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法人化について

個人事業主の皆さんが法人化を検討される上で、基本的におさえておきたい内容について、全体感がわかるように解説したいと思います 



個人事業主の皆さんの中には、「法人化について、少し検討してみたい」と感じている方もいらっしゃると思います。


そこで、今回は、個人事業主の皆さんが法人化を検討される上で、基本的におさえておきたい内容について、全体感がわかるように解説したいと思います。




〈目次〉

1.法人化とは?
(1)個人事業を法人として継続する
(2)法人になると何が変わるのか
(3)経営者1人でも法人化は可能

2.自分への給料はどうなる?
(1)法人のお金は自由に使えない
(2)役員報酬として受け取る   

3.法人化と節税の関係
(1)所得税と法人税の違い
(2)法人は経費の幅が広がる

4.法人化にデメリットはないのか?
(1)赤字でも発生する法人住民税の均等割額
(2)事務、経理の煩雑化

5.社会保険の知識は必須
(1)法人化により社会保険の加入義務が発生
(2)従業員が多いほど会社負担が増える
(3)社会保険は事業主にもメリットがある

6. 法人化のポイント
(1)法人設立にも費用がかかる
(2)適したタイミングとは

7. 法人登記の流れ
(1)登記申請
(2)税務署などへ届出
(3)設立代行業者に依頼することもできる

8.まとめ



1.法人化とは?

ここでは法人化の意味について説明します。

(1)個人事業を法人として継続する
『法人化』は、法人成りとも呼ばれ、個人事業主として事業を営んでいた方が法人を設立し、その法人組織の中で今までの事業を引き継いで行っていくことをいいます。


(2)法人になると何が変わるのか
法人とは、人間と同様の主体を持つことを法律で認められている組織を指します。法人化とは会社を設立することだという認識は、厳密にいえば間違いです。確かに法人化によって会社を設立することにはなりますが、会社設立は法人化の一要素に過ぎません。

たとえば企業内の従業員が法に触れる行為をし、企業が損害を被ったためその従業員に対して訴えを起こしたとします。

この場合、企業から代表人などを立てて訴えるのではなく、企業自体が一個人のように訴えを起こせます。組織を擬人化して捉えられることが法人の特徴の一つです。

また、法人は有限責任なので、出資者が自分の出資分に対してのみ責任を負います。

法人が事業を失敗した場合、原則として債務の支払い責任を経営者個人が追うことはありません。

対して個人事業は無限責任であり、発生した債務に対して個人の財産にまで責任が及ぶ可能性があります。

法人であっても「合名会社」の出資者や「合資会社」の一部の出資者は無限責任です。


(3)経営者1人でも法人化は可能

会社や法人というと組織をイメージしやすいですが、法人化は1人でも可能です。

出資者が1人の会社のことを『一人会社』といい、『いちにんかいしゃ』と読みます。

昔は1人での会社設立はできず、結果的に1人になった場合のみ会社の存在が許されていましたが、1990年の商法改正により一人会社としての会社設立が認められるようになりました。

一人会社の実質は個人事業と変わらないので、法人化することによるメリットとデメリットをしっかり把握する必要があります。



2.自分への給料はどうなる?
会社を設立した後、収入がどういう経路で自分の手元に入ってくるのかということは気になる問題です。

法人化のメリットとデメリットに深く関わることなので、しっかりと頭に入れておきましょう。

(1)法人のお金は自由に使えない
個人事業主であれば、事業により得たお金は自由に使えます。

支出における経費の計算などで大変な面はあるとしても、それはお金を使った後の話です。

全ての収入に対し基本的に利用の制限はありません。

一方で法人化した場合、会社の財産と個人の財産は明確に分けられます。

たとえ社長といえども、会社が得たお金であれば、自由に使えません。

会社のお金を使いたい場合は、会社からお金を借りる形を取らざるを得ず、ローンキャッシングと同様に金銭消費貸借契約書を会社と交わす必要があります。

さらに会社からの借金には利息が発生します。会社は営利を追及する団体であり、無利子でお金を貸すと利益の損失とみなされるので、一人会社であっても社長は会社に利息を支払わなければなりません。


