原石は光るが脆い~J2第13節 ジェフユナイテッド千葉 VS ファジアーノ岡山~

スタメン

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原石の輝きを放った立ち上がり

 前節の町田戦、負けはしたが試合内容としては決して小さくない手応えを掴んだように感じた岡山。ただし千葉のホームスタジアムであるフクダ電子アリーナは、岡山にとって鬼門中の鬼門。岡山と千葉は2010年から毎年J2リーグのステージで戦っているが、岡山がこのスタジアムで勝利したのは2年前の天皇杯での勝利のみ。つまりJ2リーグ戦では一度も勝利したことがないスタジアムである。そんなデータがある上にこの試合は昨今の事情のためにアウェイ席の無い。そんな中で岡山がどんなデザインで試合を進めていこうとしたのか。

 岡山は前節の内容で掴みかけている手応えを確かなものにするべく、ボールを保持して攻撃し、相手が回収したボールに対してもできるだけ高い位置からの守備を行うというようなスタンスで試合に入っていった。この試合の岡山は町田戦以上にボールを保持することになったのだが、このようなスタンスになったのは、千葉の戦い方が5-2-3(自陣深くでは5-4-1)のブロックを敷いて、そこからのカウンター攻撃をメインとしていたこと、そして岡山のメンバーを見たときに、どう考えてもラインを下げて守れるようなメンバーではないということ、この2点が大きな要因であったとも言える。

 このように後方からボールを持って運んでいこうとしていた岡山。一方で5-2-3のブロックを形成する千葉の第一ラインとなるサウダーニャはボール出しのスタートとなる岡山のCB(井上と阿部)にプレッシャーをかけには行かず、自分の背後にポジショニングする岡山のCH(白井と疋田)を気にしているようであった。サウダーニャが前から行かないので、シャドーの船山と見木が前から行くわけにもいかず、ブロックを組んだときの千葉の前の3枚は取り敢えず内側~中央のエリアを塞ぐようにステイすることが多かった。千葉の前から行かないぶりは、岡山が金山にバックパスをした時にもほとんどプレッシャーをかけに行かないほどであった。そのため、井上と阿部を中心にした岡山のビルドアップ隊は時間とスペースの余裕をかなり持った状態でボールを持つことができていた。ただ千葉も内側~中央のスペースを塞いではいるので、後方からボールを持ってそのまま縦パスを入れることができるというほど簡単に行く話でもなかった。

 岡山もその点は十分に承知していたようで、後方からボールを運んでいこうとする時の前進手段は主に2つ。1つはシステムの噛み合わせ上千葉がプレッシャーに行くのがどうしても遅れてしまう(シャドーが横にズレるにしてもWBが縦に向かうにしても)、低めの位置を取ったSB(徳元と河野)にボールを渡してから斜め前方に縦パスを入れる形。もう1つは前線の山本や川本を千葉のサイドCBとWBの間のスペースに置いて、そこに井上や阿部からダイレクトに展開しようとする形であった。前者にしても後者にしても、どちらの形においても重要なのは前方にボールが入ったときの後方のサポート。特に後者は前線が競った後のセカンドボールを回収できるかどうかが、岡山が前進できるかどうかに直結する。阿部のロングボールに山本が競って、セカンドボールを上門がそのままシュートにまで持ち込むことができたシーンを筆頭に、岡山はその点においてはきちんと意識できていたようであった。

 この試合、立ち上がりからの岡山のボールを持ったときの振る舞いとして非常に好印象だったのが、千葉の5-2-3ブロックの作り方によって最終ラインの井上と阿部に与えられていた時間とスペースの余裕を使って、焦らずにボールを動かすことで縦に入れることができるエリアやスペースを作り出しながらチームとしてボールを運ぼうとしていたことであった。白井や疋田のCHの1枚が最終ラインに下りて(主に白井が行うことが多かった)ゆっくりとボールを動かしつつ、徳元や河野といった幅を取る選手への横の展開を折り交ぜることで千葉のシャドー(船山や見木)やWB(小田や伊東)の縦や横のズレを作って、前線の山本や川本、SHの上門や木村が内側でパスを受けたりサイドの奥に走り込んだりするようなスペースを作り出そうとしていた。岡山がじっくりとボールを運ぼうとしていたのは、早い段階で縦に入れても千葉の最終ライン、特にチャンミンギュや鈴木と対人でぶつかり合ってしまう形となってそれは得策ではないというのも要因としてはあっただろう。

