見出し画像

想定内の攻防戦~J2第3節 ファジアーノ岡山 VS SC相模原~

スタメン

 両チームのスタメンはこちら。

画像1

サイドの手詰まりを解決するには

 J2リーグ参入初年度となる相模原は、ここまでの京都と群馬との2試合では5-3-2という守備的な布陣で相手の攻勢を粘り強く凌ぐという戦い方で、京都相手には負けはしたものの後半途中までスコアレス、そして群馬相手には90分間守りきることに成功。J2の中で勝ち点を拾っていく、そして生き残っていくために必要な術を早くも見つけつつある。ホーム連戦で何とか前節の敗戦のリカバーをしたい岡山としてはそのような特徴の相手に対して、自分たちがボールを持ってどのように攻めていくのか、その選択がポイントとなる試合となった。

 試合開始からの約10分、岡山は後方からボールを繋いでいくというよりはシンプルに齊藤、今季初スタメンとなった川本といった前線の選手にボールを蹴っていく展開となっていた。このときの前線の関係性としては、「前に張っている川本とそこを衛星的に動きつつサイド奥に流れようとする齊藤」という関係になることが多かった。川本はアバウトなボールに対しても相模原の最終ラインの選手、鎌田だったり川崎だったりとのぶつかり合いを厭わず、むしろ好戦的に身体をぶつけてキープしようとしていた。

 立ち上がりのごちゃついた展開で優勢だったのは岡山。前線が競ったセカンドボールに対して上門や関戸が積極的にボールを奪いに行って相模原を押し込む形を作っていった。右サイドの高い位置で獲得したスローインの流れから、ボールサイドに人数をかけてボールを動かし、後方の選手がペナ内に侵入するという今季よく見られる形で白井に決定機が生まれるも、これは相模原のGK三浦に防がれる。岡山の立ち上がりの振る舞いとして、相模原がどう出てくるか(⇒もしかしたら立ち上がりは前からプレッシャーに来るかもしれない)出方をうかがうというのもあったのかもしれないが、前述したようにセカンドボールの争いで岡山はかなり出足が鋭かったので、「後方からボールを持ってくるだろう」という相模原の予測を外すための急戦、立ち上がりの奇襲作戦だった可能性もある。

 立ち上がりの10分ほどを過ぎると、徐々に岡山は後方でボールを落ち着かせる、戦前に多くの人が予想されたような展開が増えるようになっていった。このとき岡山はCBの濱田-井上、CHの白井-喜山の4枚を中心にボールを持つようにしていたのだが、ボールを持たないときの相模原は5-3-2のブロックをハーフラインを頂点にして組む形、ここ2試合とほとんど同じような形をメインの形として取っていた。相模原の第一ラインのホムロと平松は、岡山のビルドアップ隊に対して強いプレッシャーをかけに行くことはほとんどなく、中を割らせないようにする形で中央に留まっていることが多かった。

 岡山が後方でボールを持つときのCBとCHの4枚の関係性は、CHが1枚列を下りて最終ライン3枚を形成し、もう1枚のCHが相模原の第一ライン2枚の背後に立ってボールを動かしていく形がメインになっていた。3-1の関係性でボールを動かして相模原の第一ラインを突破し、5-3のブロックを組む相模原の中盤3枚を動かしていきたい岡山のビルドアップであったが、最終ラインからのボール出しは有効的とは言いがたいものであった。前半の早い時間帯からあまりリスクを負いたくないというのもあったのだろうが、左から白井(喜山が中央にいることが多かったため)-井上-濱田で構成されていた最終ライン3枚の距離が近いことが多く、相模原は第一ラインをあまり動かすことなく岡山のボール保持を監視することができていた。

 相模原の5-3-2のシステムの兼ね合い上、岡山としては大外にポジショニングするSBが浮きやすく(⇒相手にマークされづらい状態になりやすい)、徳元や河野を上手くビルドアップの出口にして前進させていきたいところであったのだが、前述したように岡山のCB-CHの4枚でのボール保持で相模原の第一ラインを動かすことがあまりできていなかったので、SBにボールが出てきたところで相模原はWBの石田や舩木の縦スライド、IHの藤本や清原(前半の早い段階で負傷、星と交代)の横スライドで岡山の横幅を使った展開を早いうち(⇒SBのポジションが低い段階)から捕まえる形を取れていた。プレッシャーを受けた徳元や河野がそこで簡単にボールを失うということはなかったのだが、そこから前に出すというのはなかなか容易ではなく、岡山のボール保持は結局後ろに戻してそこから再び横幅を使った展開をうかがうという、なかなか焦れったいモノになっていた。

