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「できない」が「できる」に変わる本――鈴木奈津美著『I型(内向型)さんのための100のスキル』

頑張っている人を見ると応援したくなる。
ましてや、そんな人が初めて本を書いたとなると、そう!おめでとう!これはすぐ読む!

「なつみっくすさん」こと鈴木奈津美さんが書かれた『I型(内向型)さんのための100のスキル』である。内向型は英語で「Introvert」であり、最近では日本でも「I型」という呼び方がされているそうだ。

読み始めて、自分の思い上がりに気がついた。この本を読もうと思ったのは、なつみっくすさんを応援しようという動機だったのだ。いわば「読んであげよう」と。読書は著者のためにする行為ではない。自分が読みたいから読むものだ。なのに、自分は今回、読んで「あげよう」と思っていたのだ。その自分の傲慢さに気づいたのは、読み始めて「なるほどー」と内容に引き込まれたからだ。

本書は、自分が内向型なのかどうかを理解することから始まる。きっとここで多くの人が「自分もそうかも」と思うに違いない。「自分は違うな」と思う人はそもそもこの本を手に取っていないだろう。そんな内向型の人に100のアドバイスを送る本書は、「なるほど!」とうなづく項目がいくつもある。この納得感は、著者ご自身の経験のみからアドバイスしているのではないからだ。巻末には、内向型の人が読むべき50冊が紹介されている。50冊もだ!それがお飾りのように紹介されているのではなく、各項目で、それらの本のどれにどう書かれていたのかが示されている。いわば、ご自身の体験と専門家の知見を重ねながら書いているので、自ずと説得力が増すのだろう。

最初は「スキルが100もあるの!」と慄いたが、これが多様な読み方ができることに気づく。この100個全てが新鮮だと思う人はいないかもしれない。しかし、「なるほど!」という新たな発見の箇所と、「自分はできている」という確認の箇所のバランスが読む人によって違うのではないか。そして、その分類がいわば自分自身のチェックリストになる。おそらく読書会なので、読んだ人が「自分が刺激を受けた項目」を発表し合うだけで大いに盛り上がるだろう。

ちなみに、僕が「なるほどー!」と感嘆した項目には以下のようなものがある。

・自分を犠牲にしそうになったら、5分でできることを「ギブ」する
・苦手な相手には「ありがとうございます」を多用する
・締め切り間近に焦ってしまうなら、仕事を「一口サイズ」にする
・メンバーにやる気になってほしいときは、「存在承認」をする
・わかっていても行動できないなら、とりあえず手や体を動かす

などだ。

これらが、どれも本で読んだ聞きかじりでもなければ、著者の独善的思い込みでもない。書籍の内容を自ら実践を通して獲得されたスキルであり、身体で理解されたから出てくる、地に足のついた言葉で書かれている。

読み進めるうちにこれは内向型の人だけの本ではないと思うようになってきた。ここに書かれているどのスキルも、「よし、やろう!」という行動を実現させるためのノウハウである。誰しも、「これをやろう」「やりたい」ということはあるに違いない。それを実現できている人、あるいは実現させてきた著者のような人と、実現できない人の差は、おそらく「行動」なのだと思う。そしてこの本は、この行動を実現させるための本なのだ。

いわば、「できない」が「できる」に変わる本だと思う。

上から目線で読み始めた僕も、すっかり「できていない」自分を直視せざるを得なくなった。ただしそれは、鋭く著者に疲れたというより、丁寧で優しい語りによって気づかされるのだ。著者のスタンスには「できている自分」という目線が全くなく、読者へ理解と共感を示しつつ「こうするのはどう?」と手を差し伸ばしているのだ。そして、「できない」を「できる」に導いてくれる。

古典的な本は、情報を豊かに持っている著者が、情報の乏しい読者に「教える」という形態になりやすい。この本は真逆だ。著者は全国の「内向型の人」の代表として、数々の本を読み、そして実践を積み重ね、確かになったことをみんなに紹介している。そんな利他そのままの本である。この行為を「内向型の特徴」と呼ぶならば、社会に内向型の人で溢れるのと素晴らしいものになるに違いない。そんな社会を想像したくなる本だ。


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