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9. ベタベタとネットの噂・・ Champion calendar ('63)

こんにちは。
おやじの左手です。
趣味のひとつとして、1960年代の国産手巻き実用腕時計を集めてはこつこつと修理をしています。
記事の趣旨は、「自己紹介」をお読みください。

先週にお話しした、オモチャのキーボード。
電池の液漏れによるマイナス端子の研磨と、プラス端子が欠品で新しく端子を作り、修理完了しました。
極簡単な修理でも、直ると嬉しいですね。
「直ったよ」と娘にLINEをしたら、「ありがとう! こんどなんかおごるね!」とすぐ返事が来ましたし(笑)。


① SEIKO Champion calendar

型番:J13050  Cal:ー   19石  5振動(毎時18,000振動)
ケース径:36.5mm(リューズ含まず) ラグ幅:19mm   
1963年5月製造(S/Nより推測)

チャンピオンの記事が続きました。
このチャンピオンは、見た目、860と同じですが、19石。

生産期間は、1962年~64年の3年間。
このケースから、17石の86898、8980、9000のケースに展開されたようです。

もともと、「860」というのはCalの名称から取ったもので、
19石はCal860ではない(というか、Cal番号自体が無い?:調査中)ので、
文字盤は、「champion calendar」のみの表記になります。

ムーブメントも、カレンダ機能は日車が小さい分離式の構造、
テンプは両持ちで旧来の作りを周到しています。


この時計、入手時、
手にすると、ケースも風防もなんかベタベタしました。

修理ノートにも、一番最初に「ベタベタ!」と太字で記録があり、字が怒ってました。
その原因は「まったく、もう・・」 と、ちょっと呆れた話になります。

② 正面

文字盤はストックと交換。
文字盤のマークから、真鍮の地金にメッキをかけた材質 と識別ができます。
この辺については、別の機会に記事にできればと思います。

風防は新品交換です。
ケースは、正面、側面、背面ふくめ、内側も徹底的に洗浄、研磨をしました、理由は後述。

③ 左右側面

愛用されていたのか、ベタベタが理由で使われなかったのか?
綺麗です。

不思議と、自分の持っているJ13050のケースは皆、腐食がありません。
もしかすると、腐食しにくい材質かもしれません。

④ 背面

タツノオトシゴが、薄っすら頑張っていました。

⑤ ムーブメント

さて、今回の腕時計は、ちょっと呆れた話です。

というのも、裏蓋開けたら、緑色したオイルが、ビッチョリ・・
ベタベタを超えてギトギト。
ムーブメントが油まみれ、オイルミストのサウナに浸かっていると言っていい状態。

その表面に滲み出たオイルが、ケース、風防のベタベタの原因でした。


これ、ネットの噂で聞いていたのですが、まさか、こんなこと、本当にやってるんだと目を疑いました。
(写真撮っておらず。。 お見せできないのが残念です。)

その噂は、
オイルをムーブメントに吹きつければ動くようになる、とか、もっというとそういう修理業者もあるとかないとか。

しかし! 
そんなんで、治るわきゃ、ないんです!(怒)
素人の自分でも、それくらいは、わかります!

持ち主さんが、何とか動かしたい一心で考えてされたのなら、温かい目で見れますが、
もし、修理業者がされてましたら、激怒ですねえコレ。

どんなオイルなのかわかりませんが、粘度が低く揮発していなかったので、
ベアリングなどに使っているオイルのような気がします。


まったく、もう・・
オイルは日ノ裏側にも回っており、日車機構の中や文字盤の裏側もベトベトビッチョリ。

極小のネジまでベタベタベッタリ。
拭いたあと、ベンジンで洗って、超音波洗浄しても、どれもなんかペタペタ。
工具もヌルヌルになるし・・

組み直しても何が起こるかわからないので、使うのは辞めました。
文字盤は綺麗かと思ったのですが、穴と縁の周りに油染みがあり、これもペケ。


ケースは、丁寧に洗浄と磨くことでベタベタを取り除き、
OH済のムーブメントと予備の文字盤を実装し完成です。

⑥ まったく、もう

昔、興味本位で、この「ネットの噂」が、本当なのか、試したことがあります。

ネジを巻いても動かず振れば少し針が進むムーブメントを、ベンジンに入れてみました。

すると、ベンジンの中でテンプが動き始めたんですね。
見た目、テンプの動きは悪くなく、止まることは無かったと記憶します。

けど、取り出せば、数分で止まりました。
ですので、少し粘度のあるオイルだったら、もしかするとある程度は持つかもしれません。


また、都合が良い?のか、手巻き時計は二日ほどで止まります。
ある意味、二日間オイルの効果が保てれば問題無しと判断できないことはないかも。

自分は、判断しませんが・・

まったく、もう・・
いやはやの出来事でした。


もしも・・
>持ち主さんが、何とか動かしたい一心で考えてされたのなら、

動かしたいと思っても、普通はオイル漬けなんてこと考えないでしょうが・・

ちょっと、気になるのが、
あの世紀のベストセラー商品 「KURE CRC5-56」 の発売が、1962年。
それまで工場の中だけだった潤滑油という工業製品が、初めて一般庶民に知れ渡ります。


持ち主のおやじさん、
”止まっているボルトが、5-56を吹きつけると回り始める”TVCM(懐かしい!)を見たか、5-56の噂を聞いて。

「ちょっと、使ってみたらどうだろう?」
なんてことを、思いついたかもしれません。
(自分なら、思いつきそう:笑)

スナップバックをホジホジして、カパッ!
ネジを巻いても止まっているムーブメントにノズルを向けて、
5-56をプシュー!

絶対にダメです。


そしたら、テンプが動き始めたりして。


おやじさん、
「おーっ! すげーっ!」
「なんか、すごいこと、発見したんじゃねー 俺!」 と、大喜び。
「だったら、あのオイルなんていいかも!」 と、やる気たっぷりのひとり言。
まったく逆方向に向かった探究に、精力を注いだかもしれません。
(自分なら、注ぎそう:笑)

こんなのが、「ネットの噂」の始まりかもしれませんね(笑)。
でも、修理業者が、こんなことしたら、絶対にダメですよ!


裏蓋を開けないとわかりませんが、ベタベタは要注意です。
どうか、お気をつけください。

*****

記事にする時計たち、これからも左手で活躍して欲しく、骨董市やマルシェで出品しようと思っています。
出店など決まりましたら、この場を持って案内をいたします。
そのときは、お声がけなどいただけるとうれしいです。

「バースディウォッチ」という言葉をご存じですか?
お生まれ年に作られた時計を時計好き界隈で「バースディウォッチ」と呼んでいます。
自分が過ごした歳月を感じられる腕時計と、ともに過ごすなんて素敵かも。
1965年(昭和40年)生まれの私、懸命に針を動かしている同世代の腕時計たちにいつも励まされています(笑)。

⑦ 1963年(S38)の出来事、流行(ネットより抜粋)

・鉄腕アトム放送開始
・鉄人28号、エイトマン放送開始
・新千円札(聖徳太子→伊藤博文)発行
・日米初のテレビ中継実験成功
・ケネディ大統領暗殺事件、力道山刺され死亡
・流行歌
こんにちは赤ちゃん(梓みちよ)、高校三年生(舟木一夫)、見上げてごらん夜の星を(坂本九)
・映画
アラビアのロレンス、大脱走、シャレード
・ヒット商品
サインペン、ボーイッシュルック、ブーツ流行、エースコックワンタンメン
・おおよその大学卒初任給  15,700円
・物価
映画:250円、ラーメン50円、週刊誌:40円、牛乳:16円、かけそば:40円

FLH
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