 前半の岡山のボール保持がSBに展開してそこから停滞していた、なかなか効果的に前進させることができていなかったのは、なにも後方の選手たちの問題だけではなかった。岡山が後方からボールを前進させようと苦心していたとき、前線の齊藤-川本、SHの上門-関戸といった前の4枚の選手たちは、5-3のブロックを組む相模原の第二ライン3枚と最終ライン5枚の間に立つことで後方からのボールを引き出そうとしていた。確かにパスを通せるスペースができたときに後ろの選手がボールを出したら(⇒特にSBからの斜め前方のパス)、ボールを受けて一気にスピードアップを図れるような互いの距離ではあるのだが、相模原のブロックが動かせていない状況でそういうパスを試みるのはかなりリスキーな行為ではある。実際に濱田が縦パスを通そうとしたところで相模原のIHにボールをカットされるシーンも見られた。

 こういうときに前の選手が相模原の最終ラインの背後に仕掛けるようなオフボールの動きがあれば一つ変わってくるのだが、前半、特に飲水タイムに入るまでの齊藤と川本の関係性はちょっとボヤけていた感は否めなかった。具体的に言うと、ボールを持っている状態でどちらがボールを受けに動くのか、どちらが相模原の背後を狙っていくのか、横並びにならないように、お互いに状況によって役割を交代させていこうとしていたのは分かったが、その役割分担が曖昧だった気がする。

 ボールを持つ時間が長くなった10分前後から飲水タイムまでの時間帯で岡山がチャンスになったのは相模原がボールを回収してそこから攻撃に出ようとしたところを引っ掛けてのカウンター気味の形がほとんどであった。相模原の攻撃は前線のホムロと平松にロングボールを当ててそこからWBやIHがサイド奥を突いていく形がメインであったのだが、相模原の前線をターゲットにしたロングボールに対しては濱田と井上がほとんど競り勝つことができており、そのセカンドボールに対しても中盤の白井と喜山、特に喜山がセカンドボールの頭を押さえて相模原の二次攻撃を抑えることができていたのは良かった。

 ちょっと遅めの飲水タイムを経てから、岡山のボール保持は改善の兆しを見せ始める。ここでキーマンになったのが上門と関戸のSH。特に右の関戸の動きが、それまでは比較的高い位置に留まっていることが多かった(おそらく試合前の指示として与えられていたのだと思う)のが、相模原の第二ラインの手前まで下りたり、最終ラインに近い高さまで下りたりするようになっていった。ここでSHの列を下りる動きでできたスペースを使いだしたのが齊藤。ボヤけていた前線の関係性が、前線に留まる川本と列を下りてパスを引き出そうとする齊藤という縦関係に自然になることが多くなった。

 岡山の前の選手が動きを起こし始めたことで、相模原の5-3のブロックもその動きへの対処を求められるようになる。シンプルにサイドへの出所にプレッシャーをかけに行くことが難しくなった結果、それまで相模原のプレッシャーを受けることが多かった岡山のSBは徐々に解放されるようになっていく。徳元や河野が前を向いてそこから斜めのパスを狙ったり、前の選手と連係して高い位置を取ってクロスを上げたりする形を生み出すことができるようになっていった前半の終わり際であった。前半は0-0のスコアレスで折り返し。

サイドからのノックは実るか

 上門のロングシュート(⇒意外な位置から打つシュートが本当に良いシュートになる選手である)がバーを叩いたり、井上がクリア処理を誤ってそこで抜け出したホムロのシュートがこれもバーを叩いたり、互いに相手ゴールを脅かす形が見られた立ち上がりであったが、基本的には後方からボールを持って前進を図る岡山とそれに対して5-3-2のブロックを組んで構える相模原という、前半と試合の構図は変わらない形で後半も進んでいくことになっていった。ただ後半になっての相模原は、前半よりは攻撃に色気を出すようなシーンがいくつかみられていたのは間違いなかった。岡山からボールを回収したときに前半よりも前線のホムロや平松がサイドに流れて動くことで起点となり、そこでできた時間を利用してWBとIHが攻め上がり、サイドで3対2の局面を作って攻略しようとする意図がうかがえた。

 後半になってからの岡山のボール保持は、前半の飲水タイム明けの展開、川本を頂点にして相模原の最終ラインを引っ張り、その手前のスペースで齊藤、上門、関戸がボールを引き出そうとする形を上手く踏襲することができていた。さらに後ろの選手も前半以上にリスクを取る動き、例えば最終ラインのサイドCB(⇒井上だったり列を下りた白井だったり)が相模原の第一ラインの脇スペースまでボールを持ち出す動きを起こすようになっていた。後半になって全体的に大きくボールを動かす形が見られるようになった岡山は、相模原のWBが横幅を取る徳元や河野に食い付くのを利用して、その背後のスペースを意図的に上門や関戸、または中盤から白井が狙っていく展開も見せるようになっていった。