 焦らずにボールを運ぼうとするのがなぜ良いのかと言うと、全体を押し上げるようにして前進を行うことで、チームとしてコンパクトな形を作ることができるようになるためである。なぜそうなるのが良いのかと言うと、一番は相手がボールを回収したときにできるだけ早い段階で相手のボールに対してプレッシャーをかけることができるため、もっと言えば相手がクリアしたセカンドボールを回収しやすくなるためである。前述したようにこの試合(特に前半の立ち上がりからの20分間)の岡山は前方にボールが入ったときの後方のサポートを強く意識できていたのだが、ただ意識するだけで良いわけではなく、ボールを失った時にプレッシャーに行きやすかったりセカンドボールを回収しやすかったりするポジションを取れている必要がある。

 後方から焦らずにボールを運ぶことができていたときの岡山は、千葉が自陣深くで回収したボールに対して素早く近くの選手(主に前線の山本や川本)がプレッシャーに向かい、後方の選手も無理に高いポジションを取りに行くという感じでなく自然と最初のプレッシャーに呼応して動くことができていた。こうなった場合の千葉はどうしても無理に前に蹴り出す形となってしまい、ボールを受ける準備が整っていない状態でサウダーニャや船山が競ろうとしてもなかなか岡山の最終ラインに競り勝つことは難しく、セカンドボールを岡山に回収されることが多かった。このように岡山は「ボールを運んで全体を押し上げる→失ったときにボールサイドでプレッシャーをかけに行くことで千葉からボールを奪い返す or 蹴らせてセカンドボールを回収する」サイクルを回すことで、立ち上がりから試合の主導権を握ることに成功した。

 こうして敵陣までボールを運ぶことができたときの岡山の攻め手は、基本的に大外~内側のエリアからペナ角手前でのパス交換による打開、もしくはペナ角深くのスペースに走り込ませてからの折り返し、このどちらかがほとんどであった。今挙げた攻め手というのは今季の岡山が継続している攻め手であるのだが、改めて岡山の攻撃の狙いを考えてみると、相手の守備ブロックを押し下げてできたブロックの手前にできたスペースに入ってそこでシュートに持ち込むということなのだろう。千葉が中央の人口密度を高くする形で5-2-3のブロックを組んではいたが、特に前半の序盤は岡山のボールホルダーに対してプレッシャーをかけていくという感じでもなかったので、岡山としてはサイドから全体でボールを運んでいく、自分たちの意図を出しやすい展開となっていた。右サイドからペナ角深くにまで持ち運び、その折り返しに走り込んできた疋田のシュートだったり、徳元の縦パスから山本が落として木村が左サイドから折り返したボールに川本が詰めたりと、意図する展開で千葉のゴール前に迫ることができていた岡山だったが、肝心の先制点を奪うには至らなかった。

流れに逆行する得点経過

 立ち上がりから試合の主導権を握っていた岡山だったが、先制点が生まれたのは千葉の方であった。それも前述した木村が左サイドから折り返した形、岡山としては意図する展開でボールを運べた流れから生まれてしまっている。22分、千葉のクリアボールをサウダーニャが落とし、それを拾った見木が再びサウダーニャに預けると、そのままドリブルで運んでペナ付近から左足で突き刺して0-1。金山としても予測しづらいタイミングでのシュートだったと思うが、シュートの前段階の被カウンターへの対処がもう少し何とかできなかったかなと思わないでもない。サウダーニャの落としを受けた見木に対して一発で当たりに行って剥がされてスペースを与えてしまった疋田の対応しかり、取り敢えずゴール前を埋めようと下がるだけになってしまってサウダーニャにシュートコースを与えてしまった守備ブロックの対応しかりである。

