#1 FabLab(ファブラボ)の理念と実践
note一発目の投稿は「FabAcademy2021」第1回目の授業の紹介です!
今年は新型コロナウイルスの影響で世界中の多くのラボがアクセスを制限している中活動しているそうです。僕は今回FabLab鎌倉のインストラクター見習いとしてFabAcademyに携わることになり、学び直しも兼ね授業の内容を日本語でドキュメンテーションしていこうと思います!(授業の動画は無料で公開されています。下記「Principles and Practices」にリンクを埋め込んでいるのでそちらから御覧ください。)
冒頭、ニール教授から授業の注意事項について説明がありました。
1.生徒は必ずミュートにする
2.質問、コメントはチャットに
3.どうしても質問したい人は「挙手」ボタンを押す(勝手な発言はNG)
ということで、世界各国から200名以上の受講生が同時接続する授業が始まります。
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Principles and Practices
2020、2021年は新型コロナウイルスが各方面に大損害を与える一方で、多くのイノベーションを生み出しました。FabAcademyもこのコロナ禍に対応するために様々な準備を整えており、オンラインでの製作に適した環境を構築する方法を見つけました。なので学生のみなさんがこのパンデミックを恐れる必要はありません。
ここでは「デジタルファブリケーションとは何か」「FabLabとは何か」についてお話します。
人類は「コミュニケーション」と「計算」の分野においてデジタル革命を起こしました。そして「FabAcademy」とは「製造業におけるデジタル革命」です。
この「製造業におけるデジタル革命」とはどういうことか、まずはこの言葉の意味を紐解いていきましょう。
ムーアの法則
さて、「ムーアの法則」という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。ムーアの法則とは、「大規模集積回路(LSI IC)の製造・生産における長期傾向について論じた1つの指標であり、経験則に類する将来予測」のことです。つまり、パソコンの性能が時間ともに急速に成長していくだろうという予想です。これはインテルの創業者の一人であるゴードン・ムーアの論文によって広く知られました。
彼が書いた「Cramming More Components onto Integrated Circuits」は素晴らしい論文です。(ニール教授大絶賛の論文なので、もし興味ある方いればこちらからどうぞ)
その中で彼は一番上のグラフを作りました。青の部分は1960年代初期から1965年までを示しています。彼は、コンピュータチップに搭載できるトランジスタの数をグラフにしました。最初のコンピュータチップは小さかったのですが、だんだん性能が良くなってきたことで、それに比例してどんどんトランジスタを搭載するようになりました。
右側のグラフにある1960~1965年の間をみても何も起きていないように見えますが、左側のグラフをみると、毎年およそ2倍の割合で増大している直線になっています。この法則を見つけた時、ゴードン・ムーアは『短期的には、この増加率が上昇しないまでも、現状を維持することは確実である。より長期的には、増加率はやや不確実であるとはいえ、少なくとも今後10年間ほぼ一定の率を保てないと信ずべき理由は無い。すなわち、1975年までには、最小コストで得られる集積回路の部品数は65,000に達するであろう。私は、それほどにも大規模な回路が1個のウェハー上に構築できるようになると信じている。』と説明しました。
この論文で、彼はこれまで起きた「デジタル革命」の多くを予見していたのです。
さて、右側のグラフでは1960~1965年までは何も起きていないように見えますが、1970年を境に突然変革が起こります。このポイントこそが「デジタル革命」の誕生です。
この素晴らしい論文の中で、ゴードン・ムーアは10年先の予測が間違っていたことを除けば、ほぼすべてのことを的中しています。ゴードン・ムーアが間違っていたのは、「10年」ではなく「50年」だったということです。
青いグラフはムーアの法則を1960~1965年の5年間を示したもので、緑のグラフは1970~2015年の50年間でインテルが生産したメインチップのトランジスタ数をグラフにしたものです。
デジタル革命
これは、世界で最初のパーソナルコンピュータが登場した時代の雑誌です。1975年1月号に掲載された「Altair 8800」は、40万人ほどの読者の注目を集めました。それまでの家庭用コンピュータは、100台売れれば良っかた中で、Altairは初年度に数千台を販売するほど人気を集めたのです。
さて、右側のグラフでは先ほどと同様に1970~1990年代には何も起きていないように見えますが、2000年頃から爆発的な勢いでグラフが変化していることがわかります。ちょうどこの頃にインターネットやスマートフォンなどが登場しました。
しかし、左側のグラフを見てみると、1960年代と同様に毎年およそ5倍の割合で増大している直線になっています。
そして最後の赤いグラフ。これはFabLabの設置数をグラフにしたものです。これを見るとこの10年で他のデジタルシステムと同様に、FabLabの数も倍増していることがわかります。
これは「アクティビジョン」というゲームスタジオを経営していた弟のアレン・ガーシェンフェルドと、全米労働関係機関の委員長だったジョエル・ガーシェンフェルドと一緒に書いた「デジタルファブリケーションが50年後も続くとどういうことが起こるのか」をテーマにした本です。
この50年を「第三のデジタル革命」と名付け「誰でも(ほとんど)何でも作れるようになる」と予測していますが、実はこれがとても危険なことでもあるのです。
コンピューティングと通信分野における2つのデジタル革命は、私たちの経済と生活を根本的に変えてきました。今日の3Dプリンターは、データをオブジェクトに変換するためのトレンドの始まりに過ぎず、その数はFabLabと同様に指数関数的に加速しています。(赤いグラフ参照)
スタートレックに出てくるリプリケーターのように、将来的にデジタルファブリケーションは、自給自足の都市と(ほとんど)何でも作れる能力を約束してくれますが、大規模な不平等をもたらす可能性もあります。私たちは、デジタルファブリケーションが幸運な一部の人たちだけではなく、すべての人に利益をもたらすように、社会を積極的に形成しなければなりません。社会がテクノロジーをどのように受け入れるかを前もって考えなければ、雇用の喪失や、ものを作るというコア・コンピテンシー(競合相手に真似できない核となる能力)の空洞化が起こる可能性があるのです。
「Designing Reality」は、第3のデジタル革命から生き残る方法だけでなく、私たちを約束の地へ導いてくれるガイドブックでもあります。
1952年のデジタルファブリケーション
MIT(マサチューセッツ工科大学)は製造機を制御する最初のコンピュータを作りました。それが初期の直結型コンピュータです。またリアルタイムインタラクションを用いる最初のコンピュータでした。彼らはそれをフライス盤に接続しました。当時、コンピュータとフライス盤の世界は全く交わることがありませんでしたが、2つの世界を繋ぐジェット機が登場したのです。それがこれ(上写真)です。
当時、手作業でクランクを回して作るのが難しい部品があり、そこでこのコンピュータをフライス盤と接続して、製造を自動化しようというアイデアが生まれました。
これは「Whirlwind Computer」という部屋を埋め尽くすほど巨大なコンピュータです。
Whirlwind Computer
第二次世界大戦中、アメリカ海軍はMITに爆撃機の乗組員を訓練するためのフライトシミュレータを制御するコンピュータの開発が可能か打診しました。彼らが想定していたのは、パイロットの操作に基づいて計器盤の表示を継続的にシミュレートするという単純なコンピュータでしたが、実際は空気力学的モデルに基づいた実物に限りなく近いものであり、様々な航空機の訓練に使えるレベルのものでした。
MITの研究室はこのシステムは開発可能であるとの結論に至り、それを受けて海軍は「Project Whirlwind」の名前で資金提供を決定しました。
当時のコンピュータは一度にひとつのタスクを実行するバッチ処理用に開発されていました。入力データが事前に用意され、コンピュータがそれを使って計算を行い、結果を出力する。しかしこれではWhirlwindシステムには不十分だったことから、部品を追加する代わりにプログラムを追加するデジタル式コンピュータの開発に切り替えました。
(引用:Wikipedia)
「Whirlwind Computer」はリアルタイム処理を念頭に置いた世界初のコンピュータであり、出力機器として世界初のモニター端末を使い、従来の機械システムの電子的置換ではない初めてのシステムと言われています。その開発は、直接的にはアメリカ空軍のSAGEシステムに受け継がれ、間接的には1960年代の商用コンピュータに影響を及ぼしたと言われています。
「Project Whirlwind」のメンバーの一人にヴァニーヴァー・ブッシュがいました。彼は戦後、米国科学財団(NSF)を設立し、情報検索システム「メメックス(memex) 」構想を提唱したとして知られています。
「メメックス(memex) 」は情報検索システムとして、後に登場するパーソナルコンピュータやコンピュータのユーザーインターフェイス、Webブラウザなどで広く利用されているハイパーテキストの概念に大きな影響を与えたと言われています。
(引用:Wikipedia)
ヴァニーヴァー・ブッシュは、MITに教授として在職中に「18変数の微分方程式を解くことが出来るアナログコンピュータである微分解析機」を開発していました。そのときの教え子の一人であるクロード・シャノンは、20世紀科学史における最も影響を与えた科学者の一人と言われています。
彼が情報理論の考案者であり、デジタル回路・論理回路の概念を確立したと言っても過言ではありません。
「デジタル」という言葉には本当に深い意味があります。
クロード・シャノンは、例えば私の声をアナログの波にして電線に送れば今すぐみなさんと話すことができるということを示しました。
これはノイズ(雑音)を蓄積すれば私の声を伝えることができ、また、それを刻んで符号にすることで、遠く離れたみなさんへ送ることもでき、みなさんはその符号を解読することもできるということです。
ノイズ(雑音)がない通信路で効率よく情報を伝送するための符号化(「情報源符号化定理」または「シャノンの第一基本定理」)と、ノイズがある通信路で正確に情報を伝送するための誤り訂正符号(「通信路符号化定理」または「シャノンの第二基本定理」)という現在のデータ伝送での最も重要な概念を導入した。これらはそれぞれデータ圧縮の分野と誤り訂正符号の分野の基礎理論となっている。通信路符号化定理は単一通信路あたりの伝送容量に上限があることを意味する。
これらの定理は現在、携帯電話などでの通信技術の基礎理論となっており、その後の情報革命と呼ばれる情報技術の急速な発展に結びついている。
(引用:Wikipedia)
デジタルとは、シンボル内のリソースが直線的に増加すると、デコードのエラーが指数関数的に減少することを意味します。工学の世界において、これは最も重要な指数です。また、信頼性の低いデバイスが信頼性を持って動作できるということを意味します。
デジタルの本当の意味は、1や0ではなく誤差指数関数的な拡大を表します。
これが現代のデジタルの概念です。
ジョン・フォン・ノイマンはシャノンの基本定理をコンピュータに応用して、コンピュータが符号を使ってデコードしたかどうかを示しました。
EDVAC開発に参加した際、プログラム内蔵方式に関して書いた文書(EDVACに関する報告書の第一草稿)にフォン・ノイマンの名前しか書かれていなかったため、ストアードプログラム方式の考案者であると言われていた。その方式は「ノイマン型コンピュータ」とも言われ、現在のほとんどのコンピュータの動作原理である。アラン・チューリング、クロード・シャノンらとともに、現在のコンピュータの基礎を築いた功績者とされている。
(引用:Wikipedia)
コンピュータは信頼できないかもしれませんが、結果は信頼できるかもしれません。今日、私たちがコンピュータの画面を見ながらインターネットでデータを取得しているようなことを可能にしたのは、彼ら2人の偉大な識見のおかげなのです。
40億年前のものづくり革命
製造業におけるデジタル発明の紀元は1952年のMITではありません。
実際は40億年前まで遡ります。
これは私のお気に入りのタンパク質を作る生物マシン「根茎」(写真左)です。これはリボソームの中に伝令RNAが入ってきた時、アミノ酸を結合させタンパク質を作り出すというプログラムで動いています。例えば筋肉にあるリボソームは腕を動かす時にタンパク質を作るマシンであり、犬が部屋の外に出ていたことを嗅ぎ分ける私の鼻には臭いセンサーが搭載されています。 私はこれらすべてがプロセッサで、すべてのマシン、センサーのプログラムは脳で作られていると考えています。そして、興味深いことにリボソームは概念的にデジタルだということです。
リボソーム・・・あらゆる生物の細胞内に存在する構造
伝令RNA・・・蛋白質に翻訳され得る塩基配列情報と構造を持ったRNAのことであり、DNAに比べてその長さは短い
