見出し画像

山岳捜索におけるドローン活用から見えた山積する社会実装への課題

毎年10月に北海道上士幌町でドローンによる山岳捜索・救難の技術を競い合うジャパン・イノベーション・チャレンジ(通称JIC)が行われているのはご存じだろうか。

3回目を迎えた去年は、大会史上初めて夜間での捜索が課題として提示され、日本中から集まったチームが技術と操作の腕を競い合った。

大会は人と人とを結びつける役目も果たし、参加メンバーを中心とした混成チームは、捜索依頼を受け実際に山岳捜索への出動も行っている。

技術の進化と社会実装は確実に進んでいる。しかし、それに伴う課題も徐々に見えてきた。

確実に進むドローン技術の進展と社会実装

全国では、毎年約3000人もの山岳遭難者が報告されている。残念ながら救助されずになくなる方、二次遭難防止、天候不良、費用などの面から捜索を打ち切らなくてはならずに、行方不明のままとなる方もいる。

特に行方不明のままとなってしまうと、家族の心の区切りもつかないだけではなく、保険金の支払いもされないなどの二重の苦しみとなるのが現実だ。

捜索・救助する側には、危険な個所や広大な山岳地をできるだけ短時間に、そして隈なく捜索することが求められる。このため多大な人員や、時間、費用、そして二次遭難のリスクが付きまとう。

ヘリコプターは生存者を救助するのに非常に有効であるが運用コストが高く、特に悪天候下では乗務員も命がけだ。これらは、幸い救助された場合においても、家族や自治体・警察・消防・山岳捜索隊への費用負担として圧し掛かる。

山岳の捜索以外にも、防災や災害対応におけるドローン活用は着実に進んでいる。全国の警察・消防には複数台のドローンが配備され、緊急時に出動できる体制が全国に整いつつある。

特に、近年増加している土砂崩れや洪水などの大規模災害時には、人が立ち入れない場所の被害状況の把握などに多くのドローンが投入され、実績を上げ始めている。

技術の進展に伴い、今後さらにドローンが配備され、活用されるのは間違いないだろう。

ドローン山岳捜索の実態は技術力よりも体力

山岳捜索の依頼は、遭難者の家族からの痛切な連絡から始まることがほとんどである。そして、それは大抵遭難から数日から数カ月たってからの連絡である。

捜索隊や自治体・地元警察が捜索を行い、万策尽きたという状態での連絡が往々にして多く、残念ながらその時点でできることがそれほど多く残っていない場合も多い。

また、ドローン事業を行う大手の企業を全く採算の取れないこれらの事業で動かすことはほぼ難しいと考えてよいだろう。社内決済だけで1か月はかかるからだ。

家族は、それでも何らかの区切りをつけるために、ドローンベンチャー企業の心意気にすがるしかないのである。一方のベンチャー企業側は社会貢献の一心で動くのだ。

高度なパイロット技術を持ったオペレーション部隊を組成するのはどの企業にとっても簡単なことではない。

自社単体ではなしえないこのミッションを達成するためにネットワークを駆使して人を集め、地形や気候に合った機体を選定し、防寒や二次災害防止の事前の装備を整え、解析ソフトなどの最先端テクノロジーを動員する。

しかも、最後は多分に漏れず体力勝負となる

対象となる地域のなるべく近くにベースを構えるために大量のバッテリーを抱えながら登山を行う。長時間画面をのぞき込み、最新の映像解析ソフトと高性能PCを持ちいて昼夜を問わず解析を行う。

まさに藁の中からあるかどうか分からない針を探す作業となる。

山積する社会実装への課題に向けた行政のオープンイノベーション化

ドローンはこの数年で急激に可用性を増したテクノロジーの代表例である。しかし、山岳捜索や災害対応の分野は10年スパンでしか更新が進まない分野だ。

つまり、ドローンの社会実装が急激に求められているようになっているにもかかわらず、日本全体の社会システムと思考が技術の急激な変化に対応できるようにはできていない。

ドローン自体は半年ごとに最新の機種が登場し、今後さらに進化は加速する。今までと同じようなスピード感での実装スピードでは追いつけず、どこかで固定化した導入をしても一瞬で陳腐化するだろう。

ドローン運用におけるハードウェアとしてのドローンはソリューションの一部である。

重要なのはドローンから得られたデータをどう分析するかの知見であり、運用には高度な熟練スキルを維持することや適材適所かつ最先端の解析ソフトウェア技術が常に必要となる。

そして、有事のためだけに導入するのは社会的コストと陳腐化リスクが大きすぎるのだ。

そこで必要になるのが、行政におけるオープンイノベーションである。機動力のあるベンチャー企業や個人レベルの運用者が自治体・警察・消防・ヘリ事業者などと連携する仕組みづくりは必要であろう。

ドローンのみならず地域の気象特性や無線技術への深い知識を持つオペレーターや画像・映像解析のプロを全国各地に早急に育て、災害などに備えて連携させる必要もある。

有事における規制の緩和を推し進めることも重要な要素であろう。

例えば、現状の法規制ではドローンは地表から150m上空までしか飛ぶことができない。それ以上になると航空管制との混乱を生じるからである。

現在日本国内で主に売られている中国製のドローンは厳密にそれを守るようになっており、有事といえども解除するには中国本社に打診をするしかない。

つまり、山岳では地表から150mの範囲内で捜索ができるよう、ドローン捜索部隊が相当の登山をすることも求められる。

これらが有事においてヘリ事業者や警察などと緊密に連携され、必要に応じて緩和できる仕組みがあれば二次災害の危険性は大幅に減る。

費用などのソフト面の課題もある。山岳で遭難するのは元から遭難を想定して装備を整えている山岳のプロではなく、近年のブームに乗って登山を始めたアマチュアがほとんどだ。

つまり、遭難することをハナから想定していないため、装備も整っていない。そして、山岳保険などの資金手当てがない場合には、捜索に係る費用がネックになり初動が遅れる可能性があり得るのである。

その点、日常的に啓発活動を行うことや山岳遭難保険の必要性を広く認知させることは非常に重要だ。

このようにドローンの社会実装に課題は山積している。しかも、ドローンにおける山岳捜索や災害対応は綺麗ごとだけでは済まない。

それでも、彼らは皆「一人でも多くの命を助けたい」その一心で活動をしているのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?