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読書感想文ほか

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ファンタジーやSF(いずれも広義の意味での)の感想文です。 Photo at header by NordWood Themes on Unsplash https://unsp…
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#ネタバレ

【ネタバレ有】音楽好きじゃない?『鑑識レコード倶楽部』のこと

レコード倶楽部に所属しているのに音楽好きじゃない、と非難されてしまった主人公はどんな奴なのか?と考えつつ『鑑識レコード倶楽部』について語ってます。 レコードつながりでヘッダー画像をお借りしました。この場をかりてお礼申し上げます。 この作品を読みましたマグナス・ミルズ 著 柴田元幸 訳, 鑑識レコード倶楽部, 2022, アルテスパブリッシング, (諸事情でkindle版を購入) 原題はThe Forensic Records Society, ハードカバー版が2017年

アイアイだけど北の島【読書感想文】

ファファードアンドグレイマウザーは人生 この作品を読みましたFritz Leiber, Rime Isle (Swords and Ice Magic, Open Road Integrated Media, 2014所収) (アイスランドのような島が舞台の小説についての読書感想文のため、アイスランドの写真をお借りしました。この場を借りて御礼申し上げます) Rime Isleは『ランクマーの二剣士』の訳者あとがきで、浅倉久志先生が氷の魔法の二剣士として紹介なさっていた本

宝石髑髏: 「リチャード三世」と「盗賊の館」の共通点

その髑髏はどこから?シェイクスピアの「リチャード三世」でクラレンスが夢を語る場面こそ、フリッツ・ライバーの短編小説「盗賊の館」に登場する髑髏オーンファルの発想の源なのではないか? なにをいまさら。ライバーの経歴(後述)はもちろんのこと、英米のフィクションを読めば八月に真夏日が出るのと同じくらいシェイクスピアにでくわすものだし、髑髏オーンファルについても、きっとファンの交流会とかでは何度も話題になったにちがいない。 「盗賊の館」以外で筆者が偶然に出会えたものだと、タニス・リ

【読書感想文】『ヴィリコニウム―パステル都市の物語』M・ジョン・ハリスン著

ときには薄暗い雰囲気に包まれたいときがあって、そんな気持ちにぴったりはまる本に出会えた。 書誌M・ジョン・ハリスン(大和田始 訳)『ヴィリコニウム―パステル都市の物語』2022、アトリエサード 長編小説1つと、短編小説4つからなるソフトカバーの単行本。収録順に書くと、以下の通り。 まえおき本記事の筆者はヴィリコニウム全くの初心者で、この単行本より以前には著者の名前も知らなかった若輩者ながら、わーっとこみあげるものがあったので、まずは「パステル都市」に限って感想を書いてみ

【読書感想文】『魔法の国が消えていく』ラリイ・ニーヴン著

どんな話?魔法にはマナが要る。だが、マナは有限で枯渇しつつある。と、いう設定を考えたラリイ・ニーヴンのファンタジー小説<ウォーロックシリーズ>の締めくくりとなる一冊。 <ウォーロックシリーズ>はニーヴンによる3本の中短編と、1冊の長編(本書)、さらに設定を共有した他作家たちの書いた短編からなる。とはいえ、読む順番は気にしなくてもなんとななるかなと思う。 ラリイ・ニーヴン(厚木淳訳)『魔法の国が消えていく』東京創元社、1984年、原著1978 1980年版もあるようだけれ

【読書感想文】「ベルゼン急行」フリッツ・ライバー著

雑誌掲載オンリー幻の短編「ベルゼン急行」は、まさにライバーな名品だった。一週間で二回読んだ。 収録誌は以下の通り。 フリッツ・ライバー(金子浩 訳)「ベルゼン急行」1975(『S-Fマガジン』1998年11月号に所収) 分量はというと、約14700文字の短編。ざっと以下のように計算した。 28文字*25行*2段*12頁-(28*25*3)=14700 あらすじ(全体で三分の一くらいのところまでのあらすじを書きます。本記事は、未読の人の興をそがないように-ネタバレ注意

【読書感想文】フリッツ・ライバー「円環の呪い」

ファファード&グレイマウザーというファンタジーが好きです。 どのようなお話か?というと、冒険活劇と幻想怪奇のマリアージュといった感じの小説です。 今回は前回の記事(↓)の続きみたいな感じです。 https://note.com/f_itoga/n/n188c43b8881b 『死神と二剣士』に所収の「円環の呪い」(原著1970年)の話をします。あらためてお話するのもなんですが、「円環の呪い」も「痛みどめの代価」も、1970年の単行本にあわせての書き下ろしです。対になっ