(引用:Wikipedia)
(写真右側)これらはあなたの体が作り出しているアミノ酸です。主要なものとして20種のアミノ酸が描かれていますが、これらは特別なものではなく典型的なものです。アミノ酸は塩基性、酸性、疎水性、親水性などの性質を持っており、リボソームはこれらのマシンを作るためにコードを読み込んで組み立てを行い、そしてエラーを検出して修正します。
リボソームは、クロード・シャノンやジョン・フォン・ノイマンが提唱してきた「任意の記述のコピーを作成できる万能コピー機」のようなことを全て行いますが、それは計算や通信のためではなく「製造」のためなのです。
つまり、生物学は概念的にはデジタルなのです。
CBAの卒業生
私がMITで運営している「The Center for Bits and Atoms」という研究室は、 デジタルとフィジカルの境界を研究するために設立されました。
私たちが行ってきた研究によって、古典的な量子計算よりも高速な計算を初めて実現しました。物質がどのようにして暗号化できるか、流体がどのようにして論理化できるかを示したのです。
また、私たちは人工生命体の設計、コンピュータの中の生命体の設計、 人工生物の設計、IoT(モノのインターネット化)と呼ばれるものの一部を生み出しました。
これらのスキルを学んだ学生の中には、今日に至るまで動いているFacebookやTwitterのコンピュータシステムを構築した人もいます。
学生の1人であるマヌ・プラカシュが50セントの折り紙顕微鏡も教育業界にインパクトを与えました。
「The Center for Bits and Atoms」出身である彼らが、デジタルとフィジカルの境界線上にある様々な分野の創造に貢献してきたのです。
研究に必要な道具
The Center for Bits and Atoms(CBA)は米国科学財団(NSF)に「何でも作れるように道具を揃えた施設を用意する」提案をするところから始まりました。
そこで私たちは、ナノスケールの計測とパターニング、 微細構造物の計測とパターニング、マクロ構造のマクロ計測とパターニングをそれぞれ研究できる道具を揃えました。通常、これらのツールは分野や長さのスケールごとに分かれていますが、私たちはデジタルがどのようにフィジカルになり、フィジカルなものがどのようにデジタルになっていくのかを研究するために、これらのツールをすべて取り揃えました。
(ほぼ)なんでも作れる授業
研究室ができた時、私たちは 「How to make almost anything(ほぼなんでも作れる)」という授業を始めました。これは決して挑発的な意味の授業ではなく、ほんの数名の研究生が道具を使い方を学ぶことを目的としたものでした。そのため、私たちは当初この授業にMITの学生数百名が受講したがっているという反応を想定していませんでした。しかし、私はこの「ほぼなんでも作れる」授業が学生の大学で本当に学びたかったことなんだと気付いたのです。そして、授業の中で彼らは様々な素晴らしいプロジェクトを提案してくれました。
例えば(写真中央上段)これは親がネットサーフィンをするためのウェブブラウザで、(写真左下段)これは目覚まし時計、(写真右下段)これは不審者が近づいてきたときに自分のパーソナルスペースを守るためのドレスです。
特に印象的だったのが「Scream Body」(写真右上段)という作品です。ストレスを発散するために大声を出したい時があっても周りに人がいたり、公共空間だった場合そのようなことはできません。そこで「Scream Body」に口を当てれば周囲に気づかれず大声を出すことができ、そこで蓄音した声を交差点などの騒がしい場所で再生(捨てる)ことができるのです。製作者のケリーは彫刻家であり、電子工作やプログラミングの前提知識は全くなく理系の背景も素養もありませんでした。しかしこの授業ですべてを学び、外装設計から内部機構、電子回路、プログラミングまでのすべてを自力でやり遂げたのです。(動画10:17〜11:18)
「Scream Body」は市場のニーズを満たすものではなく、彼女自身のために作られたプロジェクトです。その後、彼女は「RISD(Rhode Island School for Design)」のデジタルデザインプログラムを率い、Googleのラピッドプロトタイピングの取り組みではプロジェクトリーダーとして主導的な役割を果たしました。
こうして「How To Make (almost) Anything(ほぼなんでも作れる授業)」は何年にもわたって、数百人以上の学生が参加する授業へと成長していきました。さらに、MITの枠を超えてハーバード大学の学生がこの授業に参加するための研究室もできたのです。
コンピュータの歴史
コンピュータの歴史とデジタルファブリケーションには、実に興味深いパラレルな関係があります。冒頭で紹介した「Whirlwind Computer」はリアルタイム処理を念頭に置いた世界初のコンピュータであり、MITはこれをトランジスタ化(それまで使われていた「真空管」に代わって、信号を増幅またはスイッチングすることができる半導体素子である「トランジスタ」が1940年代末に実用化)した「TX-0コンピュータ」を産み出しました。
TX-0コンピュータとは
Transistorized EXperimental computer zero:以下「TX-0」はMITのリンカーン研究所で開発された。TX-0は初期の完全トランジスタ式コンピュータのひとつで、当時としては大規模な64K×18ビットワードの磁気コアメモリを備えていた。1956年に稼動を開始し、1960年代まで使われた。tixoとも呼ばれる。
トランジスタ化設計と大規模磁気コアメモリシステムの実験のために設計されたもので、TX-0の基本設計はリンカーン研究所が以前に設計した有名なWhirlwind Computer(以下「Whirlwind」)をトランジスタ化したものである。Whirlwindが大きな建物のフロア全体を占めるような大きさであったのに対して、TX-0はそれなりの部屋に収まり、しかも高速だった。Whirlwindと同様TX-0にもディスプレイシステムが装備されていた。12インチのオシロスコープを装備していて、7インチ×7インチの範囲に512×512ピクセルの表示ができた。
(引用:Wikipedia)
リンカーン研究所とは
1951年にマサチューセッツ工科大学とアメリカ国防総省の出資で設立した研究所である。空防を専門とする研究所は立てられないかと1950年にマサチューセッツ大学でチャールズ計画 (Project Charles) という名称で検討が行われ、「リンカーン計画」 (Project Lincoln) として発足した(後にリンカーン研究所と改名)。
(引用:Wikipedia)
その後、TX-0コンピュータはPDP(Programmed Data Processor)シリーズと呼ばれるDEC製品に大きな影響を与えました。
これはベル研究所で、ケン・トンプソンとデニス・リッチーが「UNIX(ユニックス)」を開発していた当時の写真です。
ベル研究所とは
アメリカ合衆国の通信研究所である。
もともとベル・システム社(英語版)の研究開発部門として設立された研究所であり、現在はノキアの子会社である。
(引用:Wikipedia)
ケン・トンプソン(写真:左)
アメリカの計算機科学者。長くベル研究所に勤め、UNIXのオリジナル開発者の一人であるほか、B言語(Multicsプロジェクトに関わっていたころ、UNIX開発に使ったBCPLをベースとしている)の開発者としても知られている。
(引用:Wikipedia)
デニス・リッチー
アメリカ合衆国の計算機科学者。コンピュータ言語のC言語を開発し、ケン・トンプソンと共にオペレーティングシステム(OS)であるUNIX、Multicsなどの開発者として知られる。2007年に引退するまで、ルーセント・テクノロジーズのシステムソフトウェア研究部門を指揮していた。
(引用:Wikipedia)
UNIXは「コンピュータ用のマルチタスク・マルチユーザーのオペレーティングシステム」の一種で、これは私たちが現在使っているスマートフォンやデスクトップコンピュータなどのOSの始祖であり、あらゆる後発OSがUNIXで発明・実証された設計を参考にしています。
開発開始から半世紀以上に渡る技術の進歩やプロジェクトの変遷により、オリジナルのUNIXのソースコードは既に使われなくなったが、現在でも派生OSの開発は続けられており、特にシステムのバックエンドで動くスーパーコンピュータやサーバ向けの市場では圧倒的な存在感を示している。
当初はアセンブリ言語のみで開発されたが、1973年にほぼ全体をC言語で書き直した。このため、UNIXは歴史上、初めて高水準言語で書かれたOSであると言われることがある。
1973年の段階ではPDP-11に依存したコードが多く、移植性は低かったが、その後徐々にPDP-11に依存したコードを減少させ、1978年にInterdata 8/32への移植に成功して以降、徐々に他のプラットフォームにも移植されていった。
(引用:Wikipedia)
開発初期のPDPである「PDP-1(写真:上)」は基本構成で12万ドルで販売され、設置した部屋を埋め尽くすサイズでした。PDPシリーズは企業など巨大な組織の基幹業務用などに使用される大型コンピュータとは違い、研究室や設計室のような環境でも運用利用できるミニコンピュータ市場を切り開きました。
当時ベル研究所内に使われない状態でおいてあったPDP-7を借りて行われたUNIXの運用実験によってファイルシステムが完成すると、それを活用するためのユーティリティを作成していった。こうして、おおむねOSの機能を有するものができあがった。しかし、PDP-7は古いマシンであり問題が多かった。このため、開発グループでは、当時の最新機種であったPDP-11を購入し、その上でUNIXが動作するようになった。 1971年のUNIXバージョン1はPDP-11/20上で動作した。
(引用:Wikipedia)
UNIXオペレーティングシステムは、PDPシリーズを使った開発によってサーバやワークステーションだけでなく、携帯機器でも広く使われるようになりました。また個々のコンピュータ処理を、ネットワークで連係されたコンピュータ処理に変革したことで、インターネット構築の重要な要素ともなったのです。
このような意味でコンピューティングを身近なものにしたのがPDPシリーズでした。
ミニコンピュータ(ミニコン)とは
コンピュータがまだ黎明時代を過ぎたばかりの1960年代では、コンピュータという言葉はメインフレームのことを指していた。メインフレームは運用に大規模な設備を必要とする大型コンピュータであったが、これに対して研究室や設計室のような環境でも運用利用できる小型のコンピュータをミニコンピュータ (ミニコン) と呼んだ。
当時としては小型であったが、現代のパソコンなどと比べればかなり大きい。 小さめのミニコン本体で家庭用冷蔵庫の半分くらい、大きめミニコン本体では家庭用冷蔵庫よりも大きいものもある。磁気テープ装置、拡張ハードディスク、各種入出力装置などを加えると、より大規模になる。
1960年代に登場したディジタル・イクイップメント社 (DEC) のPDPシリーズ(特にPDP-8)でミニコンピュータ (ミニコン) という分野が築かれ、PDP-8やPDP-11はミニコンの代表的なものとなった。
(引用:Wikipedia)
個人が自宅にコンピュータを持つ理由はない(1977)
さて、ここからが本題です。
PDPシリーズはリンカーン研究所の元技術者だったケン・オルセンがマサチューセッツ州メイナードに設立したDEC社(Digital Equipment Corporation)が販売したミニコンピュータです。当初はミニコンピュータ市場に集中したため、DEC社は強力なライバルのいない市場で成長することができたようです。
1960年代にはPDPシリーズ、特に世界初の成功したミニコンピュータと言われるPDP-8が人気となり、1970年に発売したPDP-11はそれまでの小型機に取って代わり、DECはコンピュータ業界での地位を確立。PDP-11の後継として設計されたVAX-11は、32ビットミニコンピュータのさきがけとなり、「スーパーミニコンピュータ」とも呼ばれた。
(引用:Wikipedia)
また、PDP-8のチーフエンジニアだったエドソン・デ・カストロがDEC社を退職後、ボストンにDG社 (Data General) を設立し同じくミニコンピュータの製造販売を行っていました。
1960年〜1980年にかけてミニコンピュータ市場は急速な成長を遂げましたが、1980年代後半にパーソナルコンピュータ市場が成長し、1990年代には強力な32ビットシステムがいくつも登場するようになると、DEC社やDG社のシェアは素早く侵食され始めました。
その後、DEC社はコンパック・コンピュータ・コーポレーション (Compaq Computer Corporation) に買収され、Compaqはヒューレット・パッカード (Hewlett-Packard Company=HP)に買収されました。
ケン・オルソンは1977年に「個人が自宅にコンピュータを持つ理由はない」という有名な言葉を残しています。この言葉はコンピュータが家庭に普及した時代になってからは「赤っ恥の預言」と表現され、将来を見通しそこねたものとみなして引用されてきました。しかし、彼が想定していたコンピュータというのは、PCのようなものではなく、SFに出てくるようなホームオートメーションのことでした。
