雨でも普段着は着れるか~J2第25節 FC町田ゼルビア VS ファジアーノ岡山~

スタメン

    両チームのスタメンはこちら。

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中途半端なセーフティが生み出すリスク

    岡山はデューク、町田は中島と、それぞれ前線に構える選手に長いボールを飛ばしていく展開で始まった前半。ロングボールを蹴って、そのボールがそのまま相手の最終ラインの背後を取ることができれば一番楽ではあるのだが、出し手と受け手の距離がかなりあるようなボールで綺麗に相手の背後を取るというのはなかなかできることではない(⇒なお町田は何度かロングボールから中島が井上-安部の背後を取りかけるシーンがあった)。そのため主導権を握ることができるかどうかのポイントは、最終ラインが弾いた後のセカンドボールをどちらがどのように回収できるか、というところにかかってくる。

    その観点で試合を見ていくと、前半に主導権を握ることができていたのは町田の方であった。町田は自分たちがボールを回収してから縦パスを打ち込んで受け手が近場の選手に落とすレイオフプレーだったり、平行サポートからのワンツーだったりでスピードアップを図ろうとする、ポポヴィッチ監督が狙いとする攻撃での展開が見られていた。こうしたボールサイドでの速いパスの動きで岡山を引き寄せて、逆サイドでフリーの選手を作ってそ展開、そこから右サイドなら吉尾、左サイドなら平戸で起点を作りペナ幅を使っての崩しやセットプレーでチャンスを作ろうとしていた。

    また町田は、岡山がセカンドボールを回収したときも素早くボールホルダーにチェックに向かうことで岡山に落ち着いてボールを持てるような状況を作らせないようにしていた。雨は絶えず降ってはいたが、実は完全にボールが持てないようなピッチ状態だったかと言われると決してそうではなかったので(⇒だからこそ町田はグラウンダーからの縦パスを使った攻めを繰り出そうとしていた)、セカンドボールを回収したときにはもう少し落ち着かせる状況を作りたい岡山であったが、デュークに蹴るというよりは「蹴らされる」形が多くなっており、デュークが競った後のセカンドボールをなかなか回収できないというシーンが目立っていた。

    それでも岡山はデュークにロングボールが入ったときにはどうにかしてしまえそうなシーンがいくつか見られていた。水本と高橋という、対人の対応でJ2では確実に上位に入る町田のCB2枚を相手に無理矢理マイボールにして起点を作ったり、シュートシーンを作ったりするのはさすがは現役オーストラリア代表と言えるようなプレーであった。デュークにボールが入ればSHの徳元や白井がヘルプに入り、その周辺で上門が前を向いてプレーできるスペースに入る形を作れるのだが、デュークにボールが入るシーン自体が単発となってしまっていて、なかなか狙いとする攻撃ができずにデュークが前線で孤立する形が多くなってしまっていた。

    このように前半の岡山は町田に主導権を明け渡してしまっていたのだが、そうなってしまった大きな要因として挙げられるのが、最終ラインと中盤(特にCH)との「セーフティなプレー」の意識のちょっとしたズレだったように思う。これがどういうことかというと、特に前半の15分以降、岡山はCHの喜山やパウリーニョがボールを回収したときには一度ボールを落ち着かせて地上戦でボールを運ぼうとするプレーが見られていたのに対して、最終ライン(特に井上-安部のCB)はシンプルにロングボールを蹴るプレーを継続していた。GKの梅田を含めた最終ラインは「雨だしシンプルに、セーフティにやろう」という考えだったのだろうし、喜山やパウリーニョは「雨だけどボールは持てるエリアはある、落ち着かせるところは落ち着かせて運ぼうぜ」という考えだったのだろうけど、これはどちらが良い、悪いという話ではない。

    この意識のちょっとしたズレは、シンプルに町田の最終ラインの背後を取りに行くべきなのか、一度後ろからのボールを引き取れるポジションを取るべきなのか、デューク以外の前線やSHの動き出しに影響をもたらすことになってしまっていた。そうなると結果的にセカンドボールをグループとして回収できるような距離を維持できなくなり、町田にボールを回収される、自分たちが回収できてもそこからの攻撃の形を継続できない、ということになってしまっていた。