(2)役員報酬として受け取る
個人事業主から法人化すると、立場上は会社の役員になり、事業を通して得たお金は会社から役員報酬として受け取る形になります。

経営者による会社の利益操作を防ぐ意味で、役員報酬額は決定後原則1年間は変更できません。

給与のベースアップや賞与などで変更できる従業員の給料と大きく違う点です。

役員報酬の変更は会社設立時(翌期以降は事業年度開始)から3ヶ月以内のみ可能です。

また、法人税の計算上のペナルティはありますが3ヶ月を超えてからの変更も可能です。

一旦会社に入ったお金を、会社に残す分と自分への報酬として出す分とに分けることになるので、役員報酬額は慎重に決定する必要があります。

役員報酬額を増やせば自分に残るお金は増えますが、個人の所得税も増えます。個人と法人両方の税負担のバランスも考えなければいけません。

また、役員報酬額は一定額に設定することにより会社の経費として計上されます。

たとえ経営者であっても、今月は儲かったからといってその月だけ多めに報酬をもらうことはできません。



3.法人化と節税の関係

事業による収入に対し、個人事業主は所得税、法人は法人税の納税義務があります。

それぞれの違いと法人化による節税のポイントを解説します。

(1)所得税と法人税の違い

個人事業主と法人では収めるべき税金の種類と数が異なりますが、総納税額に最も大きな影響を与えるのがそれぞれ所得税と法人税です。

所得税は、個人事業主の1年間の総収入金額から経費を差し引いた金額に課される税金です。

配偶者控除や扶養控除などの所得控除額も総額から引くことができます。

しかし、法人に比べて経費として認められる範囲が狭く、累進課税方式のため収入が増えるほど税率も上がります。

高収入の場合は総収入の半分近くを税金として支払わなければなりません。

また、個人事業主の場合には290万円以上の所得がある場合には個人事業税もかかります。

法人税は個人事業主の所得税に相当し、所得税に比べ総収入あたりの税率の変化が緩やかです。

最高税率も約23%と所得税の最高税率45%よりはるかに低いです。

住民税を考慮して所得税と法人税を比べると、課税対象の収入が330万円以上になれば法人の方が税率は低くなります。


(2)法人は経費の幅が広がる
法人化には、収入の中で経費計上が可能な範囲が広がるメリットがあります。

たとえば、自宅を社宅とする場合、個人事業主の場合は家賃の3割程度しか必要経費にすることができませんが、法人化すると家賃の5割以上を経費として扱えることもあります。

また、自家用車を社用車にすれば減価償却をして車の購入代金を経費に計上したり、ガソリン代や高速代を経費で落とせたりするようになります。

この場合でも法人化することにより経費の範囲を広げられる可能性が高まります。

法人化で生命保険も経費にできます。個人事業主は確定申告でわずかな控除しか受けられませんが、法人で生命保険に加入すれば保険料の半額以上を経費処理できる可能性があります。 



4.法人化にデメリットはないのか?

個人事業主にも法人にも、それぞれデメリットが存在します。メリットばかりに目を向けて結果的にデメリットの方が大きくならないよう、慎重に検討することが大事です。

(1)赤字でも発生する法人住民税の均等割額
法人が地方自治体に納める義務がある法人住民税は、所得に応じて額が決まる『法人税割』と、法人の資本金などに応じて一定の額になる『均等割』の二つの要素から構成された税金です。

均等割額は会社が存在している限り支払わなければならず、赤字の場合はもちろん、休眠中の会社でも支払う義務があります。

金額は地域によって異なりますが、資本金1000万円以下で従業員が50人以下の場合は年間約7万円となります。 

(2)事務、経理の煩雑化
法人化を行うと個人事業主に比べ事務が複雑になり、複式簿記での記帳や法人税の申告などで手間がかかります。

また、税法の知識に乏しければ法人税などの申告書作成を税理士に依頼しなければならなくなり、その分コストがかかります。

1人で事業を行う個人事業主は、源泉徴収義務者に当てはまりませんが、法人化することで自分への役員報酬が発生するため源泉徴収に関する事務作業が発生します。

毎年、報酬額を変更する場合はその旨を議事録に残す必要もあります。



5.社会保険の知識は必須

法人と社会保険は切っても切れない関係にあり、社会保険制度は法人化においてメリットにもデメリットにもなり得ます。

(1)人は、労災保険・雇用保険・厚生年金
保険・健康保険・介護保険の社会保険制度全てに加入する義務があります。

労災保険以外の保険料については、決められた額の天引きを従業員の給料から行い、会社からも一定額を負担し天引き分と合わせて納付しなければいけません。

従業員が社会保険の対象となるには条件がありますが、役員は原則として全員が社会保険の対象となります。

1人で事業を行う場合でも、法人化によって役員となり、社会保険料を会社負担するコストが発生します。


(2)従業員が多いほど会社負担が増える

個人事業主は、従業員が5人未満であれば社会保険への加入は任意です。

しかし、法人は従業員の給与に対して約15%もの社会保険負担が発生し、従業員数が多いほど会社負担が増える場合が多いです。

社会保険に関しては税と合わせて会社負担の問題として考え、少しでも負担を軽くするために社会保険労務士に相談する方法もあります。


(3)社会保険は事業主にもメリットがある
個人事業で社会保険に任意で加入していたとしても、対象となるのは従業員だけで、個人事業主は原則として国民健康保険と国民年金へ加入しなければなりません。