照明や室温などの「室内環境」制御、扉や窓などの「開口部」制御、防犯防火のための「セキュリティシステム」などを住宅に適用したモノを一般的に「ファクトリーオートメーション (FA)」や「オフィスオートメーション (OA)」になぞらえ『ホームオートメーション(略称 : HA)』と呼んできた。
照明や空調の一括管理、風呂の遠隔自動給湯、セキュリティの確認以外にも、宅内映画館と言えるホームシアターの制御、観葉植物への自動散水やペットへの自動給餌などもHAに含まれ、それらを制御するための「統合リモコン」などのハンドヘルドユニット、もしくはTVやパソコン上などから制御状況を確認・指示できるユーザフレンドリーな「ユーザインタフェース (UI)」持つモノを指す。
(引用:Wikipedia)
しかし、近年IoT化(Internet of Thing)による『スマートハウス(もしくは「スマート住宅」)』の登場によって、彼は再び将来を見通しそこねたと言わざるを得ません。
パーソナルファブリケーション
もはやパーソナルコンピュータは、在庫管理や給与計算をするための機械ではなく、あなた自身を形成するすべてを担っているでしょう。同じように「How to make almost anything」に参加した学生たちは、デジタルファブリケーションの決定版がパーソナルファブリケーションであることを示していました。
パーソナルファブリケーション(Personal Fabrication)とは
MITメディアラボのN・ガーシェンフェルドらが提唱する、コンピュータやネットワークを取り入れた個人によるものづくりを指す。コンピュータによってさまざまなツールを自動化しつつ、そのノウハウをインターネットで広く共有することで、個人がより容易に、高度な創作に取り組むことができるという発想にもとづいている。パーソナル・ファブリケーションは企業による大規模大量生産を示すマス・プロダクションと対比して使われる語でもあり、これまでのDIY(Do It Yourself)/DIWO(Do It With Others)実践の延長として、多品種少量生産による産業構造の確立という理念をもっている。
(引用:artscape)
MITにある私の研究室には、電子顕微鏡やX線断層撮影装置などの1,000万ドルの機械があります。そして、作業場には10万ドルのマシニングセンタ(自動工具交換機能を有したNCフライス盤)やウォータージェットカッター、高出力レーザー加工機などがあります。ShopBotなど1万ドルの機械は主に授業の中で使います。そして、それらを使って1,000ドルや100ドル程度の工作機械を作ることができます。
このようなヒエラルキーがファブラボのアイデアにつながったのです。
1952年、ひとつの地球に対して1台のWhirlwind Computerと数値制御のフライス盤が1台ありました。
その後ミニコンピュータが1000台ほど普及する頃には地球上にはおよそ1000の都市ができました。そして現在、様々な地域に約数千のファブラボがあります。そしてファブラボを設立するとフルサイズで約10万ドルのコストが発生し、部屋の中を工作機械などが埋め尽くします。これはミニコンピュータとほぼ同じ数値です。
しかし、PDPシリーズが時を超えてスマートフォンになったのと同じように、今のファブラボのカタチがその最終形ではありません。ファブラボ全体をみてみると、データを受信し製品が出力され、製品を元にデータを出力しており、これがインターネットを使ったデジタルファブリケーションです。
このように、ファブラボは当時のPDPシリーズのようにコストがかかり仕組みも複雑です。あの時と同じように、現在のデジタルファブリケーションからでは将来の予測はできません。
インターネットが生まれてわずか20年足らずでiPhoneが発明されたわけですから。
FabLabのマスターナラティブ
製作:ジェス・ディラン(ボブ・ディランの息子)
マスターナラティブ(Master Narrative)・・・コミュニティを超えて、社会的に機能するイデオロギー、文化的習慣やマナー、ルールを現すストーリーのこと。
ファブラボで作れるもの
これはFabLab Islandの写真です。この写真からわかるように、現在ファブラボには3Dプリンターだけではなく、大型機械加工のための精密機械ツール、レーザーカッター、ビニールカッター、複合材の積層、成形・鋳造設計ツール、電子機器の構築、ミシン、これらすべてを合わせて約10種類の加工作業が必要とされています。
これらの機械があれば工場や研究室を使わなくても、オリジナルのスケートボードやカヤック、自転車、また、FabLab Barcelonaで作られたファブハウス、FabLab AfghanistanのFab-Fi、インターネット・コンピュータ端末、ヘルスケア機器、家電製品、生産用治工具など、すべてファブラボで作ることができます。
FabAcademyではこれらすべてのものを作る方法を教えます。
世界で最初のファブラボ
ファブラボは「How to make almost anything」のアウトリーチ活動としてアメリカ国立科学財団(National Science Foundation:NSF)から出資を受け始まったプロジェクトでした。私たちはボストンの低所得者層のためのコミュニティプログラムや施設の創設に積極的に取り組んでいたメル・キング氏と協力し最初のファブラボを立ち上げたのです。
メル・キング氏は、現代の複合型都市開発の概念を発明した先駆者です。そして彼は、この最初のファブラボをボストン市内の比較的低所得者層の住む「テント・シティ」というエリアに導入することに尽力しました。こうして世界で最初にできたのがサウスエンド・テクノロジーセンター(FabLab Boston)でした。
ボストンの設立支援で私たち(Center for Bits and Atoms:CBA)の活動は終わるはずでしたが、このボストンのコミュニティにはガーナとの強いつながりがあり、それがきっかけとなってセコンディ=タコラディ (Sekondi-Takoradi) にもファブラボを設置することになったのです。また、南アフリカ共和国とのつながりから、プレトリアにもファブラボが導入されました。さらに、そこからまた別のつながりが生まれ、ノルウェーの北部にもファブラボできました。こうして新しいファブラボがオープンするたびに別の場所にファブラボができていくようになりました。ファブラボの世界地図(上写真)をみてわかるように、10年以上に渡ってファブラボの数が倍々で増え続けているのです。私は世界中のこの反応を予想していませんでした。
パンデミックとファブラボ
これは最近私たちが行った別のプログラムで、パンデミックへの対応を雑誌に掲載したものです。下はインタビュー動画。(記事はこちら)
ニール・ガーシェンフェルド博士は、2005年に出版した著書『Fab』の中で、パーソナル・コンピューティングからパーソナル・ファブリケーションへの移行、そしてネットワークによる製造の分散化を予測しました。
ファブラボネットワークは、ニール氏のビジョンを実現するための実験です。現在、COVID-19の危機を受けて、世界中のファブラボやメイカースペースでは、デジタルファブリケーションのためのツールが広く普及しているため、それぞれのコミュニティで再現可能なデザインが共有されています。 COVID-19に対する市民の反応を形成する上で、ニール氏のビジョンが強力な役割を果たしていることについて、ニール氏がどのように考えているかをお聞きしたいと思います。
Nation of MakersのDorothy Jones-Davis氏とMake: CommunityのDale Dougherty氏と共に、ゲストパネリストとメイカーコミュニティとのオープンディスカッションを行います。
このイベントのパネリストは以下の通りです。
・Dr. Neil Gershenfeld of MIT Center for Bit and Atoms
・Sherry Lassiter, Executive Director of the Fab Foundation
・Zach Fredin has been working on rapid-prototyping responses
・Camron Blackburn has been working on lab measurements of rapid-prototyping responses
・Tim Butterworth – Artisans Asylum
・Megan J. Smith has been working on the civic response
・Danny Beesley – College of Alameda Fab Lab
(翻訳:Watch our Live Panel With Neil Gershenfeld About Fab Labs)
世界のファブラボ紹介
FabLab Incite Focus
ブレア・エヴァンス(Blair Evans)は、デトロイトに設立したファブラボ「Incite Focus」で、10代の妊娠、少年法などリスクを抱えた若者を対象に、ラボのツールを提供してきました。彼は、子供たちに社会的なサービス(医療、福祉など)だけでなく、技術的な知識を身につけるためのプログラムも提供することで、彼らの人生をより良いものに向上させることができたと話しています。また、都市の中心部にファブラボを設置し、周辺エリアにミニラボを配置することで工場の技術を必要な場所に近づけることができるだけでなく、多くの貧困国で問題となっている農村部から都市部への移住を助長することなく、人々をその場所に留めることができると考えています。
FabLab Alaska
アラスカの先住民たちは素晴らしい文化的伝統を持っています。しかし、アルコール依存症や自殺、失業などの深刻な問題も抱えており、子供たちはビデオゲームに多くの時間を費やしています。そこで、クック・インレット部族評議会(Cook Inlet Tribal Council:CITC)と共同研究としてアラスカ先住民の伝統的な工芸品と現代的なデジタルファブリケーションを融合させたファブラボを作りました。
クック・インレット部族評議会(Cook Inlet Tribal Council:CITC)
クック・インレット地域に住むアラスカ先住民やネイティブ・アメリカンに社会的、教育的、雇用的サービスを提供している。
FabLab Haystack
「Haystack」の歴史は1950年にネイティブ・アメリカンのクラフトスクールとして、それぞれの伝統工芸分野のトップの人たちが集まってスタートしたところから始まります。ここは吹きガラス、鍛冶屋、木工、陶芸、金属加工などができる施設になっています。海のような輝きを持つスランピングガラスを作るための道具を作ったり、印刷工房では凹版印刷を行っていましたが、これを作るのは非常に困難だったので、私たちはPCBボードを削って凹版印刷の版を作りました。ラボにはAdobe Illustratorのようなデザインツールがないのも特徴です。このように、ファブラボHaystackでは伝統工芸と素晴らしいアーティストの作品をデジタルファブリケーションツールで融合させています。
スランピングガラス(slump grass)
スランプ(slump)とは落ちるという意味で、熱を加えることでガラスが自重で墜ち、型に沿わして成形する技法を「スランピング」という。
ガラス温度が600℃以上になると柔らかく飴板状態になり、型に沿ったまま平常温度まで冷ましてやると曲げ加工が出来上がる。
FabLab Bhutan
これはブータン王国とのプロジェクトで記念撮影した写真です。私の隣にいるのはブータン王国首相のツェリン・トブゲイ氏です。彼はTED TALKの中でこの国のことを十分理解できる素晴らしい講演をしているのでぜひ観てください。
中国とインドの国境、ヒマラヤ山脈の奥深くに位置するブータン王国は、永遠にカーボンニュートラルであり続けることを誓っています。つまり二酸化炭素を排出しないということです。しかし、特に興味深いのはGDP(国内総生産)ではなく、GNH(国民総幸福量)を国家の指標にしています。ブータン王国は経済成長よりも国民の幸福を優先しているのです。GNH(国民総幸福量)は、精神面での豊かさの「値」を「1.心理的幸福、2.健康、3.教育、4.文化、5.環境、6.コミュニティー、7.良い統治、8.生活水準、9.自分の時間の使い方」という9つの要素で構成し、国民の社会・文化生活を国際社会の中で評価・比較・考察することを目的とする尺度です。これは、国民一人当たりの幸福を最大化することによって社会全体の幸福を最大化することを目指すべきだとする考えから誕生しました。
しかし、彼らは国内生産能力がほとんどなく、中国やインド、日本から輸入しなければならないという状態でした。そこで私たちは、GNH(国民総幸福量)を物理的に具現化するために、持続可能な現地生産が可能なファブラボを設立しました。記念撮影の前に、私たちは彼らにビニールカッターを使ってスクリーン印刷を作る方法を教えました。すると彼らはすぐに、オープニングセレモニー用のラボTシャツを全員分作ってきました。(FabLab Bhutan)
Floating FabLab Amazon
これはアマゾンの熱帯雨林にファブラボを作るプロジェクトで、川や支流をナビゲートして、地域社会や国際社会の架け橋となることを目指しています。
WHO WE ARE?
