映画忘備録⑤

年末ですねえ。今年はあと何本映画を見ることができるだろうか…。
夏から見た映画をばばっと振り返ります。

パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト/2013独
実在したヴァイオリニストの伝記的映画。
愛と狂気、というタイトルはあんまりふさわしくないのかな、という印象。そこまで彼自身はけばけばしくない。どちらかというと鬱々として気だるく、可哀相で、それが演奏のシーンをひきたててる。パガニーニについてWikipediaには利益にうるさい人間だったと記載されているけれど、この映画ではそういった側面はマネージャーがひきうけていて、パガニーニの芸術家でない側面、彼の魂を買った悪魔のような存在となっていて見どころ。個人的にはロンドンでの女たちのデモの描写が好き。

落下する夕方/1998日本
同棲するカップルが別れ、男は新しい女を追いかけるも、その女は元彼女と一緒に暮らし始めるお話。
とにかく菅野美穂がめっちゃ可愛い。あと同棲してた部屋が広い。
個人的には「奔放なメンヘラ」ってキャラクター性はもう結構うんざりなところがあるので、うーん、と思ってしまった。菅野美穂ばっかり可愛くて、他の人物や描写があんまりみずみずしくないのもなんかな、と。

百日紅/2015日本(原恵一)
葛飾北斎とその娘お栄を描いたアニメーション映画。
江戸の街、浮世絵、物怪、病。時代のなかの細かな揺れ。そういうのが結構わたしはぐっときた。ひとつの事件に向かっていく壮大さはないけれど、季節が移り変わるように人生や暮らしを描いた作品。きばって映画を見たい、っていう人にはあんまりおもしろくないのかも。

シン・ゴジラ/2016日本(庵野秀明、樋口正嗣)
新宿TOHOシネマズに見に行って参りました。
すごく面白かった。画面の切り取り方が庵野らしい。キャラクターが現実味にかけるくらい安っぽいのは子供の頃見ていた特撮っぽさがあってよかった。何かを見てこんなに「わくわく」したのはいつぶりだろう?

ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ/2016日本
新宿K'sシネマに見に行きました。お盆時に見るのに最高だった。
幽霊が出る村に迷い込んだバンドマンと村民たちのお話なんだけれど、道具や人物はリアリティがあるのに、映画自体は幻想的な雰囲気を保っている。なんだか散漫な、滑稽な、そんなふうに生きちゃってみたいよなと思わせる。

SUPER/2010米国
コミカルかつバイオレンスで、そのバランスが面白かった。
要所で画面がアメコミに変わるのが良かった。暴力的な描写が多いのがしんどいけれど、それをアメコミにしてしまうとこの映画の良さは消えてしまうのだろうなと。

めぐり逢わせのお弁当/2013印度
弁当配達のミスから始まる、ふたりの文通、人生の物語。
インド映画はおそらく初めて見たけれど、素敵な映画だった。向こうの暮らしぶりにも思いを馳せる。
静かで穏やかで、さざ波みたいな105分。

ハーモニー/2015日本(なかむらたかし、マイケル・アリアス)
原作伊藤計劃のアニメーション映画。
健康主義、管理社会を描いた近未来のお話。
人は何を求めるか、社会はなにを描くか。屍者の帝国とテーマや捉え方が似ている。言葉がきれいだったのが一番印象的。エンディングがちょっと甘すぎる気がしたけれど、人間結局は個人的なところに収束していくしかないからねえ。

冷たい熱帯魚/2010日本(園子温)
衝撃的な作品だった。画面越しに映画への熱が伝わってくるような。
グロテスクな描写も多いけれど、それよりも人間と人間のあいだにあるぐちょっとした繋がり方、そちらへの不快感のほうが強く残った。
見終わったあと、誰が一番悪いのか、と考えてしまう。
自分の欲望を理解している人間とそうでない人間では振る舞い方は段違いになるよなあ。

ディス/コネクト/2012米国
SNSにまつわる話がみっつ描かれている。そのうちのひとつは、映画にはどうしても恋愛がなくちゃだめなのかと思わせるほどわたしには助長に感じられた。あとのふたつの物語は好きだった、あの思春期特有の難しさ。今でこそネットも人生の一部のようだけれど、一寸前までは本当に、ネットと現実は別物だったんだよなあ。そういう非世界に救いを求めるのが昔の自分にだぶって苦しかった。

秒速5センチメートル/2007日本(新海誠)
映像の綺麗さ、丁寧さでいえば、言の葉の庭のほうだけれど、映画としてはこちらのほうが断然よかった。面白いとか感動するとかじゃなく、じわっと、絵の具が滲むような良さ。三本の連作アニメーションがそのままひとつの映画になっているという構図も時間の流れをスムーズにしている。
個人的には、花苗の青い緊張がすごく理解できて、共感できすぎて、もう無理だァァァーーーー!ー!=!

パーフェクトワールド/1993米国(クリント・イーストウッド)
逃亡中の犯罪者が人質にした子供と仲良くなっちゃうお話。
号泣した。大人が子供へ持つ憧れや信頼や祈りのようなものと、子供のもつ純粋さゆえの現実の揺るぎなさ。一緒の場所にいても、大人と子供では目線も体感も奥行きもまるで違って、同じ世界なんてありえないんだと、切なかった。

ボーンズ・ブリゲード/2012米国(ステイシー・ペラルタ)
伝説的スケボーチームのメンバーたちを描いたドキュメンタリー。
出演するひとりひとりの個性が本当に強烈。だからこそ、ボーンズ・ブリゲードってチームができたんだろうなと。ひとりひとりのスケボーに対する向き合い方があって、それは人生においても一緒だなあと。それでも同じ夢を見た儚さ。

ギャング・オブ・ニューヨーク/2002米国
ある男が昔対立していた組織のボスに復讐を果たしに街に戻ってくるお話。
170分弱あるとはいえ凄まじいまでに「物語」であり「作品」だった。
冒頭の方にある男の父親の、目を背けるな、という言葉でこの映画にどっぷとはまってしまった。
この映画ができあがった年に同時多発テロが起こってしまったのだけれど、最後のシーンにその貿易センタービルがそびえていて何とも言えない歴史の重みを感じた。

追悼のざわめき/1988日本(松井良彦)
賛否両論ある映画なんだろうし、見るのでいっぱいいっぱいだったけれど、私には必要な映画だった。
戦後日本、大阪の地のざらつき。鬱々しい惨めさ汚さ見窄らしさが作る狂躁の様が、そういう逃れられない美しさが、気味の悪いところに潜んでこちらを覗き、見返してくる。プリズムの世界。
こういうものを見るとどうしても神話だと思ってしまう。

フェイク/1997(マイク・ニューエル)
マフィアに潜入捜査したFBIのお話。ジョニー・デップ格好良すぎる…。
同居人がアル・パチーノが好きなので見たのだけれど、これ、男なら絶対好きだろ、と思う作品。
心身共に揺さぶられることの多い潜入捜査が終わったときのあの、拍子抜けするくらいあっさりした感じが心苦しかった…。


あと、今年はひとつ舞台を見に行きました。かもめ。
チェーホフは好きな作家のひとりで、中でもとりわけ好きな作品だったので。
舞台は恐らく初めてみたけれど、映画とは全く違うんだなあと。
ひとつの舞台で時間軸や場面が交差していったり、とにかくナマモノなんですよねえ。
満島ひかり演じるニーナは女優志望の役柄で、「わたしは女優」という台詞を繰り返す場面があるんですけど、覚悟を感じる演技だったな…。
映像化を切に願う…。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?