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失敗を捨象し抽象化する力

類似分析屋としてのメンター

幸いなことに、ベンチャーや大企業を問わず、経営者と話をし、経営の内側を見せていただくという経験させていただいています。

特にベンチャーにおいては、資金調達という観点から経営陣の苦悩を見聞きし、ビジョンを事業計画に落とし込むお手伝いなどをさせていただいております。

また、必ずしも財務経理分野ではないですが、同様の働き方をしている人を何人も見たことがあります。メンターと呼ばれる人たちです。

メンターと呼ばれる人たちをよく観察していると、大きく分けて外側から広く経験している人(主にVCや監査法人出身者)と内側から深く経験している人(主に事業会社出身者や先輩起業家)の2種類が存在することが分かります。

どちらが優れているという事でもありません。つまるところ、彼らは今まで経験してきたことの引き出しの中から当てはまるものを探してきて類似分析をかけているのです。その点では、医師の診断と同じです。


類似分析のために失敗を記録する

類似分析では、似た事例が過去にあればあるほど判断が鋭敏になり、説得力のある意見が言えます。だから、多くの多様な経験を積んでいることは重要です。

そして、特にメンターの方に言えるのは、成功経験よりも失敗経験の方が多くのベンチャーにとっては有効ということでしょう。成功は必ずしも再現しないですが、失敗は必ず再現性があるからです。

しかし、この失敗を記憶しておくということが人間には難しいと考えています。人間は言い訳をする動物だからです。失敗を丸ごと脳の中にしまってしまうと、ネガティブな情報が脳の大半を占めてしまうので、言い訳でくるんで記憶のタンスの一番下にしまってしまいます。

だから、こんどは大丈夫と思って、同じ失敗を繰り返すのですね。悲しい人間の性です。


AIの世界にある説明できるAI

ところで、AIの世界ではXAIという分野があります。XAIとはExplainable AI、つまりAIが導いた結論をAI自体が説明できるAIです。

このXAIの世界でも過去の結果と比較する類似分析が有効なのですが、類似分析はデータが貯まるほど精度が高まる一方、コンピューターの計算パワーを猛烈に消費するという特徴があります。

だからこそ、類似分析ように保存するデータは必要部分だけに絞る捨象という行為を行う必要があります。同様に、人間である我々も失敗の中から「捨象する力」が重要ではないかと思うのです。


失敗を捨象する力

捨象というのは、物事の抽象化の過程で、「現象の特質と共通性以外の要素をバッサリと切り捨ててしまう」ことです。バッサリ切り捨ててしまうことで情報の総量は減ります。

情報の総量が減れば計算効率が上がります。失敗を繰り返さない人はこれができまるのでしょう。そしてデータをうまく設定してあげるとAIにもこれができます。だからAIが同じ失敗を繰り返すことは絶対にありません

しかし、人間は失敗をしてしまった時に、言い訳と希望的観測で失敗をくるみ、長い間その存在に悩んでしまいます。本来は、失敗を分析し、捨象し、特質と共通部分だけを残し後は忘れ、くよくよせずに次の実験に移るべきなのでしょう。

このくよくよせずに「失敗を捨象し抽象化する力」こそ、我々がAIから学ぶべきことかもしれません。失敗を忘れるチカラではなく、失敗を捨象する力です。

起業家が訓練するべきこと

起業家はこの力を身に着けるために以下の訓練を意図的に積むべきだと思います。

1.失敗を分析するときに感情要素を入れないこと。失敗は不快であるがちゃんと分析し捨象しないと繰り返す。
2.計画を立てるときに希望的観測よりも客観的データに基づくこと。そして、失敗して捨象できる要素を組み込むこと。
3.仮説検証を行う際に、自分に都合の良い結果だけを集めないこと(確証バイアスの罠)、つまり失敗しそれを認めること。

これが確実にできる起業家は成功できる起業家なのだと思うのです。

が、これ全部やると友達もいなくなりますけどね。だから起業家って孤独なんでしょうね。

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