Floating FabLab Amazon (Rainforest)は、2015年にFabLab Peruが立ち上げた包括的な共同プロジェクトで、FabFoundation、Center For Bits and Atoms - MIT、そしてFabLabのグローバルコミュニティがサポートしている。
その目的は、アマゾンと地球の持続可能性に貢献すること。
生物多様性と地域の知識をグローバルな破壊的イノベーション(従来の価値基準のもとではむしろ性能を低下させるが、新しい価値基準の下では従来製品よりも優れた特長を持つ新技術のこと)と統合することで、新たな代替グリーン経済を創造していく。
WHAT WE DO?
私たちは、アマゾンの重要な社会的・生態的課題に対して、地域社会とグローバルコミュニティとの共創・共同作業を通じて、最新の技術やデジタル製造能力をアマゾンの領域内に統合し、革新的で包括的なソリューションを開発しています。
これらのプロジェクトは、デジタルマニュファクチャリング、バイオテクノロジー、ロボティクスなどの新技術と地域の知識の統合に基づいており、アマゾンの住民の生活の質を向上させ、アマゾンの熱帯雨林と地球の生物多様性の持続可能性に向けたグローバルコミュニティのコミットメントを強化しています。
THE CHALLENGE
世界の中心に位置するアマゾンは、生物多様性と多文化性の両方において地球上で最も豊かな地域のひとつであり、地球の持続可能性に多大な貢献をしています(地球の酸化源の20%、二酸化炭素の貯蔵量の10%、西洋の医薬品の25%は熱帯雨林生まれの植物に由来していますが、熱帯雨林にある植物のうち科学的にテストされたものはわずか1%です...)が、同時に地球温暖化の影響を最も受けている地域のひとつでもあります。森林火災、森林伐採、種の大量絶滅、先住民のコミュニティがアマゾンを脅かしており、人口のほとんどが教育、健康、基本的な公共サービス(きれいな水、電気、インターネット...)にアクセスできません。
(引用:Floating FabLab Amazon)
FabLab Austral
これは地球最南端の都市 Puerto Williamsにあるファブラボ Australです。私たちはSolidWorks社と連携し、毎年世界中の興味深い地域にファブラボを寄贈しています。このラボは私たちが南極へ行くための最後のステップとなる実験場なのです。南極はサプライチェーンがひどく、何かを手に入れるのは非常に困難です。しかし、そこには素晴らしい天然資源があります。このような研究室を維持するために、天然資源をどのように利用できるかを幅広く検討しています。
MISSION
地域社会、生態系、科学、芸術、デジタル技術に焦点を当て、サプライチェーンの末端で、地域に根ざした自律的な創造性と生産のハブとなること。
人づくり、サステナビリティ、プロトタイピング、リサーチをベースにしたデジタル文化の創造。ローカルなニーズとグローバルなネットワークやインフラを結びつける。
VISION
持続可能で、協力的で、自律的で、分散型の創造をめぐるコミュニティを作る。意義のある解決策や介入策の回復力、製作、実施を促進する。エコシステム指向のデザインプロセスを通じて展開する。
(引用:FabLab Austral)
FabLab Nerve Centre
これは、北アイルランドのDerryにあるファブラボ Nerve Centreです。北アイルランドでは昔から民族・宗教対立によって紛争や戦争が続き、1998年の和平交渉が締結するまで多く後が流れた場所でした。またプロテスタント教徒とカトリック教徒が住む地域を分断していた壁が、現在では「平和の壁」と呼ばれ、今でも街の中にその名残を残しています。しかし、ファブラボの中では双方の人々が一緒になって共同作業を行うことができる場所になっています。
The Nerve Centreは、北アイルランドを代表するクリエイティブ・メディア・アートセンターです。年間12万人以上の人々が、芸術イベント、最先端のプロジェクト、クリエイティブな学習センター、トレーニングの機会、最先端の制作施設など、ナーブセンターの幅広いプログラムの恩恵を受けています。社会的経済事業として成功しているNerve Centreは、デリー~ロンドンデリーとベルファストにある施設で40人以上のスタッフを雇用しています。
(引用:FabLab Nerve Centre)
FabLab IL
Fab Lab ILはイスラエルに初めてできたファブラボで、COMAS(College of Management Academic Studies)のデザイン部門と、ホロンにあるIsraeli Center for Digital Artとのコラボレーションで立ち上げられました。
わたしたちがボストンに最初のファブラボを立ち上げたときには誰もこのような展開になることを予想できませんでした。
ファブラボがオープンするたびに、知り合いやそこに訪れる人たちが新しいラボを別の場所に立ち上げ、世界的なネットワークとして成長し続けていきました。
ある時、MITの授業で誰が機械の使い方を生徒に教えるのかという問題が発生しました。学生が増えすぎてしまったからです。そこで、学生へのトレーニングをこれらのファブラボが新たな役割を果たすようになりました。
教育の機会
私たちは、北極圏から数時間離れたノルウェーの最上部にファブラボを立ち上げました。FabLab Solvik Gardです。(現在は閉鎖)
Solvik Gardがあるエルネスはあまりにも北部に位置しているため、衛星アンテナは上ではなく下に向けて設置した思い出があります。
彼はハンス・クリスチャン。(写真左)
ある旅行でSolvik Gardを訪れた時、ラボにいた彼にこの授業で紹介するサンプルを見せました。驚いたことに、次に会ったとき彼の手には自分で設計したロボットトラックがあったのです。
私たちは南アフリカのプレトリアにもラボを開設しました。そこで私は衝撃を受けたのです。FabAcademyで行う製作作業を、インストラクターのサポート環境もなく自分の意思だけでやっている人がいたのです。
このような素晴らしい人材がラボに現れていたのですが、周囲の人たちから「君は頭がいいんだから、こんなことしないでもっと別のことをしたほうがいい」と言われたのです。
この出来事が「FabAcademy」の開講に繋がったのです。
FabAcademy
FabAcademyの仕組みは、教室に集まったり、スクリーンを見るだけのオンラインクラスではありません。それぞれのラボに一緒に受講する仲間やインストラクターがいて、課題製作できるデジタル工作機械があり、それらすべてがネットワーク化しているのがFabAcademyの特徴です。FabAcademyではMITの学生たちと同様に、毎週の課題をこなしながら最終課題(Final Project)でこれまで学習してきたスキルを統合した作品を提出します。
Final Projectの素晴らしい事例をご紹介します。
(FabAcademyではFinalProjectで製作した作品を紹介する1分程度の映像を提出しなければいけません。)
2016年、この作品を製作したGuillaume Teyssiéは、Green FabLabでFabAcademyを受講しています。彼は自宅にながら自立した生態系を持つことができるアクアポニックスを開発しました。
彼の最初の課題は、アクアポニックシステムのスケッチを作ることでした。その後、彼はCADモデルを作っています。この過程で彼はラピッドプロトタイピングを学びました。これは最初に小さなモデルを作り、次に大型加工機を学び大きなモデルを作るプロセスです。そして、計測器や配管を作るあたりで、電子工作についても学び始めました。FabAcademyではArduinoの使い方を学ぶだけでなく、自分自身で基盤を作成しカスタマイズすることを学びます。こうして16週目で、彼は初めてアクアポニックスからレタスを収穫しました。
このように、FabAcademyではハードウェア・ソフトウェア・フォーム・ファンクションなど全てが必要になってきます。また、この一連の作業をすべて一人でこなすことで様々なスキルを身につけることになります。
そして、服飾分野とデジタルファブリケーションを組み合わせた「FabRicademy」、バイオテクノロジーとデジタルファブリケーションを組み合わせた「BioAcademy」を展開し、これらをまとめて「The Academy of (Almost) Anything」と呼んでいます。また、「Recitation」という補講の中であなたはより専門的な講義を受けることができます。
リモートでのものづくり
昨年の春、私たちがFabAcademyを運営しているときにパンデミックが発生しました。しかし、驚いたことにパンデミックの間も授業を続けることができたのです。地球上を移動するパンデミックに合わせて、開いている研究室と閉じている研究室が出てきます。そのため、学生がラボを利用する時間帯を地図上で確認し、それに合わせて授業のスケジュールを調整していきました。
(写真左上)はアラブ首長国連邦のファブラボの事例で、VR環境のラボ空間を構築し、デジタル世界でラボにアクセスできるようにしました。
(写真左下)はFabLab Ouluの事例で、自宅にいながらラボのマシンを操作できるように、ツールにリモートプログラムを組み込む作業をしていました。
(写真右下)はバルセロナのラボの事例で、生徒が家でも課題ができるよう低価格の3Dプリンターの設計に取り組んでいました。
(写真右上)はハーバード大学が作成した電子工作キットの写真です。
このようにして、私たちはパンデミックの進行に合わせてラボを稼働させ、全員がこの困難な状況を乗り切れるようにしたのです。
FabAcademyで生まれたプロジェクト
FabAcademyでは、毎週の課題をこなし、それらを統合してFinal Projectを製作します。そうして出来上がったプロジェクトのいくつかは次に繋がっていきました。
2008年にスタートしたFabAcademyのパイロットプログラムで、Tomas Diezが作った環境センサーが「Smart Citizen」のプラットフォームになりました。
また、Guillaume TeyssiéのFinal Project「AQUAPION=RS」はアクアポニックス界隈にインスピレーションを与えました。
Shawn Wallaceは卒業後、様々な電子モジュールを販売するサイト(写真上段中央)「Moderndevice」を立ち上げました。
Isabella Trombaは「Computer controlled machining」の週で製作したスタンディングデスクをKickstarter(写真右上)で販売しました。(彼らを紹介した記事はコチラ)
「NERO | Networking Environmental Robotics(写真右下)」はNoumena社が主導する異なる環境条件をデータに変換するシステムとツールの開発を目的とした共同プロジェクトです。
Tomas Diez
ベネズエラ生まれの都市学者で、デジタルファブリケーションとその都市の未来への影響を専門としている。カタルーニャ高等建築研究所(Institute for Advanced Architecture of Catalonia)のファブラボ・バルセロナ(Fab Lab Barcelona)のディレクター、ファブ・アカデミー(Fab Academy)のグローバル・コーディネーター、ファブ財団(Fab Foundation)のヨーロッパ・プロジェクト・マネージャーを務める。
2008年にFabAcademyの前身であるMIT centre for Bits and Atomsが提供した「How to Make Almost Anything」クラスのパイロットプログラムでデジタルファブリケーションの学位を取得。彼は、MITとFab Foundationとともに、Fab Labネットワークの開発に密接に協力している。
