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香港旅行~さよなら彩虹邸

香港再訪が実現したきっかけは、年末に見かけたニュースの記事だった。

“「彩虹邸(Choi Hung Estate)」が老朽化で建て替えへ”

彩虹邸とは、いまや香港屈指のインスタスポットのひとつである、九龍北東部にある公営住宅のこと。カラフルな外壁のアパートと、駐車場の屋上に設置されたバスケットコートが有名である。現在も約9,200戸と多くの人々が住まうアパートながら、世界中からたくさんの人が訪れる有名スポットとなったこのアパートだが、築60年で老朽化が進み、この度ついに建て替えが決定したのだそうだ。

世界屈指の高額家賃都市である香港では、200万人を超える市民が公営住宅に住んでいる。そんな市民の味方公営住宅も老朽化が著しい物件が増加し、現在新築や建て替えが進められているそうだ。一般的な建て替え計画は10年から15年ほどかかるようで、彩虹邸に関しては2027~2028年に完成する黄大仙に近い団地に住民を移住させ、そこから10年ほどかけて建て替え、その後2万人弱と想定される住民を段階的に元の彩虹エリアに再移住させ、15年後くらいに建て替えから移住までが完了する見込みのようだ(壮大!)
彩虹邸が建設されたのは1962~1964年ごろ。7階から20階までの11棟で構成されている。再開発後は40階建てとなる構想のようで、外観については未定ながら、虹色を復活させる計画を含めて検討中らしい。40階建ての虹色高層アパート、どんな景色になるのだろうか。楽しみである。

そんな彩虹邸、古き良き現在の姿を拝めるのは残りわずか。このニュース以来、香港に行く隙は無いものかと常に頭の片隅でチャンスを狙っていた気がする。実際の渡航期間が決定し、きっかり二日間しかない観光時間の中で真っ先に彩虹邸を尋ねようと決めた。

深夜に香港へ降り立ち、深夜バスに揺られてホテルへ到着したのは午前3時近く。旧正月ど真ん中の香港はホテル代が高騰していたが、中程度のホテルでも軒並み満室となっていた。あてがわれた部屋がなかなかの(悪い意味で)大当たり部屋だったため、眠りについたのは明け方近く。早朝から歩き回る計画が大幅に狂い、外出したのは昼前だった。

今回は九龍エリアでメインイベントを計画していたので佐敦駅近くを拠点とした。地下鉄に乗って彩虹に向かう。彩虹駅は中心部からアクセスしやすく、駅を出て割とわかりやすい場所にアパートはあった。アパート群の外側は大きな道路が重なって走り交通量も多かったが、アパートエリアに入った途端、別世界のように静かな空間が広がっていた。居住者の方だろうか、何人かがアパートから出たり入ったりしている。撮影スポットはどこだろうとあたりを見回すと、カメラを持った人が歩いていく。おそらく目的地は同じだろうと、後をついて行くことにした。

階段を上ると視界が開け、バスケットコートが広がっていた。多くの人が思い思いに写真を撮って楽しんでいた。一眼カメラを抱えた欧米の若者、香港の方だろうか、中年のおじさま。韓国語を話す若い女性たちは交代で何度もポーズをとっては出来栄えを確認していた。さすがに人が多すぎてなかなか理想のアングルで撮影できそうにない。コートを右往左往しながらいくつかのアングルを試して撮影した。写真は思い通りの出来ではなかったけれど、行ってよかったと思う。現地ではいつかは訪れたいと思った遠い異国の景色が目の前に広がっていた。久々の海外の空気、一人旅の緊張感にとても高揚した。

アパートで一番楽しかったのは、家々の窓を見ること。
古いアパートらしく、使い込んだ感のあるやや色のはげ落ちた窓枠や柵越しに、住んでいる人々の色が見える。窓から外を眺める老人、窓枠に飾った花越しに家事をする女性と目が合う。香港らしい突き出た物干し竿と窓枠につるされた洗濯物。あまりジロジロ見るのは申し訳ないと思いながら、情緒あふれる景色に目が離せなかった。住んでいる方々には不便だろうが、この古くて少し陰のある、生活の香りに満ちた景色がなくなってしまうのがとても残念でならない。

もう一つ、このアパートには色を表す名前がついているものがいくつかあり、そのアパート名の表記が美しい。通りの名前なのか、土地の名前なのか、はたまた虹色のアパートに合わせてつけられた名前なのかはわからないが、アパートの入口に美しいフォントで書かれた名前がとても画になる。これも香港ならではのお気に入りの景色だ。

香港はあちこちで同じような老朽アパートの建て替えや取り壊しが行われている。看板の撤去やアパートの取り壊しで、あこがれた香港が少しずつ失われていく。やんわりした寂しさと共にもう一度だけ見上げ、虹色のアパートに別れを告げた。

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