 非常に良い流れで試合を進めておきながら、先制点を与えてしまうという最悪に近い試合展開になってしまった岡山。それでもサウダーニャの得点直後にあった飲水タイムの直後に同点に追い付くことに成功する。飲水タイム明けの25分、中盤の中央のエリアボールを受けた疋田からバイタルエリア中央、ペナルティアーク付近で浮いた川本に縦パス、ターンした川本がそのまま左足を振り抜いて1-1の同点に。1失点目の遠因となってしまった疋田のプレーから生まれたゴールであるが、千葉がプレッシャーに来ていなかったとはいえ縦パスを入れることができるような視野と角度をしっかりと作ったボールの持ち方が見事であった。川本の振り向き様に利き足でないはずの左足を思いっきり振り抜けるメンタルの強さ、そのシュートを枠内にねじ込んでしまうスキルの素晴らしさは言わずもがなである。

 岡山としてはさあここからもう一度落ち着いて主導権を握っていこうと思った矢先の27分、再び千葉がリードを奪うことになる。セットプレー守備からのラインの押し上げが中途半端になったところから、千葉の左サイドにプレッシャーをかけきれずに逆サイドの船山への展開を許すと、クロスの混戦から小田が詰めて1-2。この失点については状況を読みきれずに不用意にはっきりしないでプッシュアップしてしまった岡山の不注意と言わざるを得ない。なんとなく上げてなんとなく下がってしまったので、人はペナ内にいても誰一人小田に詰めることができていなかった。

 2度目のリードを奪うことに成功した千葉は、ここから落ち着きを取り戻す。ブロックを組んだときの第一ラインが岡山の最終ラインにプレッシャーに行かないのは変わりなかったが、第一ラインのサウダーニャと船山が横並びになり、見木がCHの小林と小島で3センター気味になっての5-3-2気味のブロックを形成しているように見えた。2点目を許してから岡山の攻撃は停滞気味となるのだが、第一ラインと中盤の噛み合わせが変わったことで岡山のSBに対して千葉のWBが詰めに行きやすくなったというのはあったとは思うが、千葉の立ち位置が変わったことが岡山のビルドアップのストレスになったかと言われるとそういったことはなかったと思う。それよりも岡山の前線とSHが前に張り付き気味になったことで、岡山がボールを持ったときの全体の距離が広がり、千葉が回収したボールに対して集団でプレッシャーに行きにくくなり、逆に千葉にボールを運ばれるというシーンが増えてきたのが問題だったように思う。余裕を持った状態の船山やサウダーニャ相手に、今の岡山のCBやCH、白井はともかくとして井上や阿部、疋田が一対一の駆け引きで上手に立つのはやはり難しい。前半は1-2で折り返すこととなった。

原石の脆さは時間経過とともに

 後半開始早々、どちらのペースになるかがはっきりする前にスコアが動くこととなる。得点が入ったのは千葉の方。右サイドで船山が時間を作ったところから伊東がオーバーラップしてきてのクロス、逆サイドに流れたボールを小田が受けるとペナ内で仕掛けてカバーに入った上門のファールを誘ってPKを獲得。このPKを船山が決めて1-3となった。カウンター攻撃をメインとするチーム相手にハーフタイムを折り返した直後の2点ビハインドは岡山にとっては非常に痛い失点となってしまった。

 この失点に至る展開もそうだし、それこそ前節の町田戦の1失点目もそうであったのだが、今の岡山は敵陣~ミドルゾーンでのボールサイドでプレッシャーをかけきれずに逆サイド、というよりはオープンサイドへの展開を許した時の対応があまりに「これはマズイ、早くなんとかしなくちゃ」というようなパニック感が強すぎるのである。上門のファールのシーンしかり、左サイドに展開されたときに徳元が無理に伊東に突っ込んで船山に背後を使われたシーンしかり、相手を早く食い止めようとして前に突っ込んで逆に相手に前に運ばれてしまう、ということである。それと同時に「とりあえずゴール前の中央を固めておこう」という、ボール周辺をあまり考えていないというか、そこまで判断が回らないというような対応になってしまっているので、人はいるが守りきれずに失点というような内容の悪い失点に繋がってしまっているということである。