彼は、「The Guardian」と「Nesta」から、2013年に注目すべきデジタル・ソーシャル・イノベーター・トップ10の一人に選ばれ、2014-15年にはカタルーニャICT協会から年間最優秀企業家として表彰されている。
(引用:iaac)
FabEconomy
Fab Economyとは、大量生産やグローバルな流通に代わって、ローカルな充足感やカスタマイズが可能な、みんなのための新しい経済圏を作ることです。ファブラボが持つ人と知識の相互接続ネットワークのおかげで、企業や組織と一緒になって、グローバルな問題にローカルなソリューションを提供することができます。また、FabFiプロジェクトは、低コストで高効率なネットワーキングを農村部で実現することが可能です。
BioAcademy
BioAcademyは、Harvard medical schoolの遺伝学教授であるGeorge Church(ジョージ・チャーチ)がFab Academyのカリキュラムを変形させて、学生に「(ほぼ)何でも作る方法」を教えるのではなく、「(ほぼ)何でも育てる方法」に焦点を当てて作ったことから始まった合成生物学プログラムです。授業内容は、DNAナノ構造、CRISPR-CAS9、FISSEQ、バイオラボ用のオープンソースハードウェア、3Dバイオプリンティング、合成ミニマルセルなど多岐にわたります。
George Church(ジョージ・チャーチ)
ハーバード・メディカル・スクールの遺伝学教授であり、世界で唯一のオープンアクセスのヒトゲノム・環境・形質データ(GET)情報を提供するPersonalGenomes.orgのディレクターである。1984年にハーバード大学で博士号を取得した際には、ゲノムの直接シークエンス、分子多重化、バーコーディングの手法を初めて開発しました。これらにより、1994年に最初のゲノム配列(病原体であるヘリコバクター・ピロリ)を得た。彼の革新的な技術は、ほぼすべての「次世代」DNA配列決定方法と企業(CGI-BGI、Life、Illumina、Nanopore)に貢献しています。これに加えて、チップDNA合成、遺伝子編集、幹細胞工学に関する彼の研究は、医療診断(Knome/PierianDx、Alacris、AbVitro/Juno、Genos、Veritas Genetics)や合成生物学/治療薬(Joule、Gen9、Editas、Egenesis、enEvolv、WarpDrive)の分野にまたがるアプリケーションベースの企業を設立することになりました。また、プライバシー、バイオセーフティ、ELSI、環境、バイオセキュリティに関する新しい政策を開拓してきました。IARPA BRAINプロジェクトおよびNIH Center for Excellence in Genomic Scienceのディレクターを務めています。NASおよびNAEのメンバーに選出され、フランクリン・バウワー・ローレイト・フォー・アチーブメント・イン・サイエンスを受賞。共著論文は425本、特許公報は95件、著書は1冊(Regenesis)です。
FabRicademy
Fabricademyは、繊維産業に応用される新技術の開発に焦点を当てたグローバルな授業で、ファッション産業から今後のウェアラブル市場に至るまで、その応用範囲は多岐にわたります。6ヶ月間に渡る2段階のプログラムでは、前半の3ヶ月間はセミナーとモジュール学習、後半3ヶ月間は個々で応用プロジェクトの研究に焦点を当てています。
FabAcademy = 分散型ネットワーク
コンピュータを例にFabAcademyについて説明していきます。50年前、世界最初のメインフレーム・コンピュータ(汎用大型コンピュータ:写真左下)はMIT(写真左上)にしかなかったので、学生たちは直接MITに来ないと実験の計算処理やその結果を共有することなどできませんでした。しかし、現在はインターネットを介して様々な情報や高性能コンピュータにアクセスすることができます。つまり、FabAcademyのような世界規模のオンラインクラスは、メインフレームに接続された個人端末をインターネットを通じてタイムシェアするようなもので中枢機関ではありません。これは分散型ネットワークを構築した今までの教育モデルとは異なる形態です。あなたはこの学習プログラムを共有することで、授業に参加する様々な人たちと知り合うことができます。
※現状FabAcademyはニール教授がいないと成立しない形態になっており完全な分散型教育プログラムにはなっていない。むしろFabRicademyの方が構築できている。
Seymour Aubrey Papert と Turtle Robot
FabLabがやろうとしていることを完全に理解するためには、MITでの私の師匠であり同僚であったSeymour Aubrey Papert(シーモア・パパート)を紹介しなければいけません。彼はテクノロジーを活用した体験学習や情報教育の礎を築きあげ、プログラミング言語「LOGO」を開発しました。そしてLEGO社と共同でLOGOプログラミングで動くおもちゃ「MINDSTORMS®」を開発しました。また、彼はJean Piaget(ジャン・ピアジェ)と共に"作ることで学ぶ"教育理論「構築主義(コンストラクショニズム)」を提唱し、これを教育機関がどのように運用すべきか、新たなテクノロジーが子どもたちの学習や教育機関に与える影響を研究していました。
彼はMITで初期のPDPコンピュータを手に入れ、子供たちがより大きなサンドボックスで遊べるようにセキュリティを構築しました。しかし、彼は子供たちがTerminal(ターミナル)を使って遊ぶことを望みませんでした。そこで彼はLOGOを使って、子どもたちが「Turtle(ウォルターの亀)」を操作できるインターフェイスを開発しました。
ファブラボが世界中に広がりつつあった頃、彼が来て私にこう言いました。『子どもたちはTurtleをプログラミングすることはできても、Turtleを作ることができないのが歯痒かった』と。彼の本当の目的は、子供たちがTurtleを作れるようになることだったのです。まさにこれがファブラボがやっていることでした。子供たちはコンピュータの使い方を学ぶだけでなく、コンピュータを作ることも学ぶことができるのです。
ジャン・ピアジェ
スイスの心理学者。20世紀において最も影響力の大きかった心理学者の一人。
知の個体発生としての認知発達と、知の系統発生としての科学史を重ね合わせて考察する発生的認識論(genetic epistemology)を提唱した。発達心理学者としては、「質問」と「診断」からの臨床的研究の手法を確立した。子どもの言語、世界観、因果関係、数や量の概念などの研究を展開した。
(引用:Wikipedia)
Turtle(ウォルターの亀)/ マシナ・スペクラトリクス
ウィリアム・グレイ・ウォルター(写真右)が1950年代に創造した(実在した)ロボットである。日本では電子カメとも呼ばれた。
このロボットは、バッテリーと移動するためのタイヤとモーター、そして電圧低下時に自分で専用の充電場所を見付けるための光センサーとアナログ的な電子頭脳を持っている。バッテリーの電圧が下がると周囲を調べて、点灯するランプが目印となっている充電ステーションに入って、自分で充電する機能を持っており、更にはバッテリーが切れ掛かると、異常を知らせるロボット上部の警告灯が点灯して知らせる機能もあった。
その形状や行動様式が、池のまわりの草むらをノソノソと歩き廻るカメそっくりであるために、このように呼ばれる。
(引用:Wikipedia)
サンドボックス・・・セキュリティ用語の意味において「子供は砂場の中では自由に遊んでよいが、砂場の外では遊んではいけない」ということ引用した言葉。
FabLab Barcelona と FabCity
これはFabLab Barcelonaが行った「FabLab House」というとても大掛かりなプロジェクトでした。これは米国エネルギー省が主催し、世界中の何千人もの学生にクリーンエネルギー関連の仕事に就くきっかけを与えてきた大学対抗のコンテスト「Solar Decathlon®」への応募作品でもあります。家だけでなく家具に至るまで、ラピッドプロトタイピングで制作されたプロダクトです。
このように、FabLab Barcelonaには優れたデザインセンスがある一方で、バルセロナでは若者の失業率が50%を超えており伝統的な経済は崩壊しています。そこで、2014年、共同設立者の一人であるVincent Guimas氏が、当時のバルセロナ市長に「2054年までに消費するすべてのものを生産する都市=FabCity構想」への協力を呼びかけました。そして彼は、多くの仲間と一緒にFabLabをバルセロナの街中に設置しようと働きかけました。彼らの目的は「データ・イン・データ・アウトの都市モデルに支えられた都市への製造の回帰を可能にすることで、プロダクト・イン・トラッシュ・アウトの産業パラダイムからシフト」を実現することです。
これは2014年から2054年までの残り時間を確認することができるFabCityのホームページです。(写真に写っているのがニール教授と当時のバルセロナ市長Xavier Trias氏)
ファブシティ・グローバル・イニシアチブとは、データ・イン・データ・アウトの都市モデルに支えられた都市への製造の回帰を可能にすることです。都市はすでに電気やきれいな水を私達に提供しています。これは、都市のインフラの一部を生産する手段を都市(行政側)が提供しているということです。自分のためでも、友人のためでも、コミュニティのためでも、非営利でも営利でも、長いサプライチェーンの末端に依存するのではなく、FabLabを都市のインフラとして捉える。これを主導したのがTomas Diez氏です。
そして、現在バルセロナでは、地区全体にラボを設置するだけでなく、FabLabのネットワークがこのイニシアティブの中核となり、市民、ファブラボ、市の職員が協力し、ガバナンスや政策への介入を通じて新しい都市モデルを実現していく持続可能な地区を目指すプロジェクトが検討されています。
ファブラボとオバマ政権
これは、オバマ政権下のホワイトハウスでの出来事です。これを実現するために、私たちはMaker Faireを開催し、移動式のファブラボを持ち込みました。ホワイトハウスの形状に合わせて、これは執務室の窓のすぐ外にあります。そのため、たとえホワイトハウスのバッジを持っていたとしても、そこに行くことは許されません。非常にデリケートな場所なのです。私たちはこの大きな機械に高出力のレーザーを満載して持ち込んだのですが、ホワイトハウスの警備員は大騒ぎでした。オバマ大統領は、自分の歴史や地域活動を踏まえて、人々にこのようなツールで力を与えるというアイデアを受け入れてくれました。そして、このビル・フォスター下院議員をはじめとする、実に興味深い人々が集まって、この法案を提出したのです。
(ニュース内容)>>私は米国下院議員のビル・フォスターです。政治の世界に入る前に科学者だった数少ない下院議員の一人です。そのため、私はよく「議会の物理学者の戦略的予備軍の約3分の1を占めている」と話します。しかし、私が物理学の分野で毎日出勤して最初に向かったのは、オフィスやコンピュータ、会議などではなく、実験や加速器の一部のために設計した部品の進捗状況を確認するために研究所の機械工場に行くことでした。ですから、米国議会議員の中で数値制御の工作機械のプログラムを知っているのは、私だけだと言ってもいいと思います。私は最近、米国下院に法案を提出したことを誇りに思っています。この法案は、国立ファブラボネットワークの目標と使命を支持するものであり、科学技術教育の充実、研究・生産ツールへのアクセスの向上、生活を向上させるために技術を理解し利用できるようにするための個人のエンパワーメントという目標を推進する上で、我々国民にとって最善の利益となるものです。NFLは、米国の新しいタイプの国立研究所と考えることができます。それはクラウド研究所であり、地域のランプをつなげた全国ネットワークです。私は幸運にも、ニールを訪ねてその原型を見ることができました。(途中で動画停止)
