今日の最適解~J2第11節 ブラウブリッツ秋田 VS ファジアーノ岡山~

スタメン

両チームのスタメンはこちら。

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徹底の秋田に対する岡山の選択

 昨季のJ3リーグを独走で駆け抜け、今季上がったJ2リーグのステージでも10試合を経過して堂々の一桁順位に付ける健闘を見せている秋田。チームとしての特徴は「ボール保持などクソ食らえ」なロングボールの多用、ロングボールの競り合いなどで発生したセカンドボールの接点に対するハードなプレッシャー、そしてそれらを可能にする相手ボールホルダー(⇒主に相手のビルドアップ段階)へのハードなプレッシャーである。

「相手のボール保持にプレッシャーをかけて蹴らせる→競り合いからのセカンドボールへのプレッシャー→マイボールにできれば敵陣にロングボール、相手ボールになったらプレッシャーをかけてまた蹴らせる→競り合いからのセカンドボールへのプレッシャー」

 この流れを絶えず回すことで対戦相手を自分たちのペースに巻き込んでしまおう、というのが秋田というチーム。系統としては今の栃木や相馬氏時代の町田もこういうチームだと言える。ただ今挙げた2つのチームよりもこの秋田は自分たちの振る舞いに対する徹底度合いが強い。自陣でボールを動かすことに本当に見向きもしない。日本ではJ2やJ3という下部リーグの中位や下位でもボールを持って試合を進めていこうとするチームが非常に多いので、こういった秋田のサッカーがハマりやすいというのはあるだろう。

 秋田のロングボールによる前進の狙いどころになるのはサイドの奥のスペース。端的にはコーナーフラッグを目掛けて前進を図る、と言っても良い。この試合でいうと、岡山のSBの徳元や河野の背後である。秋田としてはサイドエリアの奥にボールを入れる段階に入ったときには、ボールサイドのSH-SBだけでなくCHやFWもボールの局面に加わらせて密集を作ろうとする。そこで生まれた敵味方入り乱れた混戦を抜け出す選手を作っての局面打開か、密集の中でファールなりスローインなりCKなりを確保してセットプレーを獲得するか、こういった形で敵陣深くに攻撃、得点を狙っていく。

 秋田のスタメンに左利きがいないこともあってか、この試合での秋田の攻撃は右サイド主体になることが多かった。秋田がGKの田中やCBの加賀、増田からほとんどノータイム(最終ラインでの横パス交換がほとんど見られなかった)で放り込まれるロングボールに対して、ターゲットとなったのは前線の中村や齋藤。このボールに対してまずは久しぶりの左CB起用となった井上が競り合いに向かう。競り合い後、左サイドにこぼれるセカンドボールで発生するのが、秋田の右サイドである鈴木-沖野のラインと、岡山の左サイドである徳元-木村のラインの球際、接点の勝負である。岡山としてはここのバトルで少なくとも五分で立ち回ることができたのが大きかった。頻度は少なかったが逆サイドでも当然同様の勝負が繰り広げられることとなっており、こちらでも岡山の右サイドの河野-上門のラインが、秋田の左サイドの飯尾-茂のラインに簡単に競り負けることがなかった。

 サイドエリアで発生する最初のセカンドボールを巡る攻防戦で簡単に競り負けないことがなぜ重要か。それは、次のセカンドボールを巡る戦いで優勢を取れるかどうかが決まってくるためである。前述したサイドのラインでの勝負に加勢する形で両チームのCHの選手たち(岡山は白井-疋田、秋田は稲葉-輪笠)がボールサイドの局面に現れるのだが、岡山はここでの勝負で特に疋田が積極的にセカンドボールを回収することに成功していた。ハードに身体をぶつけてくるセカンドボール、接点を巡る戦いが多くなったこの試合で、大卒ルーキーの木村と疋田が試合の流れから消えないどころか、自分たちが試合を優位に進めていくための重要な要素になっており、その強度勝負で全く後手を踏んでいなかったのはこの試合だけでなく、今後の岡山を考えても非常に大きいことだったと思う。

