車窓3

車窓の景色はいつも車窓の景色でしかない

「麗らかやしおりをはさむのも忘れ」

「何いってんの姉ちゃん。」
「俳句って知ってる?」
「知らない。」

姉は笑顔だった。

「俳句ってなに?」
「例えばこの会話。」
「僕は今俳句を喋っているの?」
「俳句を文字で書くときは点を打っちゃダメだよ。」

僕は姉の言っていることが少しわかった気がする。

「じゃあやっぱりこれも俳句だね。」
「そうかもしれないね。」
「俳句って楽しいね。」
「まだそうかもしれないね。」

姉が悲しい顔になった。

「でも俳句を文字で書くときはスペースを空けちゃダメだよ。」
「そうなの?」

僕は悲しくなった。

「じゃあこれは俳句じゃないね。」


姉は笑顔で言った。

「村上春樹の文って、点が少ないよね。でも、確かにそこにある。」

シートポケットに押し込まれた小説からは、栞紐が飛び出していた。

「車窓の景色はいつも車窓の景色でしかないように、俳句は俳句でしかないの。」


僕たちはいま、飛行機に乗っている。



本もっとたくさん読みたいな。買いたいな。