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精神科医が考察するガラージュ① ~ガラージュとは何か~

#1 ガラージュというゲームについて

 ガラージュは、1999年にPC向けに発売されたアドベンチャーゲームです。
発売直後に販売元の東芝EMIが事業撤退したため、流通したのはごく少数でした。変わった世界観からコアな人気があり、中古市場ではプレミアがついており、一本最低10万円台という値付けがされていた時もあったようです。

2021年末にスマートフォンで「完全版」として再版されました。
 完全版では、シナリオやサブクエスト等の追加があり、現代のデバイスにあわせてゲーム内の画像やインターフェイスも修整が加えられています。
 2022年7月8日にSteam版も発売され、手の届きにくかったゲームがより身近になりました。


#2 ガラージュの世界観

オープニング画面。どういうエンディングになるのか見当もつかない。

 ガラージュは、その特異な世界観から「奇ゲー」の1つとされています
 主人公は精神疾患の治療のために「ガラージュ」という不思議な機械にかけられ、目が覚めると胎児を思わせる見た目の機械に変化しています。
 ガラージュというゲームは、錆と汚水に囲まれた不思議な世界から脱出するために、主人公の精神世界を機械の身体で探検していくというアドベンチャーゲームです。
 設定も細かく、時間によってNPCの挙動が変わったり、生態系や世界観の説明も詳しくされるなど、ゲームとして非常に魅力的です。
 
 精神世界を表現しているというこのゲーム、それも治療のために精神世界にとばされたとなれば、精神科医が黙ってみているわけにはいきません。
 ガラージュについて、現役の精神科医が考えたことを何回かに分けて話していきます。
 今回はネタバレなしで、ガラージュの世界観について書いてみようと思います。

#3 ガラージュと精神療法

 ガラージュは治療のための機械です。
 ということは、何かを治すために作られたはずです。
 精神科の世界で治療といえば、薬物療法が現代的な治療法の1つですが、古くから行われてきた精神療法もあります。

 精神療法というと、皆さんはどんなものを想像しますか?
 精神科の診療の明細書には「通院在宅精神療法」なんて明細書にかいてあったりしますが、いまいちピンとこないという人も多いと思います。
 精神科医が話したということだけだ、「これは技術料だ」という精神科の先生すらいるくらいです。

 精神療法というのは、無意識と意識を統合する作業です。

 これだけだと、何を言っているかさっぱりわからないと思うので、例を挙げることにしましょう。

花粉症の薬は飲むのがたいへん。

 花粉症の患者さんが、朝夕2回の薬を飲んでいるとします。どんな薬かだいたい見当がつくかもしれませんが、その患者さんは、朝はいつもギリギリまで寝ていて、仕事場に着いてから朝の薬を飲み忘れていることに気づく、という人です。
 ある日、主治医先生が患者さんに聞きます「薬は余っていますか?」と
そうしたら、患者さんは「飲み忘れが多くて、沢山余っています」と返事をします。
 主治医先生はこう問い返します「朝夕だとどっちが飲み忘れが多いですか」と。
 このやりとりは精神療法的です。患者さんはこの問いかけをされたときに、無意識のうちに過ごしている一日を走馬灯のように振り返るのです。そうして、「夕方のほうが飲み忘れが少ないはずだ」と自覚するのです。これで、患者さんが飲み忘れなく過ごし、花粉症に悩まされることがなくなれば、精神療法的な関わりとして大成功です。
 実際はこんなにうまくいかないかもしれませんが、これが精神療法のバリエーションのひとつです。

#4 箱庭療法的な世界観

 ガラージュの世界は、患者さんが求める何かを解決するために作られたはずです。
 譲葉はそれを無意識と意識の統合であると考えています。箱庭的なガラージュという世界を使って、意識と無意識を統合し、治療的に働かせるというのが、この装置なのだと考えます。
 箱庭療法と似ているかもしれません。

箱庭療法のイラスト

 箱庭療法というのは、砂の入った50~70cm四方の箱の中に、ミニチュアをおいたり、中に入っていた砂そのものを使ったりして行うものです。 
 この50~70cmという大きさは、「立って見渡せる大きさ」なので、この大きさと決まっているそうですが、ガラージュの世界も「小学生低学年くらいの行動範囲」だそうですから、共通していると思います。

ガラージュの地図
小学生が歩き回れるくらいの範囲だという。

 箱庭療法は、作るだけでは終わりません。箱庭療法を担当する心理士さんは、できたものをみて、解釈をたずねたりしながら、意識していなかった自分の心の動きを見つけるように働きかけ、自分の心の再発見や対話を促し、自分を理解したり変化させたりしていきます。
 ガラージュも同様に、この世界に入り、機械達と会話したり、行動したりしていくことで、自分の心の変容を促していくのではないでしょうか。

 もっとも、今回はネタバレなしなので、次回からはきちんとネタバレしながら考察していきます。

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