いるだけで感謝されることもある

今回はこちらのお題についての投稿をします。
#誰かの役に立てたこと

いるだけで感謝されることもある

僕は一昨年、精神の病で半年ほど入院していました。
最初はほとんど身動きが取れずベッドで寝てばかりのような状態でしたが、最後の方では回復し、OT(作業療法)にも参加して、周りの人とも交流することが出来るようになりました。

そんなOTのカリキュラムの中で、塗り絵の時間があり、やり始めたら割と面白くなって、カリキュラム以外の自由時間にも、下絵と色鉛筆をもらってきてホールの机の上で毎日、描いていました。

同じように塗り絵をしている人が他にもいて、一人は40代ぐらいの女性(Aさん)、もう一人は70代の女性(Bさん)が、よく顔を合わせる塗り絵仲間でした。(ちなみに男性で塗り絵をしている人は僕以外にはいませんでした)
Aさんはかなり上手な人で、卒なく作品を仕上げる人、Bさんはあまり上手ではないけど簡単な下絵を選んでひたすら沢山描いている人でした。

僕は最初は簡単なものから始めたけど、段々慣れて面白くなってきて、1〜2日で1枚を仕上げるような感じで、ちょっとずつ難しい、複雑な下絵に挑戦していきました。
元々、カラーコーディネーターの勉強もしていたし、仕事でデザインもしていたので、色使いに悩むことはなく、慣れてくるとかなり良い感じの塗り絵が完成するようになりました。

看護師さんも細かいことが苦手な人が多くて、細やかな塗り絵には感心したり「私には無理やわー」と言う人もいました。なので自分が長い時間描いていると没入しているように見えたのでしょうか「適当にしとき」と言われたり、先生も「躁」になったのかと思って躁の薬を処方していたみたいです。
僕的にはごく普通の感覚でしたが。

そうした日々が続いて、やがてAさんは退院していき、塗り絵メンバーは僕とBさんだけになりました。
彼女とは割と相性がいいのか、付かず離れず的な関係でいることができました。彼女は、僕と歳の近い二人の息子さんがいて、お兄さんの方は僕と同じ大学を出たそうです。確かどちらも所帯を持っていたと思うのですが、弟さんは全く寄り付かずに連絡も取れない、お兄さんは時折、奥さんと一緒に病院を訪ねてくるぐらいで、普段は電話しても出てこないとかいう状態でした。

そんな感じなので、彼女にとっては僕はとても良い話し相手だったのだと思います。

そうしているうちに、僕も退院することになりました。
Bさんは、老人施設に行く予定になっていましたが、まだ連絡がこないで病院で待機しているような状態でした。
連絡先を教えて欲しいと言われて住所を書いて渡しました。

退院後しばらくしたら電話が掛かってきて、その後も時々、電話が掛かってきました。
彼女は結構、自分のことをいろいろ喋って、それで僕にも近況を話して欲しいと言うので、最近の生活についてのことなどを話すと、ほとんど無反応でまた自分のことを話し始めるのですね。

そして、手紙が来るようになって、手紙と一緒に塗り絵が送られてきました。だから今度は手紙の返信をしたり、葉書で送ったりをして文通になりました。

その最初か2回目の手紙に一枚別の紙が入っていて、真ん中に大きな字で
「ありがとう。貴方に会えて本当に良かった」
と書かれていました。

それを見た時、ああ、Bさんは本当に僕だけが気の合う話し相手だったんだろうなと思いました。
僕は別に彼女に取り立てて何かをしてあげたこともないし、彼女も特に僕に何かをしてくれた訳でもありません。
ただ毎日、一緒に塗り絵をしていた、その後も電話や文通で話していただけです。

僕も積極的には手紙を出したりしていなくて、その後、手紙も途絶えがちになっていましたが、最近、Bさんは老人施設の方に移り、再び手紙が来るようになりました。
施設では、病院のようなOTの時間が無いらしく、毎日、やることが無くてご飯だけが楽しみのような毎日だそうです。

ちょっと可哀想な感じがするけれども、それもその人の人生だし、やがては自分もそういう生活になるかもしれないのです。
僕などは子供もいないから、誰も面倒を見てくれる肉親はいません。だからもしかしたらBさんはとても幸せな人かもしれません。

きょう、note のお題を見て、この話をすることを思い立ちました。
人は何かをした記憶が無くても、相手から感謝されていることがあるということを言おうと思って書きました。

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