これは前回の議会で提出されたもので、現在再び提出されようとしています。このアイデアは、ラボのネットワークを現在の国家インフラの一部として捉え、全国ネットワークを構築するというものです。
ファブラボ国際会議
FAB12 in Shenzhen(リンク切れ)
ファブラボ国際会議は、世界中の1,000以上のファブラボのメンバーが集まり、デジタルマニュファクチャリング、イノベーション、テクノロジーに関するさまざまなローカルおよびグローバルな事象について、共有、議論、コラボレーションしコミュニティの形成を行う、年に一度のイベントです。最初は私(ニール教授)と研究室の学生らでこじんまりと始まった会議ですが、毎年規模を拡大し、深センやパリ、チリ、日本など様々な国や地域で開催されました。ファブラボ国際会議では、参加者が自ら企画したワークショップが展開され、ファブラボの未来についてのシンポジウムが開かれ、FabAcademyの卒業式が行われます。
しかし、2020年は、パンデミックによってモントリオールで開催予定だったFAB16がオンラインで配信されることになりました。これが「FAB X Live」です。2021年には改めてモントリオールで「FAB16」を開催する予定ですが、安全かつ金銭的にモントリオールに行くことができる人のためのリアルイベントと、直接行くことができない人のためにオンラインイベントがブレンドされたものになるでしょう。この年に一度のファブイベントは、ファブラボネットワークを強固にする最強のエンジンになっているのです。ここでは卒業式、プレゼンテーション、ワークショップ、コラボレーションなど、1年分のプロジェクトが生まれてきました。貧富、出身地、ジェンダー、思いつく限りのあらゆる立場のメイカー達が一堂に会します。
FAB財団
ファブラボネットワークの成長に追いつくために、私たちは組織的な機能を構築しなければなりませんでした。 そこで私たちは「FAB財団」を立ち上げました。例えば、FabAcademyなどの学習プログラムでは10人ほどのチームが運営しています。そして、コミュニティポータルである「 FabLabs.io」では、現在活動している世界中にあるラボのリンクにアクセスすることができます。また、FabLabs.ioの製品、プラットフォーム、ジョブ・プラットフォームなど、様々な機能が紹介されています。
ファブラボの目標
ファブラボの技術的なコストと複雑さを1960年代当時のミニコンピュータだとして話を進めます。ミニコンピュータの次は何かというと、「Altair8800」です。これに初めて出会ったとき、私の人生が変わりました。
Altair 8800(アルテア 8800)とは
1974年12月にアメリカのMicro Instrumentation and Telemetry Systems(MITS)が開発・販売した個人用のコンピュータである。一般消費者向けに販売された最初期の個人用コンピュータであり、「世界初のパーソナル・コンピューター」と呼ばれることもある。
(引用:Wikipedia)
Altair 8800は、パネル上のスイッチを押すとライトが点滅し、バイナリプログラムを実行する、それだけのマシンでした。しかし、Altair 8800がきっかけとなり、1975年3月5日にメンロパークのゴードン・フレンチの自宅のガレージで「ホームブリュー・コンピュータ・クラブ」が開催されました。このクラブにはAppleの創業者のスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックなど、著名なハッカーやコンピュータ起業家がメンバーとして名を連ねていました。スティーブ・ウォズニアックは、Apple Iの設計のインスピレーションを得たのはこの会合だったと後に振り返っています。
また、Altair 8800には4KBのメモリも拡張ボードとして用意されており、それらを拡張スロットに増設することを前提に、Microsoftの創業者であるビル・ゲイツが移植したBASICインタプリタがAltair BASICとしてリリースされ、BASICによるプログラミングも可能になった躯体が販売されました。
つまり、Altair 8800がなければApple社もMicrosoft社から始まるPC革命は起こらなかったのです。
ホームブリュー・コンピュータ・クラブとは
カリフォルニア州サンマテオ郡メンローパークで結成された初期のコンピュータを趣味とする人々の団体(ユーザーグループ)であり、1975年3月5日から1986年12月まで活動していた。このクラブは、マイクロコンピュータ革命の発展とシリコンバレーにおける情報技術産業複合体の台頭に大きな影響を及ぼした。
(引用:Wikipedia)
Altair 8800は便利なコンピュータではありませんでしたが、世界初のパーソナルコンピュータでした。Altair 8800の誕生をきっかけに、現在、個人用コンピュータの数は数百万台にまで増えています。この「数百万」という規模は、地球上に存在する町とほぼ同数です。
技術的なファブラボの目標は、マシンを使うためのラボではなく、マシンを作るためのラボになることです。 もっというとファブラボはファブラボを含め、そこにあるすべてを作ることが目標なのです。
POPFAB
POPFABを中心に、ファブラボでは数多くのラピッドプロトタイピングマシンが作られました(写真)。POPFABはNadya PeekとIlan Moyerによって作られたブリーフケースに収まるモジュール式のマシンで、交換可能なヘッドにより3Dプリントや切削加工、フライス加工ができます。これは機内持ち込みが可能な小さなファブリケーション施設が入っていて、機内持ち込み可能なサイズになっているのです。
ラピッドプロトタイピング
これは私がMITで開催している「Machine that Make」という授業で作られたマシンの一覧です。 今回紹介したいのはJake Readが開発した「Squidworks(動画埋込)」です。
Squidworksは、ネットワーク化されたモジュール化されたハードウェア要素に分散したデータフローグラフを実装するコントローラ開発フレームワークです。データフローでは、モジュール式のソフトウェア構成が得られ、ネットワークでは、モジュール式のハードウェア構成が得られます。データフロープログラミングは、実際のデータフローグラフと容易に重ね合わせることができるため、2つのシステムは表現を共有することができ、プログラミングの経験やネットワーク構成(IT)の専門知識を必要とせず、1つのグラフィックツールで構成することができます。
彼が目指したのは、製造装置を構成する「サイバーフィジカルシステム」の開発のためのプラットフォームを提供することでした。ファームウェアに実装された「リアルタイム」の制御と、それを導くCAD/CAM/制御ソフトウェアの間には、長い間、厄介な溝がありました。一般的には、この溝を埋めるためにGCodeを使用しますが、GCodeもまた厄介な抽象化であり、多くの理由から私たちは好きではありません。最も重要な理由は、GCodeが「一方通行」であることです。これでは、例えば、リアルタイムのフィードバックを利用して経路計画を改善するような、よりインテリジェントな機械制御装置を開発することができません。ハイレベル、ローレベル、そしてその中間のシステムをデータフロー・プログラミング・モデルで実装することで、GCodeのような煩雑な表現を中間で歩くことなく、境界を越えたシステムを簡単に作ることができます。広い意味では、製造業におけるファイル形式をデータストリームに置き換えようという提案です。
詳しくは、squidworksフレームワークの開発について書かれた彼の論文(の一部)をご覧ください。
MIT Media Labから生まれた企業
これから紹介するのは、 MIT Media Labから生まれた成功事例です。教え子の一人であるMaxim Lobovskyは、Formlabsを設立し、10億ドル規模のユニコーン企業になりました。
POPFABを開発したIlan Moyerは、Shaper Toolsを立ち上げました。Shaper Toolsで開発されたモバイルCNCマシン「Origin」は、作品の大きさに関わらず、想像しうるあらゆるフライス加工を簡単かつ迅速に行うことができます。この革新的な製品の核となるのは、ワーク上のツールの位置を追跡するコンピュータービジョン技術と、デジタル設計に正確に沿うように切削ビットの位置を調整する自動位置補正システムです。これにより、ユーザーは機械を操作するだけで、Originが自動的に位置を調整し、正確なフライス加工ができることです。そして、この技術に目をつけたTTS(Tooltechnic Systems)によって買収されました。
他にも「fablight」「Bantam Tools」「handibot」などがMIT Media Labから生まれた製品です。これらの会社は、より速く、より高性能で、より安く機械を商品化することに成功しました。
SlashBot
現在、ワシントン大学で研究グループを運営しているNadya Peekは、ソフトウェアだけでなく、ハードウェアのモジュール化にも注目し始めました。つまり、マシンが固定された構造を持つのではなく、持ち運びが可能だったり、柔軟に造形加工範囲を調整できたり自由度のあるマシンを開発しました。
(動画8:47〜)これは翼型部品を作りたいというNASAからの依頼を受けて開発されたマシンで、熱線カッターを使って素早く翼型部品を切り出すことができます。
Zahner社
Nadya PeekとSlashbotを開発したJames Colemanは、現在Zahner社のR&Dエンジニアとして活動しています。Zahner社は、工業用のキッチンテーブルから建築物の金属加工まで、世紀を超えて金属加工品を製造してきた会社です。James Colemanは、Zahner社が迅速に生産を行うために使用している製作方法「Flash Manufacturing」という研究を行ったり、Nadya Peekとともに工場規模でのマシンオートメーションの創造的な可能性を探るワークショップを開催しています。
Jens Dyvikのファブラボ世界ツアー
Jens Dyvikは、グローバルコラボレーションとローカルマニュファクチャリングを専門とするデザイナーです。Nadya Peekの作品に触発された彼は、人と製品との間の感情的なつながりに取り組み、そのつながりを意味あるものにするためのサービスや製品を作ることを目指しています。彼のホームページでは世界中のファブラボを訪れた体験談を見ることができます。
これはオバマ大統領の祖母サラ・オバマ氏に、孫の写真がレーザー彫刻されたレザースリッパを届けるプロジェクトです。このデータは、ファブラボ鎌倉の藤本直樹氏が伝統的な革加工技術をレーザーカッターに適応させて作成したもので、「KULUSKAレザースリッパ」といいます。藤本氏はデザインを世界中で共有できるよう、パラメトリックデザインにしました。これをJens Dyvikがファブラボツアーとともに持っていき、地球を一周しながらバリエーションを生み出していきました。その一つがFabLab Kenyaでカスタマイズされた「オバマ大統領のレザースリッパ」でした。これは、彼がオープンシェアリングなデザインアプローチで生計を立てることを目指して行われたプロジェクトです。
APFELSTRUDER
FabAcademyの中間地点で、「Machine Building」という授業があります。この週の課題で制作されたユニークな作品をご紹介します。これも他の授業と同様にたった1週間というスケジュールの中で様々なスキルを駆使してひとつのマシンを作り、デモ映像も制作しなくてはいけません。
