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0274:やくみん覚え書き/公務員の不正

 なんだか「やくみん覚え書き」が最近続いている(しかもストーリーの本線ではない補助線関連)。でもネタが降ってくるものは仕方が無い。

 今日は経産省職員の非違行為がふたつ立て続けに報道された。ひとつは国会内での女性用トイレの盗撮事件の犯人が経産省職員であると判明したというもの。もうひとつは、28歳のキャリア官僚2名がペーパーカンパニーを通して家賃給付金を詐取したとして逮捕されたというものだ。

 先日の記事では、赤木ファイルの組織的不正行為(公文書改竄)と対比させて、「横領などの個人不正であれば、組織の正常な異物排除反応が働いて摘発・処分され、報道発表までされるのが普通だ」と書いた。今日の二件の報道は、まさにその「普通」のパターンだ。

 トイレの盗撮をする職員、詐欺行為で公共事業を搾取する職員を、組織は守らない。言い換えれば、不正を知った周囲の職員は、不正行為者を守らないということだ。何故なら不正行為者は組織の信頼を損ない運営を妨げる異物であり、排除されるべきものとみなされるからだ。

 ここで視点を転じてみよう。「今回報道で取り上げられた公務員たちは、なぜ不正行為を働いたのだろう」。この問いは、行動の原点である性欲や金銭欲に向けられたものではない。人は欲望する、それは当たり前のことだ。しかしその欲望は、他の様々な要因によって、抑制される。例えば「そのような不誠実なことをしてはいけない」という倫理観。例えば「仲間や家族が事実を知ったらどう思うか」という恐れ。例えば「バレたら社会的に大きな制裁を受ける」という不利益予測。様々な思考と感情が衝動をセーブし、多くの人は大きな不正を行うことなく人生を過ごしてゆく。そのような私たちは、こうして不正行為が明らかとなり人生を踏み外す人の報に接すると、「どうせバレるのにどうしてこんな馬鹿なことを」という印象を抱く。

 私が所属していた官庁でも、私の在職期間中に複数の職員の逮捕事案が発生した。いずれも直接面識のある人物ではなかった。

 組織の外に目を転ずると、仕事で親しく付き合った人が逮捕されたことが二度、あった。一人は中央省庁の正義感の強いノンキャリで、私は仕事上随分助けていただいたものだ。その彼が、汚職事件で逮捕失職した。報道で分かる限り、彼の不正が始まったのは私と付き合いのあった期間より後のことだった。それでも、あれだけ職務に忠実で真っ直ぐだった彼が、職責を曲げる行為を行ったことは、まさに信じ難い出来事だった。もう一人は民間有名企業の社員で、業界でもやり手として実績を上げてきたが、ある日突然、痴漢行為で逮捕された。

 なぜなのか。どうしてなのか。その問いに、論理的な回答は、存在しないと思っている。人間は合理的な判断により行動するわけではない、ということは、特に近年行動経済学の知見でよく知られるようになってきた。衝動と、思考と、感情。そのバランスは決して等量ではない。衝動が感情を生み、感情が思考を引きずり、他人から見れば「馬鹿なこと」をしてしまう。それが、人間なのだと、思っている。「そのような人」と「そうでない人」がいるのではなく、誰もが心身の状態や置かれた状況によって、「馬鹿なこと」をしてしまう可能性がある、そう思っている。

 人間とはそのようなものであり、そのような人間の集団が組織なのだ──この視点を前提にする時、不正や誤りはいつか必ず起こるものとして捉え、それができるだけ起きないようにする工夫、起きてしまった時に速やかに是正できる仕組みを作ることが重要になる。これが内部統制の考え方だ。盗撮や詐欺を働いた職員を探知し排除するのは、内部統制の働きだといえる。

 財務省の公文書改竄は、そうした内部統制が機能しなかった事例である。組織の命は指揮命令系統だ。上の指示を下が忠実に受けとめ行動して実現する。だから組織は強い。大きな事業でもデザインに沿って実現できる。しかし組織を構成するのは人間だ。上に立つ者が判断を誤り、下に対して不正を支持すれば、指揮命令系統はそのまま不正を実現する機構となる。職員一人一人は「おかしい」と思っても、命令に反することは組織人としてのタブーだから、首を傾げながら不正を実行する。おかしな事を「おかしい」と主張し続け経緯の全てを記録した赤木氏は、組織にとっては異物だったのだろう。けれども、赤木氏の行動こそ統制に必要なものであり、社会が行政に求めるものであった筈だ。

 小説「やくみん! お役所民族誌」ではこのような視点から、物語の傍流にサスペンスを仕込む。

■本日摂取したオタク成分

『WWW.WORKING!』第1~4話、なるほど原作(未読だ)の商業誌版に先立ち並行するWEB版が元なのか。アニメの複数のキャラの原型が見えて興味深い。『オーバーロード』第10~12話、ながら観してたらちょっと筋を見失ってしまったけど、雰囲気を愉しんだからいいや。『聖女の魔力は万能です』第10~最終話、妻と3男が主に観ていて私はBGV。

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