    ボールを持ったときの岡山の最終ラインの判断(セーフティなロングボールを重視する)は、前述したように雨の試合の定石として当然ありうる選択肢ではあるのだが、むしろ問題だったのはボールを持たないときの判断であったように思う。町田が入れてきたボールに対して岡山の最終ラインの対応は、雨の試合の対応というよりは普段通りの試合の対応、あわよくばマイボールにしようとするプレーを多くしていたように見えたのだが、そのプレーがかえって町田にセカンドチャンスを与えてしまうというような展開が多くなっていた。また経験豊富な中島と競り合った時に、CBの井上や安部のクリアがどうしても小さくなってしまっていたことも町田にチャンスを与えるきっかけになってしまっていたのだが、それでもセットプレーを含めた町田のシュートに対して梅田がほとんどこぼすことなくキャッチできていたのは大きかった(セットプレーの対応で2つ大きなミスはしていたが) 。

    前半は0-0のスコアレスで折り返すこととなった。

普段着、悪癖、大外からの救世主

    岡山は選手変更なし、町田は長谷川に代えて太田を投入して始まった後半。そんな後半の展開は前半のそれとは一変して岡山が主導権を握ることになるのだが、その理由として大きかったのはやはり、前半に見られていたCBとCHのボールを持ったときの意識のズレが修正されたことだっただろう。これによってCBの井上と安部が前半に行っていたようないい意味で言えばセーフティ、悪い意味で言えばノータイム(≒何も考えない)で前線にボールを蹴るという判断が明らかに減り、CHの喜山とパウリーニョとともにボールを持って後方で時間を作れるようになっていた。

    こうした岡山側の変化と、第一ラインの中島と平戸からのチェックの優先度が前半に比べて落ちた(⇒ハーフライン付近で4-4-2のブロックをセットする守備が増えた)という町田側の変化もあって、後半になっての岡山はCB-CH間でボールを落ち着かせる状況を作れるようになったのだが、これによってSBの宮崎や河野を使った横に広げたボール保持ができるようになり、そして前線で引き続き起点になろうとしていたデュークとその下でポジショニングする上門やSHとの距離が改善されるようになった。

    岡山の主なボールを前進させる手段として、早めに縦に展開し、デュークを起点にするという方針だったのは前半と大きな変化はなかった(⇒前半よりも意識的にサイドに流れて起点になろうとしていた)のだが、前述したようにSBからボールを出せる回数が増えたこと、そしてデュークと周囲の選手との距離が改善されたことによって、後半の岡山はCHやSBがデュークのポストプレーからの落としやセカンドボールを回収できるポジションが前半に比べて明らかに高くなり、そして前向きにセカンドボールを回収できるようになっていた。これによってセカンドボールを回収してからの展開が、大外の高い位置に運んでのクロスだったり、町田の最終ラインの背後にデュークだけでなく上門やSHの徳元や白井といった選手が飛び出す形だったり、よりゴールに直結させるような展開を出せるようになっていた。

    岡山が町田のペナ付近までボールを運んだときの展開として特に意図的に見えたのが、一度ファーサイドのデュークにロビングを入れて、デュークが中に落としたボールを狙っていくことであった。前半までの展開で、デュークが町田の最終ラインの4枚のほとんどに競り勝てていたので、その空中戦のアドバンテージをよりゴールに近い状態で生かそうとしたのは非常に理にかなっていたと言えるだろう。オフボールでセカンドボールを拾うポジショニングの上手い徳元や白井をSHに使うのも理にかなっている。ただこの形だけでなく、デュークを囮にして上門あたりがその手前(バイタルエリアの中央付近)でボールを受ける形をもう少し作れるようになればもっと良かっただろうが。

    岡山は65分を過ぎたあたりで齊藤と木村を同時に投入。前節の山口戦同様にSHのプレーヤーのキャラクターをよりゴールに近づけるような起用である。この試合では特に左SHの木村に大外でボールを受けさせて、そこから仕掛ける形を作ることを主な狙いにしていた。岡山としてはある程度単独で仕掛けることができる木村のサイドからクロスを上げる形を作ることでサイドに人数をかけない、つまりゴール前に人をかけた状態でクロスを受ける形を作ろうとしているようであった。

