見出し画像

大雨を”また”吹き飛ばし観客の期待に応えた松島基地航空祭2023

2023年8月。また雨だった。航空祭を前に未明から雨が降り出した。朝になって雨は止んだものの、開場時には駐機場に水溜りが出来ていた。雨で展示飛行が相次いで中止された2022年の松島基地航空祭が脳裏をよぎる。
  このまま大雨になるか、晴れ渡るか、両極端な予想も告げられたが、無事にオープニングフライトからプログラムが始まった。

ブルーインパルスT-4とF- 2Bによるオープニングフライト

続いて第21飛行隊F-2の機動飛行が行われたが、この日は、訓練も含めF-2の飛行は3回予定されていて、松島基地を母基地にしているのはブルーインパルスだけではないとの主張が強く伝わってきた。

例年の航空祭より力が入った?第21飛行隊のF-2

さらに、主張という意味では、アナウンスで航空自衛隊が機体の開発に関わっている点も強調され、「F- 2とF-16はよく似ていると言われますが、全くの別物です。」との案内があった。さらに海に囲まれる日本の防衛にとって必須の対艦攻撃用ミサイルを4発装着可能な点やF-16に比べると多少機体が大きい点も紹介された。青い色が洋上迷彩と言われるように、戦闘機=空中戦という図式だけではく、広範な任務・訓練への理解も求めた。

航空祭用語「暴れる」第21飛行隊のF-2 

轟音とともに単独の力技と2機で連携しながらの機動を見せたF-2に続いて、ブルーインパルスの訓練飛行となった。

さて一致するか?!ボントンロールでこのまま一斉に横転する。緊張の勝負はスモークをオフにした後だ。

不思議なもので航空祭でも「訓練」がある。プログラムに訓練飛行と展示飛行と表記されていて演じる内容が基本的に違う。訓練ではパイロットが何か人文字を作るような仕草をして乗り込み、そこから飛行へと向かう。着用しているスーツも違う。一方、展示の場合はウォークダウンから始まる内容で、観客と航空自衛隊を繋ぐ大切な儀式としての意味合いも見える。また、ブルーインパルスを多くの隊員が支えあっている「エアマンシップ」も表現、そういう意味では展示飛行が特別な位置付けというのも納得だ。

ピッタリ決まったボントン・ロール!見事!1番機が極僅か先にロールしているのは、他の機に指示を出す分早くなったのだろう。このズレも計算を尽くしたものか。

が、しかし、私たちにとっては、「訓練」「展示」が別物でも、航空祭の「本番」の一部だ。ちなみにあの人文字のような訓練時の姿は、ブルーハンガー前で拝見できることがあるそうだ。見てみたい。

救難展示を披露するUH-60J

救難隊も展示を披露した。隊員3人がパラシュート降下して遭難者役の隊員の元に着地、U-125Aがサポートする中UH-60Jが遭難者を収容するというプログラムだ。

旋回しながらUH-60JをサポートするU-125A。このコンビも廃止されるようだ。

各地の航空祭でもパラシュート降下は予定される。天候次第でキャンセルされることもあるが、この日は天候回復もあって、実施された。UH-60Jについては昨年2022年の航空祭でも唯一、雨のなか展示飛行を行い、大きな拍手を浴びた。救難隊が厳しい状況下でもその任に当たる可能性を思えば、晴れ渡る空での展示も良いが、雨の中での姿も「らしい」のではないかと思ってしまう。

松島基地の救難隊ヘリは東日本大震災で全機損失、総数は明らかにされていない。

午前中の展示を締めくるのはPACAF(米太平洋空軍) F-16 Demo Flight Team 。ブルーインパルスを優雅と表現すれば、こちらは剛力とでも言えば良いか、やりたい放題というのか、表現に困る。「暴れる」姿は既知としたい。

