青野さんの本

働き方改革は、働き手から始める

サイボウズ社長の青野慶久さんが新刊を出版された。『会社というモンスターが僕たちを不幸にしているのかもしれない。』というユニークかつ長いタイトルである。

元々サイボウズはユニークな会社である。グループウェアの会社でありながら、「チームワークあふれる社会を創る」というビジョンを掲げる。昨年の創業20周年では、一企業でありながら「働き方改革」の旗振り役を自ら演じた。社長の青野さんも「選択的夫婦別姓」を主張し、いまや国民的運動の流れを先導されている。

そんな青野さんの書かれた本書は、企業を「モンスター」あるいは「妖怪」と表現し、働く人は、企業の言いなりになるなと主張する。企業は一つの仕組みであり実態がない。あるとすれば、企業を実質的に切り盛りする経営者の意思である。企業は経営者の意思一つで、いかようにも変わる。どんなビジョンや企業理念を掲げるのか。どんな価値観やルールで運営しようとするのか。それらは経営者次第である。そのため、働く人は、自社の経営者(代表取締役)の考えや行動に、真に共感できるかどうかを問うべきだと。

このような主張を経営者である著者自身が強調しているのが面白いが、それは青野さんならではであり、青野さんの真骨頂でもある。つまり経営者がしっかりしないと、働く環境など整備されないし、働く人のモチベーションも上がらない。経営者の責任はいかに重要かと、これでもかと迫って来る。

とはいえ、本書はいまの歪んだ働き方の現状を変えるのは、経営者だけではないと読める。労働市場の需要側である企業が、まともな働く環境を整えることの必要性と同時に、供給側である働き手が変わることで、働き方改革が進むと説く。

終身雇用に代表されるこれまでの雇用関係は、働き手に「がまん」を強いる仕組みであった。「60歳までの雇用を保証する代わりに、企業が仕事の内容も働き方もコントロールする」という構造である。そのため、言われた仕事はやる、転勤にも応じる。そしてこの「我慢レース」を続けるご褒美として昇格や昇給がある。著者はこの構図が「会社が働く人を不幸にしている」要因のひとつとして挙げている。

そこで働く人たちが、この我慢を辞め、自分にあった職場や経営者を選んで移動するようになれば、企業側の働かせ方も自然と変わるだろう。それは市場原理に基づいて、供給側(働き手)の変化が需要側(企業)の変化を強いるからである。本書の帯コピーには「変わろう、動こう」と大きな文字で呼びかけている。まさに、働く人が主体的に「働き方」を選ぶことで、働き方改革は大きく前進するのはないだろうか。国の法律や企業の制度も重要だが、働く人ができることもたくさんある。そして、働く人ひとりひとりの行動が変われば、それは制度を動かす強力なメッセージとなるだろう。

著者の青野さんはこれからは「量の時代から質の時代へ変わる」と言う。情報も溢れかえっている時代、より大量の情報を流すことで情報洪水のなかで存在感を占めそうにも無理がある。それよりも、個別化され質の高い情報こそが、洪水の中から浮かびかがってくる。働く人も大勢の働き手のひとりになるのではなく、自分ならではの働き手になることが、価値を生むのではないか。

この本を読んで、あらためて働き方改革について考えさせられた。現状では、企業の労働環境の法的整備が盛んに議論されているが、「企業と働く人の関係性」についてこそ課題があることを再認識できる。

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