 攻撃のギアをさらに上げたい有馬監督は宮崎とイヨンジェを同時投入。イヨンジェは投入早々から相模原の最終ラインの背後に仕掛けるオフボールの動きを連発。ここまでメリハリの付いた動きをされると相模原もどうしても後ろに引っ張られてしまい、その手前に中盤の3枚ではどうしても埋めきれないスペースができるようになっていった。ここのスペースで一度宮崎や上門、齊藤らがボールを受けてそこからサイドに展開、相模原のブロックが下がることでより大外の高い位置を取ることができるようになった徳元や河野を使って、サイドの深い位置を取り、そこから中に構えるイヨンジェをターゲットに折り返す形を増やしていった。このように後半になってからの岡山の攻撃は、前半以上にサイドの高い位置を取って、そこから相模原の5-3-2のブロックを攻略していこうとする意図が見えた。その理由としては、中央のエリアに人数をかける相手には大外から運んで引き出したい狙い(⇒攻撃のセオリーでもある)があったというのももちろんだろうが、途中投入されたイヨンジェのパワーを上手く融合させたいというのもあったと思う。

 そんな岡山の攻撃でなかなか面白かったのが、右サイドと左サイドでの非対称な関係性。特に左サイドの流動的な動きとして、上門を囮に白井だったり徳元だったりが中央のエリアの高い位置にまで侵入する形が顕著に見られた。右サイドは宮崎が内側に絞ってフィニッシュに絡みにいく、河野が外側にポジショニングしてクロスを狙うという、役割がある程度ハッキリしているように見えたのだが、左サイドでは上門が中に入るだけでなく大外に立ってボールを受けて、むしろ徳元や白井にどんどん自分を追い越していくことを促すような素振りも見られていた。左サイドでボールを動かし、中央を経由して逆サイドの河野のクロスに徳元がファーサイドで合わせた形なんかはまさにその象徴的な形であったと言える。

 このように両SBを高い位置に上げて、相模原を大外から覆うように押し込んでいこうとした後半の岡山。この形だと必然的に攻撃に人数をかけることになるのだが、前半から常に前線の2枚を前に残してカウンターの牙を残していた相模原に対して岡山は、CBの濱田と井上+中盤の1枚(主に喜山、途中からパウリーニョ)の3枚で相模原のカウンターに上手く対応し、味方が戻る時間を作ることができていた。時間経過とともに行ったり来たりのオープンな展開になっていく中で、特に濱田と井上の両CBは、対人での競り合いやカウンターへのケアなど、ほとんどエラーなく対応することができていた。

 イヨンジェ、宮崎、木村といった攻撃的な選手交代による攻撃のギアチェンジ、サイドからクロス攻勢をかけてセットプレー(CK)を増やしていくなど、ゴール前を固める相模原のブロックに対して何度も何度もノックを続けた岡山であったが、相模原の扉は最後まで開くことはなかった。試合は0-0のスコアレスドローで終了。岡山は最初のホーム連戦で1分け1敗と、成績としては良いものではない形で終えることになった。

総括

・岡山にとっても相模原にとっても、90分間を通してお互いに想定の範囲を越えることのなかった試合だったのではないかと思う。「お互いに想定内」だとすれば最終的に有利なのは守る側であるのは言うまでもない。

・ただ、5-3のブロックを固める相模原に対して「攻めあぐねる中で焦って縦に急いでボールを奪われてカウンターを受ける」というようなありがちなパターンにハマることなく、ある程度腰を据えてボールを保持、時間経過と選手交代で徐々に攻撃のギアを上げていく試合運び、試合のグランドデザイン自体は決してネガティブなものではなかったと思う。こういう言い方はどうかとも思うが、最初の1点が入っていれば何の問題もなく岡山は勝つことができていた気がする。それが入らなかったからこういう結果になったわけであるが。

・カウンターの状態ならスペースができているのでかなりスムーズにペナ内に入り込めるのだが、ボールを持った状態では誰が入るのか、どこのポジションの選手が優先的に入るのか、という部分でどうしても詰まってしまうシーンが散見されるので、個人的には前半後半問わず時間をかけてサイドから押し込んだ状態のとき、ペナ内に侵入する経路をもう少し整理した方が良い気はする。

・一番気がかりなのは2試合連続で無得点に終わった攻撃の部分というよりもむしろ守備のとき。サイドに人数をかけて取り切れず、簡単に広く展開されてボールを運ばれてしまうシーンが散見されているところかもしれない。

試合情報・ハイライト


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?