持つことができていた方であった。ボール保持を得意とする相手に簡単にボールを渡しては、主導権を取られたまま取り返せなくなるので、この試合の岡山は前節同様に濱田と後藤のCB、上田と白井のCHの間でボールをできるだけ落ち着かせようとしていた。ポープまでボールを下げる形になっても、敵陣遠くへ蹴っ飛ばすというよりはロングボールになってもできるだけ味方に付けようとする選択が多かった。

 ボールを落ち着けようとしていたのは、縦パスを入れられそうな場面でも無理に中央の縦に入れようとせず、椋原や徳元を使ってサイドで起点を作ろうとする選択が多かったことからも明らかだったと思う。このとき、前線の赤嶺や山本はサイドに流れてボールを引き出し、収めて時間を作る役割を精力的にこなしていた。岡山はサイドからボールを運んで、一度詰まったら後方に戻して逆サイドに展開し直す形を繰り返し行っていた。

 CB-CH間で我慢強くボールを保持して自分たちがボールを持つ時間を長くしたり、前線がサイドに流れてキープしたりすることで、岡山は全体を押し上げる時間を作ろうとしていた。この時間を作れたときには、岡山はSBの椋原や徳元を大外の高い位置にポジショニングさせることができ、そこからSH(関戸と上門)と連携してのクロスやペナ角からの白井のクロスに前線が合わせる形、またはミドルシュートで攻撃を完結させようとしていた。ただセットプレーを獲得する回数自体は多くなく、ゴールを脅かす展開もそこまで多くは作れていなかった。

 徳島からボールを取り上げようとする岡山の狙いが立ち上がりからある程度上手くいっていたからなのか、飲水タイムまではボールの保持率は五分五分だった。しかし飲水タイム明けからは、前述した徳島のボール保持の形の変更もあって徳島のボール保持時間が長くなる展開に。それでも前半の徳島の決定機自体は15分の岸本のシュートくらい。どちらも試合をコントロールしているとも言えるが、どちらのペースでもないとも言える展開で前半を折り返す。

鳴門の渦潮に抗う岡山

 岡山は赤嶺に代えて斎藤、徳島も西谷に代えて河田を投入。後半開始から両チームとも最初の交代カードを切ってきた。岡山はシステムを変えずにそのまま入ったが、徳島は垣田と河田の2トップに渡井と杉森がSHに入る4-4-2にシステム変更を行って後半を戦うことになった。

 後半の徳島は、最終ライン3枚+岩尾の4枚が主なビルドアップ隊として、前線2枚とSH2枚、SBも高い位置を取って6枚で岡山の中盤~最終ラインの間のスペース、最終ラインの背後のスペースをうかがう形を取るようになっていた。徳島としては、前半から行っていたサイドからボールを運んでの崩しだけでなく、ゴール前の人数を増やしてシンプルに背後を狙う形も織り交ぜることで攻撃のギアチェンジを図り、岡山を押し込もうとしていた。

 後半になっての徳島のシステム変更によって岡山の非保持時の振る舞いは、前半以上に慎重な対応を迫られることになった。中盤や最終ラインの選手も、なかなか自分たちの背後をうかがうポジショニングを取る徳島の前線やSHを無視して前に出るわけにはいかず、4-4-2の陣形を維持。そのため斎藤と山本の第一ラインも前半のように徳島の最終ラインや上福元を追いかけるのではなく、自分たちの背後にいることの多かった岩尾を意識しながらの中間ポジションでステイする対応が多くなっていた。

 ただ全く奪いに行かないというわけではなく、後半の岡山が前がかりになる、ボールを奪いに動くスイッチは、徳島の前にいる選手(⇒前線やSHの選手)がボールがなかなか来ないことに焦れてポジションを下りてきたとき。こうなったときには中盤や最終ラインの選手たちが縦にスライド、前線の選手とサンドイッチすることで一気にボール周りの密度を高めて取りきろうとしていた。このように後半になっての主な展開は、後方でボールを持つことで岡山のプレッシャーを引き出して背後のスペースを広げたい徳島と、前の選手がポジションを下りてきてミドルゾーンでのボール奪取のためのスイッチを入れたい岡山との、徳島陣内~ミドルゾーンでの我慢比べの様相を呈していた。

 後半立ち上がりから15~20分前後は徳島のシステム変更が奇襲のように岡山に刺さっていた。ボールを運ばれたときの岡山の自陣での対応は相手がサイドからボールを運んでの崩しで来るのか、クロスなのかで曖昧な対応になることが多くなり単純なクリアになることが増えていった。また徳島が前に人数をかけて即時奪回のプレッシャーをより強くかけることができるようになったことで、岡山はせっかく回収したボールをすぐに失ってしまう悪循環にハマりかけていた。この時間帯で徳島は岸本が都合3回の決定機を迎えていた。どれか一つでも決まっていたらどうなっていたか分からないが、いずれもポープのファインセーブで難を逃れた岡山であった。

