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【☞経理目線】決算早期化 売上#003

決算業務にかかわるすべてのみなさん、こんにちは。i.s(公認会計士)です。前回の現預金勘定に引き続き、今回は決算早期化のための売上計上を、経理目線でご紹介します。

とはいえ、売上と一口に言いましても、業種業態で論点が異なりますので、
今回はスタートアップ×製造業のモノ売りをベースに考えます。

メーカー経理、または営業管理で請求書を発行される方々、
ぜひ目を通して頂けると大変嬉しいです!

今回も記事の分量が長くなってしまいました…
目次を見て興味が持てたところから、ザっと読んでください!
何か1つでもヒントになれば!

それではどうぞよろしくお願いいたします。


1. 製造業の売上計上フロー

ざっくりですが、売上プロセスは以下の流れです。
・見積→受注→請求(検収)→売上計上

このうち、見積り・受注プロセスは商談数や成約率、受注残のデータをCRMとして、営業部が管理するケースが多いです。
一方、請求以降のプロセスは、承認プロセス等の内部統制(コントロール)を効かせながら、そのまま営業が行う場合もあれば、経理部門に処理を引き渡す場合の両方が想定されます。

2.売上の締めが遅れると?

そもそもの疑問ですが、あらためて。
いったい、売上の締めが遅れると何が問題なのか。

いろいろあります。
いろいろありますが、あえて1つ挙げると、、、
経理の精神衛生上よろしくありません。


精神論かとガックリされた方、スイマセン…。
もう少し、お付き合いください!

もちろん、キャッシュが締まらない、粗利が出ない、営業利益が出ない。
どの段階数字も大切で、最終的には全項目が出そろわなければ、経理は一息つけません。
しかし、売上という項目の存在感を今一度思い返してください。
スタートアップの「売上」に無関心で許される部門、メンバーって、社内にどの程度いらっしゃいますか?

毎月の売上数字は他部署であっても速報ベースで、それとなく耳に入っているものです。ましてやマネジメント層は決算が締まる前に、確度の高い数字を営業から把握しているはずです。

その前提を踏まえて、もう一度「売上の締めが遅れる」状況を想像してください。

シンプルに、居心地悪くありませんか?

「え、売上まだ確定してないの?」
「なんで?」
よほどの特別な事情がない限り、経理の回答に質問者は納得しない。
古い考えですが、こと売上勘定については私はそう考えます。

みなさんはどう思われますか?

3. 決算工程の切り口でフローを分解

ここで、一度売上の決算フローを分解してみましょう。

 ・見積書・注文書・請求書・検収書の売上証憑を準備
 ・請求書データを営業システムに計上
 ・営業システムの締め
 ・会計システムへの連携処理
 ・売上証憑との突合作業
 ・外貨建て換算処理
 ・会計システムの締め

請求書の発行部署やシステムの活用方法は、各社それぞれです。
上記フローとは異なる決算工程も多々あるかと思います。

例えば上記2つ目で、「請求書データを営業システムに計上」としました。
しかし、実際はモノの出荷と同時に在庫を払出し、請求書が自動作成され、売上の計上まで行われているかもしれません。
そうなると次は、在庫管理システムとの連携を探る必要が出てきます。

一方、請求書データを営業システムにマニュアル入力していた場合、その登録頻度や入力エラーを防ぐ方策等、気になってきます。

このように一口に売上計上と言っても以下の2パターンがありますし、その後のフローは各社様々です。
・シンプルな請求書入力
・各部門システムと連携が行われている

そんな中で、普遍的に大切なことは、以下2点の腹落ちです。
売上締めまでの工程を1段階、掘り下げて社内プロセスを理解。
・営業の売上データが、経理や会計システムに届くプロセス。

今さら、と思われた方ほど、ぜひお願いします!

いきなり全体像が分からなくても大丈夫です。
例えば3ヶ月(月次決算3回分)、意識を売上データのプロセスにも意識を向けてください。何かひとつは、疑問に思うところが出てくるはずです。

4. ERP導入では解決しない

会社規模が大きくなるにつれ、予算規模も拡大します。
みなさまの会社でも、ERP導入の検討がされた経験があるかもしれません。

ここはあえて、極論です。
ERPを導入して、決算の早期化が達成されることはありません。

私は逆だと考えます。

ERP導入を検討するために、あらためて決算フローを精査・洗い出していく中で、決算早期化のヒントが生まれる。

結論のみで説得力に欠けている点は重々承知しています。
ERP導入による決算早期化はイメージしやすいですし、実際に達成された企業もあるかと思います。この考えは、受け入れられない方もいらっしゃるでしょう。

申し上げたいのは、
決算早期化のため、ERP導入に飛びつくのは悪手です。

その前にするべきことがあります。

ここは、ERP導入という独立したトピックで別途noteにまとめたいと思っています。
いったん上記の考えもあることを、頭の片隅に留めて置いて頂けるとありがたいです。

5. 営業の締め日を前倒す

はい、、、営業締め日の前倒し。

この見出しで我慢の限界を迎えた読者の方、いらっしゃいますよね。

いやいや、いまでも営業にはかなり無理な締め日をお願いしているのに、それができたら苦労はしません!とのお怒りごもっともです。

でも、もう少しだけお付き合いください…

売上の決算工程を再掲しますね。

 ・見積書・注文書・請求書・検収書の売上証憑を準備
 ・請求書データを営業システムに計上
 ・営業システムの締め
 ・会計システムへの連携処理
 ・売上証憑との突合作業
 ・外貨建て換算処理
 ・会計システムの締め

