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0271:やくみん覚え書き/赤木ファイル開示と内部告発

 ついに赤木ファイルが開示された。森友学園への国有地売却を巡る公文書改竄に関し、近畿財務局担当者の赤木氏(後に自殺)が上からの指示に納得できず経緯を書き残した518ページにわたる文書だ。

 来月から連載開始を予定している小説「やくみん! お役所民族誌」に、この事件を着想の一端とするエピソードが含まれることは、以前に記した。

 元公務員としての実経験からいうのだが、役所の内部で外には出せない不正が組織的に行われ隠蔽されることは、ある。横領などの個人不正であれば、組織の正常な異物排除反応が働いて摘発・処分され、報道発表までされるのが普通だ。しかし近畿財務局での公文書改竄事件では、組織の管理職(しかも本省局長)から指示が下り、いわば職務命令として不正が行われた。赤木氏は担当職員として精一杯の抵抗をしたという。しかし管理職の命による組織的意思決定がなされている以上、担当者の抵抗で覆ることはなく、むしろ極めて強力な圧力が掛けられた状況が容易に予想できる。経緯の記録として518ページもの公文書を残したことから、赤木氏がせめてもの一矢を報いようとする悔しさが、ひしひしと伝わるようだ。彼がこの文書を残していなければ、そして、彼の託した想いを受けとめて本当に大変な努力を払って来られた御遺族の行動がなければ、不正の経緯は何ひとつ明らかにならないまま闇に葬られていただろう。

 赤木ファイルの存在を御遺族に説明したことが元上司の誠意であり、文書を最小限の墨塗で公開したことが財務省組織の誠意だと、私は思う。この点については世の中からは異論があるだろう。しかし、事実を知る者が文書の存在に口をつぐんでしまえば、また文書そのものを更に改竄してしまえば、「役所にとって都合の悪いこと」は世の中に出なくて済む。実際ここまで開示が遅くなったのは、そのような組織内圧力が現にあったのだろうと予想される。それでもなお、御遺族に対して更に隠蔽を重ねることを良しとしない判断が、最終的に組織の中で合意されたことに──そこには行政組織が政治を説得し大臣の了解を取り付ける相当な努力があった筈だ──私は希望を見出すのだ。

 ──と、概ね今回のnoteを書き終えた直後、NHK『クローズアップ現代 独自取材 再エネビジネスの“ゆがみ”~脱炭素社会の裏で~』が始まった。これも(民間だが)組織的な不正とそれに抵抗する内部告発者の話だ。社名は明らかにしていないが、描き方からおそらくすぐに特定されるだろう。

 やくみんのモデルのひとつに、ミートホープ牛肉ミンチ偽装事件がある。消費者庁設立のひとつのきっかけとなった事件で、個人的に当時非常に強い印象を受けた。社長の指示で不正が行われ、社員が北海道農水事務所などに内部告発をしたが放置された後、新聞スクープにより自体が明らかとなった。農水事務所は「証拠の肉が持ち込まれた記録はない」「北海道庁に託した」といい、道庁側は「農水事務所が託したという日に道職員は出張不在だ、託された事実はない」といい、責任の押し付け合いが起きた。不正を糺すべき公務組織が不正を放置していたのだから大事件だ。しかし事実は明らかにならないまま幕引きとなった。ひどい話だ。本当にひどい話だ。

 やくみんで県庁組織の不正と戦う人物は、一旦は勝ち、その後に大きく負ける。しかし、そこでは終わらない。「お役所民族誌」を掲げるこの物語は、公務組織の力学を描くことがメインモチーフのひとつとなる。森友公文書改竄事件を巡る様々な人々の行動、そして私自身が27年間公務組織の中で経験した様々な出来事が、物語に血を通わせてくれるだろう。

■本日摂取したオタク成分

『その男、意識高い系。』第5話、2億ミッションどうするのかと思ったら、そこはファンタジーで処理したか。『オーバーロード』第3~5話、本放送時はなんとなく観ていて筋を追ってなかったのだけれど、あらためてちゃんと観るとやはり面白いな。5話からぷれぷれぷれあですも始まった。『さよなら私のクラマー』第11話、ふああ、なんか凄い盛り上がり! 絵・演出のリソースを掛けてきたな。『クローズアップ現代 独自取材 再エネビジネスの“ゆがみ”~脱炭素社会の裏で~』、上述のとおり。

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