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黒島羊と喜多明里

ショッキングな書き出しをするが自殺してしまう方は雨の日より、雨上がりの晴れの日が多いとの説があるらしい。
それは自分の気分に寄り添うような雨ではなく、それを裏切るような天気になるから……というお話で。
まぁ、何が言いたいかっていうと……学生にとって試験期間は雷雨だ。間違いない。僕だけかもしれないけど。

大学に入って初めての試験期間。僕の通う応今(のうきん)大学らっせっせ文学学科もその試験期間を迎えた。
学力の低いものほど雨の勢いはすごいし……『点数がヤバい』そうボキャブラリーのなさを露呈する言い方をしよう。
雷という名の単位が落ちてしまう可能性は高い。僕も例外ではなく土砂降りだった。
だけど、僕は1人ではない。結託する友人もいる。だが、類は友を呼ぶのだ。その類友が2人僕に近寄ってくる。

天然パーマの年中眠そうな顔をした男、黒島羊(くろしまよう)と
サイドポニーを揺らしながら手をひらひら振っている喜多明里(きたあかり)の2人。
この2人とは高校の時からの馴染だ。
「おはよー。のろっちは今日いくつ試験あるの?」
「あー、2つ。第二外国語のルー大柴語とポリネシアン概論の2つー。羊と喜多は?」
「僕は必修の3つもあるよー。日本語(パピプペポ入門)。仏教概論と、中世西洋哲学」
「私は1つだけ。羊と同じ必修ね」
「んー、とりあえず、図書館でも行くか。被る科目が明日以降でてくるし」
「さんせー」2人声が揃う。
3人でゾロゾロと図書館へ。試験期間中の図書館は普段より人口密度が高め。

試験がレポート提出だったり、持ち込み可のテストである程度まとめたものを作ったり補強したものを作ったり、
同じような理由でいる先輩らに対策情報を収集している人らで集まるからだ。
中には試験が終わって、うなだれているだけのものもいるが……。

3人はノートを見せ合い、コピーをとるエリアの確認など図書館で行い、購買前も食堂前のコピー機へ行くとコピー機が長蛇の列を作っていた。
比較的待たずに済みそうな食堂前でコピーを済ませ、試験前の勉強を兼ね食堂へ入る。
食堂に入ると、背もたれに背を預け切って、足を投げ出し、天井を仰ぎ見て、燃え尽きているものなどもいる……。
この季節はピリピリジメジメしているのは天気だけではない。

普段と違うのは、なぜかそこにチャーミーがいたことだ。
「なんで、いるの?」
「おー。テレビで大学の昼食特集とかやっててな。普段、野呂くんがどんなん食べているか、俺も食べたくなったんだよね」

僕が口を開く前にチャーミーに興味津々な2人が話に入ってくる。
「あー、この方がのろっちが言ってたチャーミーさんだねー。はじめましてー。黒島羊でーす」
「どうもー。はじめましてー。喜多明里です。のろっちがお世話になってます」
「あー。どもどもー。チャーミーです。名前の通り、チャーミングな妖精ちゃんでーす」
2人がにこやかに微笑む中、何がチャーミングだとツッコみたくなる僕はおかしいのだろうか?

試験が早々に終わり、今日は他に試験の予定がない喜多とチャーミーだけが食堂に残った。

2024年 文披31題 day8 雷雨

黒島羊くんは白山洋(しろやまよう)ちゃんという彼女がいます。彼女もボーッとしているタイプでラブレターを送ると読まずに食べてしまい、さっきのお手紙なぁに?と送り返し、それを食べてしまうような2人です。名前の由来は申し上げられませぬ。

喜多明里ちゃん。美味しそうな名前だと思いません? 間違えた。あかりちゃんって可愛い響きでしょ? 好きな食べ物はポテトグラタンです。彼女についても名前の由来は申し上げられませぬ。

冒頭の天気うんぬんの蘊蓄は、箒木蓬生さんの『臓器農場』から

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