当たり前ですが、
営業の締めが遅れれば、それだけ後工程の決算(経理)に直接響きます。

もちろん、会計システムの連携以降の処理にも早期化の余地はあります。
しかし、乱暴に言ってしまうと所詮経理の中の話です。
自分たちの努力でコントロールできる分野です。

しかし、前工程の早期化は経理だけでは、どうにもなりません。
このプロセスに

どれだけ経理が主体的に関われるか。

売上計上の早期化ポイントは、結局ここです。

もし売上が第1営業日に、もしくは第2営業日の午前中に締まったと想像してみてください。
あとは
・経理で証憑を突合し、
・外貨換算を入れる

遅くとも第3営業日には売り上げが締まり、債権管理(滞留表の作成)や、管理会計用のデータまで手を付けられる状態になります。

慣れた方であれば、売上数値が固まることにより、粗利、もしかすると営業利益まで数字を先読みすることができるかもしれません。

6. 上流工程の悩みを知っていますか

売上の決算工程について、営業サイドのパートをもう一度。
 
・見積書・注文書・請求書・検収書の売上証憑を準備
 ・請求書データを営業システムに計上
 ・営業システムの締め

ここで経理のみなさんに質問です。
・上記のどこに最も工数がかかっていますか?
・なぜそこに工数がかかってしまうのですか?

もし把握されていなければ、ぜひ営業管理の方々に聞いてみましょう。
もしかすると、経理からお願いごとをされるのか、、、と警戒されるかもしれませんが…

それでもやりましょう。

なぜなら、ここを避けて通ると、
受け身のままで決算を締めていくからです。

・経理は後工程だからと、待っていては決算早期化は遠のきます。

繰り返しになりますが、経理として大切なことは

常に会計情報の上流工程にどん欲になることです。

営業管理メンバーに聞いた結果、
例えば以下の事実が分かるかもしれません。

・売上の計上基準が、最前線の営業メンバーに徹底されていない。
 →だから証憑の揃いが悪い
・製品マスタの整備や販売在庫の引き当てシステムがイマイチ
 →売上のシステム処理に手間がかかる

どうでしょうか?
どれも一筋縄ではいかない課題です。

決算工程の中で、経理が単独で早期化を達成できる項目はほぼありません。それが当たり前と割り切って、
まずは他部署の工程をヒアリングに重点を置きませんか?

もちろん会計の専門知識は大事です。

一方で、私たちは監査人でもコンサルタントでもありません。

わたしたちのミッションは、
 ・会社の決算数値を取りまとめ、
 ・経営陣の適切な判断に資する情報の迅速な提供です

そのために、
 ・数値の流れをしっかり腹落ちして理解する。
 ・改善点を把握し、他部署との協力関係を構築する。

これができるのは経理である、わたしたちです。
経理スキルとして、ここに価値を見出していく余地は十分あると思います。

7. まとめると

ここまでをまとめると、以下の通りです。

・売上の計上遅れは、なかなか理解されない
・決算早期化のため、ERP導入に飛びつくのは悪手
・営業の締めにどこまで経理が上流工程に関われるか
・営業管理の方にボトルネックをヒアリング
・数値の流れを把握し、他部署と協力関係を構築する重要性

いかがでしょうか。
みなさんの会社の状況に照らして、1つでもヒントになるものがあればうれしいです!

8. 会計の専門知識は何のために?

売上の計上にあたって、例えば収益認識の基準をしっかりと理解し、現場に浸透させていくことは大切です。多忙な経理業務の中で、会計の専門知識を継続してアップデートすることは、容易いことではありません。

しかし、ここで強調したいのは、
その専門知識は、他部署と円滑に業務を進めていくためにも必要である。

それを念頭に置いて頂きたいのです。

たまにこんな方がいらっしゃいます。
・他部署と日々協力して経理業務に取り組んでいるものの、自身の会計知識には不足を感じ悩んでいる。
・専門知識が少なく、純粋な経理としての力量に自信を持てない。

人間関係を構築する能力、それは立派な経理スキルの1つです。
ぜひ自信をもってください!

もちろん、これまでの社内の人間関係に甘え、日々の勉強を怠っていいわけではありません。

ただ、必要以上にご自分を卑下することはない、と私は考えます。

9. ERP導入どころか、上場を検討

経理として
・他部署ヒアリングを通して課題の顕在化
・売上データを上流工程から遡りプロセスを理解

この2つを、他の経理業務をこなしつつ行う。
決して簡単ではありません。

しかし、ここがしっかり腹落できれば、決算早期化はもちろん、それこそERP導入、いや上場を検討する際、間違いなく有効なアセットになります。

実際、ERP導入時には似たような作業を行う必要が出てきます。
それこそ会社の規模が大きくなり、上場も視野に入れば、内部統制の整備にも有効です。

もしそこまでを視野に入れて、経理業務に取り組むことができれば、ご自身のスキルはもちろんのこと、組織の完成度にも大きく貢献します。

最後までお読み頂きありがとうございました!

note投稿。まだまだ勉強中です。上から目線にはならないよう、あくまで経理目線で気を付けたつもりです。気に障る表現があれば、ご指摘いただけるとありがたいです。

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