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無為な1/4のツケ~J2第31節 ファジアーノ岡山 VS ブラウブリッツ秋田~

スタメン

    両チームのスタメンはこちら。

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秋田の超局地戦、岡山のCH↔️SHシャッフル

    まずは秋田の極めて特徴的なサッカーについて見ていく。簡単に言うと「右サイドにロングボールを入れて局面で密集を作る→セカンドボールを回収する→直線的に前に運んでのクロス、または深い位置でのスローインなりCKなりのセットプレーで攻撃を終わらせる」このサイクルを延々回していこうとするチームと言っても良い。右サイドが主体なのは、おそらくチームで左利きの(中盤から最終ラインにかけて)選手がいないためではないだろうか。

    秋田がサイクルを回すための初手となるロングボールのターゲットとなるのは吉田と武という、もう少しでラガーマンになれそうな体格をした2枚の前線。岡山としてはCBの井上と安部のところで秋田の前線に完全に競り勝てなくても、相手がある程度難しい体勢でボールに触る形を作ることができればまだ良かったのだが、逆に秋田の前線の体格に押さえ込まれるような競り合いになってしまうことが多かった。

    前述した秋田の試合運びのサイクルを断ち切るためには、岡山としては秋田の仕掛ける局地戦(⇒セカンドボールを回収する攻防戦)に勝利する、勝ちきれずとも秋田に前向きにボールを回収させないことが重要になってくる。しかしこの試合、特に前半の岡山はここの部分で秋田に完全に後手を踏んでしまっていた。岡山がそうなってしまった要因として、一つは前述した岡山のCBと秋田の前線との競り合いの部分が挙げられるが、もう一つは秋田が仕掛けてきた局地戦のエリアが、岡山が想定していたエリアよりもより狭く設定されていたことが挙げられる。むしろこちらの要因の方が比重としては大きかったと思う。

    秋田のようなチームとの対戦ではセカンドボールを巡る攻防が肝になると当然分かっていたであろう岡山の選手(喜山やパウリーニョを中心とした中盤やSB)たちは「このエリアでならセカンドボールを回収できるだろう」とポジショニングする。しかし稲葉や輪笠を中心とした秋田のセカンドボール隊は、最初の競り合いが発生したところから岡山よりも近いエリアを想定したプレッシャーをかけてきていた。こうして秋田のプレッシャーに対して一歩出遅れる形になってしまった岡山は、特に秋田の右サイド、岡山の左サイドでのセカンドボールを巡る秋田との局地戦で秋田に前向きにボールを回収される形を多く作られてしまっていた。

    秋田の先制点となるシーンは秋田の左サイドからではあったのだが、ロングスローによる吉田の競り合いから発生した局地戦の連続で岡山が後手を踏み続けた結果であった。輪笠→吉田→武と浮き球で繋がると、武とのスペースを井上と宮崎が詰めきることができずに距離のある武の見事なシュートが決まって秋田が先制に成功した。最初の空中戦、セカンドボールを含めた球際(吉田監督が言うところの魂際)での競り合いがしっかり訓練されている秋田の強味をマックスに生かしたゴールではあるが、岡山としては「この距離で大丈夫だろう」「ここからは打ってこないだろう」というような想定、認識の甘さが出てしまった失点であったとも言える。

    14分という非常に早い時間帯でビハインドを背負うことになった岡山。そこからもしばらくは秋田のサイクルを断ち切れないまま時間を過ごすことになってしまっていた。岡山にとっての左サイドで宮崎や喜山、パウリーニョのところでなかなかボールを落ち着かせることができず、秋田のCB(増田と千田)の準備ができているデュークへのロングボールを蹴り出すしかなくなって競り勝てず、前述したセカンドボールの局地戦でのポジショニングと出足で後手を踏んで秋田に左サイドを破られる、という展開が続いてしまっていた。

    前半の岡山がようやくボールを落ち着かせることができるようになったのは、前半の飲水タイムが開けてからであった。ボールサイドでの局地戦、セカンドボールに対してはかなり強いプレッシャーをかける秋田だが、そうでないときは4-4-2のブロックをセットしてあまり強いプレッシャーをかけてくるわけではない(⇒このメリハリが厄介なところでもある)。岡山はひとまずCBの井上と安部、GKの梅田のところでボール保持はできるようになっているので、そこからどうやって前進させていくかというのが焦点になってくるわけであるが、前半の岡山がやろうとしていたのはCHとSHのポジションの入れ換えであった。

    岡山のSHで起用されている白井と石毛は中央の低い位置でもプレーができる選手。パウリーニョが最終ラインに下りてきて開いたところに白井が入ってくるという、前節の磐田戦でも見られたプレーだけでなくこの試合では、石毛がCHのポジションに立って、それに合わせて喜山が高いポジションを取るというシーンも見られていた。岡山がこうしたCHとSHのポジションを動かす形を増やしていた理由として、やはり秋田の4-4-2の中央ブロック、特にCH-CB間を動かしてスペースを作っていきたい狙いがあったのだと思う。そして前節の磐田戦同様にスペースができたところにデュークへの縦パスなり、その手前に入ってきた上門への縦パスなりで前進させていきたかったのだと思う。