離陸するや否やこの調子

このF-16については2022年、特に話題になっていることがある。ウクライナへの供与だ。パイロットを1年程度訓練して「実戦へ」の方針、というニュースを聞いたことがあると思う。状況を考えれば1年と言わず今すぐにでも、と思うところもあるが、この機動飛行を見て、果たして1年後にこうした操縦が可能なのかどうか、ここまでの操縦は不要なのか?F- 2の機動のように複数機が連携することは1年程度で可能になるのか?整備などはどうか?機動飛行を見れば見るほど「1年」という期間と「実戦」という言葉が簡単に結びつかない。航空自衛隊としてもF-2やその他の航空機のパイロットを育てるのにどれだけの時間・経費がかかるのか、人的資源の確保、育成の「難しさ」を考えさせられた。

展示中は、ほぼ「モフモフ」状態の米空軍のF-16

地元に理解を促す場としてはもちろんのこと、こうした「難しさ」への理解・協力を訴えるのも航空祭の重要な役割となっている。余談だが、戦闘機に搭乗したことがある。たかだか3Gで自分の手を頭の上にのせようにも腕が上がらなかった。3Gだけでも苦労を知るには十分だったが9Gターンも体験した。息を止めていたくても、肺が押されて口元から空気が漏れ出していく。体力勝負。パイロットにも「務まる時期」があるのは疑う余地はない。前席は旋回中も首を動かして周囲を見ていたが、こちらはシートに押し付けられ呼吸を整えるのが精一杯だった。というよりは、なすすべがなかったのが正直なところだ。やはり「時期」はある。

航空祭の最後にブルーインパルスの「展示飛行」。まずはご挨拶。

松島基地航空祭のトリはブルーインパルス展示飛行。こうでないと来場者の納まりはつかない。青空とはいかず、スモークの航跡も雲の背景に溶け込んでしまうこともあった。だが、スモークが見えると会場から歓声が上がり、課目が一つ終わるたびに拍手が沸く。

「ファン・ブレイク」 スモークがなくても密集具合に歓声が上がる。

昨年同様、「雨模様」から来場者の希望を繋いだブルーインパルス。東日本大震災の影響で母基地を離れたが、今年は戻ってから10年目にあたり、記念のロゴも機体に記されていた。昨年度は制限ありで3年ぶりの開催、そして今年度は入場制限のない4年ぶりの通常開催、かつ、10年目、と節目が重なった航空祭は無事に終わった。

伝統のローリング・コンバット・ピッチ。タメ具合がたまらない。

だが、ここ数年気になることがある。航空祭前日と当日の天候だ。前日には地元の東松島夏祭りが開催され、晴わたる大空に、ブルーインパルスが見事なスモークの航跡を描く。航空祭でこれがみたくて集まるファンにとっては、”事前”の「たまらない」時間となる。

大人気のキューピッド。観客が大きなハートに思わず見惚れて笑顔になる。

周りには航空祭の見学ツアーで現地入りした方々が空にスマホを向け、溢れんばかりの笑顔で「わー」「すごーい」が聞こえてくる。いつもの光景だ。大空に描く演目だけでなく、開場正面から伸びるローパスの直線も見事だ。

まっすぐ伸びるスモーク。ローパスがブルーインパルスの身近さを感じさせる。

ブルーインパルスの展示が終わると、口々に「すごかったねー」「よかったね」「明日が本番だね、楽しみだね」期待いっぱいの言葉が出てくる。快晴に、太陽が輝けば、PACAFのF-16に至っては、逆光を浴びてこの通り。

ベイパーが虹色に輝いた!

立ち位置と条件によりけりのシャッターチャンスは一期一会、ブルーインパルスも機体が輝く

キラキラと伸びやかに。

来年こそ「東松島夏祭り」も「松島基地航空祭」も連日の青空で、降るのなら、救難展示の際に「らしさがわかる小雨」で願いたい。みんなが見たい、見せたい「空模様」、それが東松島の夏だから。


参考


この記事が参加している募集

一度は行きたいあの場所

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?