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#この街がすき

たまにはお題を決めて書いてみようかと開いたnote.

プロフィールにもある通り、私は今、所謂「下町」に住んでいる。元々の地元も下町という部類にあたるであろう所だったから、引っ越してからも特段驚くようなことは何も無かった。下町らしい人、下町らしい店、全てなんとなく見覚えのある景色だった。

うちの母はあまり人付き合いが好きでは無かった。だから、町内会の集まりなんかもいつも憂鬱そうにしていたし、仲のいい人以外とは外であまり会っているイメージが無かった。だから、近所付き合いなんかもあんな土地柄の割りには少なかったように思う。その点だけは、引っ越してからあの頃と違うなあなんて思ったりした。

家を探した時、そこそこな数の物件を周ったけれど結局一番事務所に近い所に決めた。不動産の人もすごく優しいおばちゃんでよかった。あと近くの天ぷら屋さんが大家さんだったので、何かと相談しやすそうだなと思ったのも決め手だった。いくつか周った中には明らかにやばそうな物件も(幽霊的なのと、住人的なの両方)あったけど、今の家には結構満足している。

私の家は少し特殊なところにあって、家の下は店舗だし、周辺も店舗ばかりなので近所付き合いというのは正直そんなに無い。夜中に大音量で音楽を聞いても、掃除機をかけても、迷惑にならないのも良い所だ。
近所付き合いは無いけれど、前に家賃の振り込みが遅れてしまい大家さんに直接謝罪をしに行ったことがあった。

こぢんまりとした天ぷらやさん、店先には大家さんのおばあちゃんと、何かと面倒を見てくれるその娘さんがいた。

「アパートのFです、家賃振り込みしました。遅くなってすみません。」

そう言って頭を下げる私に、大家さんはニコニコしながら

「全然いいのいいの、気にしないで!わざわざ来てくれてありがとうね。」

そう言ってから、そうだ!と店の奥からプラスチックの容器を取って

「これ、良かったら持っていって!嫌いじゃない?」

と、確認しながら天ぷらを3、4個入れて渡してくれた。
遅れた謝罪に来たのに、逆に申し訳なかった。けれど、ニコニコしながら、「元気?」「ちゃんと食べてる?」「困ってない?」と気にかけてくれる大家さんと話していたら、見返りを求めない優しさってなんて温かいんだろうかと泣き出しそうになってしまった。

仕事柄、というべきかはわからないけれど、私は人とのやりとりに辟易していた。そのせいもあって、その優しさにとんでもなく心が温かくなった。

大家さんの他にも、私の顔を覚えてくれている人がたくさんいた。
銭湯のおばあちゃん、昼から飲み屋を探してるおじいちゃん、近くのカフェのおばさん。みんな外で会うとこんにちはと挨拶をしてくれて、最近どう?元気にしてる?と声をかけてくれる。それがなんだかすごく嬉しかった。

知らない土地に引っ越すといっても、実家からは電車で1時間程度だし、なんだかんだこの街に来てから家を借りるまでも1年くらいはあった。だから新しい街に来たという感覚は全然無かったけど、住んでみることでこういうことに気が付けて温かかった。

引っ越してきたの!?じゃあ今度うちで飲もうよ!と誘ってくれる人、誕生日に手作りのケーキを持ってお祝いしに来てくれた人。私も普段そんなに人付き合いが好きじゃ無いけど、こうやって気にかけてくれる人の優しさって本当にありがたいし、頑張ろうという気持ちにさせてくれる。

治安もそんなに良く無いし、夜は暗いし、遊べる場所は無いけど、私はこの街が好きだ。この街の人が好きだ。地元から遠いからって友達は滅多に飲みにきてくれないけど。

多分まだこの先数年は、ここで過ごすんだろう。
ここで感じた温かさを、私も誰かに感じさせられたら良い。


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