    ただ岡山のこの前半の取り組みが上手く行っていたかと言われると全くそうではなかった。中央でのCHとSHのポジションチェンジと、SBの宮崎と河野で行われる横幅を取る動きとが有効に繋がっておらず、秋田のブロックを中央から動かす形を作ることがほとんどできていなかった。そのため、数自体少なかったデュークや上門への縦パスが入ったとしてもすぐに捕まってしまうので、岡山としてはなかなかペナ内に侵入する形はおろか、敵陣で時間を作れない展開となっていた。前半はそのまま0-1、秋田のリードで折り返すこととなった。

両翼からのノックは実るか

    後半になってからの岡山は、4-4-2のブロックをセットする秋田に対してCHを一枚下ろしての3バック、秋田の第一ライン(武-吉田)の背後にもう一枚のCHがポジショニング、そして秋田の4-4の内側~中央のライン間にSHが入ってSBがハッキリと横幅を取る形をほぼ固定してビルドアップを行うようになっていた。岡山の最終ライン3枚(+梅田)と秋田の第一ライン2枚とでまずは後方での数的優位を作り、そこからまずは横幅を取るSBへの展開を前半よりも増やすことで、大外からのボールの前進を意図的に進めようとしていた。

    岡山のこの狙いは、中央のスペースを埋める秋田に対して大外からボールを運んでいくことで、秋田のSH(茂-沖野)に縦横のスライドを強いさせること。基本的に秋田の最終ライン4枚はSB(飯尾-藤山)を含めてペナ幅を守ろうとするので、サイドからの揺さぶりを増やせば秋田のSH-CH間のスペースが発生して、内側に縦パスを通しやすくなるということなのだと思う。また、後半になってから岡山がサイドからボールを運んでいこうとする意図は、前線のデュークがサイド(主に左サイド)に流れてボールを受けようとしたところにもうかがうことができた。

    後半の岡山はデュークが秋田のCBから離れてボールを受ける形が増えたことで、デュークを起点にしたポストプレーだったり、デュークが自らキープしてそこからサイドチェンジを出したりするプレーで敵陣深くで時間を作ることができるようになってはいた。ただ、左サイドを起点に運ぶ形が作れるようになってはいたものの、肝心の秋田の中央を動かす形を作るにまでは至っていなかった。

    岡山は本調子からほど遠かった上門、前半から審判の判定と噛み合っておらず明らかにイラ立ちがプレーに見えていたパウリーニョに代えてイヨンジェと木村を投入。イヨンジェの縦の動きで秋田のCBを後ろに押し下げ、大外の宮崎とイヨンジェの手前で動くデュークで仕掛けるスペースを得た木村が左の内側~大外のエリアでドリブルで運んでいくことで、どうにかして秋田のゴール前のスペースを広げていこうとする意図はうかがえた。ただ、後半の交代でCHに入った石毛がボールを受けてそこからサイドを変えたり中央への縦パスを通したりといった、サイドから中央を経由する形自体はなかなか作れず、同一サイドで進めていく形になってしまって、秋田のブロックを揺さぶる展開までは作ることができていなかった。

    さらに岡山はゴール前のパワーを出すために川本、左サイドからのクロッサー兼ロングスロー要員として徳元を途中投入。この交代策はハッキリ言って効果的な手にはなっていなかったが、秋田がSHを下げて6バック気味にすることでゴール前を固める方向に完全に舵を切ったのもあって、左右からクロスを入れていく本数も、徳元がロングスローを入れていく本数も増えていった。

    攻め手としての工夫や意図自体は見えたが、それがほとんど有効な手になっていなかったこの試合の岡山。それでもノックをし続けるというのはそれだけで効果があるということもたまにはあるわけで。90分を過ぎてのATもほとんどラストプレー、梅田も攻め上がってきた石毛の右CKの流れからセカンドボールを木村が回収、左ペナ角付近からクロスを入れるとキャッチに入った秋田のGKの田中がファンブル、こぼれたところを安部がイヨンジェとのツインシュート気味に決めて1-1。安部のJリーグ初ゴールがラストプレーとなって、試合はそのまま引き分け決着となった。

雑感

・前半の飲水タイムまでの試合運びはただただ時間を消費しているだけ。秋田がボールを蹴ってきたから自分たちもボールを蹴り返そうというような、無為無策極まりないと言っても良いような試合運びであった。飲水タイムを経過して有馬監督の指示が入ったのかどうかは分からないが、そこからようやく後方でボールを落ち着かせるようになって秋田のサイクルを外す形も出るようになったのだが、これくらいのことならばピッチ内で判断してできるようにしてほしいところである。

・この試合、岡山にとっての最大の収穫はデューク-イヨンジェの2トップに木村を組み合わせることができる目処が立ったというところだろうか。イヨンジェで相手最終ラインを引っ張り、デュークが下がり目のポジションで後方からボールを引き出して相手を中央に引き付け、大外の木村に展開してそこから仕掛けてクロスを入れる。無為にした最初の1/4はともかく、後方からボールを運ぶと決めたそれ以降はボールを運んでいく形自体は喜山を中心に安定していたので、なかなか定まり切らない敵陣深く、ペナ内への侵入方法の軸として定めても良いのではないだろうか。ただし、そうなると上門の使い方が難しくなってくるのだが・・・。

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