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バグダッドカフェ

いつも通りの早朝にトフの散歩からアパートに戻ったら、アパートの前に初老のおばさんが立っていて、一人で始発前のなにも動いていないトラムの線路をみていた。

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私の住んでいるビルには10軒ぐらいアパートが入っていて、時折すれ違う住人から想像すると、20代後半から30代後半の若者で外国人で中期滞在者向けのアパートじゃないかと思う。私ぐらいの年齢のおばさんに会うことはない。数ヶ月したらもうすこし落ち着いたところに引っ越そうとおもってる。

アパートの敷地はトラムの線路に面してるけど建物は奥まっていて、ゲートを開けてすぐの階段を上るとそこはかなり広い石畳のテラスでカフェ的にテーブルや椅子やパラソルが置いてある。冬なので白いパラソルは畳まれて白っぽい石畳の上に横になって転がっているが、きっと夏になったら滞在者が繰り出してきてくつろいだりするんだろうな。今は冬なので誰かがいるのをみたことはなかった。

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いつも寒々とした無人の石畳なのに、今朝はそのおばさんがテラスの端から身を乗り出すようにしてトラムの路面をみていた。(テラスは路面よりも2メートル程度上にあります。)一人で滞在してるみたいだ。化粧気もなく地味な白っぽいゆったりした服装で白っぽい石畳の一部みたいになっていた目立たない地味なおばさんで、ちょっと笑った感じでリラックスしていた。

彼女はきっと東欧的というか旧ソ連的な寒い国の比較的田舎で暮らしていた女性で、長年一緒に暮らしてきた無神経で粗野な配偶者や、自分勝手でわがままな成人した子供達に別れをつげて、これからは初めて自分のための自分の人生を生きるために家を出てきて、そして初めての外国で一人暮らしを始めた自分をおもって笑ってるのだな、と映画のような出鱈目な想像をめぐらせてみたりする。

おそらく単なる旅行者なんだろうが、とおりすがりの私には彼女の本当の事情はどうでもよくて、なんかバグダッドカフェを思い出した。一人で犬連れで滞在しているアジア人のおばさんの事情を彼女はどんなふうに想像したんだろう。