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デジタル社会は、便利だけど脆弱だと思う話


(はじめに)私は、電気系の勉強をしたあと、社会にでて駆け出しのころからデジタルの半導体の設計、特に(コンピューターの)プロセッサの設計をやってきました。電気、半導体の基礎、デジタルの基本要素であるトランジスタの原理から学び始めて、そのうちCPUの設計をして、試作して量産して社会で使って頂くというひと通りの技術の経験をしました。さらに工場の人と一緒に円滑に量産する上での様々な課題を解決することや、原価や利益に関わる事、そして製品を世界中の顧客に提案して採用いただくという一連のビジネスを経験させていただきました。また半導体のファウンダリビジネスや、巨大なデータセンター構築の事業も担当させていただきました。非常にありがたいことです。そういう経験からみていると、現代の社会でデジタル化がとても進んできたと思う一方、デジタルにどっぷり頼る社会や生活に対する危機感を持つようになってきましたので、少し文書化したいと思います。

(デジタル利用がとても普及してきた時代)パソコンの普及でインターネットの利用が進んでいましたが、特にスマホが誕生してからというもの、あらゆる身の回りの手続きや調べもの、コミュニケーションをスマホを使って行うようになってきました。最初のiphoneが誕生してたった10年ちょっとしか経っていません。それ以前の社会では、そうした行為は電話、FAX、役所や銀行の窓口に行ってやっていた訳です。1990年代初期だと携帯電話すら無かったですし、そもそも日本では音声の電話も1869年に始まった程度で長期の歴史をみれば大きく社会がデジタル化してきたのはこの20年程度の話です。さらに、2023年には生成AIの活用も急速に拡大しており大きく社会を変えて行くように感じられます。一方でこのとても便利なデジタル化に頼ってしまうリスクは大きいと思っています。この記事ではそこの所を少し書いておこうと思います。

(デジタル機器の製造に関わるリスク)デジタル機器は電気を使った電子装置ですが、その中には先端半導体で作られた数十億個のトランジスタで出来たコンピューターが小さな半導体チップの上に形成されていてソフトウエアを動かしています。その様な半導体チップを製造するには精密な製造装置を備えた数千億円の工場を作り、純度の高い素材を買って、膨大な人達の知恵と努力が無いと作れない部品です。例えば最先端のスマートフォンの中心の半導体チップ(APPLEだとA13とか名前がありますよね)をこれを製造できる工場は世界で台湾にあるTSMCか韓国にあるSUMSUNGの先端工場しかありません。この工場へは日本を始め各国から先端の製造装置と、純度の高い材料を供給していますので実は先端半導体を作る上で日本も非常に重要な役割を果たしています。また、目立たないけれどコンデンサも数百個以上使われていて日本の企業が高いシェアを持っています。このような複雑な製品を設計、製造、供給するというのは技術もさることながら、制度、人、設備、お金などなどの複雑なバリューチェーンが円滑に稼働して製品が実現できていることです。このような複雑なシステムを維持することは簡単でしょうか? 国際的な緊張や、自然災害など様々な要因でこの一部が機能しなくなる可能性は常にあると思います。実際、この数年間にコロナウイルスで少し部品製造が遅れたり、製造工場に人が行けなくなるだけで製品は製造できなくなり欠品したりと不安定になりました。

(デジタル機器を運営するための電力供給のリスク)我々がスマホやパソコンを使ってネット上のサービスを使うときクラウドを使うという表現を使うこともありますが、実際には、高性能なコンピューターが並んで格納された巨大なデータセンターという設備を使っています。データセンターは需要先から遠いと伝送遅延が大きくなってしまうので、都市の近くなどに設置されており、都内やその周辺にもたくさん設置して利用されています。そしてデータセンターが国内のおよそ10%の電力を使っています。*1) さらに最近は、日本で使うデータを日本のデータセンターに置くことや、AI化の進展でより多量のAI処理を行うGPUを搭載した膨大な電気を消費するデータセンターが増えつつあります。 一方、日本の電力の70%は火力発電で作り出されていて、ほとんどは中東からタンカーで運んでくる原油、またLNG,石炭などの化石燃料由来で、それらを燃やしてCO2を出しながら発電しているわけです。太陽電池や風力発電でやればいいという環境重視のお話も聞きますが、天候の悪い時や夜間などでは安定した発電ができないため、昼夜問わず安定した電源が必要なデータセンターには向いていません。また当然ですが、データセンターだけではなく、通信路にある基地局や個人の家にも電力供給をしないとデジタル機器を動かすことはできないです。このようにデジタル社会も化石燃料など常に輸入を続けなければいけないエネルギー源に頼っています。産油国、途中の輸送ルートに問題が発生すると大混乱が起こります。
*1: DCの電力需要は国内の消費電力の約10%にあたる860億kWhに増加する見通しである 