【読書感想文】フリッツ・ライバー「痛みどめの代価」

ファンタジーのなかでもファファード&グレイマウザーが好きです。 シリーズもの?と、いう質問がでたとしたら、 いいえ。一話完結の短・中編を集めて時系列順に並び替えたものです。初出のときは、一話一話で独立していた作品を、単行本化にあたって連作短編のようにしました、と答えます。 上のほうにも書きました「痛みどめの代価」は、1970年の発表(原著)の短編です。フリッツ・ライバー(1910-1992)の手になるファファード&グレイマウザーもの(1930年代後半に発表)のなかでは後

【読書感想文】シーベリー・クイン「道」初読

どんな作品?子どもたちにお馴染み、あの人の来歴を解き明かす短編ファンタジー小説。 どうすれば読める?「道」(以下、本作)を収録している物理書籍あるいは物理雑誌で読める。 筆者は『幻想と怪奇 7』(新紀元社、2021)で読んだ。 発表は『ウィアード・テールズ』1938年1月号(前掲書による)。 シーベリー・クイン著 荒俣宏訳「道」(牧原勝志編『幻想と怪奇 7』新紀元社、2021 末尾の注に「風間賢二編『クリスマス・ファンタジー』筑摩書房(1992)より再録」とあり) な

【読書感想文】フリッツ・ライバー「アルバート・モアランドの夢」

(新しい方の)『幻想と怪奇』の目次に、ライバーの短編「アルバート・モアランドの夢」というのを見つけて即注文。とてもハッピー。 どんな本に載ってるの短編小説なのか、という話は下記の通り。 フリッツ・ライバー著 若島正訳「アルバート・モアランドの夢」(The Acolyte第10号-1945年春号-初出、『幻想と怪奇 6 夢境彷徨 種村季弘と夢想の文書館』新紀元社、2021所収。初出の情報は同書に拠る) 本作を、こちらのブログと、ライバーの短編集『跳躍者の時空』(中村融編、

【読書感想文】「魔女の逃亡ガイド―実際に役立つ扉ファンタジー集」アリクス・E・ハーロウ著 原島文世訳

どんな作品? 司書は少年を救えるのか?たとえ規則と掟を破ってでもと、いうお話。 あるいは、魔女の逃亡ガイド。 と、書くと表紙に「パニくるな」と書いてあるガイドブックみたいに聞こえてしまうかもだけど(あちらも役に立つことは言うまでもないのだが)、本作が言及する本のだいたいは実在する本だから、まさに本作はブックガイドにして扉だ。 (扉とファンタジーという点で、みんなのフォトギャラリーから画像を拝借しました。ありがとうございます。うさぎは招いているのか?それとも、こちらへ来た

【読書感想文】フリッツ・ライバー「ランクマー最高の二人の盗賊」は敵役にこそ注目の逸品かも

「ランクマー最高の二人の盗賊」はシリーズの中で最強の女性たちが現れる作品といってもよさそう。 未読の方へネタバレ隠しを兼ねて、未読の方向けに文脈を整理すると。 「ランクマー最高の二人の盗賊」(以下、本作)というのは、短編小説でかつ「ファファード&グレイマウザー」というシリーズものの一編であり、1968年の発表(原著)。本作の邦訳は2005年で『妖魔と二剣士』という文庫本に所収。著者の名はフリッツ・ライバー。 ランクマーというのは作中に出てくる都市と、おそらくは同名の国家

【読書感想文】フリッツ・ライバー「凄涼の岸」は凄く涼しく激しく熱い

 ファファード&グレイマウザーの「凄涼の岸」を読み返していたら、グッと来る場面があった。背筋がぞっとするような寒々しい邦題、作中に漂うタナトス、死のにおいとは裏腹に、胸が熱くなる場面がある。 文庫本10頁でもアツい  1940年発表の本作は、文庫本見開きで約10頁ながらも読み応え抜群だ。  ファファード&グレイマウザーとはなんぞやと、いう説明をざっくりすると、雪山育ちの大男と都会者の小男が、怪しげなヤマに首を突っ込んでは、主として剣術と悪運で、時として(電子レンジを叩いて

Planescape : Tormentとゼラズニイ

まえおきこのあいだ、ロジャー・ゼラズニイのアンバーシリーズ(前半)を読み返し終えて、同じころにビデオゲームPlanescape:Torment(以下PS:T)で2回めのクリアを遂げた。 PS:Tの1回目は中途半端なメイジとしてクリア(IgnusとNordom以外の全員を仲間にした)。 2回目はほぼ専業シーフとしてクリア(仲間はMorte、Dak’kon、Nordomのみ、Annahは道案内として不自然でない範囲でだけ付いて来てもらった)。 2回目となる今回は、焼け焦げだ