 65分を過ぎた辺りからは、岡山もボールを持ったときに簡単にボールを相手に渡すことがなくなり、ボール保持で落ち着かせる時間が増えて、全体を押し上げる形を徐々に取り戻していった。ボールを持ったときの岡山は前半同様に岡山は上田や途中から入ったパウリーニョ、白井からSBに展開して大外に広げたり、サイドに人数をかけての攻めで打開を図ろうとしていたが、ボールを持たないときの徳島の4-4-2は非常にラインをコンパクトにしており、なかなか効果的な崩しはできていなかった。それでも相手が流れを引っ張ろうとしたときに、それに抗えずに負けるのではなく逆に引っ張り返そうとする振るまいができていたのは、岡山としては大きな進歩と言えるだろう。

 完全に膠着した展開になったときにスコアが動くとしたら、それはセットプレー絡みであることが多い気がする。この試合もまさにそうで、79分、岩尾のFKからディフレクションが続いたこぼれ球を河田が胸トラップからファーサイドにボレーで叩き込んで徳島が先制した。マークが遅れたといえばそうだが、あれだけピンボールが続いて反応しろというのは少し酷な気がする。これは河田のシュートを褒めるべきだろう。

 良いゲームをしていながら先制を許した岡山だったが、松木とデュークカルロスの投入でサイドから仕掛けることのできる人材を増やし、残り10分の反撃に打って出る。どちらも投入されて最初のプレーでサイドから仕掛ける形を取っていたように、サイドの深い位置を取ってのクロス攻撃を狙っていた岡山の狙いが成就したのは92分。左サイドのデュークカルロスの仕掛けから一度パウリーニョまで戻すと、逆サイドの松木に展開、松木から右サイドに走り込んだ白井がボールを受けて柔らかいクロスを上げると、マークを外した斎藤のヘッドが決まって土壇場で岡山が同点に追い付いた(動画2:20から)。後半ATになってCHから右サイドに流れる体力があり、なおかつあそこまで冷静に柔らかいタッチでクロスを上げられる白井のタフネスさにそこまで驚かなくなっている自分が怖い。

 試合はそのまま1-1で終了。岡山の有馬監督、徳島のリカルド・ロドリゲス監督とどちらの監督も「こちらが試合をコントロールできていた」と言っていたのがなんか面白かった。

総括

・リードしてからの試合運びで正直にサイドから相手に押し込まれ過ぎたことで勝ち点を落とすことになったものの、徳島の攻守におけるチームとしての質の高さを改めて感じる試合だったと思う。焦れることなくボールを動かし逆に相手の守備を焦らせるようなボール保持。渡井や西谷、杉森といったドリブラーを上手く戦術に組み込み、またジエゴや岸本といったSBをダイナミックに攻めあがらせることによるペナ幅いっぱいを使った相手を揺さぶる崩し。そしてボールを持たない時の4-4-2ブロックの質の高さ(改めてここには本当に驚かされた)。総得点、総失点ともにリーグトップクラスで得失点差ダントツの1位というのもうなずける。

・個人で言うと、やはり岩尾に目が行く。この試合ではボールを持った時の展開ではなく、厳重に警戒されているからこそあえて「消えるような」ポジショニングをして味方をフリーにするような、岡山の第一ライン、CHとの駆け引きが現地で見ていて面白いなと感じた。

・そんな質の高い徳島相手に粘り強く、ボール保持でも非保持でも今できることを出して存分に対抗することで互角の展開(と言っていいでしょうこれは)に持ち込んだ岡山も、ここ数試合の内容と合わせてチームとしての充実度合いが増してきているなと感じる試合でもあった。特にボールを持っているとき、一度中が詰まっても決して無理攻めするのではなく(⇒状態の良くなかったときはここで無理に縦パスを入れてロストするシーンが非常に多かった)、後方から焦れずにサイドから組み立て直して敵陣にボールを運んでいこうとする形をここ数試合継続しているのは非常に好感が持てる。

・実際に斎藤の同点ゴールのシーンも、左から仕掛けたカルロスから中央で待つ上門に入れたボールが一度詰まったのだが、そこで焦って縦に行くのではなく一度戻して逆サイドの松木に展開し直したことで生まれている。個々のスキルの面において細かいボールタッチのズレや、良いポジションで受けてもターンが大回りになってスムーズに前進しきれないところなどの問題点はあるので「ボールを持って崩せます!」と大手を振って言えるほどではないが。

試合情報・ハイライト


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