(デジタルを支える人々)今まで説明した2つの例、製造や運用のための電力だけでも、関連する産業も含めて多くの国で大変多くの人が携わって現在の豊かなデジタル社会を実現できています。そのような人材を確保し続ける必要がありますし、高度な技術を理解、利用できる人材を教育して社会で活躍してもらえる安定した社会がなければ、このデジタル社会を維持できないと思います。

(デジタル機器は数年で壊れる)半導体は数年程度の寿命しかないですし、自動車や公共に使われる特殊なものでも10年程度です。(実際には利用環境が良いともっと使えるものもあります。)スマートフォンは数年で電池もだめになりますし、パソコンも10年も前のものは性能が最新のものと大きく違うので使えなくなってきますし、データセンターもあちこちで故障が発生していて基本的には人間がメンテナンスしないと維持できないのです。最近、IoTと言っていろんな電子機器であるセンサーを農業や漁業、防災のためにもあちこちにたくさん配置してきていますが、これらの装置も数年で壊れるということを頭にいれておく必要があります。壊れたら誰かがきて修理、交換などのメンテナンスをしないといけないです。そうしないと自然界の中で電気ゴミとして朽ち果てていくのですが、有害な物質もたくさん含んでいますから、回収して再利用してほしいところです。実際には回収しないものもたくさんでてくるでしょう。

(避けられないデジタル社会のトラブルへの備え)以上のようなリスクを抱えてデジタル社会が動いているので、国際的な緊張を避け、社会を安定させて、自然災害への対応も改善していく必要があります。それでも、災害やサイバー攻撃、システム自体の問題で、デジタル社会が稼働しない場面は、必ず出てきます。では、個人レベルではどのように備えたらいいでしょうか?
 多くの国レベルや銀行、証券などのサービスもデジタル化してきており、それらを避けることは個人できないことも多くなっていますが、何もしないよりマシと思いますので、個人視点で備える案を少し書いておきます。
 1)高密度のデジタルデバイス(USBメモリとかDVDとか)に記録されたデジタル情報は直接読めないので、重要情報は印刷して保管するのがよさそうです。昔あったFD(フロッピーディスク)、CD-ROMもDVDもUSBメモリも、MDもカセットテープも記録している情報を読み出すには、メディア自体が時代の流れの中で劣化しないことが求められますが、CDも読めないものやCD-ROMなどは早ければ数年で消えてしまうこともあります。また、メディアが残っていても再生する装置自体が壊れていれば修理できませんし、もうどこにも販売していないです。まだCD-ROMはブルーレイディスク装置で読めますが、FDになると、装置自体が手に入らなくなっています。
 2)幸いデジタル情報は新しいデジタル機器へ完全にコピーできるので、これを繰り返すことで、データ自体を移し替えて維持できます。バックアップを頻繁にとっておくことでデータ消失への一定の備えになります。
 3)国、行政、金融機関などの重要な情報は印刷しておくということは必要だと思います。証券も全て電子化されていて、厳重に管理され、遠隔地にバックアップも取られているのでほとんどの場合は問題無いと思いますが、巨大な地震、戦争などが起こった場合、財産の保全がどのように行われるのかは私はわからないです。もちろん紙に印刷することによる別のリスクが発生するのですが最低限の情報は目で読める形で置いておきたいです。
 4)デジタルだけ、スマホだけのサービスに頼り切らないのが良いと思っています。最近、若者は現金をもたずすべてスマホ決済で済ますので財布を持ち歩かない人も多いです。私もちょっとした買い物ならスマホとクレジットカードと交通系ICカードを持ち出しています。一方、それらのサービスは、突然稼働しなくなる可能性があると思っているので、最低限の現金はスマホケースにいれていますし、複数の支払いができるようにしています。
 5)また私は、インターネットを使った通信網が稼働しない可能性に備えて、TeamsやZOOMなどのインターネット通信に頼り切ったコミュニケーション手法だけではなく、従来の電話回線(これも実態はデジタル化されている)も併用するようにしています。遠隔コミュニケーションの手法がどれも稼働しない場合は、物理的に会いに行く手法を確保するようにしています。
 6)そしていずれやってくる終活には、家族などに引き継ぐデータ以外をしっかり処分おく必要があるとおもいます。

以上のように、とても便利なデジタル社会ですが、一方で、突然、稼働しなくなる可能性があると思って、そういう想像力をもって、できる範囲で不測の事態に備えておく必要があると思っています。

ありがとうございました。





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