これがきっかけとなって、アメリカ国立標準研究所と共同で、オープンマテリアルの測定と特性評価を行うプロジェクトが始まりました。
Super FabLab
最近、新しく設立するラボのコストを1万ドルまで下げたいと考えています。しかし、そのためには100万ドル規模のラボを作る必要があります。これはインドのケララ州にあるSuper FabLab Keralaです。ここのホームページには、利用者のニーズに合った最適なマシンを見つけるための検索エンジンがあります。Super FabLabの特徴として、大型CNCや金属加工ができるウォータージェットカッターなど、それぞれ約1000万円くらいの工作機械ですが、これらはより高度なマシンビルディングをするためのツールです。なので、Super FabLabではファブラボ設立時に必要な工作機械自体を生み出すことができます。また、Super FabLabのもうひとつの目標は、ネットワークのノードとして機能することです。最初のSuper FabLabがインド、2つ目はブータンにできました。
現在、私たちはスマートファンやタブレット端末、ノートパソコンなど、数十億台のパーソナル・コンピュータがインターネットにアクセスしている時代に移行していますが、これは地球上の人間の数と同じですね。
ファブラボに必要な資材
これは上段がファブラボに必要な在庫で、下段は電子機器の在庫です。この在庫リストをみて、みなさんは世界中からパーツを調達する必要があります。
私たちが利用している販売業者の1つであるDigi-key社には、何百、何千という種類のコンデンサ(キャパシタ)、インダクタ(コイル)、抵抗器などが揃っています。これらは導電性、絶縁性、抵抗性などの特性をもつ電子部品です。
自律的再構成可能なモジュラー型マシンの事例
歩行モータの自動組立
この動画では、構造、機構、動作の統合を可能にする離散的なアプローチによるロボット製作を紹介しています。ロボットは、ミリメートルスケールの5種類の部品から大規模な直線運動や回転運動を生み出すことができるセンチメートルスケールのDiscretely Assembled Walking Motor (DAWM)です。動画に出てくる5種類の部品はそれぞれ、剛体(ストラットとノード)、曲げ、磁気、コイルなどの限られた機能を具現化しています。これらの部品を3次元の格子状に配置することで、作動する機械的自由度の組み立てを実証し、有用な小型機械を実現したのです。今日のロボットの設計と製造は,高価で柔軟性に欠け,時間のかかるものとなっており,それぞれが別々の関連性のないプロセスで作られ,標準的な組み立てインターフェースを持たない様々な部品を統合する必要がある場合が多い.これらの部品の組み立てと統合は、新しいロボットシステムの製造において、時間と柔軟性の両方のボトルネックとなることが多く、その結果、最近の研究では、より統合された方法でロボットを製造する方法が模索されています。(引用:A Discretely Assembled Walking Motor)
離散的デザイン
離散的デザインの手法は、全体から独立したピクセルのような多目的要素から大規模な構造を構築しようとするものです。この離散的な手法は、自動化とスケーラビリティを利用して、最終的にはより適応性の高い複雑な形態の建築を提供します。この動画では、電子パーツを、プログラム可能な特性を持つ多目的で個別のビルディングブロックとして捉え、コンデンサ(キャパシタ)、インダクタ(コイル)、抵抗器などの適応的な再利用のための投機的なモデルに組み立てることができるかどうかを検討しています。
電子部品の自動組立
近年,マルチマテリアル印刷や,物体に機能や知能を埋め込むことができるという期待から,積層造形への関心が高まっています。これらの動画では,積層造形法に代わる方法として,個別のビルディングブロックを可逆的に接合してデジタルマテリアルと呼ばれるアセンブリを生成するエンドツーエンドのワークフローを紹介しています。また、3つ目の動画では、デジタルマテリアルの構造を利用して、位置決めの誤差を大きな許容範囲内に収めることができる自動組立機の設計と実装についても説明しています。(引用:AUTOMATED ASSEMBLY OF ELECTRONIC DIGITAL MATERIALS)
そして最後に、一連の流れの最後は、モノのインターネットの時代です。現在、インターネット上にはおよそ1兆個のデバイスが存在しています。その1兆個を理解するためのスマートサーモスタットです。地球上に約10億人の人がいて、1人の人の周りには1000個の物があるとすると、それだけで1兆個になります。そして、Nestサーモスタットは、オリジナルのミニコンピュータのパワーを持っています。
その段階に至るまでには、部品を一つずつ配置していこうとすると、何百万年もかかってしまいます。
可逆的に組み立てられた炭素繊維複合材
これは、大量生産された炭素繊維強化ポリマー複合材を、機械的に連結された3次元の格子状に可逆的に組み立てることで作られた複合材料を紹介した論文です。得られたセル状複合材料は、超軽量材料としては極めて大きな測定弾性率を持つ弾性固体です。これらの材料は、部品の測定値からバルク特性を予測したり、部品の配置によって変形モードを決定したりと、モデリングにおいて階層的な分解が可能ですが、設置場所が局所的に制限されているため、繊維複合材料、セルラー材料、積層造形の望ましい特徴を融合させた相対的な組み立てプロセスで構造体を製造することができます。(引用:Reversibly assembled cellular composite materials)
二足歩行等方性格子運動探検機
このロボットは、NASAとの共同研究で開発されたもので、構造化された環境下での作業に特化して設計されており、自由度(DOF)の数に関しては単純化されています。これにより、制御が簡単になり、質量とコストの削減が可能になります。環境に合わせてロボットを設計することで、「相対的ロボット」と呼ばれる特殊なタイプのロボットが生まれます。タスクや環境に応じて、いくつかの相対的なロボットが存在します。動画では、ビルディングブロックのパーツで構成された周期的な格子構造を横切って移動できる二足歩行のロボットについて説明しています。このロボットは、複数のロボットが存在する場合に、これらのブロックを扱い、操作し、運搬します。また、一般的なインチワームのデザインをベースに、最小限の複雑さを維持しながら機能性を追加しており、速度、リーチ、配置を向上させるための多数の操作を行うことができます。(引用:Bipedal isotropic lattice locomoting explorer)
複合セルラー素材のモーフィング・ウィング
初期の航空力学の研究では、翼の形状が飛行に大きな影響を与えることがわかっていました。「最適な」翼の形状はひとつではなく、「ベスト」な翼の形状もひとつではありません。NASAエイムズ研究センターのMADCATチームと協力して、新しい複合材料の製造方法を用いて、積極的に形状を変化させる超軽量の翼を製作し、デモンストレーションを行いました。この翼は、先進的な炭素繊維複合材料で作られたビルディングブロックユニットで構成されています。これらのビルディングブロックは、格子状に組み合わされており、繰り返し構造が配置されているため、その配置方法によって撓み方が決まります。また、翼にはアクチュエータとコンピュータが搭載されており、飛行中に必要な翼の形状を得るために、翼を変形させたり、ねじったりすることができます。このタイプの翼は、フラップ、ラダー、エルロンなどの硬い制御面が引き起こす抵抗を減らすことで、将来の飛行体の空力効率を向上させることができます。(引用:Go, Go, Green Wing! Mighty Morphing Materials in Aircraft Design)
生物学における自律的なモジュール方式
自律的に再構成可能なモジュラー型ロボットシステムの開発は、ロボット研究者の長年の夢でした。ある構造から別の構造へと変化するシステムは、SFでは多くの例が描かれていますが、現実の世界ではまだそのようなビジョンに匹敵するものはありません。モジュール式で自律的に再構成可能な構造やシステムは、インフラや航空宇宙分野で多くの用途が考えられますが、1m以上のスケールでプログラマブルな素材とロボットによる組み立ての概念を融合する研究はまだありません。ロボット自体が変形するモジュール式のロボットシステムは、剛性と重量の比率が低いため、建築物のサイズを大きくするのに苦労する傾向があります。また、ロボットが別の素材を使って組み立てるロボット組立システムは、構造的な性能と施工性がトレードオフになる傾向があります。
機械部品よりもはるかに小さな単位では、生物学はこうしたSF的なシステムを反映しています。(上写真右側)は、アミノ酸が一次構造、二次構造、三次構造、四次構造を形成するタンパク質合成の図です。(引用:Zipped Assembly by Sara Falcone)←論文のDLリンク
現在の組立システムのモジュールは、機械部品、スマートフォン、半導体を収めたパッケージなど、いずれも非常に複雑なサブシステムで、多くの場合、複数の材料、異なる製造工程を経て製造されています。一方、すべての生命体は、21種類のアミノ酸から、人間が開発した製造技術とは桁違いの速度と解像度で組み立てられています。自然を模倣するには様々なものを組み立てることができる手頃な価格のビルディングブロックを迅速に大量生産することが鍵となります。上写真は、製造プロセスにおけるスループットとダイナミックレンジの関係を表した図です。生物学のスループットは大きさに比例し、最先端の技術をはるかに上回る複雑な構造を持つ生物の製造を可能にします。(引用:Zipped Assembly by Sara Falcone)←論文のDLリンク
スループットとは
機器や通信路などの性能を表す特性の一つで、単位時間あたりに処理できる量のこと。 ITの分野では、コンピュータシステムが単位時間に実行できる処理の件数や、通信回線の単位時間あたりの実効伝送量などを意味することが多い。
生物学におけるゲノム設計と3Dプリント技術の接点
最小限のゲノムを設計・構築する
JCVI-syn3.0
JCVI-syn3.0プラットフォームは設計・構築・テストの4つのサイクルで構成されています。
(A) ゲノムの設計、酵母での合成とクローニングによる構築、ゲノム移植による生存率のテストのサイクル。各サイクルの後には、グローバルトランスポゾン変異誘発法によって遺伝子の必須性が再評価される。
(B) JCVI-syn1.0(外青丸)とJCVI-syn3.0(内赤丸)を比較し、それぞれを8つのセグメントに分割したもの。外側の円の中の赤い棒は、JCVI-syn3.0で保持されている領域を示す。
(C)JCVI-syn3.0の細胞群。大きさの異なる球状の構造を示す(スケールバー、200 nm)。
生物学は、細胞内のすべての遺伝子の分子的・生物学的機能を理解することを目標にしている学問です。そのためには、生命維持に必要な遺伝子だけを集めた最小限のゲノムを構築することが有効とされています。1984年、生命の基本原理を理解するためのモデルとして、自律的に増殖する最も単純な細胞であるマイコプラズマが提案された後、1995年、最初にゲノム配列が決定されて以来、多くの細菌モデルにおいて、比較ゲノム学の手法を用いて、非必須遺伝子を同定し、保存された遺伝子機能のコアセットを定義するために多くの研究が行われてきました。(引用:Designing and building a minimal genome)