 前述したような、一つのサイクルを徹底的に回そうとする秋田に対するこの試合での岡山の選択は、「秋田の土俵に乗る」というものであった。つまり秋田のロングボールに対して自分たちもロングボールを多用していき、そこで発生するセカンドボールの接点勝負という秋田の土俵で相手を上回ろうとしたということである。有馬監督は開幕戦の栃木戦と同じような、対敵に合わせた戦術を採ってきたと言える。これはもう何度も言っている気がするが、有馬監督は2019シーズンのホーム町田戦での完敗以降、こういうロングボール多用→セカンドボール勝負を仕掛けてくるチームに対しては相手と同じ土俵で勝負する傾向にある。

 ロングボール合戦になると、ここまでで書いてきたセカンドボールを巡る攻防戦もそうだが、全てのスタートとなる自陣と敵陣での空中戦、最初の競り合いが重要になってくるのは言うまでもないことである。前述したように、自陣での空中戦ではCBの濱田と井上が秋田の前線の中村や齋藤にほとんど勝っていた(もっとも秋田もサイズを考えれば競り負けることはある程度想定済みだったと思う)。一方で敵陣での空中戦、ターゲットとなるのは前線の山本や川本。秋田のCBのサイズを考えれば、古巣戦となる増田よりは加賀を狙っていくと思っていたのだが、山本はどちらかというと増田を狙って競り合いを行うことが多かった。山本と増田では、山本の方が当然サイズでは不利なのだが、先に身体をぶつけて満足に飛ばせないといった、この日YouTube実況をしていた椋原氏の言うところの「姑息」なプレーで遠くに弾かせない、岡山のセカンドボール部隊が前向きに回収を狙えるようなクリアにさせるように競り合いを行っていた。

 岡山も秋田同様に、サイドのエリアでのロングボール→セカンドボール勝負からスローインなりファールなりでマイボール確保を狙っていく。岡山が秋田と異なっていたのは、マイボールにしてから余裕が生まれればボールを動かしていく意図があったということ。秋田も当然全ての相手ボールに対してプレッシャーに向かえるということはなく、3、4本ほどパスを繋がれてボールを動かされると比較的あっさりと4-4-2のブロックをハーフライン付近まで敷いて、そこからカウンターを狙う形に移行する。マイボールを確保したときの岡山の狙いは「サイドチェンジ→秋田のCB-SB間にボールを送る」というものであった。

 秋田の4-4-2のブロックは相手ボールの動きに素直に動くことが多い一方で、CBの加賀-増田の2枚はあまり中央から動かないようにしていた。岡山としては、CB-CH間でボールを落ち着かせる時間ができたらサイドへの大きな展開を入れて、秋田のボールサイドのSBが横に大きくスライドしたところで、CB-SB間にボールを供給、そこのスペースを前線やSH(押し込める状態ならCHも)が走り込んでそこからの折り返しに他の選手が飛び込む、というのを狙っていたと思われる。特に前半の15分から30分くらいの間でこの狙いとする形から秋田のゴール前に侵入するシーンは何度か見られたが、あまりボールが転がらないピッチ状態と自分たちのボールを扱うスキルを考慮してか、そういう狙いはあったが無理にその試行回数を増やしていくという感じではなかった。あくまでも試合のベースは蹴り合いという秋田の土俵で、そこを外れるのは本当に狙えるときだけという感じであった。

 先にスコアを動かしたのは岡山。33分、金山のキックから生まれた右サイドでのセカンドボールの混戦から疋田がファールを獲得すると、それで得た徳元のFKから山本が見事なボレーキックを決めて1-0。徳元のキックはファーサイドを狙った末のミスキックだったようだが、それがかえって秋田の守備の予測を外した、結果的にはしてやったりなゴールとなった。

 ここまでで書いてきたように、敵陣にボールをシンプルに送り合う展開、そしてそれは相手の土俵での戦いになる以上、岡山の陣内深くでのスクランブル、そこからの見た目的に危ないと感じる展開が起きてしまうのはある程度仕方ない流れではある。セットプレーやセカンドボールの混戦から、球際を塊のように、それこそラグビーのスクラムのように進んでいく秋田のプレーによってゴール前に茂が飛び込むようなシーンはあったが、その回数を考えると、前半はある程度岡山が試合をコントロールできていたと言える。