    木村が三鬼から奪ったファールからの白井のFKに安部が合わせたシュートがクロスバーに当たるなど、木村の左サイドでの仕掛けはある程度効果を見せていた。また大外から早い段階でボールを前進させていく木村の存在によって互いに背後のスペースが広がっていくようになり、試合展開はオープンな状況になっていった。岡山は上門の飛び出しからのシュートにデュークが詰めるシーンを作れており、町田の背後を狙ったボールは井上と安部で回収することができていたので、そんなオープンな状況でも岡山の方が収支をきちんとコントロールできているように見えた。

    しかし80分、前線を狙った町田のロングボールのセカンドボールを途中投入されたドゥドゥに回収されると、ドゥドゥのクロスを宮崎がクリアしきれずに吉尾が拾ってシュート、梅田が弾いたボールを太田が詰めたことで町田が先制に成功する。おそらく町田は後半になってからの最初のシュート機会だっただろう。ある程度試合を自分たちでコントロールして運んでいたにも関わらず先制点を与えてしまう、今季の岡山の悪癖が再び顔を出してしまったシーンであった。

    リードを許してしまった岡山は、濱田を投入しての3バックシフトに移行。左WBに入った木村のドリブルと前線の頂点のデュークへのロングボールを起点に明確なパワープレーを選択することで町田のゴール前にボールを集めていこうとしていた。

    そんな岡山の形振り構わない姿勢が報われたのが87分。右サイドからの放り込みのセカンドボールを上門が拾い、そこからデュークを狙ってのクロス、このセカンドボールを木村が回収すると、縦に仕掛けるのではなくそのまま右足でインスイングのクロスを入れるとデュークが頭で合わせてのシュートが入り岡山が1-1の同点に追い付く。前線のポイントになるデュークを使ってのボールの前進、大外からのクロスボールに人数をかける形、かなり強引な形ではあったがチームとしての狙いがはっきりしていたからこそ追い付くことができたと言えるのではないだろうか。

    後半のATに岡山は木村の縦突破からの左足での折り返しに反応した齊藤のシュート、町田は平戸のFKと互いに決定機を迎えたがそれ以上スコアが動くことはなかった。試合は1-1の引き分けで終了した。

雑感

・加入後2試合目にして、ミッチェルデュークは今のチームの最重要選手の一人になってしまったようである。どのエリアでも優位に立つことができる空中戦での競り合いはもちろん、足元に入ってのポストプレー、ただ足元に収めるだけでなく自らボールを動かして味方の時間を作れるようなキープ、突破できるなら自ら突破するといった地上戦でのプレーの良さも目を引く。何より、一度ボールを修めるために引き出す動きからゴール前に動き直せるリアクションの速さと終了間際でもそういう動きを繰り返せる連続性には頭が下がる。

・そんなデュークの同点ゴールをアシストした木村の右足のインスイングのクロスは見事だった。本文でも書いたが後半のATには左サイドの縦突破から左足で折り返すような低いクロスでも決定機を作っており、2つのクロス、2枚の手札でチャンスを作ったということである。サイドの選手として、仕掛ける形から縦と中とでチャンスを作れるようになれるのは、木村の今後を考えても非常に大きい。今のチームではSHのキャラクターの味変として途中投入が多いが、スタメンで使っても普通にチャンスの絶対数を増やせそうではある。

・この試合だけではなく中断前の群馬戦からのことではあるのだが、パウリーニョのCHでのパフォーマンスの充実が目立つように感じる。一度高江からボールを奪おうとして剥がされてスペースを与えてしまったシーンはあったものの、それ以外では相方の喜山とともにスペースを埋めることでミドルゾーンの中央エリアをプロテクト。町田の速いパスによる展開を外回りにさせることに成功していた。またボールを持ったときにはこれも喜山とともにボールを引き取って落ち着かせ、そこから大外の選手に展開するといった、中盤中央の選手として求められるであろうプレーをしっかりこなしていた。ここ数戦の試合内容の安定と、CHのプレーの安定はおそらくリンクしていると思う。ここからさらにベースを上積みしていきたいところである。

試合情報・ハイライト




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