JCVI-syn3.0と名付けられた最終的なゲノムは473の遺伝子から成っており、これは今まで自然界に存在した自律的に複製するいかなる細胞よりも小さなゲノムです。作製された最小ゲノムはDNAの修飾・制限を行う遺伝子を全く欠いており、リポ蛋白質をコードするほとんどの遺伝子を持っていません。これに対して、ゲノム内で遺伝情報の読み込みと発現に関わる遺伝子、ならびに世代を通じた遺伝情報の保存に関わる遺伝子のほとんどは保持されています。興味深いことに、JCVI-syn3.0の遺伝子のほぼ31%は、その正確な生物学的機能が今だに明らかでありません。しかし、これらの遺伝子の多くのホモログと考えられるものが他の生物で幾つか発見され、これによりそれらの遺伝子は機能が明らかにされていない一般的な蛋白質をコードすることが示唆されています。JCVI-syn3.0プラットフォームは、生命の核心的な機能を研究する上で用途の広いツールとなると考えられています。(引用:独立して生命を維持するために必要な遺伝子だけで最小細胞を作る)
細胞スケールの格子構造を作る3Dプリント手法
このシステムは、希望する特性を持った細胞を高度に均一に培養するための微細なメッシュを提供することができます。新しい3Dプリント法で作られたマイクロフィラメント(写真中のグレーの格子状の部分)は、カラーで示されている細胞が付着できる構造を形成します。フィラメントが形成する形状が、細胞の非常に均一な形状を決定します。この生体培養用の足場を作る新しい方法により、形や大きさが非常に均一で、特定の機能を持つ可能性のある細胞を培養することができるようになるかもしれません。この新しい手法は、電界を利用して髪の毛の10分の1の幅の繊維を描くという、非常に微細な3Dプリンティングを用いたものです。
通常の3Dプリントでは、150ミクロン(100万分の1メートル)の細さのフィラメントが作られますが、繊維を押し出すノズルと構造物をプリントするステージの間に強力な電界を加えることで、10ミクロンの幅の繊維を作ることができるそうです。この技術は「Melt Electrowriting」と呼ばれています。
このような3Dプリントされたメッシュで培養されたある種の幹細胞が、従来の2次元の基板で培養されたものよりもはるかに長く、その特性を失うことなく生存していることを示したという。このような構造体は、移植に使えるような均一な特性をもったヒトの細胞を大量に培養したり、人工臓器を作るための材料として、医療に応用できる可能性があるという。印刷に使用されている材料は、すでにFDA(米国食品医薬品局)で承認されているポリマーメルトです。(引用:New 3-D printing approach makes cell-scale lattice structures)
ジョン・フォン・ノイマン と アラン・チューリング
授業の冒頭、コンピュータ開発の先駆者の一人であるジョン・フォン・ノイマンの話をしましたが、彼の最後の研究が「Theory of Self-Reproducing Automata」、つまり自然淘汰される生物のように、自動的に複雑さを増すことができる機械を設計することでした。(図左下)は彼が設計した「任意の記述のコピーを作成できる万能コピー機」です。この自己複製する機械は「記述 / 任意の記述を読む / その記述にコード化された(記述を含まない)機械を構築できる万能コンストラクタ機構」の3つの要素で構成されています。
このマシンは、万能コンストラクタで記述された新しい機械を作った後、コピー機でその記述のコピーを作り、そのコピーを新しい機械に渡すことで、元の機械の複製が機能し、複製し続けることができるというものです。マシンによっては、記述をコピーしてからマシンを作るという逆のことをするものもあるかもしれません。重要なのは、自己再生産する機械は、機械自体ではなく記述の変異を蓄積することで進化し、複雑さを増す能力を得ることができるということなのです。
「Theory of Self-Reproducing Automata」とは
1940年代に、ジョン・フォン・ノイマンによってコンピュータを使わずに設計されたセルラー・オートマトン(CA)環境における自己複製機械の詳細を、彼の死後、アーサー・W・バークスが1966年に完成させた論文。 オートマトン理論、複雑系、人工生命の基礎となったと考えられている。
(引用:Wikipedia)
オートマトンとは
計算機の構造や動作を抽象化したモデルの一つで、内部に固有の状態と、状態を変化させる規則の集合を持ち、外部からの入力に応じて状態を変化させるもの。複数形は “automata” (オートマタ)。
(引用:IT用語辞典 e-Words)
そして、もうひとりご紹介するコンピュータ開発の先駆者はアラン・チューリングです。彼は、1937年1月に 「On Computable Numbers, with an Application to the Entscheidungsproblem 」(図右上)という証明を発表しました。この証明は、純粋に数学的な「はい」「いいえ」の質問には、計算では決して答えられないという予想の、チャーチの定理に次ぐ2番目の証明です。(引用:Wikipedia)つまり、数学のような形式体系における「決定可能性」の問題を論じたのです。これは、単純なルールに従うタイプライターのような「計算機」の開発と、それに続く「ユニバーサル・コンピューティング・マシン」の開発の土台になりました。
また、チューリングはこの証明の他に「 The Chemical Basis of Morphogenesis(Turing Pattern)」という自発的に生じる空間的パターンを証明しました。彼の関心は、この方程式系を用いて生物の形態形成を説明することにありましたが、長らく生物学に影響を与えませんでした。しかし1995年に近藤滋によってタテジマキンチャクダイの体表面の模様がチューリングパターンであることが実験的に確認されたことで、近年再評価されています(「チューリングの卵 生物の模様の秘密」)。
このように、フォン・ノイマンの自己再生産オートマトンに関する研究とチューリングの計算機に関する研究は、生物学の理論においても中心的なものであり、「自然と人工の両方の機械についての考えを規律する」ことを可能にするものだと考えられています。
2018年に起きた科学の飛躍的進歩
2018年、「Development cell by cell」という「DNAによる生物の形態形成」をテーマにした研究論文によって科学の飛躍的進歩が起こりました。細胞が増殖したり特殊化したりするプロセスを最終的に指揮するのはDNAであることがわかっています。楽譜を見ると、弦楽器、金管楽器、打楽器、木管楽器の音が合わさって交響曲が奏でられていることがわかるように、さまざまな技術を組み合わせることで、個々の細胞の遺伝子がいつスイッチを入れ、細胞がそれぞれの専門的な役割を果たすようになるのかがわかる。その結果、生物や器官の発生を、細胞ごとに、時間を追って、驚くほど詳細に追跡することができるようになったのです。
(写真左)はゼブラフィッシュの胚における細胞系譜を時間ごとに色分けして表示したものです。そして、(写真右上)は胚の細胞が、2つ、4つ、8つと細胞分裂を繰り返し、やがてゼブラフィッシュになる様子を観察した写真です。ここからさまざまな高度な計算手法を用いて、異なる時点で得られた単一細胞のRNA-seqデータを関連付け、より複雑な生物で形成される細胞の種類を決定する一連の遺伝子のオン・オフを明らかにしたのです。
つまり、みなさんのゲノムには「手には5本の指がある」とはプログラムされていないということです。実際みなさんのゲノムにはあるプログラムが保存されていて、そのプログラムを実行すると手に5本の指ができるのですが、それを生み出すアルゴリズムが保存されているのです。
ゼブラフィッシュとは
脊椎動物でありながら、胚が透明、飼育が容易、世代時間が短い、突然変異や遺伝子改変動物の作製が容易等の理由から、分子遺伝学やイメージング技術を利用した発生・再生などの生体制御の研究に利用されています。近年、動物愛護の精神から、哺乳動物モデルの代替としての需要も高まっています。
(引用:ナショナルバイオリソースプロジェクト)
シングルセルRNA-seqとは
何千もの細胞を分離し、それぞれの細胞の遺伝物質の配列を調べることができ、各細胞で今どのようなRNAが作られているかを知ることができる。また、RNAの配列は、それを生み出した遺伝子に固有のものであるため、研究者はどの遺伝子が活性化しているかを知ることができる。これらの遺伝子は、細胞が何をするかを決定する。
私の研究室では歯車を設計する代わりに、その物理的性質をシミュレーションするプロシェクトがあります。生物学と同じように、最終的に複雑さを処理するために設計するのではなく、設計すること自体を成長させることで数値的な感覚をつかむことができるのです。
デジタルからフィジカルへ
ここ数年、人工知能(AI)が注目されています。2019年、「Possible Minds 25 Ways of Looking at AI」というエッセイ集が出版されました。ジョン・ブロックマン氏がAI分野に精通した25人の科学者を集め、AIのパイオニアであるノーバート・ウィーナーが1950年に発表した『The Human Use of Human Beings』に関連し、心、思考、知能、そして人間であることの意味について寄稿したものです。私はこの本の中で「人工知能に関する議論は(躁鬱病のようなもの):数え方にもよりますが、私たちは今、5回目のブームとバストのサイクルの中にいます。」 と述べています。
また、今日のスーパーコンピュータが1秒間に行なう処理数は、脳の処理数に匹敵するようになりました。しかし、みなさんが私の話を聞いている間、最先端のチップファブは1秒間に約10個の部品を配置するのに対し、みなさんの身体は1秒間に10〜18個の部品を配置しているのです。自然界における製造方法やその複雑さは、最新のテクノロジーに比べて一千万倍もの差があります。そこで私が考えたのは、デジタルからフィジカルへと移行する際に、この桁違いの差をどのように埋めるかという研究でした。
映画「オデッセイ」から考える火星プロジェクト
私は映画「オデッセイ」の特典映像の中で、荷物を持たずに火星に行く方法を「自律的再構成可能なモジュラー型マシンの事例」を用いて説明しました。「火星のような人類が未開拓の場所に技術的な文明を立ち上げるために必要な最低限の構成要素とは何か」ということを他の登壇者と一緒に議論しました。
(ほぼ)なんでも作れる世界
授業の冒頭からこのヒエラルキーを使ってファブラボとは何か、デジタルファブリケーションとは何かについて考えてきました。この資料には、10万の都市と1台のメインフレーム、100万の町と1000台のミニコンピュータ、10億の人々と数百万のパーソナルコンピュータ、1兆の製品と数兆の電子部品といったように、最新技術の歴史とそれを表す数字に相関性があることを示しています。
1952年のメインフレームに繋がったフライス盤、1000箇所に拡がるファブラボ、数百万のパーソンナルコンピュータ、数十億の作り手、そして将来的に数兆の自己組み立てシステムが生まれるでしょう。私たちはこの未来に向かって進み続けている真っ只中にいます。
そしてみなさんはFabAcademyを通して自らマシンを作ることを学びます。そしてファブラボの作り方も学ぶことになります。しかし、今後数十年の間にテクノロジーはいまよりさらに大きく進化するでしょう。みなさんが本当に学ぶべきことは、もし誰もがどこでも何でも作れるようになったら、どうやって生活し、学び、働き、遊ぶかを考え何かを生み出すことです。それは、私や他の誰かから答えを教えられるのではなく、私たち全員が自ら発見し解決しなければいけません。誰かに生産、製造の権限を与えたところで、商品が無料になるわけでもなく、世界が人類にとってユートピアになるわけでもなく、関税や所得格差、雇用をめぐる争いが無くなるわけではありませんが、現在の経済の仕組みが根本的に変わるでしょう。
この授業ではものづくりを抽象的に学ぶのではなく、実際に手を動かしてみることで何かを作れるようになることの意味を考えていきましょう。