 85分の千葉の4点目も、岡山が右サイドでプレッシャーをかけきれずに千葉に逆サイドへの展開を許し、途中から入った右SBの安田の突破を徳元が食い止められず(⇒ここも慌てて詰めようとして安田に突破されている)に折り返し、中に人はいるがシューターとなったブワニカに誰も詰められずに得点を許したという形であった。

 後半になってもボールを持つ時間が長かったのは岡山。前半途中からの千葉の5-3-2「気味だった」ブロックは完全に5-3-2のブロックとなり、特に第二ラインの3枚と最終ラインの5枚の間のスペースを埋める意識が高くなったことで、内側~中央のエリアの人口密度が前半以上に増していた。前半の途中から前線とSHの4枚がそのライン間(⇒千葉の中盤と最終ラインの間)でまずボールを受けようとする意図が強くなっていた岡山にとってはありがたくない千葉の守備のてこ入れであった。それでも60分ほどまで、金山へのバックパスを使っての千葉のプレッシャーを引き出すようなCB-CH間でのボール保持と、千葉の最終ラインを引っ張るような動き出しができる山本によって長短のパスを折り交ぜて、主に左サイドの徳元からボールを運ぶ形を作ることもできていた。

 しかし山本が宮崎幾に代わってからは、千葉の最終ラインを引っ張る、押し下げるような動きを起こせる選手がいなくなったことで中央のエリアを固める千葉のブロックに岡山の前線の選手も殺到することで完全に密な状態に。宮崎幾が入ったことで上門が右サイドから左サイドにポジションを変えたことも、中央のエリアに人口密度が高まりすぎてしまう要因となってしまっていた。こうなると岡山の後方からのビルドアップは横幅を使うことを忘れて、どうにか縦パスを入れないといけないという形の横のボールの動きが少なく、かといって縦に出せるわけでもないストレスの溜まるボールの持ち方となってしまっていた。阿部から何度か千葉の最終ラインの背後を取るような(⇒サイドCB-WB間のスペースを狙った)ロングボールが出ていたが、前線の動き出しに合わせて出るのではなく、後方からボールが出たら動くというような攻撃ではなかなか上手く行くことはなかった。そういう動きがあまり得意ではない野口がやらないといけなかったのも厳しかった。

 90分の疋田の得点は、遅すぎたがそれでも中央を固めるブロックの崩しとしては一つの手本となる形ではあった。途中出場の宮崎智のノーステップでの右サイドへのサイドチェンジから逆サイドの下口が速い弾道のクロスを入れるとクロスに合わせた上門のシュートのこぼれ球を疋田が詰めるという形であったが、外を広く使い、緩急をつけてボールを運ぶことでクロスを上げるスペース、シュートを打てるスペースを作ることができるということである。

 試合は2-4で終了。千葉は今季ホーム初勝利、岡山の鬼門突破はまたも来季以降にお預けとなった。

雑感

・「ボールを運ぶ」「素早く相手のボールにプレッシャーをかける」「再度ボールを回収する」という、しっかりと攻守のサイクルが回っている展開でのイケイケ感と、「相手のボールにプレッシャーをかけきれずにオープンサイドに展開を許す」「ボールの回収の形が悪く、結果としてボールを運ぶ形が悪くなる」展開でのバタバタ感と、岡山の考えるグランドデザイン、いわゆるゲームモデルの良さと脆さが同居した内容をこの2試合続けて見ることになっている。まさにダイヤモンドの原石のようなチームであると言えなくもない。どちらかというと脆さのところでキッチリとそのツケを払って失点してしまっているので2試合で2敗することになってしまっているわけであるが。

・選手層の問題だったり今いる選手の経験値の問題だったりで色々なことができない、俗に言うプランAを突き詰めるしかないようなチーム状態だからこそ、「本当にチームにやらせたいこと」を有馬監督はピッチ上で表現させているんじゃないかという仮説。そして選手たちにも迷いはそこまでないように見える。

・それにしても川本の伸び率は凄まじいものがある。本来そういうことができる大器だったのだろうが、右足でも左足でも流れや展開を無視するようなキャノン砲のようなシュートを叩き込んでいるだけでなく、SHやCH、SBの押し上げを促せるようなキープまでできるようになっているのが素晴らしい。

試合情報・ハイライト




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