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ロキと穴掘りとダウジング【読書感想文】

地の底へ引きずり込まれた相棒を救う手段は、必ずしも魔法じゃなくても、剣じゃなくても良いらしい。

この作品を読みました

Fritz Leiber "Mouser Goes Below"(“The Knight and Knave of Swords”, ‎ Open Road Media, 2014に収録)

Mouser Goes Belowはフリッツ・ライバー自身によるファファードアンドグレイマウザーもの(剣と魔法ジャンルの一つ)の最終話で、1988年の発表らしい。発表順でも作中の時系列順でも最後の作品に当たり、主人公の二人は不惑の年になったかどうかという頃のようだ。

1988年、William Morrow社からのハードカバーが、“The Knight and Knave of Swords”の最初の版らしく、とてもあの二人とは思えない上品な表紙絵だ(こちらの一番左側の絵)。

あらすじ

ファファード共々、Rime Isleでなんとはなく落ち着いた日々を過ごしていたグレイマウザーには、ロキとの因縁があった(詳しくは前作Rime Isleで)。

ある日、彼の副官Pshwariがロキの成れの果てのくっついた黄金キューブを秘密裏にサルベージしたことをきっかけに、マウザーは地面の下に引きずりこまれMouser Goes Belowてしまう。

残されたファファードやPshwari、マウザーのパートナーCifたちは、一致団結して、ということはなく、思い思いの方法でマウザーを救い出そうとするのだった。

感想

ライバーの短編集『跳躍者の時空』の「編者あとがき」で、中村融先生は「(引注: ライバーは)科学と魔法と迷信が渾然一体となった幻想世界を創りだしている」(p365)と書いてらっしゃる。

ありがたや。この記述を読んで私は納得した(誤読混じりの一人合点かもしれないけど)。科学と魔法と迷信を混ぜることをファファード&グレイマウザーに持ち込んだのがMouser Goes Belowなのだろう、と。

相棒が地面の中に沈んだこと(魔法)への対抗手段は、掘削(工学)とダウジング(迷信?)である。神話のように黄泉の国や冥界といった所へ下って連れ戻す、という魔法ないし神話的な手段は取られない。作品世界には「影の国」という死神の住む土地があるにもかかわらず、である。

ほかにも、死の呪文(魔法)の発動ないし解除のきっかけは催眠術(科学?)だし、掘削中の硫化水素(科学、化学)対策は雪蛇(現実の生物としては存在しないものすなわち魔法)の革とふいごで作った送風機(工学)だし、というように混ぜ混ぜされている。

話がそれるけれども、もしかすると、1988年の時点で科学と魔法と迷信を混ぜるということは、ファンタジーというジャンルで当然のことだったのかもしれない。いや、それとも、ジャンルがライバーにおいついたのか? もっと読まねば。

***

「半自伝的」というキーワードで読もうとしても私の読解力と英語力ではだめだったので、とりあえず以下メモ書きだけ。

Mouser Goes Belowには「Fahfrd: ...(改行)Mouser: ...」という戯曲のような書き方をする場面がある(28章末)。

「冬の蠅」(『跳躍者の時空』ほか所収)にも、同じような書き方をする場面がある。

Mouser Goes Belowはウェブスター「白い悪魔」の第5幕第4場から、母が息子の死を悼む歌を引用している。もっとも、Mouser Goes Belowでは話し手と聞き手が反転している。

おなじくウェブスター「モルフィ公爵夫人」が『放浪惑星』(p265)で引用されている。

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