逃げ切りの5バックシフトを考える

 後半の展開も概ね前半のリピート。お互いにボールをシンプルに蹴り合い、セカンドボールを回収して運べるかどうかの勝負。体力が落ちる後半は、セカンドボールの接点にどちらがプレッシャーをかけ続けることができるか、というのがポイントになるわけだが、岡山は53分に川本に代えて阿部を投入。山本を最前線に、シャドーに木村上門が入る形と鳴るのだが、前節の北九州戦でもやった、早い時間帯での5バックシフトである。

 岡山は5バック変更直後の5分から10分程度、秋田の猛烈なラッシュを受けることとなる。なぜそうなったのかというと、自陣での5-4のブロック形成によって後ろに余りすぎてしまい、セカンドボールの接点に誰がプレッシャーに行くのかが曖昧になってしまったためである。岡山の選手が出遅れたことで秋田が主に右サイドの深い位置までボールを運ぶことができるようになり、そこからセットプレーを獲得、ターゲットとなる増田で岡山の注意を引き付けてその周囲の選手が詰める形からあわや1点というシーンを複数作ることに成功していた。

 では岡山の5バックシフトは失敗だったのか。答えはNOである。システム変更から10分程度経過してからの60分以降、岡山は再びセカンドボールに対して複数人がプレッシャーに行く形が復活。前の5枚(山本-上門-木村-白井-疋田)のチェックに連動して、ボールサイドに近い後ろの5枚のうち1枚がポジションを上げて詰めに行く形で再びセカンドボールを巡る攻防戦で後手を踏まなくなった。5バックの1枚がポジションを上げて、残り4枚がスライドをしっかりと行っている振る舞いから見ても、有馬監督は5バックを「最終ラインに4枚+遊軍的にプレッシャーに向かう1枚」のように考えている節があるのかもしれない。4-4-2を基本線にしているからこそ後ろに重くなりすぎない5バックというか、むしろ後ろに重くなったら逆に守備に問題が発生するというか。

 この5-4-1のシステム変更でのびのびとプレーしているように見えるのが阿部。どんどん相手のボールホルダーに対してプレッシャーをかけていき、自分がボールを持ったときには河野との連係で敵陣、というかペナ内までボールを自ら持ち運ぶプレーを見せるような余裕も。東福岡高のときからどんどん対人を挑んでいく様が見られていたが、やはり本職は3バックのサイドCBなのかなと思う。

 こうして60分以降は試合の流れを再び引き戻すことに成功した岡山。左サイドの木村と徳元のキープでマイボールの時間を作りつつ、お互いに絶えずかけあっていたミドルゾーン(サイドのエリア)でのセカンドボールのプレッシャーで後手を踏むことがなかったので、秋田にシュートの機会をほとんど与えることなく時間を潰すことに成功した。秋田はATに田中のキックから増田の競り合い、それに抜け出した途中出場の武がネットを揺らすシーンがあったが、増田の競り合いがファールの判定となり岡山は命拾い。そのまま岡山が1-0で逃げ切り、今季初の連勝となった。

雑感

・本文でも書いたが開幕の栃木戦同様に、対秋田にかなり特化した戦い方を選択しての勝ち点3の獲得と今季6回目のクリーンシート(無失点試合)を達成したのは大きい。本来はもう少しボールを持ってサイドから運ぶ形、狙いとするようなサイドチェンジを使った形を増やしたかったのだろうが、相手の徹底ぶりと自分たちの現状を踏まえて対敵に特化するメタゲームを選び、それによって試合の流れをコントロールしようとして概ねそれができたというのは、少なくともこの試合では岡山にとっての最適解だったんだろうと思う。

・2試合続けて4-4-2→5-4-1へのシステム変更、そしてそれが理に敵う形で試合をクローズできたというのは、勝利へのパターン化、ルーティーン化ができつつあるという意味でも大きい気がする。「こうすれば試合に勝てる」というものを持つのは、相手に対して心理的に優位に立てるものである。

・本文では軽く触れる程度であったが、左サイドの大外~内側のエリアでマイボールにしてそこから自ら運んで時間を作ることができる木村の存在が試合を通して非常に大きかった。後半の岡山の攻撃機会のほとんどが、左サイドで木村が運んで、味方の押し上げる時間を作ってからの展開であった。そして左サイドでボールを運べる木村がいることによって、右サイドの上門のタスクの最適解が、「アタッカー要素の強い2019関戸健二」という仮説が個人的に固まりつつある。

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