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0782:やくみん覚え書き/書くべし、書くべし、書くべし

小説家にせよマンガ家にせよ、「プロになるのに最も必要な才能」としてよく言われるのが「書(描)き続けること」「作品を形にすること」だ。

以前にも少し触れたが、最近入浴中のkindle読書で『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』を読んでいる。以前から評判は聴いていたが、本当に凄い完成度の医療エンターテインメントだ。キャラクターを、物語を、ここまで病理医/医療界の中に織り込んで表現する作者の手腕には驚嘆するばかりだ。

昨日から第6巻に入った。新キャラとして一癖も二癖もある病理医の先輩たちが登場し、最強と思われた岸先生を手玉に取っていた。

あっ、と思った。

第一話執筆が終盤戦に入った公務員小説「やくみん! お役所民族誌」は、第二話以降で澄舞大学法文学部教官たちがみなもの報告する澄舞県庁内の出来事を巡ってあれこれそれと口を挟む「法文妖怪会議」を想定していた。『フラジャイル』の教授級先輩病理医たちが、まさに法文妖怪会議で描きたかった雰囲気にそっくりなのだ。女性老教授も考えていて、当初は温厚な良識派に見えていたけれどやがて目が据わり「ほほほ、覚えておきなさい。学者っていうのはねえ、アルコールを飲まなくても、面白そうな話題を肴にするだけで素面で酔っ払えるの」とみなもを慄然とさせるシーンとか想定していた。

やられた、と思った。いや、実際は何もやられてないよ? 要は、自分の脳裏に描いていたイメージを、プロ作家が高度な完成度で既に世の中に出していた、その事に「やられた」と思ってしまうのだ。後から出すと「マネしてるんじゃないか」と思われる、思われなくとも新奇性がなくなってしまう、それがいやーんなのだ。

似たようなことは以前にもあった。私の暮らす県都には観光用の巡回バスがあるのだが、そのバスが一周する間に乗り降りする様々な人々の個々のドラマがいつしか連関していく小説を構想していた。公務員として日々忙しく働いていたので、構想を脳内で愉しむばかりで、いつか書こう、いつか書こうと思っていた。そんなある日、新聞の新刊広告を見て「やられた」と思った。有川浩『阪急電車』、阪急今津線を舞台に、私が想定していたのと同旨の構造を作品として発表していたのだ。早速書店で買い込んで読んだ。面白かった、その一方で、自分の構想との違いも見えて、まだやりようはあるなとも思った。

作家になりたいと夢を持つ人は多い。脳内の構想はどんどん膨らんで、こんなに面白い物語が世の中にあるだろうか、とすら思える。しかしいざ手を動かして書き出すと、そこに現れるものはイメージに到底届かないのだ。そこで嫌になって手を止め、再び脳内の夢想の世界に戻ると、楽しい。その楽しさを堪能したまま月日が流れ、作家になる夢は夢のまま、他人の書いた作品に「こんなのはダメだ、俺ならもっとうまく書ける」と全能感からマウントするダメ人間になってしまう──いかん!

プロになるのに最も必要な才能は、書(描)き続けること、作品を形にすることだ。手を動かさなければ何も始まらない。先行作品にイメージの類例を見つけたならば、「なにくそ、もっと面白いのを書いてやる!」と苦しみながら書き続けるのだ。その苦しみを乗り越える者だけが、作家になれる。

やくみん、がんばろ。

--------以下noteの平常日記要素

■本日のやくみん進捗
第1話第24回、523字から進まず。だめじゃん。

■本日の司法書士試験勉強ラーニングログ
【累積325h15m/合格目安3,000時間まであと2,675時間】
ノー勉強デー。

■本日(実際は2日分)摂取したオタク成分
『トライブナイン』第9~11話、革命。『忍の一時』第3~4話、凄く面白いとまでは言わないんだけど、観続ける気にはなる。『夫婦以上、恋人未満』第4話、「俺之内、死す」にわろた。『鎌倉殿の13人』第42話、もうほんと不穏不穏。『Over Load Ⅳ』第5話、あんま観て無かった。

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