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あの日から2ヶ月が経って

ミネソタ州ミネアポリスでジョージ・フロイド氏が警官に殺害された事件から、今日で2ヶ月が経った。

ニューヨークでは抗議運動を目にすることも減ったけど、依然として多くの人が「Black Lives Matter」や「Black Power」、「I Can't Breathe」とプリントされたTシャツを着て街を歩いている。

2ヶ月前の光景を見て考えていたこと

2020年5月29日、フロイド氏の死から4日後。大勢の怒れる人々が集結したブルックリンのバークレー・センターに、私は足を運んでいた。

そのとき考えていたことを、今になって思い出した。


1968年4月4日、テネシー州メンフィスのモーテルでキング牧師が暗殺された。

その翌日、歌手のジェイムズ・ブラウンはボストンでライブを行う予定だった。

暗殺のニュースが全米を駆け巡ると同時に人々の怒りは頂点に達し、各地で暴動が発生する。ギリギリの状況下、ライブの中止を要請する市長に対し、ジェイムズ・ブラウンはライブを決行すると回答した。そしてその様子をテレビ放映するよう、逆に市長に要請した。

結果、ボストンは全米の都市で唯一、暴動が起きなかった。


伝説と言われたこのライブで、ジェイムズ・ブラウンは何を語ったのか。

映像が残っている。わすか3分足らずなので未見の方はぜひご覧になってほしい。

熱狂した観客たちがステージによじ登ってきて、警官が突き落とす。

しかしジェイムズ・ブラウンは警官を制止した。またたく間にステージには人が溢れ、演奏も続けられない。人々の熱は沸点に達していて、警官たちが再び前に出ればたちまち暴力沙汰に発展するであろう状況の中で、ジェイムズ・ブラウンは毅然と彼らに語りかける。

「俺たちはBlackだ。誇り高きBlackだろ。

これじゃあダメだ。みんな客席へ戻って、俺にライブを続けさせてくれ。一緒にステージを作り上げよう。

俺が警官を制止したのは、お前たちが俺をリスペクトしてくれていると信じたからだ」

そう言うと観客たちはステージから降りてゆき、そして演奏は再開された。

不条理な社会にあって、なお受け継がれる気高さ

50年以上が経った今も理不尽な出来事は繰り返し起きている。事態はいよいよ複雑に絡み合って容易に紐解くことはできず、混沌を極めるばかりだ。

けれど、私が今回の抗議運動で目にした壁や地面のスプレー文字、横断幕やプラカード、響き渡る人々の声の中に、ひとつとして憎しみの言葉は無かった。

あったのは犠牲者を追悼する言葉、警察組織や政府を批判する言葉、そして何よりも自分たちをエンパワメントする言葉……ポジティブなものばかりだった。

社会の不条理を何度となく目の当たりにしながらも、憎しみに支配されないよう強く気高くあろうとしている姿を見て、言いようのない感情でいっぱいになった。


キング牧師とともに公民権運動を指導したジョン・ルイス議員が、今年7月17日に亡くなった。

公民権運動は非暴力の抵抗運動として知られているが、それが現実にはどれほど過酷な運動であったか。ジョン・ルイス議員の視点から描かれたグラフィック・ノベル「MARCH」で語られている。

差別や暴力を受けても反射的に怒らず感情を徹底してコントロールし、じっと耐えるための厳しい訓練が行われていた。

連帯した彼らは、想像を絶する弾圧を受けながらも非暴力の抗議を長期にわたって実行し、公民権法成立という悲願を成し遂げた。

そのマインドはジェイムズ・ブラウンや、今回のBlack Lives Matter一連の抗議行動にも受け継がれている。

歴史に残る2ヶ月間

この2ヶ月は、歴史に残る2ヶ月だったと思う。コロナウイルスの影響でアメリカ社会が壊滅的な打撃を受ける中、それでも人々は街に出て声を上げた。

警官はしかるべき罪に問われ、各地で警察組織の解体や改革が発表された。さらに人種差別的な行動や発言をした者が立場を追われたり、人種差別を背景にもつ銅像が撤去されたりするなど、アメリカはこれまでにない変化への一歩を踏み出している。

社会が決定的に変化した2ヶ月間だった。

そしてそれを実現したのは、ジェイムズ・ブラウンの言葉で自らを律したあの観衆や、キング牧師とともに非暴力の抵抗を全うした市民たちのマインドを受け継いだ、誇り高き人々だったと感じている。


ボストンでライブを行ったのと同じ年に、ジェイムズ・ブラウンは「Say It Loud I'm Black And I'm Proud」という曲をリリースした。

またたく間にアフリカン・アメリカンたちのアンセムとなったこの曲が掲げるのは、タイトル通りの、たったひとつのメッセージだった。

「声高に叫ぼう。僕たちはBlackだ。誇り高きBlackだ」


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