毎朝使っている定期入れも今年で10年め。
今使っている定期入れは、私が高校生の頃、父方の祖父母がフィレンツェに旅行に行った時、お土産で買ってきてくれたFURLAのものだ。
プラム色の落ち着いた色だけれど、高校生の頃もらった時の第一印象は正直、「わぁ…地味な色」だった。
父方祖父母夫婦は祖父が元気だった頃までは、毎年のように海外に1ヶ月ちょっと旅行に出かけては、よく孫の私や弟にお土産を買ってきてくれた。ただ、当時小学生の頃の私たちには、ちょっとよくわからないセンスのものが多かった気がする。
その時も、本当はもっとポップでかわいい色がいいのに、青が好きだから紺色とかがよかったのに、なんだかおばさんみたいな色だなぁ、と思っていた。
けれど今までもらっていたお土産とは格段に単価が違うので、使わないでいると流石に悪いだろう。ちょうど定期入れもボロボロになっていたし、まあいいかと思って使い始めた。
そうしていたらいつの間にか、買い替えるタイミングをすっかり逃して今日まできてしまっている。
もらった時定期入れに付いていた長いストラップは、どういうわけだか大学一年生の頃に無くしてしまったが、本体は今でもちゃんと使っている。
流石に10年も使っているので、角はところどころ削れてしまっているが、見た目は概ね綺麗だ。
10年使っている間に2回くらい電車の中で無くしたが、いずれも親切な誰かが駅に届けてくれたおかげで帰ってきた。
今はこの深みのある赤と紫のあいだの色が気に入っている。地味すぎず華やかすぎず、ちょうどいい。多分私が、ようやくこの色に見合う年齢になったということだろう。
そうはいっても流石に少し古ぼけてきたので、いつだったか「買い換えないの?」と誰かに言われたことがある。確かに、定期入れを10年も使う人なんて少なくとも私は聞いたことがない。もう自分で同じくらいのものを買ってもいいかもしれないなと思った。
そうしていたらこの前の1月、これを祖母と一緒に買ってきてくれた祖父が天に昇っていった。いつもおしゃべりな妻の後ろで静かに黙って穏やかに微笑んでいて、それでいていたずらが大好きな、素敵な人だった。
ちょうどこの定期入れの色味のように、絶妙なバランス感覚の持ち主だった。
それをはっきり気づいたのは、皮肉なことにどうしようもなく遠いところに彼がいってしまってからだ。
おかげさまでこの定期入れを見ても元気だった頃の彼の顔を時々思い出す。ますます、買い替えるタイミングがわからなくなってしまった。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!