しかし、法人化すれば強制的に社会保険へ加入することになるので、負担額は増えますが給付金の増加など保障の充実が期待できます。

また、自分が代表取締役になり配偶者を年収130万円未満の非常勤役員にすれば、配偶者は扶養対象として社会保険料の支払いが不要になります。

夫婦で自営業を行う場合はそれぞれ国保へ加入する義務がありますが、法人化で配偶者の社会保険料を節約できます。



6.法人化のポイント
法人化を検討するにあたり、見落としやすい設立費用や法人化すべきタイミングについて解説します。


(1)法人設立にも費用がかかる
株式会社設立にかかる費用は、登記に約15万円、定款作成に約10万円、合計約25万円です。電子定款にすれば印紙代4万円を引くことができますが、それでも約20万円の費用が必要です。

また、近年増加傾向にある合同会社を設立する場合、登記に約6万円、定款作成に4万円、合計約10万円かかります。株式会社同様、電子定款にすれば印紙代が浮くので、約6万円で設立できます。

これらの費用を払ってでも法人化すべきかをよく考えて行動に移す必要があるでしょう。


7.法人化するための準備

法人化は一朝一夕で成せるものではありません。しっかりと手続きの方法を理解し、無駄のないように進められるようにしましょう。

(1)法人の概要を決める

まずは社名・本店所在地・発起人・取締役・取締役会と監査役の有無・事業目的と事業内容・資本金・事業年度など、法人の概要を定めましょう。

本店所在地は法務局の管轄に関わる項目で、変更に10万円近くかかることがあります。先を見据えて設立の段階で確定しておくとよいでしょう。

発起人とは、会社に出資をし取締役を選任したり定款を作ったりする人ですが、一人会社の場合は発起人と株主、取締役まで自分で行うことになります。

(2)定款の作成 
定款とは会社組織を成立させるために必要となる規則をまとめた文書です。会社法により会社設立時に作成することが義務付けられています。

株式会社を設立する場合は、定款に法的効力を持たせるため公証人による認証が必要で、費用が5万円かかります。また、原本に貼る収入印紙代が4万円かかり、定款の作成にかかる費用は全部で9万円かかることになります。


(2)電子定款で印紙代を節約できる

定款を紙ではなくPDFなどの電子ファイルで作成した場合は、収入印紙代4万円はかかりません。コストを削減できるためおすすめです。


(3)出資金の手続き

定款の認証後、出資金の払い込みを行います。出資金を払い込む時点ではまだ会社が設立されていないので、発起人個人の銀行口座を用意します。発起人が現在使用している普通口座で問題ありません。

その後、発起人が出資金を振り込みます。複数人いる場合は誰がいくら振り込んだか分かるように、氏名が記載される振り込みで出資金を払い込み、その後通帳をコピーして登記事務を担う法務局に提出します。


7.法人登記の流れ
準備ができたらいよいよ登記です。書類に不備があると後々面倒なので確認作業を怠らないようにしましょう。登記後にもいろいろと手続きがあります

(1)登記申請

申請書類一式が用意できたら登記の申請を行います。申請先は会社の本店所在地を管轄する法務局です。申請人などの住所地ではないので気を付けましょう。

郵送でも申請できますが、書類に不備があった場合にとても面倒なので、できるだけ窓口で申請するようにしましょう。どうしても自信がないなら登記申請作業を司法書士へ依頼する方法もあります。


(2)税務署などへ届出
法人の設立が終わった後は、税務署や各自治体、労働基準監督署などへ書類を提出する必要があります。

税務署には、設立から2カ月以内に法人設立届出書や青色申告承認申請書を提出しなければいけません。従業員がいる場合は、給与支払い事務所等の開設届出書や源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出が求められます。

また、都道府県や市町村に対しても法人設立届出書の提出が必要です。

さらに年金事務所や労働基準監督署、ハローワークにもそれぞれ社会保険関係の届出書を忘れずに提出しましょう。

法人設立に関しては以上でほとんどが終了しますが、最後に個人事業の廃業手続きを行わなければいけません。税務署や都道府県にそれぞれに事業廃止の申告書を提出します。

また、青色申告の取りやめ届出書や給与支払い事務所等の廃止届出書も、関係があれば提出しておきましょう。


(3)設立代行業者に依頼することもできる
会社設立の手続きは自分で行うことができますが、相当な時間と労力を要するのも事実です。

書類の作成などが忙しくなりすぎて肝心の事業経営がおろそかになってしまうことのないよう、費用はかかりますが代行業者に依頼するのも一つの手でしょう。

代行業者に頼む際に注意する点としては、業者によってできない手続きがあったり、事業内容や業種により手続きに時間がかかったりということが挙げられます。

しかし、たいていの場合はプロに頼んだほうがスムーズに会社設立を行うことができます。

登記については司法書士の独占業務となりますので司法書士以外の者(弁護士は除く)が行う事はできません。

また、定款認証を代理で行う事ができるのは行政書士と司法書士、弁護士のみです。



8.まとめ
法人を設立することで、法人化以前の状態に比べさまざまなメリットとデメリットが発生します。

お金の問題や社会的信用度、業務のやりやすさなど、優先度の高いメリットから考えることで、法人化を検討しやすくなるでしょう。


参照元: 「Offers」webページ

以上

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